国際相続では、どの国の法律が適用される?注意点を丁寧に説明
[ご注意]
記事は、公開日(2021年5月11日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
国際相続とは?
「国際相続」という言葉は、法律用語ではなく明確な定義があるわけではありませんが、一般に、相続財産や相続関係者が国境をまたぐ相続のことをいい、すなわち、何らかの国際性をもつ相続のことをいいます。 例えば、次のような場合の相続のことを「国際相続」とよぶことがあります。- 被相続人(亡くなった人)が外国人である
- 被相続人が外国に居住している
- 相続人又は受遺者(遺言によって財産をもらい受ける人)の中に外国人がいる
- 相続人又は受遺者の中に外国に居住している人がいる
- 遺産(の一部)が外国にある
- 外国法の下で作成された遺言がある
国によって相続に関する考え方や準拠法の決定ルールが違う
国によって相続に関する考え方や、準拠法の決定ルール(どの国の法の適用を受けるのかを決めるためのルール)が異なるので、この点について説明します。相続に関する考え方(包括承継主義と管理清算主義)
相続に関する考え方として、「包括承継主義」と「管理清算主義」があります。 まず、被相続人の本国(被相続人が国籍を有する国)が、包括承継主義と管理清算主義のどちらを採用しているかを確認する必要があります。 包括承継主義とは、相続が開始されると、被相続人の財産及び債務は相続人(及び受遺者)に包括的に承継されるという考え方です。 一方、管理清算主義とは、相続が開始されると、まず被相続人にかかわるあらゆる債権債務関係を清算し、費用や税金を払った後で、残った財産を相続人(及び受遺者)に分配するという考え方です。この管理清算主義に基づく一連の相続手続きは「プロベイト」(プロベートともいいます。「PROBATE」。以下同様です。)と呼ばれる裁判手続きとして実施されます。日本の制度の限定承認に似ていますが、日本の限定承認は、相続人が申し立てなければ限定承認とはなりませんが、管理清算主義では既定の手続きとしてプロベイトが存在します。 包括承継主義を採用する国には、日本、韓国、EU加盟国(アイルランド及びデンマークを除く)等があり、管理清算主義を採用する国には、アメリカ、イギリス、中国などがあります。国際相続では、どの国の法律が適用される?
相続人となる人、相続財産の範囲、遺産の分配方法、遺言執行の手続き、相続放棄の手続き等は、法で定められているものですが、その内容は国によって異なります。 国際相続では、どの国の法律が適用されるのでしょうか? 国際相続の場合に、どの国の法に準拠すべきかということについては、各国の法律に定められています。 国際相続の場合の準拠法の決め方は、国によって違いがあり、「相続統一主義」と「相続分割主義」に分けられます。 まず、被相続人の本国(被相続人が国籍を有する国)が、相続統一主義と相続分割主義のどちらを採用しているかを確認する必要があります。相続統一主義
相続統一主義とは、相続される財産の種類や所在地等について区別することなく、すべての相続関係を被相続人の本国法(国籍がある国の法)又は住所地法(住所地がある国の法)で決めるという考え方のことです。 包括承継主義を採用している国のほとんどは、相続統一主義を採用しています。 また、本国法によることを本国法主義といい、住所地法によることを住所地法主義といいます。 相続統一主義で本国法主義を採用している国には、日本、韓国などがあります。 相続統一主義で住所地法主義を採用している国には、ほとんどのEU加盟国などが該当します。相続分割主義
他方、「相続分割主義」を採用する国にある遺産、主に不動産については、その不動産が存在する、その国の相続法の適用を受けることになります。 相続分割主義とは、相続財産を動産と不動産に分割し、動産は被相続人の本国法又は住所地法により、不動産はそれが所在する国の法律によるという考え方のことです。 管理清算主義を採用している国のほとんどは、相続分割主義を採用しています。 相続分割主義で動産について本国法主義を採用している国には、トルコ等があります。 相続分割主義で動産について住所地法主義を採用している国には、アメリカ、イギリス、中国などがあります。相続財産の管理に関する準拠法
