弁護士監修記事

配偶者居住権によって自宅に住み続けながら老後資金も確保する方法

夫(または妻)が亡くなって、自宅を相続することができず、長年住み慣れた家を泣く泣く出ていかなくなると辛いですよね。

しかし、自宅を相続できなくても一生涯住み続けることができる配偶者居住権の制度が新たに成立しました。

配偶者居住権の場合は、自宅の所有権を取得するよりも評価額が低額で済むことが多いので、その分、老後資金を相続することができます。

是非、参考にしてください。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

配偶者居住権の規定は、法律がまだ施行前

配偶者居住権は法改正によって創設された新たな権利です。

配偶者居住権と配偶者短期居住権に関する規定は、記事執筆日である2018年時点では未施行であり、後述の要件を満たしていても、権利を主張することはできません。

相続に関する民法の規定を改正する法律が、2018年7月6日に成立し、同13日に公布されましたが、配偶者居住権の規定は、この改正法の中で、創設されました。

施行日は現在のところ未定ですが、今後、政令で施行日が定められることになっています。

遅くとも2020年7月12日までには施行されることになっています。

配偶者居住権とは?

配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった人)の配偶者が相続開始時に被相続人の持ち家に住んでいた場合、相続開始後にその家を他の相続人等が取得しても、被相続人の配偶者が引き続き無償で使用(居住)したり、人に貸して家賃収入を得たりすること(ただし、人に貸す場合には居住建物を取得した相続人の承諾が必要です。)ができるとする権利のことです。

後述する配偶者短期居住権と区別するために、配偶者居住権のことを長期居住権とよぶこともあります。

配偶者居住権の対象範囲

配偶者居住権は、建物の全部に及びます。

居住部分以外に、店舗として使用していた部分や、人に貸して家賃を得ていた部分がある場合でも、居住部分だけでなく建物全体について、配偶者居住権に基づき使用および収益をすることができるのです。

居住建物の利用方法

ただし、基本的には相続開始前と同じ利用方法でなければなりません。

相続開始前に住居として利用していた部分は引き続き住居として利用しなければなりません。

店舗や賃貸物件として利用していた部分は、引き続き同じ利用方法で利用するほか、住居として利用することもできます。

表にすると次のようになります。

従前の用法 配偶者居住権に基づく用法として許されるもの
住居部分 住居
店舗部分 店舗または住居
賃貸部分 賃貸物件または住居

なお、所有権者が認める場合は、上表以外の用法でも構いません。

配偶者の注意義務

また、配偶者の居住建物の使用および収益には、善良な管理者の注意をもってこれをすることが求められています。

善良な管理者の注意とは、平たく言うと、人の物を使わせてもらうに当たって一般的に求められる注意のことです。

一般的に、自分の物を使うときよりも、人の物のときの方が慎重に扱いますよね?

したがって、配偶者が居住建物を使用および収益する際も、自分の家を使うときよりも注意深く扱う義務があるでしょう。

配偶者居住権のメリット

配偶者居住権は、前述の通り、現行法にはなく、改正法によって新たに創設された権利です。

それでは、現行法下では、被相続人の死後、配偶者が被相続人の持ち家に住み続けたい場合は、どうすればよいのでしょうか?

この点、通常は、被相続人の持ち家を配偶者が相続することが考えられます。

しかし、遺産総額に占める家の価額割合が高ければ、家の取得者が他の相続人に代償金を支払わなければならないケースがあり得ますが、代償金を用意することができなければ、家を取得することができません。

例えば、相続人が妻と子のケースの場合で、遺産総額が1億4千万円で、そのうち、自宅が1億円であったとします。

それぞれの法定相続分は、2分の1、つまり、7000万円なので、妻が1億円の自宅を相続する場合は、子に3000万円(1億円-7000万円)の代償金を支払う必要があります(子が代償金を不要だと言う場合には支払う必要はありません。)。

妻が3000万円を用意できない場合は、妻は自宅を相続することはできず、自宅に住み続けることはできません。

一方、配偶者居住権を活用すれば、このような場合でも、妻は自宅に住み続けることができます。

その理由は、配偶者居住権の価額はその不動産の価額(配偶者居住権の負担のついていない場合の不動産そのものの価額)よりも低く算定されやすいからです。

前述の例で、配偶者居住権の評価が4000万円だったとすると、配偶者の相続分は7000万円なので、配偶者は、配偶者居住権を利用して自宅に住み続けられるうえに、自宅以外にも3000万円相当の遺産を相続することができます。

