農地の相続税の納税猶予|打ち切り、売却、担保、継続届出書
相続した財産には相続税がかかりますが、農地については、一定の要件を満たせば相続税の一部の納税が猶予されます。さらに、免除されることも。
これを「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」と言います。もし知らなかった人、嬉しい誤算ですね。
ですが、せっかく猶予されたとしても、打ち切りになるケースがあります。農地の20%超を売却した場合や継続届出書を出さなかった場合などです。
この記事では、特例の要件や、打ち切りになる場合について詳しく解説します。
もし手続きの手間を省きたい人は税理士に相談するのもおすすめです。税理士に依頼すれば、最大限土地の評価額を下げてもらえます。
[ご注意]
記事は、公開日(2020年10月5日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
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農地にかかる相続税の納税猶予とは?
農地にかかる相続税の納税猶予の制度は、正式には、「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」といいます。
この特例は、ざっくり言うと、農業を営んでいた被相続人(亡くなった人)等から相続や遺贈(遺言によって財産を取得させること)によって農地を取得し、その人も農業を営む場合等に、相続税の一部又は全部の納税が猶予され、さらに一定の要件を満たすと猶予中の相続税の納税が免除されるというものです。
また、農地の相続については関連記事をご覧ください。
猶予される税額の計算方法
猶予されるのは、農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額です。
設例を基に、猶予される税額の計算方法を説明します。
例えば、法定相続人が一人で、相続税の課税価格が1億円、その内、農地の価額が6,000万円、農業投資価格による価額が30万円だとします。
法定相続人が一人の場合は、遺産に係る基礎控除額は以下の通りになります。
そのため課税遺産総額は「1億円-3,600万円=6,400万円」となり、相続税額は「6,400万円×30%-700万円=1,220万円」となります。
次に、農地の価額を農業投資価格による価額に置き換えて相続税額を計算します。
本来の農地の価額と農業投資価格による価額の差額は「6,000万円-30万円=5,970万円」なので、課税価格は「1億円-5,970万円=4,030万円」となり、課税遺産総額は「4,030万円-3,600万円=430万円」となり、税額は「430万円×10%=43万円」となります。
本来の相続税額と農業投資価格による価額に置き換えた相続税額の差額は「1,220万円-43万円=1,177万円」となり、この設例のケースでは、特例によって1,177万円の納税が猶予されることになります。
なお、農業投資価格の確認手順は次のとおりです。
農業投資価格の確認手順
- 「路線価図・評価倍率表」にアクセス
- 該当する年(相続開始の年)をクリック
- 農地の所在する都道府県をクリック
- 「 土地関係以外」の欄の「農業投資価格の金額表」をクリック
以上の手順で、10アール当たりの農業投資価格を確認できます。
特例の要件
特例を受けるための要件について説明します。
被相続人、相続人、農地のすべてについて、それぞれの要件を満たしていなければ、特例の適用を受けることはできません。
被相続人の要件
まず、被相続人の要件についてですが、被相続人が次のいずれかに該当する人でなければなりません。
- 死亡の日まで農業を営んでいた人
- 農地等の生前一括贈与をした人
※死亡の日まで受贈者が贈与税の納税猶予又は納期限の延長の特例の適用を受けていた場合に限られます。 - 死亡の日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人又は農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態であるため貸借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人
- 死亡の日まで特定貸付け等を行っていた人
相続人の要件
相続人は、要件を満たす被相続人の相続人であって、かつ、次のいずれかに該当する人でなければなりません。
- 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる人
- 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、特例付加年金又は経営移譲年金の支給を受けるためその推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出をした人
※贈与者の死亡の日後も引き続いてその推定相続人が農業経営を行うものに限ります。 - 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人
