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免責的債務引受の要件や契約書のひな形などについてわかりやすく解説

免責的債務引受の要件や契約書のひな形などについて、丁寧に説明

相続財産に債務が含まれていた場合、どのように相続手続きをすれば良いでしょうか?

故人が借金などの債務があった場合、第三者が代わりに引き受けることを「免責的債務引受」と言います。

もうひとつ債務を引き受ける方法には「重畳的債務引受」と言います。この記事で違いを詳しく解説します。

実際、相続財産に債務が含まれていた場合は、税理士に相談するのが懸命です。免責的債務引受をする以外に、相続放棄や限定承認などの他の選択肢を考える必要があるからです。

税理士に相談することで、最善な選択ができるようになるでしょう。

[ご注意]
記事は、公開日(2019年1月7日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。

免責的債務引受とは?

免責的債務引受(めんせきてきさいむひきうけ)とは、債務の引受人(ひきうけにん)が、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担して、債務を引き受けることを言います。

免責債務引受によって債務者は自己の債務を免れます。

引受後は、債権者は旧債務者に債務の履行を求めることはできず、新債務者である引受人に対して履行を求めることになります。

つまり、簡単に言うと、免責的債務引受とは、旧債務者から引受人に債務者を変更することです。

免責的債務引受は、交替的債務引受や免脱的債務引受と呼ばれることもあります。

相続問題でお悩みの方はまずは弁護士にご相談ください

相続に際して行われる免責的債務引受

免責的債務引受は、借金の肩代わりをするような場合にも行われますが、相続に際して行われることもあります。

負債のある人が亡くなった場合、その負債(相続債務)は、法定相続人(法で定められた相続人)が法定相続分(法で定められた相続割合)に応じて相続します。

相続人間の協議において、特定の相続人が全相続債務を相続することになったとしても、そのことを相続債権者(相続債務の債権者)に主張することはできません。

相続債権者は、各相続人に対して、法定相続分に応じて額の弁済を求めることができます。

例えば、相続人が妻と長男と長女の3人いたケースでは、それぞれの法定相続分は、妻が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1ずつですが、相続人同士で話し合って、長男が4,000万円の相続債務のすべてを相続することになったとします。

相続債権者は、長男から4,000万円の弁済を受けても構いませんが、妻に対して2,000万円(=4,000万円×2分の1)、長女に対して1,000万円(=4,000万円×4分の1)の弁済を求めることもできます。

妻や長女は、債権者から弁済を求められた場合に、相続人間の協議で長男が全相続債務を負担することになったことをもって、債権者の請求を退けることはできないのです。

妻や長女が、債権者からの求めに応じて弁済した分は、長男に求償(償還を求めること)することができます。

このような場合に、妻と長女の債務を長男が引き受ける免責的債務引受を行うと、妻と長女は免責され、債権者は妻や長女に弁済を求められることができなくなります。

免責的債務引受の条文

2020年4月1日に施行される改正民法472条に、免責的債務引受について規定する条文が新設されました。

第四百七十二条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。

2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。

3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

現行の民法には、免責的債務引受について直接規定する条文はありませんが、従前から、実務上、免責債務引受は行われており、判例でも認められています。

免責的債務引受の要件

免責的債務引受は、次の2つのいずれかの要件を満たす場合に成立して、その効力を生じます。

  • 債権者と引受人となる者が免責的債務引受契約をし、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知したこと
  • 債務者と引受人となる者が免責的債務引受契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすること

重畳的債務引受との違い

債務引受には、免責的債務引受のほかに、重畳的債務引受(ちょうじょうてきさいむひきうけ)があります。

免責的債務引受では、引受人は単独で債務を負担し、債務者は自己の債務を免れるのに対し、重畳的債務引受では、引受人は債務者と連帯して債務を負担します。

債務者にとっては免責的債務引受の方が都合がよく、債権者にとっては重畳的債務引受の方が都合がよいといえます(旧債務者に弁済を求めることもできるため)。

もっとも、免責的債務引受でも、旧債務者よりも引受人の方が資力があるなら、債権者にとってもメリットがありますし、重畳的債務引受が、債務者にもメリットがあるかどうか一概には言えませんが、少なくとも債務者にデメリットはないと言えます。

なお、重畳的債務引受は、併存的債務引受や添加的債務引受と呼ばれることもあります。

また、重畳的債務引受も、免責的債務引受と同様、2020年4月1日に施行される改正民法に、直接規定する条文が新設されました。

第四百七十条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。

2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。

3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。

4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

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免責的債務引受の引受人は債務者に対して求償権を取得しない

