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死後事務委任契約によって自分の死後処理の心配を解消する方法

自分の死後に火葬や役所の手続きをしてくれる人がいない場合、どうすればよいのでしょうか? このような悩みを解決する手段の一つに、「死後事務委任契約」があります。 以下では、死後事務委任契約についてわかりやすく説明します。 是非、参考にしてください。

[ご注意]
記事は、公開日(2019年9月2日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。

死後事務委任契約とは?

死後事務委任契約とは、生前のうちに受任者との間で、亡くなった後の諸手続き、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等(死後事務)について委任しておく契約のことをいいます。 死後事務委任契約によって委任する死後事務の内容は、委任者と受任者との間の契約で決めます。 例えば、次のようなものの内から必要なものを委任することが考えられます。
  • 関係者への死亡の連絡
  • 死亡届の提出
  • 火葬許可証の申請・受領
  • 葬儀・火葬に関する手続き
  • 埋葬・散骨等に関する手続き
  • 供養に関する手続き
  • 社会保険・国民健康保険・国民年金保険等の資格喪失手続き
  • 病院・施設等の退院・退所手続き・精算
  • 住居の管理・明け渡し
  • 勤務先の退職手続き
  • 車両の廃車手続き・移転登録(名銀行)
  • 運転免許証の返納
  • 遺品整理の手配
  • 携帯電話はパソコン等に記録されている情報の抹消
  • ペットの引き渡し
  • 各種サービスの解約・精算手続き
  • 住民税や固定資産税等の納税手続き
  • 遺産や生命保険等に関する手続き
  • ペットの引き渡し

委任者が死亡しても契約は終了しないの?

民法653条には、委任者又は受任者の死亡によって委任契約が終了することが定められています。 しかし、死後事務委任契約は委任者の死亡後の事務を委任する契約であり、委任者の死亡によって委任が終了してしまっては、委任した意味がなくなってしまいます。 この点、判例では、民法653条の規定は任意法規(契約によって変更できる法規)であるという立場がとられています。 したがって、委任者の死亡によって委任が終了しない死後事務委任契約も認められると解されています。

誰と死後事務委任契約を契約する?

死後事務委任契約の受任者となるために、資格のようなものは特に必要ありません。 ただし、死後事務委任契約は、委任事務が履行される時には、委任者は既に亡くなっているので、契約内容のとおりにきちんと履行されたかどうかを見届けることができず、信頼のおける受任者を選ぶことが重要です。 死後事務の委任先としては、次のような選択肢が考えられます。
  • 親類、友人・知人
  • 弁護士
  • 司法書士
  • 行政書士
親類や友人・知人に死後事務を委任できる人がいれば、その人に頼むとよいでしょう。 もっとも、親族は、死後事務委任契約がなくても、死後事務を執り行うものなので、親族との間で死後事務委任契約を結ぶ場合は、死後事務の内容に強いこだわりがあるような場合に限られるでしょう。 また、専門家以外の人の委任した場合、死後事務の中には慣れていなければ手続きが面倒なものもあるので、結局、受任者が専門家に依頼するケースもあります。 そのようなケースでは、初めから弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に依頼した方がよかったといえるでしょう。 弁護士、司法書士、行政書士には、それぞれ専門分野がありますが、一般的な死後事務であれば、それほど高い専門性が必要というわけではないので、どの専門家に頼んでもよいでしょう。

