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遺言無効確認訴訟(遺言無効確認の訴え)で遺産を取り返す方法

次のような遺言書は基本的に無効です。 偽造された遺言書。 認知症等により判断能力が低下しているのをよいことに言いくるめて作成させた遺言書。 詐欺や強迫、勘違いによって作成してしまった遺言書。 所定の要件を満たしていない遺言書…。 このような遺言書によって遺産を取得できない場合は、「遺言無効確認訴訟」(「遺言無効確認の訴え」とも言います)によって、その遺言が無効であることを確認することができます。 この記事では、遺言無効確認訴訟の提起の方法や注意事項についてわかりやすく説明します。

[ご注意]
記事は、公開日(2020年12月14日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。

遺言無効確認訴訟とは?

遺言無効確認訴訟とは、遺言が無効であることを確認する裁判手続です。 遺言無効確認訴訟で勝訴して遺言が無効であることが確認されると、その遺言を執行することはできなくなり、既に執行した遺産については請求に基づき返還しなければならなくなります。そして、原則として法定相続分に基づき遺産分割をすることになります(他に有効な遺言がない場合)。 また、遺言が有効であることを主張する側から、遺言有効確認訴訟を提起することもできます。

主な遺言無効原因

遺言無効確認訴訟で主張される主な無効原因として、次のものが挙げられます。
  • 遺言能力の欠缺
  • 公序良俗違反
  • 錯誤、詐欺、脅迫による遺言の取消し
  • 方式違背
  • 共同遺言
  • 証人欠格
  • 遺言の撤回の撤回
以下、それぞれについて説明します。

遺言能力の欠缺

認知症等によって遺言するための判断能力(遺言能力)がない時に作成された遺言書は無効です。 認知症の人がした遺言が有効かどうかは、主に次の要素から判断されます。
  • 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
  • 遺言内容それ自体の複雑性
  • 遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者(遺言によって財産をもらい受ける人)との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
以下、それぞれについて説明します。

遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度

遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度は、次の観点から考察されます。
  • 精神医学的観点
  • 行動観察的観点
以下、それぞれについて説明します。
精神医学的観点
認知症患者の遺言能力の有無を精神医学的観点から判断する指標として、長谷川式スケールの点数が考慮されることがあります。 長谷川式スケールでは、点数に応じて、下表の通り、簡易的な診断をすることができます。
20点以上 異常なし
16~19点 認知症の疑いあり
11~15点 中程度の認知症
5~10点 やや高度の認知症
4点以下 高度の認知症
大まかな目安として15点以下の場合は遺言能力に疑いが生じ、10点以下の場合は遺言能力がないとする見解もありますが、遺言能力の有無の判断は精神医学的観点のみから行われるものではなく、裁判例でも4点で遺言が有効となったものから、15点で無効となったものまで様々です。
行動観察的観点
行動観察的観点からは、医療記録、看護記録、介護記録や、それらの作成者等の供述等から知ることができる遺言者の当時の行動等によって遺言能力の有無が判断されます。

遺言内容それ自体の複雑性

障害の程度が大きくても遺言内容が単純であれば遺言能力が認められやすくなりますし、反対に、障害の程度が小さくても遺言内容が複雑であれば遺言能力は認められにくくなります。

遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯

例えば、親族や同居人を差し置いて、親戚関係も、深い付き合いもない人に全財産を遺贈(遺言によって財産を贈ること)しているようなケースでは、このような遺言をする動機や理由がなく、遺言に至る経緯も不自然であるので、遺言能力があったことに疑問が生じるでしょう。

公序良俗違反

「公序良俗」とは、「公の秩序又は善良の風俗」の略で、これに反する行為は無効となります。 例えば、愛人に全財産を遺贈するといった遺言は、公序良俗に反して無効となる可能性があります。 ただし、判例では、当該遺言が不倫関係を維持継続するためになされたものではなく、専ら生計を頼っていた女性の生活を保全するためになされたものであり、また遺言の内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものではないときには、当該遺言は有効であると判断したものもあります(最高裁判所昭和611120日第一小法廷判決)。 実際に遺言の有効・無効を判断するに当たっては、次の点が考慮されています。
  • 遺言者と愛人との生活状況
  • 遺言の前後による生活状況の変化
  • 夫婦の生活実態
  • 妻及び子の生活状況
  • 妻及び子の生活基盤に対する遺言者の配慮(生前贈与又は遺贈の有無・内容)等