免責的債務引受の引受人は債務者に対して求償権(きゅうしょうけん)を取得しないとされています。

求償権とは、例えば、債務を弁済をした連帯債務者の一人は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について償還を求めることができますが、そのような請求をする権利のことを言います。

免責的債務引受の引受人は、旧債務者に対して、負担した債務の償還を求めることはできなとされているのです。

「されている」というのは、現行の民法では、その点について規定がなく、明確には言えないため、このような書き方をしています。

しかし、判例では、求償権を取得しないことは示されていて、実務でもそのように解釈されています。

なお、この点についても、改正民法に直接規定する条文が新設されました。

第四百七十二条の三 免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。

免責的債務引受で抵当権や保証人は移転する?同意は必要?

免責的債務引受による担保の移転には担保権設定者の承諾が必要な場合がある

免責的債務引受によって、債務は旧債務から引受人に移転しますが、その債務に設定されていた抵当権等の担保権も移転することができる場合があります。

無条件に移転することができる場合は、担保権の設定者が引受人の場合です。

この場合は、債権者は、担保権を新債務に無条件に移転させることができます。

担保権の設定者が引受人以外の場合に担保権を移転するには、担保権設定者の承諾が必要です。

承諾を得られない場合、担保権は移転せず消することになります。

また、担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければなりません。

つまり、債権者は、担保権を移転する際は、移転に先駆けて、又は移転と同時に、担保権を移転させることを引受人に知らせなければならないということです。

なお、根抵当権の元本確定前に免責的債務引受がなされた場合は、根抵当権を移転することはできません。

免責的債務引受による保証の移転には保証人の承諾が必要

免責的債務引受によって、債務は旧債務者から引受人に移転しますが、その債務に保証人が設定されていた場合に保証を引受人の債務に移転するためには、保証人の承諾が必要です。

承諾がない場合、保証は移転せずに消滅します。

また、この承諾は書面でしなければ、その効力を生じません。

なお、この場合の書面は、電磁的記録(メール等)でも構いません。

また、保証の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示よってしなければなりません。

つまり、債権者は、保証人の承諾を得て、保証を移転する際は、移転に先駆けて、又は移転と同時に、引受人に「保証を移すので、○○さんという人が保証人になります」というようなことを知らせなければならないということです。

条文

免責的債務引受による担保や保証の移転について規定した条文が、改正民法に新設されることになったので、紹介します。

内容は、上で説明した通りです。

第四百七十二条の四 債権者は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。

2 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。

3 前二項の規定は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。

4 前項の場合において、同項において準用する第一項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。

5 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

免責的債務引受契約書

免責的債務引受をする際は、内容を当事者間で確認し、また、後々のトラブルを予防するために、契約書を作成しておくべきです。

契約書は、「契約証書」という件名になっていることもありますが、「契約書」でも「契約証書」でもどちらでも構いません。

免責的債務引受は、前述の通り、以下の2つの要件のうちのいずれかを満たした場合に成立し、効力を生じます。

  • 債権者と引受人となる者が免責的債務引受契約をし、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知したこと
  • 債務者と引受人となる者が免責的債務引受契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすること

よって、契約書に押印する当事者としては、債権者と引受人というパターンと、債務者と引受人というパターンが考えられます。

債権者と引受人が契約するパターンでは、債務者への通知が必要で、債務者と引受人が契約するパターンでは、債権者の承諾が必要です。

いずれの場合でも、債務者への通知の有無や、債権者の承諾の有無が後から問題なる可能性があるため、債権者、債務者、引受人の三者間が押印する契約書にしておいた方が無難でしょう。

契約書の作成に当たっては、以下で紹介するひな形を元にしても構いません。

次の2つの種類のひな形を用意しました。

上のリンクからダウンロードしてご利用ください。いずれもWord(ワード)形式です。

内容をこちらにも表示しておきます。

【共同相続人の一人が引受人となるもの】

免責的債務引受契約書

 債権者○○○○(以下「甲」という)と、債務者亡〇〇〇〇(以下「被相続人」という)の相続人乙、同丙及び同丁とは、以下の通り合意する。

第1条 乙、丙及び丁は、甲に対し、被相続人が平成〇〇年〇〇月〇〇日に死亡したこと、被相続人の相続人は、乙、丙及び丁以外に存在しないことを確認する。

2  乙、丙及び丁は、甲に対し、被相続人が甲に対し、下記記載の債務を負っていること、及び、この債務を下記記載の通りの相続割合で相続したことを確認する。

【債務の表示】

 平成〇〇年〇〇月〇〇日付金銭消費貸借契約に基づく借入金残元本金〇〇〇〇円(ただし、当初元本金〇〇〇〇円の平成〇〇年〇〇月〇〇日現在の残元本)及び利息等これに付帯する一切の債務

