弁護士監修記事
配偶者短期居住権とは?配偶者居住権との違いは?

配偶者の持ち家に配偶者と一緒に暮らしていた場合に、配偶者が亡くなってすぐに家を出て行かなければならないとしたら辛いですよね。
しかし、法律が改正されて、配偶者が亡くなった後、一定期間、無償で住み続けられることが、新しい法律に明文化されることになりました。
以下、弁護士がわかりやすく説明します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
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目次
配偶者短期居住権とは?要件と効果
配偶者短期居住権とは、相続開始時に被相続人(亡くなった人)の持ち家に無償で住んでいた配偶者は、一定期間、その家の居住部分(店舗や賃貸部分は対象外)を無償で使用することができるとする権利のことです。
配偶者短期居住権者は、その居住建物の敷地の利用権も持ちます。
使用に当たっては、善良な管理者の注意が求められます。善良な管理者の注意とは、平たく言うと、人の物を使わせてもらうに当たって一般的に求められる注意のことです。
配偶者短期居住権の発生
配偶者短期居住権は、相続開始時に発生します。遺言や遺産分割によって権利を取得させる必要はありません。
配偶者短期居住権の終了
配偶者短期居住権の終了期間は、その建物が遺産分割の対象となるかどうかで異なります。
遺産分割の対象となる場合の期間は、相続開始から6か月か、遺産分割によりその建物を取得する人が決まった日のどちらか遅い方です。
例えば1月1日に被相続人が亡くなった場合、7月1日で相続開始から6か月が経過します。
遺産分割協議がまとまり、その建物を取得する人が決まった日が7月1日以前であれば、配偶者短期居住権の期限は7月1日ですが、7月1日より後であれば、その日が期限になります。
遺産分割の対象とならない場合(遺言で当該建物の取得者が指定された場合など)は、居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6か月後が期限になります。
期限前でも次の事由があった場合は、権利が消滅します。
- 配偶者の死亡
- 居住建物取得者から当該配偶者への消滅の意思表示
- 配偶者居住権(長期居住権)の取得
居住建物取得者から配偶者短期居住権の消滅の意思を表示することができる場合は、配偶者が、居住以外の用途に建物を使用していたり、善良な管理者の注意義務に違反したような場合です。
また、長期居住権を取得した場合は、短期居住権は不要になるので、消滅します。
配偶者短期居住権は譲渡できない
配偶者短期居住権を譲渡することはできません。
配偶者短期居住権者は善意の第三者に対抗できない
配偶者短期居住権は、登記することはできません。
登記ができれば登記簿を閲覧することによって誰でも配偶者短期居住権が存在すること知ることができますが、登記ができないということは、その建物に配偶者短期居住権が存在することを世間に知らせることができないということです。
配偶者短期居住権の存在について善意の(「善意の」とは「知らない」という意味)第三者が居住建物の所有権を取得した場合は、配偶者短期居住権者は、その第三者に対抗することはできず、その第三者から立ち退きを求められた場合は、従わなければならない可能性が高いです。
状況によっては、立ち退きを免れる方法がある可能性があるため、このような場合は、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
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配偶者短期居住権の評価
配偶者短期居住権は、権利の価額はゼロで計算します。
遺産分割においても、相続税の算定においても、ゼロで扱います。
つまり、配偶者短期居住権を取得したからといって、その分、遺産の取得分が減ってしまうこともありませんし、相続税がかせられることもありません。
配偶者短期居住権はいつから?施行日は?
配偶者短期居住権は、民法の改正によって新設された権利で、その施行日は2020年4月1日です。
施行日より前に開始した相続については、配偶者短期居住権は生じません。
現行法では、どうしていた?
