弁護士監修記事

遺言信託とは?メリット・デメリットやトラブル回避のポイントまで徹底解説

「遺言信託」は「遺言による信託」とは違います。

この記事では、「遺言信託」と「遺言による信託」の違いや、遺言信託のあまり知られていないメリット、デメリット等について説明します。

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[ご注意]
記事は、公開日時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。

遺言信託とは?

「遺言信託」という言葉には、全く異なる2つの意味があります。

ひとつは、信託銀行が顧客の遺言の作成をサポートし、かつ、その遺言における「遺言執行者」となるサービスの商品名です。

もうひとつは、遺言で「信託行為」の意思表示を行うことであり、法的にはこちらの使い方が正しい用語の使い方です。

サービス商品としての「遺言信託」

信託銀行のサービスとしての遺言信託は、銀行が遺言執行者となってくれるサービスです。

では、遺言執行者とはなんでしょうか?

遺言の内容を実現する手続きを「遺言執行」といい、遺言執行者とは遺言執行手続きを担当する者です。

もっとも遺言の内容を実現するために、法律上、遺言執行が必要とされる場合は、(ⅰ)遺言による子供の認知の届出(戸籍法64条、民法781条2項)、(ⅱ)遺言による相続人の廃除または廃除の取消しを家庭裁判所へ請求すること(民法893条、894条2項)の2つだけです。

前者は、新たな法定相続人が出現することになるため、他の相続人の相続権が奪われたり、相続分が減少したりする可能性が高く、他の相続人と利害が相反します。

後者も、法定相続人の資格を失わせたり、資格を復活させたりすることになるため、やはり他の相続人とは利害が相反します。

これらは相続人に実現を委ねると公正を期し難いので、特に遺言執行者が要求されているのです。

この法定された2つの場合以外は、法的には、遺言執行者は不要なのですが、例えば遺言が、法定相続人ではない第三者に遺産を贈与してしまう(遺贈)という内容であった場合、その執行を不利益を受ける相続人に期待することは事実上難しいでしょう。

この場合、遺贈を受けた第三者は相続人に対し遺産の引き渡しを請求でき、相続人はこれに応じる義務がありますが、素直に従わない危険もあります。

そこで、このような事実上の危険がある場合は、遺言者が遺言執行者を指定しておいたほうが安心です。まとめると、下表の通りです。

遺言執行者が必要
  • 遺言による認知の届け出をする場合
  • 遺言による相続人の廃除、廃除の取消を家庭裁判所へ請求する場合
遺言執行者がいた方がよい 相続人の利益に反する遺言内容の実現する場合

信託銀行における「遺言信託」とは、以上のような遺言執行者となることを信託銀行が引き受けてくれるというサービス商品です。

法的な意味での「遺言信託」

法的な意味での「遺言信託」とは、信託行為を遺言によって行うというものです(信託法3条2項)。

「信託」とは、例えばAがその所有する不動産の名義をBに移転し、Bによって賃貸に出すなどの管理をして家賃収益をあげさせ、その家賃収益をAの妻Cに生活費として渡してもらうというように、一定の目的を定めて財産を他人に移転して、その管理、処分など一定目的の達成のために必要な行為を行ってもらうことです。

Aを委託者、Bを受託者、Cを受益者といいます。

ごく平たく言えば、自分の財産を他人に運用してもらって、利益は自分の指定した者(自分でもよい)に渡してもらうというスキームです。

この信託を行うには、委託者と受託者の間で信託契約を結ぶ方法が一般的ですが、委託者が遺言によって受託者に信託をお願いすることもできます(もちろん、受託者となるように遺言された者は承諾するか否かを選択できます)。

これが法的な意味での遺言信託です。

信託銀行の「遺言信託」と法的な「遺言信託」の違い

信託銀行の遺言信託 信託銀行が遺言執行者となるサービス
法的な遺言信託 遺言で信託行為を行うこと

信託銀行が遺言信託サービスで行ってくれること

では、実際に信託銀行が「遺言信託」サービスで行ってくれることは何でしょうか。各銀行とも、単に遺言執行者となるだけではなく、付随的なサービスを提供するとしています。

以下に、遺言信託を利用した場合の流れと信託銀行によるサービスを説明しましょう。

遺言の作成について相談

まず、遺言の内容をどのようにするべきかにつき、信託銀行が相談にのってくれます。

公正証書遺言の作成

遺言の内容が決まれば、公正証書遺言を作成します。

遺言書の保管

完成した公正証書遺言の正本を信託銀行が保管します。

定期照会、見直し

その後、信託銀行側から定期的に資産状態や相続人に変動はないか、遺言書の内容を見直す必要はないかの照会をしてもらえます。

遺言者の死亡と遺言の執行

遺言者が亡くなったときは、近親者が信託銀行に連絡すると、信託銀行は遺言執行者として公正証書遺言にしたがって遺産を相続人、受遺者(遺贈を受ける人)に承継させる手続きを行います。

具体的には、不動産の登記(ただし実際には、銀行が依頼した司法書士が行うので、別途料金がかかります)、預金、有価証券などの名義変更です。

遺言信託のメリット

信託銀行の遺言信託サービスにおけるメリットとは何でしょうか?

