M&Aによる事業承継で譲渡額を最大化するための重要なポイント
後継者が親族内、あるいは社内の役員・従業員にいない場合は、社外の第三者への引継ぎ(M&A等)による事業存続の道があります。
これまでM&Aに対しては、かつては、「身売り」、「マネーゲーム」といったマイナスイメージがありましたが、近年では、M&Aによる事業の維持、譲受け先の事業との融合による飛躍などのプラス面が注目され、事業承継の一つの在り方として認知されています。
この記事では、M&Aに事業承継で譲渡額を最大化するためのポイント等、重要な知識をわかりやすく説明します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、公開日(2019年9月30日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
事業承継の選択肢
会社のオーナー社長が引退する場合の選択肢(出口)としては、上場、後継者への事業承継、M&A(売却)、廃業(精算)の4つがあります。
このほか、望まない事業継続を選択せざるを得ない場合もあるでしょう。
上場についてはハードルが高いので、基本的には上場以外の3つが現実的な選択肢となるでしょう。
これらの選択をする前と、選択後の流れは、下の図のようになります。
(画像出典:中小企業庁「中小企業白書2014」)
M&Aによる事業承継のメリット
M&Aによる事業承継を、後継者への承継及び廃業とそれぞれ比べた場合のM&Aのメリットについて説明します。
まず、後継者への承継と比べた場合のM&Aのメリットについて説明します。
M&Aは、通常、後継者がいない場合に検討されます。
しかし、M&Aには、次のようなメリットがあり、後継者への承継と並行して検討されるべきという見方もできるでしょう。
- 交渉によって、より高額で譲渡できる場合がある
- 推定相続人に承継する場合の遺留分の問題や、従業員等に承継する場合の株式購入資金の調達の問題や融資の個人保証の引継ぎの問題の心配がない
- 最適な譲渡先を選択することによって事業の発展が期待できる
次に、廃業と比べた場合のM&Aのメリットについて説明します。
- のれん代の分得られる金額が高くなる
- 事業が継続されるので、雇用が保たれる
M&Aの場合は、会社の純資産額にのれん代がプラスされた金額が、M&Aの取引金額となることが多いのですが、廃業の場合はのれん代が加味されません。
のれん代は、税引後利益の2~5年分が目安となります。
また、廃業の場合は、会社資産を処分する際の価額が低くなってしまいます。
M&Aによる事業承継のデメリット
M&Aによる事業承継のデメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- 時間と費用がかかる
- 必ずしも従業員に受け入れられるとは限らない
以下、それぞれについて説明します。
時間と費用がかかる
M&Aは、譲渡先の候補が見つかってから、条件を詰めて、売却が完了するまでに、半年~1年半程度は必要で、廃業するよりも時間はかかります。
しかし、後継者を育てる場合に比べれば、M&Aの方が、時間がかからないといえるでしょう。
また、M&A仲介会社への報酬等の費用がかかります。
しかし、通常は、かかる費用以上に、譲渡によって得られる金額の方が大きいでしょう。
その辺りのシミュレーションがしっかりと提示できる仲介会社に依頼するようにしましょう。
必ずしも従業員に受け入れられるとは限らない
親族承継や従業員による承継の場合と比べ、M&Aの場合は、株主と経営陣が刷新されるため、企業風土が大きく変わることがあります。
新しい企業風土に合わない従業員は退職することになってしまうことも想定され、M&Aは、必ずしも従業員に受け入れられるとは限りません。
もっとも、廃業するよりかは、多くの従業員にとって喜ばしい選択になるでしょう。
M&Aによる事業承継で譲渡額を最大化するためのポイント
M&Aによる事業承継で譲渡額を最大化するための主なポイントは、次の2点です。
- 事業承継に向けた経営改善によって企業価値を高めること
- 高く評価してくれる譲渡先を見つけること
以下、それぞれについて説明します。
事業承継に向けた経営改善によって企業価値を高める
事業引継ぎの準備として、事業価値を高める「磨き上げ」に取り組むことが大切です。
「磨き上げ」は、自ら実施することも可能であるが、対応が多岐にわたるため、士業等の専門家の助言を得て効率的に進めることも有効です。
