弁護士監修記事

遺留分侵害額請求権とは。遺留分減殺請求権との違いは?

最近では、相続税の節税の観点から生前贈与に注目が集まっています。

さらに、相続のときに揉めないようにと遺言を作成しておくことも推奨されています。

しかし、実際に、自分が生前贈与や遺言で不公平な扱いを受ける側になってしまったら納得いかない人も多いのではないでしょうか?

そこで、遺言や贈与で持っていかれた相続財産分の金額を、全部ではありませんが、請求することができる権利「遺留分侵害額請求権」について解説します。

是非、参考にしてください。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

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遺留分侵害額請求権とは?

遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。

被相続人が財産を遺留分権利者以外に贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。

これを遺留分侵害額の請求といいます。

そして、遺留分侵害額を請求する権利のことを、遺留分侵害額請求権といいます。

なお、遺産分割協議において遺留分未満の価額の財産しか取得しないことに同意した場合は、遺留分が侵害されたことにはなりません。

遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違い

遺留分減殺請求は法改正以前の制度

遺留分減殺請求権とは、旧法下の規定で、遺留分を侵害された人が、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害の限度で贈与や遺贈された財産の返還を請求する権利のことをいいます。

旧法下では、遺留分権利者が減殺請求すると、請求された人は、遺贈や贈与で取得した財産の遺留分に相当する分の財産を返還しなければなりませんでした。

ただし、遺留分権利者は、返還される財産を選択することはでません。

例えば、減殺対象の財産に現金と不動産があった場合に、遺留分権利者の方から、現金での返還を指定したり、不動産での返還を指定することはできません。

基本的には、それぞれの財産に対して、遺留分に応じた持分を取得することになります。

例えば、遺留分が4分の1で、減殺されるべき財産が現金1000万円と不動産であった場合は、現金250万円と不動産の4分の1の共有持分を取得することになります。

ただし、請求された人には価額弁償の抗弁権があり、上記のように現物を返還するのではなく、お金で清算することを提案することができます。

例えば、先ほどの例で、不動産の価格が7000万円であったとすると、現金1000万円と併せて、遺留分算定の基礎となる財産の価額は8000万円になり、遺留分が4分の1であれば、2000万円を弁償することで、現物の返還に代えることができます。

価額弁償の抗弁がなされていないのに、遺留分権利者の方から価額弁償を求めることはできません。

なお、価額弁償の抗弁があったにもかかわらず、弁償されない場合は、遺留分権利者は、価額弁償の請求前であれば現物の返還を求めることができます。

一度でも価額弁償を請求したら、翻意して現物の返還を求めることはできません(請求された人が同意すれば可能)。

遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違い

2019年の法改正によって、遺留分権利者は、遺留分減殺請求権ではなく、遺留分侵害額請求権を有することになりました。

つまり、旧法下では、贈与や遺贈を受けた財産そのものを返還するという「現物返還」が原則であり、金銭での支払いは例外という位置づけでしたが、改正後は、金銭請求に一本化されたということです。

遺留分侵害額の弁済猶予を受けられる場合がある

遺留分侵害額請求を受けた人が、金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払期限の猶予を求めることができます

これは、法改正前にはなかった新しい制度です。

遺留分侵害額請求の制度はいつから施行される?

遺留分侵害額請求の制度は、201971日が施行日です。

施行日以降に開始された相続が対象です。

例えば、遺留分を侵害する生前贈与が施行日以前に行われていたとしても、相続の開始が施行日以降であれば、新制度(遺留分侵害額請求の制度)の対象となります。

施行日以前に開始された相続については、改正前の制度である遺留分減殺請求の制度の対象となります。

遺留分侵害額請求権の権利者は誰?

遺留分侵害額を請求できるのは、被相続人と次の関係にある相続人です。

兄弟姉妹及びその代襲者には、遺留分はありません。

遺留分侵害額の計算方法

遺留分の割合は、誰が相続人であるかによって異なります。

直系尊属のみが相続人の場合は、法定相続分の3分の1で、それ以外の場合は2分の1です(法定相続分について詳しくは「法定相続分とは?相続人の組み合わせパターン別法定相続分の計算方法」を参照)。

法定相続分に対する割合を示されても分かりにくいでしょうから、遺産総額に対する遺留分を下の表にまとめました。

相続人の組み合わせ 遺産総額に対する遺留分
配偶者と子
  • 配偶者:1/4
  • 子:1/4(複数いる場合は均等割り)
子のみ 子:1/2(複数いる場合は均等割り)
配偶者と直系尊属
  • 配偶者:1/3
  • 直系尊属:1/6(複数いる場合は均等割り)
直系尊属のみ 直系尊属:1/3(複数いる場合は均等割り)
配偶者と兄弟姉妹
  • 配偶者:1/2
  • 兄弟姉妹:なし
兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹:なし
配偶者のみ 配偶者:1/2