しかし、配偶者居住権の価額は、不動産の価額と同じになってしまうこともあり、その場合は、配偶者居住権を利用する意味がほとんどなくなってしまいます。

配偶者居住権の評価方法

遺産分割時の配偶者居住権の価額の算定方法は、共同相続人等の当事者間で合意すればどのように算定しても構いません。

協議や調停で合意に至らなかった場合は、審判で価額を決めることになりますが、その場合にどのような方法で評価すべきかについては、記事執筆日現在、まだ決まっていません。

配偶者居住権の評価は、遺産分割時だけでなく、相続税の申告時にも必要であり、この評価方法については、いずれ国税庁から評価方法が通達されるものと思われ、この通達によって指定された評価方法が、遺産分割時の評価方法についても参考にされるものと思われます。

配偶者居住権の取得方法

配偶者居住権は相続開始により当然に生じる権利ではなく、配偶者居住権を取得するためには、遺贈(遺言によって財産や権利を与えられること)や遺産分割によって権利を与えられなければなりません。

持ち家がある人が、配偶者よりも自分が先に他界した場合に、配偶者に配偶者居住権を取得させたいと思う場合は、その旨を記載した遺言書を残します。

その場合の遺言書の書き方の例としては、次のようなかたちがあります。

第★条

遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を遺言者の長男〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させ、当該不動産についての配偶者居住権を妻○○○○(昭和〇年〇月〇日生)に取得させる。

所  在   東京都〇〇区○〇町○丁目

地  番   ○番○

地  目   宅地

地  積   ○○.○○㎡

 

所  在   東京都〇〇区○〇町○丁目○番○

家屋番号   ○番○

種  類   居宅

構  造   木造スレート葺2階建

床 面 積   1階 ○○.○○㎡

      2階 ○○.○○㎡

配偶者居住権を取得させる旨の遺言がない場合でも、遺産分割によって配偶者居住権を取得することができます。

その場合の遺産分割協議書の記載例としては、次のようなかたちが考えられます。

1.以下の遺産について、乙はその所有権を取得し、甲は配偶者居住権を取得する。

(1)土地

   所  在   東京都△△区〇〇

   地  番   ○○番○○

   地  目   宅地

   地  積   ○○.○○平方メートル

(2)建物

   所  在  東京都△△区〇〇

   家屋番号  〇〇番〇

   種  類  居宅

   構  造  木造瓦葺2階建て

   床 面 積  1階部分 〇平方メートル

            2階部分 〇平方メートル

建物取得者が第三者に譲渡したら、どうなる?

配偶者居住権に基づき使用収益している建物について、その建物の取得者が第三者に建物を譲渡したり、所有者の借金の形に差し押さえられてしまった場合はどうなるのでしょうか?

配偶者居住権者は、その建物を明け渡さなければならないのでしょうか?

この点、登記を備えていれば明け渡さなくてよいですが、登記を備えていなければ明け渡さなければならない場合もあります。

所有権の登記とは別に、配偶者居住権の登記を設定することができるのです。

配偶者居住権の登記は所有者が(通常は司法書士に依頼して)行いますが、配偶者居住権者は所有者に登記をするように請求することができ、所有者は請求を受けたときは従わなければなりません。

配偶者居住権の期間

配偶者居住権の期間を定めていない場合は、権利取得者である配偶者が亡くなるまで、その権利は存続します。

権利者である配偶者が亡くなると配偶者居住権は消滅します。

10年間とか20年間とか任意の期間を定めることもできます。

期間を定める場合は、遺言書や遺産分割協議書等に期間を記載します。

期間満了前に権利者である配偶者が亡くなった場合は権利は消滅します。

なお、配偶者居住権を譲渡することはできません。

配偶者居住権にかかる税金

配偶者居住権には財産的価値があり相続税の課税対象となります。

配偶者居住権の価額を、相続税の計算時にどのようにして算定するかについては、前述の通り、記事執筆日現在、まだ決まっていません。

なお、相続税には、最低でも1億6千万円のいわゆる配偶者控除(配偶者の税額軽減)があるので、多くのケースでは配偶者に相続税がかかることはないでしょう(相続税の配偶者控除について詳しくは「相続税配偶者控除で1億6千万円を非課税にする方法とそのデメリット」参照)。

また、配偶者居住権は相続税対策として活用できる可能性があります。

例えば、相続税評価額が1億円の不動産について、配偶者居住権を設定せずに親から子に相続するケースと、配偶者居住権を設定して相続するケースについて比較します。

まず、配偶者居住権を設定しないケースから説明します。

夫、妻という順番で亡くなったとすると、この不動産の所有者は、夫→妻→子という順番で相続するケースと、夫が亡くなった時に妻ではなく子に直接相続させるケースが考えられます。

夫→妻→子では、夫から妻に相続した時には相続税の配偶者控除によって相続税がかからない可能性がありますが、妻から子に移転した際には、この不動産の相続税評価額である1億円全額が課税価格に含まれます。

夫→子のケースでも同様に1億円全額が課税価格に含まれます。

それでは、配偶者居住権を設定したケースではどうでしょうか?

