税理士監修記事

相続時精算課税制度を迂闊に利用して大損しないために知るべきこと

「家の増改築や子供の進学でお金が必要だ」

「実家の土地が値上がりしそうだから節税のために値上がり前に贈与を受けたい」

「親父のもっているアパートをもらって家賃収入を得たい」

「生前贈与で節税したい」

「相続争いを避けるために生前贈与を受けたい」

など、様々な事情で、多額の生前贈与を受けたいというケースがあります。

しかし、一定額以上の贈与には贈与税がかかってしまいます。

このような場合に、「相続時精算課税制度」を利用すると、贈与税がかからなくて済むという話を聞いたことがある方も多いでしょう。

しかし、相続時精算課税制度は、利用するケースを間違えると、大損をしてしまうこともあります

そのようなことにならないように、以下では、相続時精算課税制度を迂闊に利用して大損しないために知っておくべきことについて説明します。

親や祖父母が折角残してくれた財産ですので、無駄にしてしまわないように、この記事を是非参考にしてください。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは、親や祖父母から贈与された財産の価額が、2500万円まで贈与税が非課税になる制度です。

この説明だけだと大変お得な制度に思えます。

しかし、贈与税はかかりませんが、相続時には、相続時精算課税制度により取得した贈与財産とその他の相続財産とを合わせた遺産総額が基礎控除額を超えた場合は、相続税が課税されるので、注意が必要です。

相続時には、他の遺産と合算して、相続税の対象となるのです。

「相続時精算課税制度」は、その名の通り、「相続時」に「精算」して「課税」する「制度」なので、当然といえば当然ですね。

そうすると、相続時精算課税制度を利用せずに暦年課税(通常の方式)として毎年贈与税を課税した方が得なのか、制度を利用して最終的に相続税として課税した方が得なのかという判断が必要になってきますが、この点については後述します。

まずは、制度の概要について説明します。

誰から誰の贈与のときに選択できる?

次の条件のすべてを満たす場合は、制度を利用することができます。

  • 贈与者が贈与をした年の1月1日時点で60歳以上
  • 受贈者(贈与を受ける人)が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上
  • 贈与者と受贈者の関係が親子か祖父母と孫

また、相続時精算課税は受贈者が贈与者ごとに選択することができます。

ですので、例えば、父からの贈与は暦年課税にして、母からの贈与は相続時精算課税にするということも可能です。

ちなみに、控除額の上限は、前述の通り、贈与者ごとに2500万円ですので、父から2500万円、母から2500万円、4人の祖父母からそれぞれ2500万円の計1億5000万円の贈与を受けても、すべての贈与者について相続時精算課税を選択すれば、これらすべての贈与につき贈与税はかかりません。

どんな財産でも大丈夫?財産の種類に決まりはある?

贈与財産の種類には制限はありません

現金の場合でも不動産の場合でも利用することができます。

贈与財産の価額に制限はある?

金額にも制限はありませんが、控除されるのは贈与者ごとに2500万円までです。

つまり、1億円の不動産の贈与の際に、相続時精算課税制度を利用することはできますが、7500万円については贈与税を支払わなければなりません。

2500万円を超えた分の贈与には、一律20%の贈与税が課されますので、

(1億円-2500万円=7500万円)✕20%=1500万円の贈与税が課されます。

ただし、今回課された贈与税は、贈与をした者が亡くなった時の、相続税から控除されます。

したがって、贈与税額が相続税額を上回る場合は、差額の還付を受けることができます。

何回でも贈与できる?

贈与回数にも制限はありません。

何回でも利用することができます。

複数年にわたって利用することも可能です。

相続時精算課税制度のメリット、相続時精算課税を選択すべき場合とは?