例えば、法定相続人が配偶者と子2人であった場合の遺留分は、配偶者が1/4、子がそれぞれ1/8ずつになります。

この場合に、例えば相続財産(および、贈与財産)が8000万円であれば、少なくとも、配偶者は2000万円、子はそれぞれ1000万円の遺留分を取得することが保障されています。

なお、他の相続人の相続放棄によって、法定相続分が増えた場合は、それに伴い遺留分も増えます。

例えば、上の例で、配偶者が相続放棄をした場合の子2人の各遺留分は、8000万円×1/2×1/22000万円になります。

なお、他の相続人が相続分や遺留分を放棄しても、遺留分が増えることはありません。

相続分の放棄については「財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識」を、遺留分の放棄については「遺留分を放棄させたい人や放棄を求められた人が知っておくべき全知識」をそれぞれご参照ください。

遺留分算定の基礎となる財産の価額に加えることができる贈与

遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定すると定められていますが、遺留分の算定の基礎となる財産の価額に加えられるのは、次のいずれかに該当する贈与のみです。

  • 相続開始前1年以内になされた贈与
  • 贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与
  • 贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした不相当な対価による有償行為
  • 相続人への特別受益に当たる贈与
    201971日以降に開始した相続については相続開始前10年以内のものに限られます。

したがって、これらのいずれにも該当しない贈与であれば、遺留分算定の基礎となる財産の価額には加えられません。

以下、それぞれについて説明します。

相続開始前1年以内になされた贈与

相続は、通常は、被相続人の死亡によって開始されます。

したがって、相続開始前1年以内というのは、通常は、被相続人の死亡前1年以内を指します

なお、受贈者が相続人であるかどうかは問われません。

つまり、相続人でない人が贈与を受けた場合も該当します。

贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与

1年以上前になされた贈与であっても、贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与は、遺留分減殺請求の対象とすることができます。

「遺留分権利者に損害を与えることを知って」とは、簡単に言うと、「遺留分を侵害することを知って」いることです。

遺留分権利者に損害を与えようという意思があったかどうかは問われません。

遺留分権利者に損害を与えることを知っていたかどうかは、具体的には、次のような点から総合的に判断されます。

  • 贈与時における贈与者の全財産に占める贈与財産の割合
  • 贈与時の贈与者の年齢や健康状態
  • 贈与後に贈与者の財産が増える可能性

なお、遺留分権利者に損害を与えることを知っていたことの証明は、遺留分権利者が行わなければなりません。

証明方法については、弁護士に相談した方がよいでしょう。

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贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした不相当な対価による有償行為

不相当な対価による有償行為とは、贈与ではなく、譲渡の対価は支払っているものの、その対価が、譲渡された物の価値と釣り合っていない場合のことをいいます。

例えば、被相続人が所有する実勢価格1億円の土地を1000万円で売ってもらったような場合です。

この場合は、差額の9000万円の贈与を受けたものとみなして、遺留分減殺請求の対象とすることができる可能性があります。

相続人への特別受益に当たる贈与

相続人への特別受益に当たる贈与も遺留分減殺請求の対象となる可能性が高いです。

特別受益とは、相続人の中に、被相続人から遺贈や多額の生前贈与を受けた人がいる場合、その受けた利益のことをいいます。

すべての贈与が特別受益になるわけではなく、次のいずれかに当たる場合にのみ特別受益になります。

  • 婚姻のための贈与
  • 養子縁組のための贈与
  • 生計の資本のための贈与

特別受益について詳しくは「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」をご参照ください。

なお、「特段の事情がない限り」という条件が付いており、特段の事情に当たるとして、遺留分減殺請求の対象とすることが認められない可能性もあります。

「特段の事情」には、どのような事情が含まれるのかが明確ではなく、認められるかどうかの判断が難しいため、この点を主張する場合や主張された場合は、弁護士に相談した方がよいでしょう。なお、遺留分減殺請求の対象となるのは、相続人への特別受益に当たる贈与なので、受贈者が相続放棄をして相続人でなくなった場合は、遺留分減殺請求の対象でなくなる可能性があります。

ただし、相続放棄をしても遺留分減殺請求が認められるケースもあるため、この点についても、弁護士に相談することをお勧めします。

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また、相続人への特別受益に当たる贈与は、現行法上は、何年前の贈与であっても遺留分算定の基礎となる財産の価額に加えられますが、相続法改正により、201971日以降に開始した相続については相続開始前10年以内のものに限り、遺留分算定の基礎となる財産の価額に加えられます。

請求先の優先順位

遺留分を侵害する遺贈や生前贈与が複数人に対して行われた場合には、その中の誰にでも請求できるわけではありません。

まず、受遺者(遺贈を受けた人)に請求をします。

複数人に対して遺贈があった場合は、遺贈を受けた財産の価額に応じて、同じ割合で請求します。

例えば、ある人が亡くなって、その人の法定相続人が妻と長男と二男の3人であったとします。

相続財産の額は1億円で、6000万円を妻に、4000万円を長男に相続させるという遺言があったとします。

二男の法定相続分は、1億円×1/2×1/22500万円で、この場合の遺留分は法定相続分の2分の1なので、2500万円×1/21250万円となります。

二男は、被相続人の妻(二男の母)と長男(二男の兄)に対して遺留分侵害額請求を行うことができますが、その割合は、妻(母)に対しては、6000万円÷1億円=3/5、長男(兄)に対しては、4000万円÷1億円=2/5となります。