日本のように包括承継主義をとる場合であっても、相続財産が海外にある場合には、その国の裁判所に対して相続に関する申立てを行う必要があります。 この場合、動産であるか不動産であるかにかかわらず、遺産の所在する国の法律が適用されます。 したがって、アメリカやイギリスなど管理清算主義をとる国に相続財産がある場合、プロベイト手続きが必要かどうかや、プロベイト手続きの中でどのようにして財産の清算を行うのかについては、財産所在地の法律によって決定されることになります。 一方、アメリカやイギリスにある相続財産を相続人に分配する過程における準拠法については、手続きが係属している裁判所の国際私法の適用によって決定されることになります。アメリカのように相続分割主義をとる国においては、不動産については、不動産が所在する地の法律を準拠法とし、動産や流動資産などのその他の財産については被相続人の本国法や住所地の国の法律が適用になることになります。 日本人がアメリカに不動産と動産を有している場合、不動産と動産の管理については、財産が所在する州の法律が適用になりますが、相続人への分配に際し、相続人が誰であるかという問題や各相続人の相続分の問題については、相続分割主義の適用により、不動産については財産が所在する州の法律が適用になり、動産については被相続人の本国法(日本の法律)が適用になることになります。 また、財産が所在する地の国の国際私法で住所地の法律が動産や流動資産についての準拠法となる場合は、被相続人が日本国籍を有する場合であっても、死亡時にその国に居住し住所地がその国にあると認められる場合は、住所地の国の法律が準拠法となります。国際相続の遺言形式
海外在住の日本人が被相続人の場合、その相続については、日本法に準拠することにすることになりますが、この場合において、被相続人が外国で現地の法律に基づき遺言をしていた場合(日本法上の遺言方式にのっとっていない場合)は、遺言の有効性について、どのような判断が下されるのでしょうか? このような場合においても、基本的には遺言は有効です。 しかし、現地の法律にすらのっとっていなければ無効となるので、海外在住の方が遺言をする際は、日本の弁護士に相談の上で日本法に則して作成するか、現地の弁護士(又は国際相続に明るい日本の弁護士)に相談の上で現地の法律に則して作成することをお勧めします。なお、アメリカでは、遺言を作成した場合であっても、原則として、プロベイト手続きが必要となるため、財産の承継方法を指定するものとして、プロベイト手続きを回避できる生前信託が広く利用されています。 なお、外国の法律に基づいて作成された遺言書も、法務局保管の遺言書等、検認が不要の方式ではない場合には、日本の遺言書と同様に、日本の家庭裁判所で遺言書の検認を行わなければなりません。外国方式の遺言書の検認をする際は、弁護士に相談した方がよいでしょう。国際相続は弁護士に相談すべき
国内の相続の場合、相続人間で意見の対立がなければ、弁護士の助けを借りなくても完了できるケースが多いでしょう。 しかし、国際相続の場合は、そう簡単ではありません。 準拠法を確認するだけでも一苦労ですし、弁護士の関与なく手続きを完了させることは難しく、意図せず当該国の法令に抵触してしまったり、遺産が塩漬けになってしまうリスクがあります。 国際相続では、相続人間で意見の相違がある場合は勿論こと、揉めていない場合でも、まずは弁護士に相談することをお勧めします。国際相続では、相続税はどの国に申告する?
日本の相続税の課税対象となる相続財産は、被相続人及び相続人の国籍や住所地によって異なります。 下の表は、被相続人と相続人の国籍や住所地別の一覧です。 (出典:https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/souzoku/pdf/31/02.pdf) 国際相続の課税関係について、一般の方が理解することは極めて難しいので、国際相続に精通した税理士に相談することをお勧めします。まとめ
以上、国際相続について説明しました。 国際相続の場合は、準拠法を確認するだけでも一苦労ですし、弁護士の関与なく手続きを完了させることは難しく、意図せず当該国の法令に抵触してしまったり、遺産が塩漬けになってしまうリスクがあります。国際相続では、相続人間で意見の相違がある場合は勿論こと、揉めていない場合でも、まずは弁護士に相談することをお勧めします。 また、国際相続の課税関係について、一般の方が理解することは極めて難しいので、国際相続に精通した税理士に相談することをお勧めします。この記事を書いた人
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