【相続割合】

乙 ○分の1

丙 ○分の1

丁 ○分の1

第2条 甲、乙、丙及び丁は、乙が、丙及び丁が相続により甲に対して負担する第1条第2項記載の債務を、丙及び丁に代わって引受けること、右債務引受けにより丙及び丁が右債務関係から脱退することに同意する。

第3条 丙は、本書式第1条第2項記載の債務を担保するために、丙所有の土地上に設定した抵当権(平成〇〇年〇〇月〇〇日〇〇〇〇地方法務局受付第〇〇号)が存続することを認め、本契約の日から1ヶ月以内に本債務引受契約につき、債務者を乙とする変更登記を行う。

2 各当事者は前項の抵当権存続を異議なく承諾し、また各当事者は、変更登記に協力することを確約する。

3 本条第1項記載の期間中に、本条第1項の変更登記が行われないときは、甲は、本契約を解除できる。

第4条 丁は、本契約に基づき乙が甲に対して負担する債務を、乙と連帯して保証する。

第5条 本契約は、日本法に準拠して作成され、日本法に従って解釈されるものとする。

第6条 本契約に関する一切の紛争については、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所と定める。

第7条 本契約の内容変更は、当該変更内容につき事前に甲乙丙丁協議の上、別途、書面により変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。

第8条 本契約に定めのない事項については、甲乙丙丁が誠意をもって協議し定めるものとする。

 本契約の成立を証するため、本契約書を4通作成し、各自署名押印のうえ、甲、乙、丙、丁が各々各1通を保有する。

平成〇〇年〇〇月〇〇日

甲 ○○県○○市○○町○丁目○番○号

  ○○ ○○ 印

乙 ○○県○○市○○町○丁目○番○号

  ○○ ○○ 印

丙 ○○県○○市○○町○丁目○番○号

  ○○ ○○ 印

丁 ○○県○○市○○町○丁目○番○号

  ○○ ○○ 印

【借金を肩代わりするもの】

免責的債務引受契約書

債権者○○○○(以下「甲」という)、引受人○○○○(以下「乙」という)及び債務者○○○○(以下「丙」という)は、以下のとおり債務引受契約を締結する。

第1条 乙は、甲と丙との間の平成○○年○○月○○日付金銭消費賃借契約(以下「原契約」という)に基づき丙が甲に対して負担する下記債務(以下「本件債務」という)を、丙に代わって引受ける。この引受により債務の同一性は変じない。

元   本  金○○○○円

利   息  年○○パーセント

弁 済 期  平成○○年○○月○○日

遅延損害金  年○○パーセント

第2条 甲は、前条により乙が債務引受をしたことにより、丙が本件債務を免れることを確認する。

第3条 乙は、甲に対し、原契約の条項に従って本件債務を履行する。

第4条 本契約は、日本法に準拠して作成され、日本法に従って解釈されるものとする。

第5条 本契約に関する一切の紛争については、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所と定める。

第6条 本契約の内容変更は、当該変更内容につき事前に甲乙丙協議の上、別途、書面により変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。

第7条 本契約に定めのない事項については、甲乙丙が誠意をもって協議し定めるものとする。

 本契約の成立を証するため、本証書3通を作成し、甲、乙、丙各1通を所有する。

平成〇〇年〇〇月〇〇日

甲 ○○県○○市○○町○丁目○番○号

  ○○ ○○ 印

乙 ○○県○○市○○町○丁目○番○号

  ○○ ○○ 印

丙 ○○県○○市○○町○丁目○番○号

  ○○ ○○ 印

なお、免責的債務引受契約書は第15号文書に当たるので、印紙税額は、記載された契約金額が1万円未満の場合は非課税、1万円以上の場合や契約金額の記載のない場合は200円です。

免責的債務引受と贈与税

免責的債務引受で免責された債務は贈与税の課税対象となります。

ただし、債務の弁済が困難で債務者の扶養義務者が引受人となった場合は、贈与税が課されません。

また、相続債務を共同相続人の一人が引受人となったような場合は、相続税の計算の際に考慮されることになるので、贈与税の対象とはなりません。

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この記事を書いた人

株式会社鎌倉新書 いい相続

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