死後事務委任契約の報酬・費用

死後事務委任契約の報酬に決まりはありません。 専門家以外の人に委任する場合は、委任者と受任者が話し合って金額を決めることになります。 専門家に委任する場合は、専門家の提示する料金体系に基づくことになるでしょう。 専門家によって報酬は異なります。 提示された報酬が不当に高いのではないかと不安に感じる場合は、別の専門家にも報酬を問い合わせてみるとよいでしょう。 なお、弁護士よりも、行政書士や司法書士の方が、報酬が安い傾向にあります。 参考までに、ある行政書士の死後事務委任の報酬(ウェブ上で公開されているもの)を紹介しておきます。
手続きの種類 報酬
役所への死亡届の提出、戸籍関係の諸手続き、健康保険、公的年金等の資格喪失手続き 80,000円
病院・医療施設の退院・退所手続き・精算 80,000円
葬儀・火葬に関する手続き 100,000~300,000円(規模による)
埋葬・散骨等に関する手続き 50,000~100,000円
勤務先企業・機関の退職手続き 80,000円
車両の廃車手続き・名義変更など 30,000円
運転免許証の返納手き 15,000円
住居引渡しまでの管理 80,000円
遺品整理の手配 30,000~100,000円
公共サービス等の解約・精算手続き 15,000円(1件)
住民税や固定資産税等の納税手続き 20,000円(1件)
金融機関・生命保険の手続き 30,000円(1件)
パソコン・携帯電話等の情報抹消・廃棄手続き 15,000円(1件)
ペットの引渡し手続き 20,000~50,000円
必要な方へのご連絡 10,000円(1件)
ご供養に関すること 要相談
また、死後事務には、報酬だけではなく火葬等の費用(実費)がかかります。 実費については、死後事務委任契約締結時に正確に算定することが難しいですが、概算は計算しておいた方がよいでしょう。 なお、死後事務にかかる費用と報酬は、契約締結時に受任者や信託会社等に預託しておくケースと、遺産から充当するケースがあります。 どちらでも構いませんが、遺産から充当する場合に遺産が少ないと死後事務の履行に支障をきたすおそれがあるため、預託しておく方が安心でしょう。 預託する場合は、受任者か信託会社に預託することになります。信託会社に預託すると信託費用がかかりますが、より安心です。 受任者に預託した場合は、受任者による使い込みのリスクがあったり、受任者が委任者よりも先に死亡した場合に預託金の返還が煩雑になるおそれがあるためです。

死後事務委任契約書

契約は口頭でも成立しますが、契約書を作成することをお勧めします。 死後事務委任契約は、委任者の死後に履行期が到来するので、契約から履行までの間に長い期間が経っていることがよくあります。 契約書がなければ、受任者は、受任した事務の内容を正確に思い出すことができないかもしれません。 また、履行される時には委任者は死亡しており、きちんと履行されたかどうかを確認することができません。 委任者に相続人がいる場合には、相続人が委任者の代わりに確認することができますが、相続人がいても契約書がなければ、相続人は委任内容を把握することができず、きちんと履行されたかどうかを確認することもできないでしょう。 弁護士、司法書士、行政書士等の専門家に死後事務を委任する場合は、契約書は専門家が作成するケースが多いでしょう。 専門家以外の人に死後事務を委任する場合は、契約書を公正証書にすることをお勧めします。 公正証書にする場合は、公証人が契約書を作成してくれるので、契約書の作成方法が分からなくても作成することができます。 具体的には、公証役場において、公証人に遺言の内容を口頭で伝え、公証人がそれを文書にします。 公証人とは、法務大臣に任命された公正証書の作成人で、多くの場合、元裁判官や元検察官が公証人を務めています。 公証役場は全国に300ヶ所近くあり、一つの県に複数設置されています。 お近くの公証役場はこちらのページから探すことができます。 公正証書にする場合は、委任者と受任者がそろって2回ほど公証役場に行かなければなりません。 また、公正証書の作成手数料が14千円程度(内訳:手数料1万千円+正本謄本代3千円程度)かかります。 公正証書にした場合は、正本が受任者に、謄本が委任者に渡されます。 公正証書にしない場合の契約書の文例(雛形)については、以下をご参照ください。
死後事務委任契約書  

〇〇〇〇(以下「甲」という。)と××××(以下「乙」という。)は、甲の死後の事務に関して、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。

 

(委任者の死亡による本契約の効力)

第1条 甲が死亡した場合においても、本契約は終了せず、甲の相続人は、委託者である甲の本契約上の権利義務を承継するものとする。

 

2 甲の相続人は、前項の場合において、第10条各号に掲げる事由がある場合を除き、本契約を解除することはできない。

 

(委任事務の範囲)

第2条 甲は、乙に対し、甲の死亡後における次の事務(以下、「本件死後事務」という。)を委任する。

⑴通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務

⑵永代供養に関する事務

⑶老人ホーム入居一時金等の受領に関する事務

⑷別途締結した任意後見契約の未処理事務

⑸行政官庁等への諸届け事務

⑹以上の各事務に関する費用の支払い

 

(通夜・告別式)

第3条 前条の通夜及び告別式は、○寺に依頼する。

 