現行法下では、配偶者はどうしていたかというと、配偶者短期居住権に相当する規定はないのですが、使用貸借の合意(ただで使っていいよという合意)を推定するという判例があり、これにより、少なくとも遺産分割が終わるまでは、居住することができます。
権利の根拠が判例による合意推定だけでは権利としての安定性に欠けますし、居住建物が遺贈された場合など、使用貸借の合意があると推定するには無理があるケースもあり得ます。
そこで、改正法では、配偶者の権利として、明文化されることになったのです。
なお、判例による合意の推定は、配偶者だけでなく、被相続人の持ち家に同居している他の相続人についても同様に扱われます。
改正法の対象は、配偶者のみなので、他の同居相続人については、引き続き判例の法理により、遺産分割終了までの間、居住することができるものと思われます。
配偶者居住権との違い
今回の法改正では、配偶者短期居住権のほかに、配偶者居住権の制度が新設されました。
配偶者短期居住権と配偶者居住権の違いと共通点について説明します。
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人の持ち家に住んでいた場合、相続開始後にその家を他の相続人等が取得しても、被相続人の配偶者が引き続き無償で使用(居住)したり、人に貸して家賃収入を得たりすること(ただし、人に貸す場合には居住建物を取得した相続人の承諾が必要です。)ができるとする権利のことです。
配偶者短期居住権と区別するために、配偶者居住権のことを配偶者長期居住権とよぶこともあります。
配偶者居住権は自然には発生しない
配偶者居住権は相続開始により当然に生じる権利ではなく、配偶者居住権を取得するためには、遺産分割、遺贈(遺言によって財産や権利を与えられること)または死因贈与(贈与者の死亡を原因とする贈与)によって権利が与えられなければなりません。
配偶者居住権は亡くなるまで存続できる
配偶者居住権の期間を定めていない場合は、権利者が亡くなるまで、その権利は存続します。
10年間とか20年間とか任意の期間を定めることもできます。
期間を定める場合は、遺言書や遺産分割協議書等に期間を記載します。
期間満了前に権利者である配偶者が亡くなった場合は権利は消滅します。
譲渡できないのは同じ
配偶者居住権は、短期居住権と同様、譲渡することはできません。
配偶者居住権は登記することできる
配偶者居住権は登記することができ、登記すると、善意の第三者に対抗することができます。
配偶者居住権の登記について詳しくは「配偶者居住権の登記。登記申請書の書き方や登録免許税について。」をご参照ください。
配偶者居住権は建物全部に及ぶ
短期居住権は居住部分にしか及びませんが、長期居住権は、居住部分のみならず、店舗として使用していた部分、人に貸して家賃を得ていた部分も含めて、建物全体について、配偶者居住権に基づき使用および収益をすることができます。
ただし、基本的には相続開始前と同じ利用方法でなければなりません。
相続開始前に住居として利用していた部分は引き続き住居として利用しなければなりません。
店舗や賃貸物件として利用していた部分は、引き続き同じ利用方法で利用するほか、住居として利用することもできます。
表にすると次のようになります。
従前の用法 | 配偶者居住権に基づく用法として許されるもの |
---|---|
住居部分 | 住居 |
店舗部分 | 店舗または住居 |
賃貸部分 | 賃貸物件または住居 |
なお、所有権者が認める場合は、上表以外の用法でも構いません。
善良な管理者の注意が求められる点は同じ
短期居住権と同様に長期居住権でも建物の使用の際に善良な管理者の注意義務が求められます。
配偶者居住権は通常ゼロではない
配偶者短期居住権は0円で評価しますが、配偶者居住権は通常0円では評価しません。
相続財産を評価する目的は、相続税申告と遺産分割の2つがあります。
相続税申告に当たっては、決められた方法で配偶者居住権を評価しなければなりません。
遺産分割時の配偶者居住権の価額の算定方法は、共同相続人等の当事者間で合意すればどのように算定しても構いません。
協議や調停で合意に至らなかった場合は、審判で価額を決めることになります。
審判の際は、通常、相続税申告の際の評価方法に基づき評価されるでしょう。
配偶者居住権の評価について詳しくは「配偶者居住権の評価方法について税理士がわかりやすく説明!」をご参照ください。
まとめ
以上、配偶者短期居住権について説明しました。
遺産分割や遺贈によって、住む家を出なければならなくなってしまいそうな場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
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