遺産相続に強い弁護士の選び方、費用相場や依頼までの流れを紹介!
[ご注意]
記事は、公開日(2021年4月1日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
目次
遺産分割の流れ
遺産分割は、まず、相続人間で協議をし、協議が調わない場合は家庭裁判所で調停を行い、調停も調わない場合は審判によって遺産分割方法が決められます(なお、そもそも調停で合意に至る余地がまったくないような場合は、調停を経ずに審判を申立てることができます)。 協議の段階から弁護士に依頼することもできますし、調停の段階からでも、審判になってから依頼することもできます。また、弁護士に依頼せずに、すべて一人で進めることも認められています。遺産相続問題を弁護士に相談・依頼するメリット
相続問題を弁護士に相談・依頼するメリットとして、次のような点が挙げられます。- 有利な条件で決着できる可能性が高くなる
- 遺産の全容を正確に把握できる
- 感情的な対立を避けられる
- 協議を欠席できる
- 精神的な負担が緩和される
有利な条件で決着できる可能性が高くなる
遺産分割調停の代理を弁護士に依頼することで、協議を有利に進めることができ、自分が希望する内容で協議を成立させられる可能性が高まります。 弁護士が代理人になることで、相手方が無茶な主張をしている場合は、冷静に法的根拠を基にこれを退けることができ、依頼者の希望する内容で協議を成立させられるように、例えば、次のような観点から交渉に当たります。- 相手方が法定相続分以上の財産を取得しようとしていないか。
- 各財産の評価は適切か。依頼者の有利になるように(依頼者が取得予定の財産がなるべく低くなり、相手方の取得予定の財産がなるべく高くなるように)評価する余地はないか。
- 現物分割以外の分割方法(換価分割・代償分割)によって依頼者の希望を実現することはできないか。
- 依頼者の寄与分を主張することはできないか。相手方が寄与分を主張している場合、これを退けることはできないか。
- 相手方に特別受益があることを主張することはできないか。相手方が依頼者に特別受益があることを主張している場合、これを退けることはできないか。
遺産の全容を正確に把握できる
弁護士は、相続人本人では情報を収集することが難しい場合であっても、弁護士会を通じて、金融機関や行政機関等に対して、亡くなった人の財産についての情報開示を求めることができる場合があります。 これを「弁護士会照会」又は「23条照会」といいますが、この照会等による遺産の調査によって、一部の相続人が隠していた遺産や誰も気づいていなかった遺産の存在が明らかになり、遺産の全容を把握することができる場合があります。 なお、弁護士会照会によって情報開示を受けられる財産には次のようなものがあります。- 預貯金
- 有価証券
- 自動車
感情的な対立を避けられる
遺産分割を巡って相続人間で揉める背景に感情的な対立があるケースがあります。 弁護士に依頼すると、余計に相手方を刺激するのではないかと心配される方もいますが、経験豊富な弁護士であれば、相手方の感情に配慮しつつ、冷静に法的根拠に基づき主張を展開することができるため、感情的な対立を和らげ、協議の成立に導くことができる可能性が高まります。 もっとも、そのためには、遺産分割及び人生経験等の豊富な弁護士に依頼した方がよいですし、依頼前の面談時に弁護士の人となりについても見定める必要があるでしょう。協議を欠席できる
協議には弁護士が出席すれば足りるので、ご自身は協議に出席する必要はありません。精神的な負担が緩和される
相続問題が激化すると、精神的な負担が大きくなり、そのせいで体調をくずたり、仕事や私生活に支障が生じることがあります。 弁護士に相談・依頼することで、不安が解消されたり、弁護士が緩衝材等になることにより、精神的な負担が緩和されることは大きなメリットといえるでしょう。遺産分割事件は8割が弁護士に依頼する
遺産分割事件では約8割の人が弁護士に依頼しています。 遺産分割協議については統計がありませんが、少なくとも、調停等の遺産分割事件にまで進んだケースでは、大多数の方が弁護士に依頼したことが分かります。弁護士に依頼した方がよいケース
次のいずれかに該当するケースでは、弁護士に相談・依頼した方がよいでしょう。このようなケースでは、早めに弁護士に相談しなければ、ますます話がこじれて修復不可能になるおそれがあります。- 誰がどの財産を取得するかで意見が割れている
- 不動産の分割方法で意見が割れている
- 自宅ぐらいしか主だった遺産がない
- 不動産等の評価額について意見が割れている
- 不動産を取得することになったが他の相続人が登記に協力してくれない
- 誰も取得を希望せず売り手も付かない財産がある
- 他の相続人が無茶な要求をしてくる
- 他の相続人から相続放棄を求められている
- 他の相続人が威圧的で意見が言いにくい
- 双方の主張に食い違いがあり、協議が難航している
- 感情のもつれによって協議が進まない
- 財産目録がなく遺産の全容が把握できない
- 遺産を管理している人が遺産の内容を明らかにしない、遺産の一部を隠している気がする
- 遺産を勝手に使い込まれた
- 遺産の独り占め等、決められた相続分よりも多くの遺産を取得しようとする人がいる
- 亡くなった人の介護をしていたので、その分、多めに相続したい(又は、他の相続人がそのように主張している)
- 亡くなった人の事業を手伝っていたので、その分、多めに相続したい(又は、他の相続人がそのように主張している)
- 相続人の中に生前贈与を多く受けている人がいて、もめている
- 相続人の中に協議に応じない人や連絡のつかない人がいる
- 遺言の内容が不公平
- 遺言書が有効か無効かで意見が割れている
相続問題の弁護士費用は誰が払う?
