相続放棄の必要書類に印鑑証明書は含まれない!求められた場合は?
身近な人が亡くなって相続人となったものの、他の相続人に遺産を譲りたい場合は、相続放棄をすることが考えられます。
このようなケースにおいて、遺産を取得する相続人から、印鑑証明書を求められることがあります。
相続放棄に印鑑証明書は必要なのでしょうか?必要ないとすれば、なぜ、その人は印鑑証明書を求めるのでしょうか?そして、求められた場合には、印鑑証明書を渡すべきなのでしょうか?
この記事では、このような疑問について、弁護士が分かりやすく説明します。
是非、参考にしてください。
目次
[ご注意]
記事は、公開日(2020年7月20日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
相続放棄の手続きに印鑑証明書は必要ない
結論から言ってしまうと、相続放棄の手続きに、印鑑証明書は必要ありません。
相続放棄でお悩みの方は
まずは弁護士にご相談ください
印鑑証明書を求められた場合は「相続放棄」ではなく「相続分の譲渡」か「相続分の放棄」
それでは、なぜ、遺産を取得する相続人は、放棄する人に対して印鑑証明書を求めるのでしょうか?
それは、「相続放棄」ではなく、「相続分の放棄」又は「相続分の譲渡」をしようとしている可能性が高いです。
相続放棄は、家庭裁判所での手続きで、印鑑証明書は必要ありません。また、他の相続人が代わりに手続きすることはできず、手続きできるのは、本人か本人から依頼された弁護士のみです(書類の作成は司法書士にも依頼できます)。
相続分の放棄や相続分の譲渡には特別な手続きは必要ありません。
相続分の放棄は、相続分を放棄する本人の意思表示だけで成立します。
相続分の譲渡は、相続分の譲渡人と譲受人の意思の合致によって成立します。
相続分の放棄や相続分の譲渡は口頭でも成立しますが、遺産を取得することになった人が名義変更等の相続手続きをする際には、すべての相続人の実印が押捺された遺産分割協議書を金融機関や法務局等の手続き先に提出しなければなりません(相続分譲渡証明書でも可能な場合があります)。
そして、金融機関や法務局では遺産分割協議書に押捺された印が実印かどうかを確認するため、すべての相続人の印鑑証明書を添付しなければならないのです。
したがって、他の相続人から印鑑証明書を求められた場合は、相続放棄ではなく、相続分の譲渡又は放棄によって処理しようとしている可能性が高いのです。
「相続分の放棄」「相続分の譲渡」の注意点
亡くなった人に借金等の債務があった場合、相続人はプラスの財産だけなく、債務についても相続することになります。
しかし、相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされるため、プラスの財産も債務も相続することはありません。
債権者から督促があったとしても、相続放棄申述受理通知書又は相続放棄申述受理証明書を提示すれば、それ以上、督促されることはないでしょう。
しかし、相続分の放棄又は譲渡の場合は、債権者に対して相続分の放棄や譲渡をしたことを主張しても、債務を免れることはできません。
相続人間で「相続分を放棄する代わりに債務も負わない」と約束して遺産分割協議書にもそのことを記載していても、債権者に対抗することはできないのです(債権者に弁済した分を他の相続人に求償することはできます)。
「相続分の放棄」「相続分の譲渡」よりも「相続放棄」が基本的にはおすすめ
遺産分割協議書の作成後に、被相続人に債務があったことが発覚することも決して珍しいことではありません。
相続債務を免れるためには、相続分の放棄・譲渡ではなく、相続放棄がおすすめです。
相続放棄の手続きには期限があります(原則として亡くなってから3か月)。
期限内にスムーズに手続きを済ませるためには、弁護士又は司法書士に依頼するとよいでしょう。
期限を過ぎた場合や遺産を処分した場合はどうする?
相続放棄は、期限を過ぎてしまった場合や遺産を一部でも処分してしまった場合には、受理されない可能性があります。
このような事情がある場合でも、弁護士に依頼すれば、受理されるように工夫してくれるでしょう。
このような事情がある場合でも諦めずに、弁護士に相談してみることをお勧めします。
「相続分の放棄」「相続分の譲渡」がおすすめのケース
相続分の放棄・譲渡を選択する場合は、相続債務が確実に無いことが明白であることが大前提です。
相続債務が確実に無いことが明白なケースでは、相続分の放棄又は譲渡を選択した方がよいケースもあります。
それは、相続放棄をすると後順位の相続人に相続権が回ってしまうケースです。
例えば、A、B、Cの三兄弟は、父が亡くなり、兄弟全員で母に遺産を譲ろうと相続放棄をしたとします。
その場合、父の直系尊属(父母や祖父母など)で存命の人がいない場合は、父の兄弟とその代襲者である甥・姪(A、B、Cから見たら、おじ・おばと、その代襲者であるいとこ)に相続権が移ります。
おじ・おば、いとこがA、B、Cの意を汲んで相続放棄してくれればよいですが、そうでない場合、母に遺産を譲ろうという三兄弟の想いはかなわず、おじ・おば、いとこに遺産がいくことになります。
このような場合は、相続放棄ではなく、相続分の譲渡をするとよいでしょう。
相続分の譲渡なら、後順位の相続人に相続権が移ることはありません。
まとめ
以上、相続放棄に印鑑証明書は必要かどうか、そして、相続放棄と相続分の放棄・譲渡の違いについて説明しました。
相続放棄の手続きは弁護士又は司法書士に依頼すると手間なく手続きがスムーズに済みます。
また、他の相続人がかたくなに、相続放棄ではなく、遺産分割協議書(つまり、相続分の放棄・譲渡)で進めようとする場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
この記事を書いた人
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