(永代供養)

第4条 第2条の納骨及び埋葬は、○寺にて行う。

 

(連絡)

第5条 甲が死亡した場合、乙は、速やかに甲が予め指定する親族等関係者に連絡するものとする。

 

(預託金の授受 預託金を設定する場合)

第6条 甲は、乙に対し、本契約締結時に、本件死後事務を処理するために必要な費用及び乙の報酬に充てるために、金○万円を預託する。

 

2 乙は、甲に対し、前項の預託金(以下「預託金」という。)について預かり証を発行する。

 

3 預託金には、利息をつけない。

 

(費用の負担)

第7条 本件死後事務を処理するために必要な費用は、甲の負担とし、乙は、預託金からその費用の支払いを受けることができる。

 

(報酬)

第8条 甲は、乙に対し、本件死後事務の報酬として、金○万円を支払うものとし、本件死後事務終了後、乙は、預託金からその支払を受けることができる。

 

(契約の変更)

第9条 甲又は乙は、甲の生存中、いつでも本契約の変更を求めることができる。

 

(契約の解除)

第10条 甲又は乙は、甲の生存中、次の事由が生じたときは、本契約の解除することができる。

⑴乙が甲からの預託金を費消するなど信頼関係を破綻する行為をしたとき

⑵乙が健康を害し死後事務処理をすることが困難な状態になったとき

⑶経済情勢の変動など本契約を達成することが困難な状態になったとき

 

(契約の終了)

第11条 本契約は、次の場合に終了する。

⑴乙が死亡又は破産したとき

⑵甲と乙が別途締結した「任意後見契約」が解除されたとき

 

(預託金の返還、精算)

第12条 本契約が第10条(契約の解除)又は第11条(契約の終了)により終了した場合、乙は、預託金を甲に返還する。

 

2 本件死後事務が終了した場合、乙は、預託金から費用及び報酬を控除し残余金があれば、これを遺言執行者又は相続人若しくは相続財産管理人に返還する。

 

(報告義務)

第13条 乙は、甲に対し、1年ごとに、預託金の保管状況について書面で報告する。

 

2 乙は、甲の請求があるときは、速やかにその求められた事項につき報告する。

 

3 乙は、遺言執行者又は相続人又は相続財産管理人に対し、本件死後事務終了後1か月以内に、本件死後事務に関する次の事項について書面で報告する。

⑴本件死後事務につき行った措置

⑵費用の支出及び使用状況

⑶報酬の収受

 

(免責)

第14条 乙は本契約の条項に従い、善良な管理者の注意を怠らない限り、甲に生じた損害について責任を負わない。

 

 

以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各1通を保有する。

 

 

〇〇〇〇年〇月〇日

 

甲:〇〇県○○市○○町〇丁目〇番〇号

〇〇 〇〇 印

 

乙:〇〇県○○市○○町〇丁目〇番〇号

×× ×× 印

この文例のWordファイルは、こちらからダウンロードできます。

いつ死後事務委任契約を結ぶ?

認知症等により意思能力を欠いた状態では、本人の判断で契約を結ぶことはできません。 したがって、死後事務委任契約は、委任者に意思能力があって元気なうちに結んでおかなければなりません。

生前契約との違い

死後事務委任契約のみを締結しても構いませんが、日常生活のサポートや身元保証が必要な場合には、死後事務委任を含む生前契約が選択肢として考えられます。 生前契約のサービス内容は、事業者ごとに異なりますが、一般的な内容は主に、次の3つに分類できます。
  • 生前事務委任業務
  • 任意後見業務
  • 死後事務委任業務
生前事務委任業務は、生前、判断能力が十分あるうちから、日常生活をサポートしてもらったり、入院や施設入居の際に身元保証人になってもらったりするものです。 任意後見業務は、認知症等によって判断能力が衰えてきた場合に、あらかじめ契約によって代理権が与えられた範囲で、本人に代わって法律行為を行います。 生前契約について詳しくは「生前契約を検討する全ての人が知っておくべき注意点と代替策」をご参照ください。

まとめ

以上、死後事務委任契約について説明しました。 死後事務委任契約について相談したい場合は、行政書士や司法書士、弁護士等の専門家に問い合わせるとよいでしょう。

この記事を書いた人

株式会社鎌倉新書 いい相続

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