弁護士費用は、弁護士に依頼した人が払います。弁護士は、裁判所のような中立な機関ではなく、基本的には、依頼者の利益になるように業務を遂行します(法令遵守は当然ながら)。 当事者間に利害の対立がある場合、弁護士は、依頼者の利益になるように主張を組み立て、相手方と交渉するのです。 相続人全員で一人の弁護士に依頼して妥当な遺産分割方法を決めてもらうというような利用方法は、本来、予定されている弁護士の利用方法ではありませんが、このような依頼にも応じてくれる弁護士はいるでしょう。 しかし、当事者の利害が対立する中、弁護士が提案する遺産分割方法に、相続人全員が納得できないことも多いでしょう。弁護士の提案を受け入れるかどうかは、結局は、各相続人に委ねられるのです。 なお、このような依頼をした場合に誰が弁護士費用を負担するかは、当事者である相続人で話し合って決めることになります(相続分に応じて負担するのが無難かと思われます)。 もっとも、このような利用方法であれば、家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判の手続きを利用する方が一般的といえます。 調停や審判を利用する場合も、事前に弁護士に相談した方が、有利に進められるでしょう。遺産相続問題の弁護士費用の相場
相続問題の弁護士費用は、○○円と決まっているわけではありません。事務所によっても違いますし、遺産等の状況によっても異なります。 しかし、ある程度の相場というものは存在するので、以下で説明していきます。遺産相続問題の一般的な弁護士費用の仕組み
弁護士費用には、主に、着手金と報酬金(成功報酬)があります。着手金
着手金は、弁護士に事件を依頼した段階で支払うものです。遺産分割協議がどのような結果になっても返還されません。 「○○円」というように固定報酬が設定されている場合と、「取得を希望する遺産額の○%」というように設定されている場合があります。 また、「取得を希望する遺産額の○%。ただし、争いがない部分については、3分の1の額とする。」というように設定されているケースもあります。 協議から調停、調停から審判に移行したり、即時抗告(審判に対する不服申立)をした場合やされた場合は、各手続きが異なるため、着手金の積み増しが必要になることがあります。報酬金(成功報酬)
報酬金は、事件が成功に終わった場合、事件終了の段階で支払うものです。ここでいうところの「成功」には一部成功も含まれます。 つまり、望み通りの遺産を取得できたわけではないものの、何らかの遺産を取得できた場合は、通常、報酬金の支払いが生じます。 相手方の主張からの積み増しが得られなかった場合に、報酬金の対象となるかは、事務所によって異なります。 報酬金は、「取得できた遺産額の○%」というように設定されている場合や、「取得できた遺産額の○%。ただし、争いがない部分については、3分の1の額とする。」というように設定されている場合があります。 また、調停から審判に移行した場合は、報酬金の割合が上がるように設定されていることがあります。アンケート結果にもとづく弁護士費用の目安
日本弁護士連合会(日弁連)が2008年度に実施したアンケート結果にもとづく弁護士費用の目安を紹介します。これは、次の設例における弁護士費用について、弁護士にアンケートを取ってまとめたものです。設例
被相続人は、自宅不動産、山林、株券、預金など総額1億円の遺産を残した。遺言書はなく相続人は妻と子どもの2人の合計3人である。遺産の範囲に争いはないが、遺産分割協議がまとまらなかったので、妻の依頼を受けて遺産分割の調停申立をした。その結果、妻は5,000万円相当の法定相続分にしたがった遺産を取得し、妻の納得する分割となった。着手金
報酬金
この設例では、着手金30万~50万円、報酬金100円前後が多い この設例では、着手金は30万円前後から50万円前後で4分の3近くを占めいています。報酬金は、100万円前後を中心として60万円前後から220万円前後で多くを占めています。弁護士費用が払えない場合はどうする?