錯誤、詐欺、脅迫による遺言の取消し

錯誤(勘違い)、詐欺、脅迫に基づく遺言は、相続人によって取消すことができます。 ただし、どのような錯誤でも取消しができるわけではありません。 取消しができるのは、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときに限ります。
  • 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 ⇒遺言をするつもりでないのに勘違いで遺言書を作成した等
  • 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤 ⇒遺言をしようと思った事情について誤解があった等

方式違背

遺言には次のような所定の方式があり、これに違背する遺言は無効となります。
  • (自筆証書遺言の場合)全文が自書されていること ※財産目録はパソコンでもOK
  • 作成日の日付があること ※スタンプ不可、「○月吉日」も不可
  • 署名があること
  • 押印があること ※認印、拇印、指印、シャチハタOK
  • (秘密証書遺言の場合)遺言書本文と封筒の印影が同じであること
自筆証書遺言とは、遺言者の自筆で書かれていて、公証人が手続きに関与していない遺言のことです。詳しくは以下の記事をご覧ください。 秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも明かさずに、かつ、遺言の存在が公証人によって証明される形式の遺言のことです。詳細は以下の記事をご覧ください。

共同遺言

2人以上の人が同じ遺言書で遺言をすると無効となります。

証人欠格

公正証書遺言又は秘密証書遺言で、証人の数が不足していた場合(二人必要です)や、証人になることができないはずの人が証人になっていた場合は、無効となります。 公正証書遺言とは、公証役場で公証人に遺言書を作成してもらってする遺言のことです。 証人になることができない人とは、次のいずれかに該当する人のことです。
  • 未成年者
  • 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
▼公正証書遺言について詳しく知りたい方へおすすめの記事▼

遺言の撤回の撤回

撤回を撤回された遺言は、基本的には無効です。 遺言は撤回されると無効になりますが、その撤回をさらに撤回しても、有効性は復活しないということです。 ただし、一度目の撤回が詐欺又は強迫による場合は、この限りではありません(有効となりえます)。 いずれにせよ、遺言は正しく書き、正しく遺さなければ意味がありません。遺言の作成に迷ったりわからなことがある方は、専門の士業に相談することをおすすめします。

遺言無効確認手続の流れ

遺言の無効について当事者間で争いがある場合、当事者間の話し合いで決着すればよいですが、話し合いで決着しない場合は、裁判所に遺言無効確認調停か遺言無効確認訴訟の申立てをします。 調停の場合は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者の合意で定めた家庭裁判所に、訴訟の場合は亡くなった人の最後の住所地もしくは被告の住所地を管轄する地方裁判所又は当事者の合意で定めた地方裁判所に申立てをします(訴額(原告が訴えで主張する利益を金銭に見積もった額)が140万円以下の場合は、地方裁判所ではなく簡易裁判所に申立てをすることもできます)。 調停は、家庭裁判所の調停委員会(裁判官1名と調停委員2名で構成)が、当事者に対して解決のための助言や説得をして、合意を目指して話合いを進める手続です。 原則としては訴訟の前に調停の申立てをしなければならないことになっていますが(「調停前置主義」といいます)、遺言が有効か無効かを争っている場合、1か0かの決着になるので、お互い歩み寄って合意に至るということが難しく、あまり調停向きではありません。 したがって、遺言の無効が争点のケースでは、調停を経ずに、訴訟を提起することが多いです。ただし、訴訟を提起しても、裁判官が調停による解決の見込みがあると判断した場合は、調停に付されます。 訴訟では、遺言執行者がいる場合は遺言執行者、遺言執行者がいない場合は受遺者(遺贈を受ける人)のうち少なくとも一人を、相手取ります(被告とします)。 遺言執行者がいない場合は、判決確定後に、被告になっていない受遺者や、原告にも被告にもなっていない相続人から、遺言の有効を主張される可能性があるので、全員を被告としておいた方がよいでしょう。 訴訟では、当事者による事実関係の主張と、その主張を裏付ける証拠の取り調べというかたちで審理が進みます。 提訴から判決までの期間は、事案によってまちまちですが、大体1年くらいはかかります。 そして、第一審の判決に不服がある場合は、上級裁判所に控訴することができ、控訴審に判決に不服がある場合は、さらに上告することができます。 なお、この申し立てに時効はありません。亡くなってから何年経っても申し立て可能です。

