弁護士監修記事

遺書と遺言書の違いは何?残された家族のために知っておくべきこと

最近、終活という言葉が流行しています。

自分の最後にむけて、財産を整理しておいたり、相続がスムーズにゆくように遺言書を残しておいたりすることが推奨されています。

家族にどんな言葉を残そうか?思い出して泣いてくれるような言葉はないかな?

なるほど、遺書ならば、それも良いでしょう。

でも遺言書とは、いわゆる遺書とは違います。

せっかく遺言書を書いたのに、意味がなかったなどということにならないよう、ここでしっかりと、その違いについて知っておきましょう。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

遺書と遺言書はどう違うのか?

遺書とは?

自分の死後に言い残す言葉を一般的に「遺言(ゆいごん)」と言います遺言(ゆいごん)は、紙に書かれているケースもあれば、録音や、口頭で伝えられるケースもあります。現在ではメールで残すケースもあるでしょう。どのような形で、どのような内容を残すかは、その人次第です。

遺言(ゆいごん)を記載した書面は、すべて遺書です。遺書に決まった形式や書かなくてはならない内容が定まっているわけではありません。好きな紙に(紙でなくともかまいませんが)、自由な内容を書けばよいだけです。

遺言書とは?

この遺書のうち、民法が要求する一定の方式にしたがって作成された書面及びその内容を遺言(いごん)といい、その書面を「遺言書(いごんしょ)」と言うこともあります。「遺言(いごん)」は法的概念です。法の定める要件を満たせば、その遺言には、法的な効力が認められますから、何が遺言(いごん)であるかは、厳格に定められています。

遺言書については、「遺言書の正しい書き方とは?思いどおりに財産を承継させるポイントを解説!」も併せてご参照ください。

遺書の内容と遺言書の内容の違い

遺書の内容

遺書の内容は自由です。いくつか有名人の遺書を見てみましょう。

ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルは、その遺書で、自分が築いた巨万の富を基金として、これを投資した利子を、毎年、人類にもっとも貢献した人々に配分するよう言い残しました。これがノーベル賞の起源とのことです。

作家の太宰治が妻に宛てた遺書には、「あなたを嫌いになったから死ぬのでは無いのです。小説を書くのがいやになったからです。」とありました。妻以外の女性と心中するにあたって、妻に対して「嫌いではない」というのは、少々理解が難しいかも知れません。

昔の武将が残した辞世の句も、広い意味では遺書と言えましょう。一介の農民から天下人となった豊臣秀吉は、有名な「つゆとおち つゆときえにし わがみかな なにわのことは ゆめのまたゆめ」と残しました。波乱に満ちた彼の生涯を感じさせる見事な遺書ではないでしょうか。

遺言(いごん)の内容

他方、法的な遺言(いごん)の内容は、自由というわけにはいきません。遺言制度は、相続にあたって被相続人(相続される人。亡くなって財産を残す人)の意思を尊重するためのものですが、法的効力を与えるということは、他の者を拘束するということですから、どんな内容でも認められるというわけにはいかないのです。

民法では、遺言できる事項が法定されています。これを遺言事項といいます。遺言事項は、大きく4つに分類できます。

遺言者(遺言を残す人)の意思で、民法に定められている法定相続制度とは異なる相続方法とすることを認める事項

遺言者の意思で、相続以外の方法で財産を処分することを認める事項

身分関係に関する事項

  • 認知
  • 未成年後見人の指定
  • 未成年後見監督人の指定

遺言の執行に関する事項

これら遺言事項は、遺言の内容とすることによって法的な効力が認められる事項であり、これら以外の事項を遺言の内容としてはいけないわけではありません。

たとえば、「息子たちは協力して、お母さんを大切にすること」と遺言書に記載しても、それ自体は、法的な効力があるわけではありません。その意味でこのような記載をしても「無効」だと言われますが、それはその記載事項の法的な効力がないというに過ぎず、遺言書全体が無効となるわけではありません。

遺言はどのような場合に必要なのか?