相続時精算課税制度のあらましは理解できたと思います。

次に、相続時精算課税制度のメリットについて説明します。

相続時精算課税制度のメリットは、次の2つの観点に分類することができます。

  • 相続時精算課税と暦年課税との比較における相続時精算課税のメリット
  • 生前贈与と相続との比較における生前贈与のメリット

以下、それぞれについて説明します。

相続時精算課税と暦年課税との比較における相続時精算課税のメリット

まず、相続時精算課税と暦年課税との比較における相続時精算課税のメリットから説明します。

この場合の相続時精算課税のメリットは、前述の通り、暦年課税贈与に比して1度に多額の財産の移転が可能となることです。

その分、相続税の課税対象となりますが、相続税は基礎控除額が最低でも4100万円(相続税の基礎控除額の算定方法については後述)あるため、相続財産と合算しても基礎控除の範囲内に収まる(=相続税がかからない)のであれば、メリットがあるといえます。

逆に財産総額が、相続税の基礎控除額を上回る場合は、相続時精算課税制度を利用しない方が節税になるケースがほとんどです。

この点について、次の「相続時精算課税制度のデメリット」の項目で説明します。

生前贈与と相続との比較における生前贈与のメリット

次に、生前贈与と相続との比較における生前贈与のメリットについて説明します。

生前贈与のメリットは単純に、早期に財産を引き継げることにあります。

財産を早期に引き継ぐことには、次のようなメリットがあります。

  • お金を必要としている世代にお金を回せる
  • 財産の値上がりが予想される場合、節税になる
  • 収益物件の場合、節税になる
  • いつ、誰に、どの財産を、どれだけ贈与するか自由に簡単に決められる

相続時精算課税制度のデメリット

相続時精算課税を選択するかどうかは、メリットとデメリットを比較する必要がありますので、続いて、相続時精算課税のデメリットを紹介します。

デメリットについても、メリットと同様に、次の2つの観点に分類することができます。

  • 相続時精算課税と暦年課税との比較における相続時精算課税のデメリット
  • 生前贈与と相続との比較における生前贈与のデメリット

以下、それぞれについて説明します。

相続時精算課税と暦年課税との比較における相続時精算課税のデメリット

相続時精算課税と暦年課税との比較における相続時精算課税のデメリットには、次の3つが考えられます。

  • 暦年課税贈与の非課税枠(毎年110万円)がその年以降ずっと使えなくなる
  • 財産総額が相続税の基礎控除額を上回る場合は税金が高くなる
  • 申告の手間が生じる

以下、それぞれについて説明します。

贈与税の非課税枠(毎年110万円)がその年以降ずっと使えなくなる

繰り返しになりますが、暦年課税贈与は年間110万円までは非課税ですが、相続時精算課税を選択した贈与者からの贈与は、その年以降すべて相続時精算課税となり、110万円の非課税枠を利用することはできなくなります。

財産総額が相続税の基礎控除額を上回る場合は税金が高くなる

メリットの項目で少し触れましたが、財産総額が、相続税の基礎控除額を上回る場合、相続時精算課税制度を利用せず、暦年課税贈与を利用したほうが、節税になるケースがほとんどです。

相続税にしても暦年課税贈与にしても、累進課税といって課税額が大きくなればなるほど税率が高くなる仕組みを採用していますので、小分けにして毎年贈与していったほうが、税率を低く抑えることができるのです。

申告の手間が生じる

相続時精算課税制度を選択した贈与者から贈与を受けた年は、贈与を受けた金額にかかわらず申告が必要で、手間がかかります。

必要な手続きについては「相続時精算課税制度の手続き」の項目で説明します。

生前贈与と相続との比較における生前贈与のデメリット

次に、生前贈与によるデメリットも紹介します。

  • 小規模宅地等の特例が利用できなくなる。
  • 物納制度が利用できなくなる。
  • 不動産の贈与の場合、不動産取得税が発生する。
  • 不動産の贈与の場合、登録免許税が高くなる。
  • 老後資金が不足する可能性がある。

以下、それぞれについて説明します。

小規模宅地等の特例が利用できなくなる

特に、小規模宅地等の特例は、土地等の評価額を最大で8割減らして2割にできる特例なので、相続税が課税されるほどの財産を持っていて、かつ、その中にこの特例の適用を受けることができる土地等が含まれる場合は、利用を強くお勧めする制度です。