信頼できる

遺言執行者は、未成年者と破産者以外ならば誰でもなれます(民法1009条)。

実際には弁護士、公証人、税理士といった専門家を遺言執行者とすることが一般的ですが、これらは個人なので、遺言者よりも先に死亡してしまうというリスクがあります。

そうなると再度、遺言執行者を選び直す必要があります。しかし、信託銀行なら、そのような心配はなく、個人よりも安心感があります。

積極的なアドバイスが期待できる

もともと信託銀行は、顧客から信託された資産を運用することが本業です。

信託銀行側は遺言に記載された顧客の資産内容から、その有効活用に関する積極的なアドバイスを行います。これは弁護士、公証人、税理士にはなかなか期待できない強みです。

遺言信託のデメリット

では逆に、信託銀行の遺言信託サービスにおけるデメリットとは何でしょうか?

信託銀行でなくてはできないサービス部分は少ない

まず信託銀行でなくてもできるサービスが多く、信託銀行でなくてはできないサービスの部分がほとんどないことが指摘できます。

遺言の内容
事前に相談にのってくれるのは、弁護士、公証人、税理士も同じです。
公正証書遺言の作成
公正証書遺言は作成するのは公証人で、信託銀行は顧客と公証人の橋渡しをするサポート役。これは弁護士、税理士でも同様です。
公正証書遺言の保管
公正証書遺言の原本は公証役場が保管してくれますので、遺言書の正本を信託銀行が保管してくれることには、あまり意味がありません(ただし、遺言者が亡くなった場合に公証役場が自発的に公正証書遺言の存在を教えてくれるわけではない点には注意が必要です。)。
資産状況や遺言の見直しの必要性を照会してくれるサービス
信託銀行側から、定期的に資産状況や遺言の見直しの必要性を照会してくれるサービスも弁護士、税理士に依頼しておいても同じことができます。
遺言執行
遺言者が死亡した後の遺言執行は、遺言執行者であれば誰でもできます。専門的知識が必要ならば弁護士、税理士に依頼できます。

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相続争いなどのトラブルが予想されるケースは引き受けられない

遺言の執行にあたって相続人間、相続人と受遺者間などで法的紛争が発生している、又は紛争の発生が予想されるケースでは、信託銀行が遺言執行者に就任することを引き受けられない可能性があります。

これは、上記のような紛争が発生した場合には、遺言内容に不満を持つ相続人から遺言執行手続に対する事実上の妨害がなされる危険性や、相続人間の紛争に遺言執行者も巻き込まれてしまう危険性があるなど、事実上、遺言執行手続を進めることが困難となる場合があるからです。

また、そのような紛争が相続開始後に発生する可能性が高いことが相続開始前において予想される場合には、信託銀行はそもそも公正証書遺言の作成段階から遺言信託を引き受けない可能性もあります。

たとえ遺言書があっても相続争いが起こる可能性はあることから、遺言書が相続トラブルを100%防止できるわけではありません。

トラブルが発生してしまうと、信託銀行を遺言執行者としたことは無駄となる可能性があるにもかかわらず、公正証書遺言の作成などにかかった手数料が返ってくるわけでもありません。

最初に、遺言執行者を設けることにメリットがある場合として、第三者への遺贈のように、遺言内容が相続人の利益に反するケースをあげました。

そのような場合は、相続人と第三者との間でトラブルが起きやすい状況であるからこそ、遺言執行者を置くことが望ましいのです。

しかし、このようなケースほど、信託銀行は引き受けてくれない可能性が高いのです。

※なお信託銀行が取り扱うことができる遺言執行業務の範囲は、平成6(1994)年2月、日本弁護士連合会と社団法人信託協会との間で合意書が締結されています(「弁護士法概説(第3版)」高中正彦著・三省堂、364頁)

自分で書いた遺言書は引き受けられない

信託銀行では、トラブルの可能性があるケースは引き受けないことの一環として、内容面、手続き面での有効性が確実な公正証書遺言のみを引き受け、自分で書いた自筆証書遺言の遺言信託は引き受けてくれません。