遺言がない場合の法定相続関係とは

遺言が残されていないときは、民法に定められた法定相続人が、法定相続分にしたがって相続することになります(「法定相続分とは?相続人の組み合わせパターン別法定相続分の計算方法」参照)。

たとえば、被相続人Aに残された家族が、父と母、姉と弟、妻と長男、次男という場合、法定相続人は、妻と長男、次男であり、法定相続分は妻2分の1、長男4分の1、次男4分の1です。

遺言書をつくるべき場面とは

法定相続制度に従いたくない場合に遺言書を作成する大きな意味があります。

たとえば、上の例で、妻と長男、次男は、もう何十年も前に別居してしまい、音信不通となっており、病身となったAの面倒を見てくれていたのは、姉と弟であったというケースで、戸籍上だけの妻子よりも、姉と弟に遺産を渡したいと希望するときは遺言を残すことで希望が叶えられます(ただし、後述のとおり妻子には法定相続分の2分の1の遺留分が保障されています)。

遺言書はどのようにつくるのか

遺言書は、民法の定める「方式」にしたがっていないと法的効力が認められません。この方式としては7種類が定められています。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が遺言内容を自書して、日付を記載し、署名と押印をした方式です。費用もかからず、手軽に作成できるので、もっとも利用されている方式です。

反面、日付の記載や押印を忘れて無効となってしまう、自書でなくワープロで作成して無効となってしまう、内容があいまいで執行できない、保管中に紛失してしまったなどのリスクも大きい方式です。

自筆証書遺言に関するよくある質問として、シャチハタの押印は大丈夫か?市販の遺言キットは大丈夫か?というものがあります。

まず、シャチハタは大丈夫です。ここに要求される押印は、本人の押印であればよく、印鑑の種類は問いませんし、拇印でも有効とされています。

次に、市販の遺言キットは、そのキットの指示にしたがって作成すれば有効な自筆証書遺言となるように指示事項が細かく記載されていますから、間違えなければ大丈夫でしょう。ただし、信頼のおけるキットを選んで下さい。

遺言書の書き方については「遺言書の書き方をケースに応じた9つの例文でわかりやすく簡単に説明」をご参照ください。

なお、平成32(2020年)に施行予定の改正民法では、自筆証書遺言にワープロで作成した財産目録を添付できるようになる見込みです。少しだけ自筆証書遺言を作成しやすくなるというわけです。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場の公証人に作成してもらう方式です。法律のプロが作成するので、形式面、内容面のミスがなく、作成後は公証役場で保管されるので紛失や盗難の危険もありません。公正証書遺言だけは、家庭裁判所の検認手続も不要です。反面、立会人(証人)2名が必要なことや、手数料がかかってしまうことが難点です。

また、公証人がおこなう遺言者の判断能力のチェックが甘いと、後に、判断能力に問題がある状態での遺言だという理由で無効とされることがあります。

公正証書遺言について詳しくは、「公正証書遺言で最も確実かつ誰でも簡単に遺言をする方法を丁寧に解説」をご参照ください。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言の内容を公証人に知られたくないが、たしかに遺言書を作成して、この封筒にいれたという事実を、公証人らに証明してもらうものです。あらかじめ作成した遺言書を封書にいれ、封をして公証人と立会人(証人)に提出し、この中に遺言書が封じられていると認証してもらうというわけです。この場合の遺言書は、代筆やワープロでも大丈夫です。

ただし、公証人が内容をチェックしてくれるわけではないので、内容に不備があって執行できない危険や、封書は自己保管なので、紛失や盗難のリスクもあります。

特殊な遺言

以上の3つの方式が、通常用いられる遺言の方式です。残りの4つは、病気や船の遭難で死が迫っている人が遺言を残したい場合や、伝染病のために政府に隔離された土地や船舶内で遺言を残したい場合の特殊な方式について定められています。

遺言の法的効力の限界

遺言者の意思を尊重する遺言制度にも、いくつかの限界はあります。

遺留分

遺言でも奪うことができない相続人の権利として、遺留分があります。これは遺族の生活保障という観点から、最低限、相続人に残されなくてはならない遺産の割合を定めたものです。