※贈与者の死亡後も引き続いて賃借権等の設定による貸付けを行うものに限ります。 - 相続税の申告期限までに特定貸付け等を行った人(農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者である場合には、相続税の申告期限において特定貸付け等を行っている人)
農地の要件
特例の適用を受けられる農地は、次のいずれかに該当するものであり、かつ、相続税の期限内申告書にこの特例の適用を受ける旨が記載されたものに限ります。
- 被相続人が農業の用に供していた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
- 被相続人が特定貸付け等を行っていた農地又は採草放牧地で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
- 被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
- 被相続人から生前一括贈与により取得した農地等で被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予又は納期限の延長の特例の適用を受けていたもの
- 相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていたもの
相続手続きには理解の難しい仕組みや制度がたくさんあります。正しく、そして不利益が出ないようにするために、ぜひ専門家に相談してみることをご検討ください。
相続時精算課税に係る贈与によって取得した農地は対象外
この特例の対象となる取得方法は、相続又は遺贈で、相続時精算課税に係る贈与によって取得した農地は、この特例の対象外です。
手続き
特例を受けるためには、相続税の申告書に所定の事項を記載し期限内に提出するとともに農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供することが必要です。申告書には相続税の納税猶予に関する適格者証明書や担保関係書類など一定の書類を添付することが必要です。
担保提供書と担保目録については、以下の書式(Word形式)をご利用ください。
詳しい手続きについては、税務署又は税理士にお尋ねください。
また、納税猶予期間中は相続税の申告期限から3年目ごとに、引き続いてこの特例の適用を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項等を記載した届出書(この届出書を「継続届出書」といいます。)を提出することが必要です。継続手続きについて詳しくは、国税庁ウェブサイトのこちらのページをご参照ください。
免除される場合
次のいずれかに該当する場合は、猶予されている納税が免除されます。
- 特例の適用を受けた農業相続人が死亡した場合
- 特例の適用を受けた農業相続人が特例農地等(この特例の適用を受ける農地等をいいます。)の全部を租税特別措置法第70条の4の規定に基づき農業の後継者に生前一括贈与した場合
※ 特定貸付け等を行っていない相続人に限ります。特定貸付け等とは、農業経営基盤強化促進法又は都市農地の賃借の円滑化に関する法律の規定による一定の貸付けをいいます。 - 特例農地等のうちに平成3年1月1日において三大都市圏の特定市以外の区域内に所在する市街化区域内農地等(生産緑地等を除きます。)について特例の適用を受けた場合において、当該適用を受けた農業相続人が相続税の申告書の提出期限の翌日から農業を20年間継続したとき(当該農地等に対応する農地等納税猶予税額の部分に限ります。)
※ 特例農地等のうちに都市営農農地等を有しない相続人に限ります。
納税猶予の打ち切り
次のいずれかに該当することとなった場合には、納税猶予は打ち切られ、納税猶予税額の全部又は一部を納付しなければならなくなり、さらに利子税を納付しなければならなくなります。
- 特例農地等について、譲渡等があった場合
- 特例農地等に係る農業経営を廃止した場合
- 継続届出書の提出がなかった場合
- 担保価値が減少したことなどにより、増担保又は担保の変更を求められた場合で、その求めに応じなかったとき
- 都市営農農地等について生産緑地法の規定による買取りの申出又は指定の解除があった場合や都市計画の変更等により特例農地等が特定市街化区域農地等に該当することとなった場合
※都市計画法第8条第1項第1号に掲げる田園住居地域内にある農地等でなくなり、特定市街化区域農地等に該当することとなった場合は除きます。) - 特例の適用を受けている準農地について、申告期限後10年を経過する日までに農業の用に供していない場合
まとめ
以上、農地にかかる相続税の納税猶予について説明しました。
前述のとおり、納税猶予を受けた相続人が亡くなった場合はそのまま免除されるため、農家を継ぐ場合で、かつ、相続税がかかる場合(課税価格が基礎控除額よりも高い場合)は、絶対に適用を受けたい特例です。
納税猶予の適用を受けたい場合は、相続税に強い税理士に相談して進めることをお勧めします。
この記事を書いた人
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