弁護士費用は、前述のとおり、着手金と成功報酬に分かれていることが多いです。 成功報酬は後払いなので、相続して遺産をもらい受けてから、もらい受けた遺産を原資に支払うことができます。 着手金は前払いなので、手持ちがないと支払うことができません。 着手金が払えない場合の対処法として、次の3つが考えられます。- いくつかの事務所で見積もりを取り、費用を比較する
- 弁護士に分割払い又は後払いでお願いできないか相談する
- 法テラスを利用する
- 審査が通るまでに約2週間かかる
- 弁護士を自由に選べない
- 経験の浅い弁護士が多い
遺産相続問題に強い弁護士の選び方
弁護士の選び方のポイントとして、次のような点が挙げられます。- 相続問題に精通していることが客観的に判断できる
- コミュニケーションがとりやすい、信頼できる、熱意が感じられる
- 費用が不合理に高くない
相続問題に精通していることが客観的に判断できる
弁護士の事務所のウェブサイトに「相続問題に強い」、「相続問題に詳しい」等の表示があることがあります。 このような表示があることによって、その事務所が、相続問題の受任に関心が高いことはわかりますが、自己アピールだけでは、本当に相続問題に精通しているのかはわかりません。 その判断のためには、客観的な指標が必要です。 この点、判断指標としては、次のような点が挙げられます。- 相続に関する弁護士向けの著書出版、論文執筆やセミナー講師等の実績がある
- 相続に関する有名な裁判例の担当実績がある
- 弁護士になってから一定程度の年数を経て相続事件等の受任件数が多い
- 費用体系が明確
相続に関する弁護士向けの著書やセミナー講師の実績がある
一般の方向けの著書やセミナーは、一般的な弁護士の知識があれば可能ですが、弁護士向けの書籍やセミナーについては、その問題に精通していなければ難しいでしょうから、指標となりえます。 ただし、流通していない書籍の執筆実績を広告目的で掲げているケースもあるので、書名や出版社名で検索する等の裏取りは必要です。 例えば、書名で検索してもほとんど情報が出てこなかったり(Amazonのような大きなサイトで取り扱いがない、東京都立図書館のような大きな図書館に蔵書がない等)、出版社名で検索してもサイトが存在せず、出版社の住所が事務所と同じ住所になっているケースもあります。相続に関する有名な裁判例の担当実績がある
弁護士向けの専門誌に掲載されるような有名な相続関連の裁判例を担当している弁護士は、相続問題に精通している可能性が高いでしょう。解決事例をウェブサイトに掲載している事務所もありますが、これも判断材料の一つにはなりえますが、うがった見方をすれば、解決事例は創作可能です。この点、判決日や裁判所名が記載された裁判例であれば、創作はできないので、確かな指標となります。 また、サイト上の「相続の解決実績○○件」というような記載があるケースもありますが、これも判断材料の一つにはなりえますが、やはり、件数の裏取りが不可能であり、この件数が多ければ信頼できるとは言い切れません。 実績については確認が難しい向きもあり、また、弁護士としてのキャリアが一定年数以上あれば、相続についてもある程度の経験を積んでいるでしょうから、実績の詳細にはこだわらずに、他の点を重視するというのでもよいでしょう。弁護士になってから一定程度の年数を経て相続事件等の受任件数が多い
ある程度の弁護士実績年数や多くの(数件程度ではない)相続事件の受任件数をこなしているというキャリアは相続に精通しているという客観的な指標の目安になるのではないかと思われます。費用体系が明確
相続問題の経験があまりない場合、この分野の料金表が用意されていないことがあります。コミュニケーションがとりやすい、信頼できる、熱意が感じられる
相続問題でより良い結果を得るためには、コミュニケーションがとりやすく、信頼でき、熱意が感じられる弁護士に依頼することが重要です。 依頼前の面談時に、この3点から弁護士を評価してみてください。 インターネット等の情報を基にある程度絞り込んだ上で、複数の弁護士の話を聞き比較してみるのもよいでしょう。 相談したからといって、依頼しなければならないわけでないので、まずは気軽に電話してみるとよいでしょう。 ポイントとしては、親身になってあなたの話に耳を傾けてくれるか、説明がわかりやすいか、質問に丁寧に答えてくれるか、費用についても事前に明確にしてくれるか、契約を急かさないか、なるべく良い結果が得られるように努めようとする姿勢が感じられるか等が挙げられます。 ただし、相談時間には限りがあるため、相談者の話が脱線してしまったときは、貴重な相談時間を無駄にしないため、弁護士が軌道修正を促すことがあります。このような軌道修正は必要なことなので、これをもって、「話を最後まで聞いてくれないから、この弁護士は駄目だ!」と決めつけるのは早計でしょう。費用が不合理に高くない