配偶者居住権の価額が6000万円で、配偶者居住権付所有権の価額が4000万円だったとします。

そうすると、妻には6000万円が課税価格に含まれますが、配偶者控除内であれば相続税はかかりません。

また、子については、4000万円が課税価格に含まれます。

そして、妻が亡くなると配偶者居住権は消滅し、子の所有権からは制約が外れることになります。

妻が亡くなった時に、子の所有権から配偶者居住権が外れることによって、子の財産の価額は6000万円分増加しますが、この増加分を相続税の課税対象とするかどうかについては、記事執筆日現在、決まっていないものの、課税対象としないのであれば、相続税対策として有効な手段となり得ると考えられます。

配偶者短期居住権

改正法によって創設された配偶者の居住権に関する規定は、配偶者居住権だけではありません。

配偶者短期居住権も新たに創設されました。

配偶者短期居住権とは?

配偶者短期居住権とは、相続開始時に被相続人の持ち家に無償で住んでいた配偶者は、一定期間、その家を無償で使用することができるとする権利のことです。

現行法では、どうしていた?

現行法下では、配偶者はどうしていたかというと、配偶者短期居住権に相当する規定はないのですが、使用貸借の合意(ただで使っていいよという合意)を推定するという判例があり、これにより、少なくとも遺産分割が終わるまでは、居住することができます。

権利の根拠が判例による合意推定だけでは権利としての安定性に欠けますし、居住建物が遺贈された場合など、使用貸借の合意があっと推定するには無理があるケースもあり得ます。

そこで、改正法では、配偶者の権利として、明文化されることになったのです。

なお、判例による合意の推定は、配偶者だけでなく、被相続人の持ち家に同居している他の相続人についても同様に扱われます。

改正法の対象は、配偶者のみなので、他の同居相続人については、引き続き判例の法理により、遺産分割終了までの間、居住することができるものと思われます。

居住建物の対象範囲

配偶者短期居住権の対象は、居住部分のみです。

長期居住権のように、店舗や賃貸部分は対象となりません。

配偶者の注意義務

また、使用に当たっては、居住権と同様、善良な管理者の注意が求められます。

配偶者短期居住権の評価

配偶者短期居住権は、長期居住権と違って、権利の価額はゼロで計算します。

遺産分割においても、相続税の算定においても、ゼロで扱います。

つまり、配偶者短期居住権を取得したからといって、その分、遺産の取得分が減ってしまうこともありませんし、相続税がかせられることもありません。

建物取得者が第三者に譲渡したら、どうなる?

また、配偶者短期居住権は、長期居住権と違って、登記を設定することはできません。

したがって、居住建物取得者が事情を知らない第三者に譲渡した場合は、その第三者に権利を主張することは難しいと考えられます。

配偶者短期居住権の期間

発生

配偶者短期居住権は、相続開始時に発生します。

長期居住権のように、遺言や遺産分割によって権利を取得させる必要はありません。

消滅

配偶者短期居住権の終了期間は、その建物が遺産分割の対象となるかどうかで異なります。

遺産分割の対象となる場合の期間は、相続開始から6か月か、遺産分割によりその建物を取得する人が決まった日のどちらか遅い方です。

例えば1月1日に被相続人が亡くなった場合、7月1日で相続開始から6か月が経過します。

遺産分割協議がまとまり、その建物を取得する人が決まった日が7月1日以前であれば、配偶者短期居住権の期限は7月1日ですが、7月1日より後であれば、その日が期限になります。

遺産分割の対象とならない場合(遺言で当該建物の取得者が指定された場合など)は、居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6か月後が期限になります。

期限前でも次の事由があった場合は、権利が消滅します。

  • 配偶者の死亡
  • 居住建物取得者から当該配偶者への消滅の意思表示
  • 配偶者居住権(長期居住権)の取得

居住建物取得者から配偶者短期居住権の消滅の意思を表示することができる場合は、配偶者が、居住以外の用途に建物を使用していたり、善良な管理者の注意義務に違反したような場合です。

また、長期居住権を取得した場合は、短期居住権は不要になるので、消滅します。

なお、長期居住権同様、居住権を譲渡することはできません。

まとめ

以上、配偶者居住権について説明しました。

配偶者居住権については、記事執筆日現在、未施行の制度であるため、評価方法等、決まっていないことも多いです。

配偶者居住権の取得を検討する際は、弁護士に相談し、最新情報を入手するようにしましょう。

ただし、新しい制度なので、すべての弁護士が精通しているわけではありません。

相続問題に精通している弁護士に相談するようにしましょう。

社会無料相談を実施している弁護士もいるので、積極的に活用するとよいでしょう。

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