物納制度が利用できなくなる

相続時精算課税適用財産は、相続時に相続財産に加算されるが、物納することができません。

不動産の贈与の場合、不動産取得税が発生する

不動産取得税は、不動産の取得に際して課税される税金です。

相続の場合は、不動産取得税はかかりませんが、贈与の場合は、取得不動産の固定資産税評価額の4%が課税されます。

なお、自宅用の不動産の場合等、様々な軽減措置があるので、不動産の贈与を受ける場合は、該当する軽減措置がない確認しましょう。

不動産取得税の軽減措置については、こちらのページを参考にしてください。

不動産の贈与の場合、登録免許税が高くなる

登録免許税は不動産の登記等に対して課税される税金です。

税率は、相続の場合は固定資産税評価額の0.4%なのに対し、贈与の場合は2%が課税されます。

なので、登録免許税も不動産取得税と同様、贈与の場合は不利になります。

登録免許税も軽減措置があるので、該当するものがないか、こちらのページで確認するとよいでしょう。

老後資金が不足する可能性がある

今後、年金の受給額も減ってくることが予想され、気前よく生前贈与を行うと、思っていたよりも幸せなことに長生きできた時に、老後資金が不足する可能性があります。

老後資金は、十分に確保したうえで、余剰資金で生前贈与を行いましょう。

相続時精算課税を選択すべき場合とは?

以上をまとめると、相続時精算課税を選択すべき場合とは、

財産総額が相続税の基礎控除額以内に収まりそうな場合は、贈与よりも相続の方が得なので、贈与ではなく相続で財産を引き継ぎたい!」

「でも、相続時まで待てない!早く財産を引き継ぎたい!」

という場合といえます。

そして、贈与財産に不動産が含まれる場合は、不動産取得税や登録免許税の増加分を踏まえても、なお、節税になっているかどうか計算すべきでしょう。

相続税の基礎控除

相続時精算課税制度を利用した方が得かどうかは、前述の通り、相続税の基礎控除内に財産総額が収まるかどうかという点が重要な判断基準となります。

ですので、相続税の基礎控除の計算方法について説明します。

贈与税の控除額は年間110万円でしたが、相続税の基礎控除額はそれよりもずっと多く、次の式で計算されます。

3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人とは、法律の規定により、「相続することができる」と定められている人のことです。

被相続人(相続される人=財産を残す人)に配偶者と子供等がいる場合は、配偶者と子供等が法定相続人です。

上記の式に当てはめると、相続税の基礎控除額は、法定相続人の数ごとに次のようになります。

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3600万円
2人 4200万円
3人 4800万円
4人 5400万円
5人 6000万円
以降も法定相続人が1人増えるごとに600万円を加算

その他の節税に有効な制度

有用な制度が他にもあるので、他の制度が利用可能かを検討すべきでしょう。

他の有用な制度には次のようなものがあります。

  • 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
  • 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
  • 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

相続時精算課税制度の手続き

相続時精算課税を選択する場合の手続きは、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日に、納税地の税務署で次の書類を提出して行います。

  • 相続時精算課税選択届出書
  • 贈与税申告書
  • 自分の戸籍謄本か戸籍抄本
  • 自分の戸籍の附票の写し
  • 贈与者の住民票の写し
  • 贈与者の戸籍の附票の写し

相続時精算課税選択届出書は国税庁のこちらのページから、贈与税申告書はこちらのページからそれぞれダウンロードできます。

リンク先は記事執筆日時点の最新版ですが、ダウンロードする際は、最新版かどうか、国税庁の贈与税のこちらのウェブページから確認しましょう。

その他の書類は役所で手に入れることができます。

まとめ

以上、相続時精算課税制度を迂闊に利用して大損しないために知っておくべきことについて説明しました。

この記事のポイントをまとめると次の通りです。

  • 相続時精算課税制度によって贈与税は免除されるが、相続税の課税対象になる
  • 財産総額が少なければ、相続時精算課税制度によって節税になる場合がある
  • 財産総額が多ければ、相続時精算課税制度によって課税額が大きくなってしまう
  • 相続時精算課税制度を利用した年以降は、同じ贈与者からの贈与について暦年課税による贈与税の控除を利用できない
  • 生前贈与によって小規模宅地等の特例が利用できなくなり、節税対策上不利になる場合がある
  • 不動産の生前贈与は、不動産取得税が発生し、また、相続と比べて登録免許税が高くなる

この記事が、相続時精算課税制度を利用するかどうかの選択する際の参考となり、あなたのために親や祖父母が残してくれた大切な財産を無駄にしないための参考となれば幸いです。

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