遺留分とは?ケースごとの遺留分割合や計算方法までわかりやすく解説
近年、相続税の節税対策として生前贈与に注目が集まっています。また、相続のときにトラブルにならないようにと遺言を作成しておくことも推奨されています。
しかし、節税対策によって、本来受け取れるはずだった財産が少なくなったり、不公平な扱いを受ける相続人がいることも…。
そこで、遺言や贈与で少なくなった相続財産を取り戻す方法のひとつである、遺留分という制度について解説します。
[ご注意]
記事は、公開日(2018年8月1日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
遺留分とは?
遺留分とは、被相続人の配偶者や子など、兄弟姉妹以外の法定相続人が相続できる最低限度の相続分です(民法1042条)。
相続人となる人や各相続人の相続分については民法に定められていますが、これは遺言によって変更することができますし、生前贈与や死因贈与によって相続財産が減ったり、無くなってしまうこともあります。
そのようなことにならないように、民法では、一定の範囲の相続人に対して、法定相続分の一定割合を遺留分として請求できるようにしているのです。
誰が遺留分を請求できる?
遺留分を請求できるのは、被相続人との関係において、次の4つのいずれかに該当する人です。
- 配偶者
- 子
- 子の代襲相続人
- 直系尊属
このうち、配偶者、子、子の代襲相続人については、原則として遺留分が認められますが、直系尊属に遺留分が認められるのは、子や子の代襲相続人がいない場合です。
それぞれについて、説明します。
配偶者
配偶者とは、妻や夫のことです。
婚姻届を提出していない内縁関係の場合は、配偶者とはみなされません。
子
子供のことです。養子も実子と同様に遺留分をもちます。
実親と、養子に出された実子の関係については、養子縁組の種類によって取り扱いが異なります。
普通養子縁組の場合は養子は、養親のみならず、実親の相続についても遺留分をもちますが、特別養子縁組の場合の養子は、養親の相続に関して遺留分はありますが、実親の相続に関しては遺留分をもちません。
子の代襲相続人
代襲相続とは、祖父母よりも先に親が亡くなったような場合に、祖父母の遺産を孫が相続できるようにするための制度で、「だいしゅうそうぞく」と読みます。
例えば子の代襲相続人は、被相続人との関係でいうと孫に当たります。
代襲相続について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
直系尊属
直系尊属とは、親や祖父母など、直系の中でも祖父母や父母など、本人を基準にして前の世代の血族のことです。
直系尊属に遺留分が認められるのは、子や子の代襲相続人がいない場合に限ります(配偶者については、いてもいなくても問題ありません。)。
どのようなときに遺留分を主張できる?
遺留分を主張できるのは、自己の最低限の取り分を侵害されていたときです。
自己の最低限の取り分が侵害されるという事態は、被相続人による次の行為によって起こります。
- 生前贈与
- 死因贈与
- 遺贈
以下、それぞれについて説明します。
生前贈与
生前贈与とは、生きているうちに自分の財産を贈与することです。「贈与」とは、贈与契約のことで、贈与者と受贈者の合意によって成立します。
生前贈与については以下の記事で詳しく紹介しています。
死因贈与
死因贈与とは、贈与者の死亡によって、効果が生じる贈与契約のことです。贈与契約は生前に行われていますが、実際に贈与を受けることができるのは、贈与者の死亡時です。
死因贈与については以下の記事で詳しく紹介しています。
遺贈
遺贈とは、遺言によって、無償で自分の財産を他人に与える処分行為のことです。遺贈を受ける人のことを「受遺者」といいます。
遺贈については以下の記事で詳しく紹介しています。
遺留分の計算の基となる法定相続分とは?
相続財産は、遺言や死因贈与がなければ、民法の定めにのっとって分配されます。
民法の定めによって相続人となる人のことを法定相続人といいます。前述の遺留分の主張ができる人は、法定相続人に該当します。
また民法では、誰が法定相続人となるかだけではなく、それぞれの相続分も定められています。そして、遺留分は法定相続分を元に計算されます。
そのため、遺留分を計算するためには、まず、法定相続分を計算しなければなりません。
なお、法定相続人と相続分について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
法定相続人
法定相続人となりえるのは、被相続人との関係において次のいずれかに該当する人です。
- 配偶者
- 子
- 子の代襲相続人(孫、曽孫など)
- 直系尊属
- 兄弟姉妹
- 兄弟姉妹の代襲相続人(甥、姪)
直系尊属が相続人となる場合は、子および子の代襲相続人が存在しないときに限られます。
兄弟姉妹およびその代襲相続人が相続人となる場合は、子、子の代襲相続人および直系尊属が存在しないときに限られます。
なお、兄弟姉妹およびその代襲相続人は、法定相続人となる場合においても、遺留分を主張する権利はありません。
法定相続分
続いて法定相続分について説明します。
同順位の相続人のみの場合
配偶者が既に亡くなっており、相続人が同順位の相続人のみの場合は、相続財産を相続人間で案分します。
例えば、子が3人いる場合は、3分の1ずつになります。3人いる子のうちの1人が既に亡くなっており、その子の子が1人いて代襲相続人となる場合も同様に3分の1ずつです。
代襲相続人が複数いる場合は、その代襲相続人間でさらに案分します。
配偶者と子及び子の代襲相続人
配偶者と子が相続人の場合には、配偶者が2分の1、子は、残りの2分の1をが相続分となります。
子が複数いる場合は、2分の1の相続分を、子の間で子の人数分で案分します。
配偶者と直系尊属
配偶者と父母が相続人の場合、配偶者が3分の2、父母が3分の1の相続分となります。
父母共に相続人となる場合は、3分の1の相続分を父母で折半します。
配偶者と兄弟姉妹及び兄弟姉妹の代襲相続人
