死後認知とは?請求方法、期間、DNA鑑定、認知後の相続手続き
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記事は、公開日(2021年1月6日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
目次
死後認知とは?
死後認知とは、非嫡出子が父の死後に認知されること、また、その認知をいいます。死後認知を受けるメリット
死後認知を受ける最大のメリットは、父の相続権をもつようになることです。 なお、他の相続人に特別受益がある場合は、その持戻しを主張することによって、取得額を増やせる可能性があります。死後認知の流れ
死後認知の手続きは、家庭裁判所に認知請求訴訟を提起し、認容判決を得て、これが確定すると、役所に認知届を提出するという流れになります。 なお、請求が棄却され判決に不服がある場合は高等裁判所に控訴することができ、高等裁判所でも棄却され不服がある場合は最高裁判所に上告することができます。最高裁判所の判決に対して不服を申し立てることはできません。 また、反対に第一審(この場合、家庭裁判所における審理)や控訴審(高等裁判所における審理)の認容判決に対して、訴訟の補助参加人(父の他の子であることが多い)が上訴(控訴又は上告)することもできます。死後認知請求訴訟の手続方法
認知請求訴訟を提訴できる人は、通常、認知を求める非嫡出子が成年者の場合は非嫡出子本人、未成年者の場合は法定代理人(通常は母)ですが、未成年者であっても意思能力が認められる場合には非嫡出子自身で提訴することもできます。 この他、非嫡出子の直系卑属(子、孫など)や、その法定代理人も提訴することができますが、非嫡出子が死亡している場合に限られると考えられています。 提訴する家庭裁判所は、原告(提訴した人)の住所地又は父の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です(管轄裁判所を調べたい方はこちら)。 必要書類や訴状の書き方については、管轄の家庭裁判所にお尋ねください。 もっとも、請求が認められる可能性を高めるためには、事前に弁護士に相談した方がよいでしょう。 弁護士に依頼すると、請求が認められる可能性も高まりますし、自分でやる手間も省けます。提訴前に遺族に連絡した方がよい?
遺族には必ずしも連絡する必要はありませんが、後述するDNA鑑定についての協力が得られた方がスムーズです。 不用意に連絡すると遺族の感情を逆撫ですることになるおそれがあるため、弁護士を介して接触した方が良い場合もあります。DNA鑑定を拒否された場合の対処法
父子関係の証明にはDNA鑑定が最も有効です。 生前であれば父本人からDNAの提供を受けて鑑定できますが、死後認知の場合は父本人から直接提供を受けることができません。 遺骨があったとしても、火葬の熱によってDNAが破損して鑑定できないことがほとんどですし、頭髪や臍の緒が残っていることもありますが保存状態が良くなければやはりDNAの破損によって鑑定精度が落ちてしまいます。 そこで、死後認知では、父の近親者(子、父母、兄弟姉妹)のDNAを提供してもらって鑑定するしかないケースが多くなります。 父のDNAが残っている遺留品で鑑定する場合にしても、父の近親者のDNAで鑑定する場合にしても、遺族は遺留品の提供やDNAの採取に応じる義務はないため、遺族の協力が得られないケースも少なくありません。 すんなり協力を得られない場合に取りうる対処法には、次の2つがあります。- 他の証拠によって立証を試みる
- 遺族と交渉する
他の証拠によって立証を試みる
DNA鑑定以外では、例えば、次のようなことを証明する証拠が有用です。- 子の血液型が父母から生まれうる種類のものであること、父子の容姿に類似性があること
- 生前に父が父子関係を認めていたこと、父が母に養育費を渡していたこと
- 受胎時に父母が男女関係にあったこと
遺族と交渉する
初めはDNA鑑定に応じなくても、交渉によってDNA鑑定に応じてくれることもあります。 交渉材料としては、相続分の一部譲渡が考えられます。 認知請求によって父子関係が認められると、原告は父の遺産の相続権をもつことになります。 遺族がDNA鑑定に協力した場合は、その相続分の一部を譲渡することを約束することで、遺族がDNA鑑定に協力するメリットが生じるため、協力を得られる可能性があります。 なお、譲渡すべき相続分の程度は、他の証拠によって立証できる見込みによって異なります。 他の証拠によって十分立証可能なケースでは、そもそも交渉自体が不要でしょうし、DNA鑑定によらなければ父子関係の立証が極めて難しいケースでは、相続分を大きく譲ってでもDNA鑑定の協力を得た方が得策でしょう。もっとも、後者の場合においても、少ない譲歩でも相手方の合意を得られそうであれば、大きく譲歩する必要はなく、相手方の出方を見つつ、最小の譲歩で合意可能な着地点を探る交渉スキルが有益になってきます。 このような交渉は、やはりプロである弁護士に任せた方が良い結果につながりやすいでしょう。死後認知請求の期間
死後認知請求を提訴できる期間は、父の死亡後3年間です。 また、提訴から判決が下されるまでの期間は、事案によって異なりますが、1年以上かかるケースも少なくありません。 そして、上訴された場合は判決の確定までに、さらに年月を要することになります。死後認知の費用
死後認知の費用は、概ね下の表のようになります。収入印紙 | 13,000円 |
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郵便切手 | 数千円 ※裁判所によって異なる |
鑑定費用 | 約10万円 ※原則原告が全額負担。鑑定を実施しない場合は不要 |
弁護士報酬 | 事務所によって異なる。インターネット上で検索すると、着手金30万円+成功報酬40万円程度とする例も見られる |
認容判決が確定したら認知届を提出
請求認容判決が確定したら、原告となった人は、10日以内に認知届を役所に提出しなければなりません。 提出先の役所は、次の中か選べます。- 父の本籍地
- 子の本籍地
- 届出人の住所地
- 認知届書(用紙は役所にあります)
- 届出人の印鑑(シャチハタ不可。なお、行政改革によっていずれは不要になる可能性があります)
- 届出人の本人確認書類(顔写真が無いものは2点必要)
- 判決謄本及び確定証明書(判決を宣告した裁判所に申請することによって交付を受けられます)
- 父の戸籍謄本又は除籍謄本(父の本籍地に届出る場合は不要)
- 子の戸籍謄本(子の本籍地に届出る場合は不要)
死後認知後の相続手続き
死後認知が認められると、父の遺産についての相続権を有することになります。 遺産分割前であれば分割を請求することができますが、既に分割済みの場合は価額のみの支払を請求できます。 後者の場合の価額算定の基準時は、価額の支払いを請求した時です。 また、価額の支払いを請求した日の翌日以降の遅延損害金を請求することも可能です。 2020年4月1日以降の遅延損害金の法定利率は年3%です(それ以前は年5%)。なお、遅延損害金の法定利率は3年ごとに見直されることになったので、2023年4月1日以降は利率が変わる可能性があります。父の妻から母に不貞慰謝料を請求される可能性がある
父と母が男女関係にあった当時、父が婚姻していた場合、父の妻から母に対して不貞による慰謝料を請求される可能性があります。 なお、不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅します。 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。 二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。 まだ時効が成立していなければ、死後認知請求をすることによって、不貞があったことを相手方に知られ、又は、元々知られていた場合でも認知請求をしたことによって相手方の感情を刺激し、慰謝料を請求されるおそれがあるのです。 不貞慰謝料について裁判で争った場合、事案によりけりですが50万~300万円くらいで決着することが多いです。 時効が成立しないと思われるケースでは特に、認知請求前に一度、弁護士に相談することをお勧めします。この記事を書いた人
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