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に認められています。たとえば、相続人が、妻と長男、次男の場合、遺留分は妻2分の1、長男次男は各4分の1です。

遺留分について詳しくは、「遺留分とは?遺言や贈与で持っていかれた相続財産を取り戻す方法を説明」をご参照ください。

公序良俗違反

遺言者の意思を尊重するといっても、それが公序良俗に違反する場合は、法的効力は認められません。

たとえば、夫がその全財産を不倫関係にある愛人に贈与するという遺言を残した場合、法定相続人である妻から、その遺言は不倫関係を維持する目的でなされたもので公序良俗に反し無効だという訴えがなされたケースがいくつかあります。

この場合、遺言が有効か否かはケースバイケースですが、長年にわたり愛人と同居を続け、遺産である賃貸不動産を愛人に贈与する遺言を残した事案で、その不動産には現在、妻も住んでおり、その家賃収入が妻の生活費となっているなどの事実関係のもとでは、遺言は公序良俗に違反して無効だと判断した裁判例があります(東京地裁昭和63年11月14日判決)。

詐欺、強迫、錯誤による遺言

遺言は、遺言者の意思を表示するものなので、その遺言が詐欺や強迫によってなされたときは取り消すことができ、錯誤(平たくいうと「勘違い」です)によってなされたときは無効となります。

遺書や無効な遺言書の効力をどう考えるか

遺書や無効な遺言書に意味はないのか?

民法の方式に則っていないただの遺書、自筆証書遺言として作成したけれども日付や押印を忘れたために法的には無効となってしまった遺言書、有効な遺言書ではあるけれど「兄弟仲良く」などの法的効力が認められない記載事項、これらには何らの意味もないのでしょうか?

たしかに法律的な効力は認めようがありませんから、その内容を相続人に強制することはできません。

例えば、相続人が長男と次男で、遺産が自宅の土地建物と預金だけというケースで、押印のない自筆証書遺言に、「自宅は長男に、預金は次男に」と記載されていても法的には無効です。

長男が「俺も預金がほしい」、次男が「おれも自宅がほしい」と言えば、それを駄目だということはできません。遺言が無効である以上、法定相続制度にしたがい、兄弟が法定相続分2分の1ずつの割合で共同相続し、具体的な分け方は遺産分割協議によることになります。

ここで紛争を生じ、話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所での遺産分割調停、それでもだめなら裁判官による審判を受けるしかなくなります。

父親は、そのような相続争いを避けるために遺言書を残したのに、故人の意思がまったく生かされないことは残念なことです。

遺書や無効な遺言書が相続争いを解決したケース

ただ、故人の希望が記載されていることは疑いようもないのであり、残された人々が、それをどのように受け止めるかが大切ではないでしょうか。

実際、母親の無効な遺言書しかないために、相続人である兄弟姉妹全5名の遺産分割協議が紛糾して、家庭裁判所の遺産分割調停となったケースがありました。資産家であった母親は、各遺産について、ひとつひとつ相続する人を指定し、生前、お世話になった人に対するお礼の遺贈についてまで記載していたのに、なぜか押印がなかったのです。

兄弟姉妹は、数年にわたり延々と争ったあげく、全員が争うことに疲れたのか、最後には、誰からともなく「もう、おふくろが書き残したとおりにしようや」という言葉が出て、全員がうなずき、無効な遺言書のとおりに遺産分割ができたのです。

天国ではらはらしながら子どもたちの様子を見ていたお母さんは、どんなに嬉しかったでしょうか。これこそが親孝行であることに間違いはないでしょう。

まとめ

遺書とは異なる遺言書について説明しました。両者の違いには注意するべきですが、残す書面をどちらかひとつだけにしなくてはならないわけでもありません。遺産の相続については、しっかりと遺言書を作成しておき、愛する家族に伝えたい気持ちは、別個の遺書に残せば良いでしょう。

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