配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合には、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1の相続分となります。
なお、前述の通り、兄弟姉妹及び兄弟姉妹の代襲相続人は遺留分を主張することはできません。
遺留分の計算方法
遺留分の割合
遺留分の割合は、基本的には法定相続分の2分の1ですが、直系尊属のみが相続人の場合は、法定相続分の3分の1になります。
例えば、配偶者と子1人が法定相続人の場合、それぞれの法定相続分は2分の1ずつとなり、遺留分は、法定相続分の2分の1ですから、相続財産の4分の1ずつとなります。
父母が法定相続人の場合は、父母の法定相続分はそれぞれ2分の1ずつとなり、このケースでは遺留分は法定相続分の3分の1ですから、遺留分は相続財産の6分の1ずつとなります。
遺留分、遺留分侵害額、遺留分侵害割合の区別
「遺留分」とは、相続に際して法律上取得することが保障されている遺産の「一定の割合」のことですから、例えば、法定相続分が4分の1だった子の遺留分は8分の1というふうに簡単に計算できます。
しかし、実際に請求できる遺留分を計算するには、この遺留分から、さらに、「遺留分侵害額」と「遺留分侵害割合」を算出する必要があり、計算は複雑になります。
遺留分を主張する方法
続いて、遺留分を主張する方法について説明します。
遺留分を主張できる期間
贈与や遺言によって遺留分を侵害されていた場合、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しない」と、遺留分侵害額の請求権は時効により消滅します。
つまり、遺留分を侵害する遺言の存在、贈与の存在を知ったときから1年以内に遺留分侵害額請求の意思表示をする必要があるということです。
なお、遺留分を侵害する贈与や遺言の存在を知らないままでも、相続開始から10年経つと、遺留分侵害額の請求権は時効により消滅します。
遺留分侵害額請求の方法
1年以内に遺留分侵害額請求をしたかどうかというのは、非常に重要なことですので、証拠を残すために、内容証明郵便(配達証明付き)によって行うべきです。
1年以内に遺留分侵害額請求をしておけば、調停や訴訟を行うのは、1年以内でなくてもかまいません。ただし、金銭の支払い請求の時効は5年というように、遺留分侵害額請求の意思表示によって生じた権利にも時効がありますので注意しましょう。
遺留分の放棄
遺留分は放棄することができるのでしょうか?遺留分を放棄することは、その相続人にとっては、基本的にはメリットはありません。
しかし、他の相続人や、思い通りに財産を継承させたい被相続人にとってはメリットがあります。
また、放棄する相続人にとっても、代わりに生前贈与を受けられるといった交換条件があれば、メリットがある場合もあるでしょう。
以下では、遺留分の放棄について、被相続人の生前と、被相続人が亡くなった後に分けて説明します。
生前の遺留分放棄
遺留分の放棄
被相続人の生前に相続を放棄することはできませんが、遺留分は放棄することができます。
生前の遺留分放棄の方法
被相続人の生前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。遺留分放棄の申立は、被相続人となるべき人の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
生前の遺留分放棄の効果
他の相続人の遺留分は増加しない
相続放棄をすると、他の相続人の相続分が増えます。
しかし、相続人の1人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分が増加することはありません。
「相続人」であることに変わりはない
遺留分を放棄しても、相続を放棄したわけではないので、その人は「相続人」の資格を失うことはありません。
そのため、例えば、被相続人が、遺言や贈与を行うことなく死亡した場合には、相続人は、法定相続分に従って、遺産分割をします。このときには、遺留分侵害額請求を行う必要はないので、遺留分を放棄した人も、本来の法定相続分をもって、遺産分割に参加できます。
また、「相続人」としての資格を失わないということは、相続債務(借金)があった場合には、借金を法定相続分の割合で相続するということです。借金を相続したくない場合には、相続開始後に相続放棄をする必要があります。
家庭裁判所は、遺留分の放棄許可を取り消すことができる
家庭裁判所が遺留分放棄の許可の審判をした後、年月の経過等により、申立の前提となった事情が変化し、遺留分の放棄を許可しておくことが、客観的にみて不合理となった場合には、遺留分放棄の許可を受けていても、放棄許可の取り消しを家庭裁判所に申し立てることができます。
家庭裁判所がその申立に理由があると認めれば、遺留分の放棄許可の審判を取り消したり、変更したりすることができます。
また、相続が開始した後に、生前に行われた遺留分放棄の許可を取り消すこともできます。
相続開始後の遺留分の放棄
遺留分を侵害する贈与や遺言の存在を知ったときから、1年以内に遺留分侵害額請求をしなければ、遺留分を放棄したとみなされることになります。
相続開始後は、遺留分を放棄するために特別な手続きをする必要はありません。
遺留分に関する相談先
遺留分を侵害されている可能性があるが、先方との交渉が必要という場合には、弁護士に相談しましょう。
その場合には、相続財産、遺言書、生前贈与の額(及び時期や目的)、死因贈与契約書など、遺留分の計算ができる資料を準備しましょう。
まとめ
遺言や贈与によって相続財産が減ってしまった場合、兄弟姉妹及び兄弟姉妹の代襲相続人以外の法定相続人は、遺留分を請求することができます。
遺留分が侵害されていることが分かったら1年以内に遺留分侵害額請求を行う必要があります。実際の遺留分侵害額や遺留分侵害割合の計算は複雑ですから、早めに専門家に相談するべきです。
また、これから遺言書の作成や生前贈与をすることを考えている人は、遺留分を侵害しないように注意する必要があります。
この記事を書いた人
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