遺留分は、先ほど計算した通り、1250万円なので、遺留分減殺請求の金額は、妻(母)に対しては、1250万円×3/5750万円、長男(兄)に対しては、1250万円×2/5500万円となります。

ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。

例えば、遺言で、長男への請求を優先する旨の記載があれば、二男は、長男(兄)に対して1250万円全額を請求することになります。

受遺者に請求してもなお不足がある場合は、受贈者(贈与を受けた人)に対して請求します。

複数の贈与があった場合は、まず、後の贈与の受贈者に請求して、不足がある場合は順次、前の贈与の受贈者に対して請求します。

例えば、遺留分侵害額が1000万円であったとします。

そして、Aさん、Bさん、Cさんが、それぞれ、次の金額の遺贈又は生前贈与を受けていたとします。

  • Aさん:遺贈100万円
  • Bさん:生前贈与(2018年)1000万円
  • Cさん:生前贈与(2017年)6900万円

※かっこ書きは生前贈与の年

まず受遺者に対して請求するので、遺留分権利者がAさんに遺贈を受けた全額である100万円を請求できることが確定します。

本件の遺留分侵害額は1000万円なので、1000万円-100万円=900万円が足りません。

受遺者に請求しても足りない分は、受贈者に請求します。

BさんとCさんが贈与を受けていますが、後の贈与の受贈者から順番に請求するので、Bさんに対して先に請求します。

Bさんの受けた贈与は1000万円であり、残りの遺留分である900万円を超えるので、遺留分権利者は900万円全額をBさんに請求することができます。

これで、遺留分侵害額全額の請求が済んだので、Cさんには請求することができません。

仮に、Aさん、Bさんが無資力になっていたとしても、Cさんには請求することができません。

遺留分侵害額請求権は時効によって消滅する

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。

相続開始の時から10年を経過したときも、同様です。

遺留分侵害額の請求方法

遺留分侵害額請求は、方式に決まりはなく、口頭でも構いませんし、メールやファクシミリでも構いません。

相手方との関係が悪くなければ、まずは口頭で打診するのも悪くないでしょう。

しかし、前述の通り、遺留分侵害額請求には時効があるため、時効の進行を確実に止めるには、配達証明付き内容証明郵便を送っておいた方がよいでしょう。

遺留分侵害額請求書の文例を下記します。

遺留分侵害額請求書

 

被相続人○○○○(平成〇年〇月〇日死亡)の相続につき、通知人は相続財産の〇分の1の遺留分を有するところ、平成〇年〇月〇日付遺言書による被通知人の受遺分が、通知人の遺留分を侵害しており、通知人は、被通知人に対し、本書面をもって、遺留分侵害額金○○○○円を請求します。

 

本書面到達後○日以内に、下記の通知人名義の銀行口座に振り込んでお支払いください。

 

 

○○銀行○○支店 普通預金口座 口座番号:○○○○○○○ 口座名義人:○○○○

 

以上

 

令和〇年〇月〇日(作成日日付)

 

通知人 ○○○○(自分の氏名)

○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号(自分の住所)

 

被通知人 ○○○○(相手方氏名)殿

○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号(相手方住所)

しかし、請求をしても、相手方がすんなりと請求に応じないことがあります。

そのような場合には、相手方との協議を行います。

協議の方式は決められていないので、直接会っても構いませんし、電話でも、メールや手紙の遣り取りでも構いません。

協議が調ったら、争いが再燃しないように合意書を取り交わしておくことをお勧めします。

合意はしたが返還・弁償されないということになるべくならないように、履行が遅滞した場合の損害賠償についても、合意書に定めておくとよいでしょう。

なお、合意書を公正証書にしておくことで、金銭の支払いが履行されない場合に強制執行をすることができます。

公正証書でない合意書の場合は、裁判で勝訴しなければ強制執行をすることはできません。

合意書の作成については、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

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協議が調わない場合は、調停を申し立てることができます。

調停について詳しくは、裁判所ウェブサイトの「遺留分侵害額の請求調停」のページをご参照ください。

調停が不成立の場合は、訴訟を提起することができます。

家事調停の中には調停が不成立になると自動的に審判に移行するものがありますが、遺留分侵害額の請求調停の場合は、審判には移行しません。

また、調停を経ずに最初から訴訟を提起することもできます。

調停や訴訟を申し立てる場合は、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

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まとめ

以上、遺留分侵害額請求権について説明しました。

遺留分侵害額請求をする人もされた人も、一度、弁護士に相談することをお勧めします。

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