費用については、前述のとおり、費用体系が明確で存在していて、質問に丁寧に回答してくれる弁護士が望ましいでしょう。 また、不合理に高額な事務所は避けた方がよいでしょう。 安ければよいというわけではありませんが、相場よりも高いのであれば、納得のいく説明が得られるとよいでしょう。弁護士への相談から協議までの流れ
相談から相続放棄が受理されるまでの流れは、概ね次のようになります。- 面談予約
- 面談・見積もり
- 契約
- 遺言の有無の確認、相続人調査
- 受任通知
- 遺産の調査・評価、財産目録の作成
- 依頼者との打ち合わせ
- 協議
- 協議成立、遺産分割協議書の作成
- 遺産分割完了
面談予約
弁護士を選んで面談を予約します。インターネットで近くの弁護士事務所を探したり、知り合いから弁護士の情報を得ても良いでしょう。電話もしくはメールなどで連絡します。 そうすると、面談の候補日時をいくつかピックアップしてくれるでしょう。 初回面談料が無料かどうかはサイトにも記載されていますが、念のため、電話等でも確認しておきましょう。 コロナ禍以降、ビデオ会議システムを利用した遠隔面談に対応している事務所も増えており、そのような事務所の場合は対面か遠隔かの希望を尋ねられるでしょう。 初回面談までに用意すべき書類等がある場合は、予約時に事務所から指示がありますが、初回面談は書類等の用意は不要な事務所が多いです。 なお、「依頼しないかもしれないのに、無料で相談するのは申し訳ない」と感じる方もいらっしゃるようですが、その点はあまり気にしなくてもよいでしょう。 弁護士は、相談がすべて依頼につながるとは考えていません。 したがって、分割について不明な点や不安な点を弁護士に相談しつつ依頼するかどうかを検討し、結果として依頼しなかったとしても気にする必要はまったくありません。面談・見積もり
初回面談が無料の場合は、相談料は不要です。契約に必要な印鑑等の持参物は事前に事務所から指示があります。 面談時に弁護士費用の見積もりを提示されることが多いでしょう。 気になる点がなければ、その場で契約することもできまし、持ち帰って検討することも可能です。 特に急ぐ理由もないのにその場で契約を急かすような弁護士は基本的にはいないはずですが、万が一、そのような弁護士に当たった場合は依頼を避けた方がよいでしょう。契約
弁護士を決めたら事務所の指示に従って契約手続きをします(このタイミングで着手金を支払う場合が多いでしょう)。遺言の有無の確認、相続人調査
弁護士が遺言の有無の確認と相続人調査を行います。受任通知
他の相続人に弁護士が代理人になった旨が通知されます。遺産の調査・評価、財産目録の作成
調査可能な範囲ですべての遺産を洗い出し、遺産を評価し、目録にまとめます。依頼者との打ち合わせ
希望する遺産分割方法について依頼者と打ち合わせします。協議
他の相続人と協議します。協議が成立しない場合は、調停や審判といった法的手続きに移行することがあります。協議成立、遺産分割協議書の作成
協議が成立したら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。遺産分割協議は弁護士が作成してくれます。 遺産分割協議書には実印を捺印します。遺産分割協議書は同じものを相続人の数だけ作成し、各自一部ずつ保管します。遺産分割完了
名義変更や預貯金の払戻し等を行い、各相続人が各自の取得分を取得します。この手続きも弁護士に依頼できます。 また、このタイミングで報酬金を支払います。弁護士が相続手続を行って払戻した預貯金から報酬金を差し引いたうえで、依頼者の口座に入金することもあります。この記事を書いた人
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