「磨き上げ」の方法は、画一的なものはなく、業種や会社の規模、会社を取り巻く環境等によって様々なものが存在します。
「磨き上げ」の対象は、業績改善や経費削減にとどまらず、商品やブランドイメージ、優良な顧客、金融機関や株主との良好な関係、優秀な人材、知的財産権や営業上のノウハウ、法令遵守体制などを含めて、これらの無形資産が「強み」となることも多いです。
これら「磨き上げ」には時間がかかることから、事業引継ぎのタイミングから逆算して、できることから早めに着手していくことが望ましいといえます。
また、個人事業主においては法人成り等により個人の資産・家計と事業を分別する等の手法も考えられます。
なお、事業引継ぎの手続きに着手する前に、よろず支援拠点や商工会議所、商工会等の支援を受けながら経営改善に取り組むことも有効です。
また、民間のM&A専門業者では、経営改善の相談だけでなく譲渡先企業とのマッチングも含めて依頼することが出来ます。
負債が大きく事業再生が必要な場合には、中小企業再生支援協議会や地域経済活性化支援機構を活用して金融調整等に取り組むことも考えられます。
以下に、「会社の強み作り」、「ガバナンス・内部統制の向上」、「経営資源のスリム化」に関する取り組み事例を記載します。
会社の「強み」を作り、「弱み」を改善する
- 他社との違いを明確にする
- 会社の特徴を活かし、戦略を明確にする(ニッチ、特定顧客層向け商品・サービスの充実、高精度、短納期、ワンストップサービス化等)
- 資格取得・創意工夫提案の奨励等、従業員のスキルと自発性を高める
- 従業員の年齢ギャップを是正する(定期的な採用)
- 取引先・対象市場の偏重を是正し、事業リスクを分散する
ガバナンス・内部統制を向上させる
- 社内の風通しを良くし、社員に会社の一員としての責任とやる気を育む
- オーナーと企業との線引きを明確化する(資産の賃貸借、ゴルフ会員権、自家用車、交際費など)
- 財務の透明化を図る
- 計画的に役職員への業務の権限委譲を進める(オーナー1人しか出来ないことを無くす)
- 役員会の適時開催。議事録等を整備する
- 従業員等の職制、職務権限を明確化する
- 規程、マニュアルを作成し、必要な時に閲覧が可能な状態にする
- 業務の流れ、指揮命令系統を明確にし、効率よく統制する
- 法令を遵守し、遵法体制を整備する
経営資源をスリムにする
- 事業に必要のない資産の処分や、余剰負債の返済をする
- 滞留している在庫や、不稼働設備を処分する(整理整頓)
- 事業と関連性の薄い株主を整理しておく(買い集め等)
高く評価してくれる譲渡先を見つける
M&Aを選択する場合、自力で一連の作業を行うことが困難である場合が多いため、専門的なノウハウを有する仲介機関に相談を行う必要があります。
仲介機関の候補としては、公的機関である事業引継ぎ支援センターを活用することが考えられます。
また、M&A専門業者や取引金融機関、士業等専門家等も存在しており、選定にあたっては、日頃の付き合いやセミナー等への参加を通じて、信頼できる仲介機関を探し出すことが重要です。
M&Aでの会社の企業価値は、最終的には譲受先との交渉を経て合意に至った価格ですが、次の点などが企業価値を算定する目安となります。
- 資産・負債の状況
- 収益やキャッシュフローの状況
- 市場相場の状況
一般に中小企業のM&Aの場合は、時価純資産にのれん代(年間利益に一定年数分を乗じたもの)を加味した評価方法が用いられることが多くなっています。
企業価値は、業種や事業規模、競合相手の有無、市場の成長性といった要因も算定に加味されます。
そして、実際の譲渡価格は、譲受先の資産状況、M&Aに対する緊急度などにも左右されるので、企業価値の評価の結果は、あくまでも目安の一つと考えておく必要があります。
また、隠さずにありのままの現状を伝えることが重要です。なぜなら、後のデューデリジェンス(事業調査)で隠していた不利なことが発覚した場合、M&Aの話が破綻してしまう可能性があるからです。
M&Aによる事業承継の実施フロー
M&Aによる事業承継の実施フローは、概ね下の図のようになります。
まとめ
以上、M&Aによる事業承継について説明しました。
不明な点は、よろず支援拠点のほか、事業承継の専門家等に相談するとよいでしょう。
この記事を書いた人
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