財産に関するもの以外は引き受けられない

前述のとおり、必ず遺言執行者が要求される場合として、遺言による認知の届出をすること、遺言による相続人の廃除、廃除の取消を家庭裁判所へ請求することがあります。

ところが、信託銀行はこれら身分行為の遺言執行者とはなることができません。

信託銀行ができることは法律によって「財産に関する遺言の執行」だけに限定されています(「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」第1条1項4号)。

つまり信託銀行の遺言信託は、遺言執行者が法律上必要となる場合には利用できないのです。

相続税の申告はできない

信託銀行は相続税の申告を代理したり、申告書などの税務書類を作成したりすることはできません。

これらの行為を税理士でない者が行うことは税理士法違反となり、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(税理士法第2条1項、第52条、第59条1項4号)。

結局、税理士に依頼する必要があります。

手数料が高額

遺言信託の手数料は、基本料金だけで数十万円、公正証書遺言の正本の保管料が年額数千円、遺言書の内容を変更する手数料として数万円、実際に遺言執行を行う場合には遺産内容に応じて100万円単位の執行手数料が必要です(詳細は別項で説明します)。

信託銀行が破綻しない保証はない

先に遺言執行者を弁護士、公証人、税理士という個人に依頼するよりも、信託銀行のほうが安心感があると説明しました。

しかし信託銀行が破綻しないという保証もありません。

信託銀行の営業に注意

信託銀行が、資産を有効活用するアドバイスをしてくれることや、定期的に資産内容、相続人の変動などを照会してくれることは、顧客に利益をもたらす面だけではありません。

遺言信託の利用者は、遺言の内容によって信託銀行側に資産内容を把握されてしまっていますので、有効活用という名目での投資の勧誘など、銀行が手数料を稼ぐための営業の機会となる側面もあるのです。

遺言信託の手数料

遺言信託の手数料は、各信託銀行によって細かい違いがありますが、基本的な枠組みは同じです。

手数料の項目として、①基本料金、②遺言書保管料金(年額)、③遺言書の書き換え手数料、④遺言執行報酬を設定しています。

最終的に遺言執行を行ったときの手数料(遺言執行報酬)は、相続財産の評価額に一定割合を乗じた(掛け算した)金額とされます。

そして各銀行とも、最初の基本手数料が低額なプランと最初の基本手数料は高いけれど最終的な支払総額がその分低額となるプランを用意しています。

前者では遺言者の負担が軽く、相続人の負担が重くなります。後者は遺言者の負担が重く、相続人の負担が軽くなります。

手数料については、各銀行のサイトでご確認下さい。

信託銀行の遺言信託を利用するべき人とは?

遺言信託のメリットは銀行という安心感と資産の積極的活用のアドバイスを受けることができるという点でした。

他方、遺言信託によっても相続争いを完全に防止できるわけではなく、高額の手数料もかかってしまうというデメリットもあります。

遺言の執行を確実にしたいと希望される方で、ご自分で弁護士、税理士を探すよりも銀行に紹介してもらいたいという場合は、遺言信託を利用されると良いかもしれません。

遺言信託を受けた信託銀行は、相続争いなどトラブルに対処すること、相続税を申告することには対応しませんが、その代わりに弁護士、税理士を紹介してくれることがあります。

遺言信託の利用者は、信託銀行に資産運用を委託している人が多いと思われます。興味がある場合は、信託銀行の担当者から説明を受けてみるとよいでしょう。

なお、ご自分で弁護士、税理士を探すことができる方は、その弁護士、税理士に依頼することを検討されても良いでしょう。

紛らわしい名称の制度について解説

法的な遺言信託

法的な意味での遺言信託とは、最初にも解説しましたように、信託行為を遺言で行うものです。遺言執行者とは何の関係もありません。

遺言代用信託

遺言代用信託とは、相続の対象となる財産を信託してしまい、自分の死後、受益者として指定しておいた者(もともとは相続人)に信託財産を渡してもらう、あるいは信託財産からの収益を渡してもらうという方法です。これも遺言執行者とは何の関係もありません。

遺言を残すことで遺産を配分するのではなく、信託によって遺産を配分するものといえます。そのために遺言に代わる信託という意味で遺言代用信託と呼ばれます。

これも信託銀行が商品としていますが、信託の受託者となることができるのは、信託銀行だけではなく、信頼できる家族でも構いません。家族に信託を行うことを家族信託とも呼びます。

信託銀行に信託すれば手数料がかかりますが、家族であれば費用はかかりません。

なお、弁護士や税理士は、法規制によって信託の受託者とはなることができません。しかし、受託者となった家族が弁護士や税理士に相談しながら、信託行為を進めることはできます。

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