遺言無効確認手続の弁護士費用

弁護士費用は、以前(20043月まで)は、日本弁護士連合会(日弁連)の報酬等基準規定(旧規定)に定められていましたが、現在は、このような基準はなく、各事務所が自由に報酬を決められるようになっています。 しかし、現在でも、日弁連の旧規定を参考に報酬を決める事務所が多いため、旧規定が実質的に弁護士費用の相場となっていますので、旧規定を基に説明します。 弁護士報酬には、主に、着手金と報酬金があります。 着手金は、弁護士に事件を依頼した段階で支払うもので、事件の結果に関係なく、つまり不成功に終わっても返還されません。 報酬金は、事件が成功に終わった場合、事件終了の段階で支払うものです。 着手金と報酬金は、経済的利益の額に応じて下の表のように変動します(表中の「%」は、経済的利益の額に対する割合です。)。 なお、遺言無効確認訴訟についての経済的利益は、遺言が無効となったことによって取得できた遺産額が、これに当たります。
経済的利益の額 着手金 報酬金
300万円以下 8% ※ただし最低10万円 16%
300万円超3000万円以下 5%+9万円 10%+18万円
3000万円超3億円以下 3%+69万円 6%+138万円
3億円超 2%+369万円 4%+738万円
裁判にならずに、交渉や調停で決着した場合は、上表によって算定された額の3分の2程度の額になる場合があります。 このほか、弁護士の日当や証拠収集のための実費等がかかることがあります。

よくある質問

以上、遺言無効確認訴訟について説明しました。 最後にまとめとして、よくある質問とその回答を示します。

遺言無効確認訴訟とは?

遺言無効確認訴訟とは、遺言が無効であることを確認する裁判手続です。遺言無効確認訴訟で勝訴して遺言が無効であることが確認されると、その遺言を執行することはできなくなり、既に執行した遺産については請求に基づき返還しなければならなくなります。そして、原則として法定相続分に基づき遺産分割をすることになります(他に有効な遺言がない場合)。また、遺言が有効であることを主張する側から、遺言有効確認訴訟を提起することもできます。

遺言無効確認手続では訴訟の前に調停が必要?

原則としては訴訟の前に調停の申立てをしなければならないことになっていますが(「調停前置主義」といいます)、遺言が有効か無効かを争っている場合、1か0かの決着になるので、お互い歩み寄って合意に至るということが難しく、あまり調停向きではありません。したがって、遺言の無効が争点のケースでは、調停を経ずに、訴訟を提起することが多いです。ただし、訴訟を提起しても、裁判官が調停による解決の見込みがあると判断した場合は、調停に付されます。

遺言無効確認訴訟の管轄裁判所は?

調停の場合は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者の合意で定めた家庭裁判所に、訴訟の場合は亡くなった人の最後の住所地もしくは被告の住所地を管轄する地方裁判所又は当事者の合意で定めた地方裁判所に申立てをします(訴額(原告が訴えで主張する利益を金銭に見積もった額)が140万円以下の場合は、地方裁判所ではなく簡易裁判所に申立てをすることもできます)。

遺言無効確認訴訟はどのくらいの期間かかる?

事案によってまちまちですが、提訴から第一審の判決が出るまでに、大体1年くらいはかかります。

この記事を書いた人

株式会社鎌倉新書 いい相続

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