相続分譲渡証明書の書式・効力・危険性について説明!
遺産にそれほど魅力を感じていないとしたら、その遺産のために、遺産争いに巻き込まれたくはないものです。
しかし、相続放棄の手続きをするのも面倒だという人もいるでしょう。
そのような場合に、相続分の譲渡という手段があり、相続分の譲渡の際に相続分譲渡証明書を作成することがあります。
この記事では、相続分譲渡証明書の書式や危険性などについてわかりやすく説明します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、公開日(2020年6月26日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
相続分譲渡証明書とは?
自分の相続分は他の相続人や第三者に譲渡することができます。
相続分譲渡証明書とは、相続分を譲渡したことを証明する書類のことです。
「相続分譲渡証書」の名称で作成されることもあります。
相続分の譲渡は決まった手続きがなく、口頭でも成立すると解されますが、後述の理由により、証明書が作成されます。
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相続分譲渡証明書を作成する目的
相続分譲渡証明書は、主に次のような目的で作成されます。
- 当事者間で譲渡の有無や条件について後からトラブルになることを防ぐため
- 登記申請書に登記原因証明情報として添付するため
※必要な場合と必要ない場合があります。 - (遺産分割調停や遺産分割審判になった場合)家庭裁判所に提出するため
※遺産分割調停や遺産分割審判に参加しなくてよくなります。
相続分譲渡証明書の書式
前述の3の目的で相続分譲渡証明書を作成する場合は、家庭裁判所によっては、決まった書式が用意されていることがあるので、調停又は審判が係属している家庭裁判所に確認してください。
参考までに、京都家庭裁判所での手続きに必要な書類の書式と説明書・作成例を紹介します。
前述の1又は2の目的で作成する場合は、決まった書式のものはないため、当サイトで用意した以下の書式を利用しても問題ないでしょう。
相続分譲渡証書
○○○〇(以下「甲」という)は、○○○〇(以下「乙」という)に対し、本日、被相続人亡○○○〇(本籍:○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号)の相続について、甲の相続分全部を金○○○○円で譲渡し、乙はこれを譲り受けた。
平成〇年〇月〇日
甲 ○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号
乙 ○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号 |
Word(ワード)形式の書式(雛形)は、以下のリンクからダウンロードすることができます。
相続分譲渡通知書とは?
相続分の譲渡は、他の相続人の同意なく行うことができます。
しかし、相続分を譲渡したことを他の相続人に知らせなければ、その後の遺産分割協議に支障を来してしまうかもしれません。
そこで、相続分譲渡通知書を他の相続人に送り、相続分を譲渡したことを知らせるとよいでしょう。
相続分譲渡通知書の書式に決まったものはないため、当サイトで用意した以下の書式を利用しても問題ないでしょう。
平成〇年〇月〇日 ○○○○様 ○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号 ○○○○
相続分譲渡通知書
私○○○○は、○○○〇に対し、平成〇年〇月〇日に、被相続人亡○○○〇(本籍:○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号)の相続について、自己の相続分全部を譲渡いたしましたので、ここにお知らせ申し上げます。
以上 |
Word(ワード)形式の書式(雛形)は、以下のリンクからダウンロードすることができます。
相続分の譲渡をしても相続債権者には抗弁できない
相続分を譲渡すると、相続債務も含めて譲渡されます。
つまり、譲渡人ではなく、譲受人が、相続債務を負うことになります。
しかし、これはあくまで譲渡当事者の関係においてのことで、譲渡人は相続分の譲渡をもって債権者に抗弁することはできません。
つまり、譲渡人が、債権者から弁済を求められたときに、「相続分を譲渡したので譲受人に請求してください」といって弁済を拒むことはできないのです。
もっとも、言う分にはただなので、債権者に譲受人に請求するように頼んでみてもよいでしょう。
それで、債権者が譲受人に請求して譲受人が弁済したなら、譲渡人は弁済する必要はありません。
また、譲渡人が弁済した場合は、譲受人に求償すること(代わりに弁済した分の支払いを求めること)ができます。
相続債務がある場合は、相続分の譲渡ではなく相続放棄を検討することをお勧めします(相続放棄については「財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識」参照)。
相続分の譲渡を受けると損する場合
相続分上の譲渡を受ける人にも、損してしまうケースがあります。
次の2つのいずれかに該当するケースでは、相続分の譲渡を受けると損してしまいますので、気を付けましょう。
- プラスの遺産よりも債務の金額の方が大きい場合
- 譲渡人の相続分以上に特別受益がある場合
以下、それぞれについて説明します。
プラスの遺産よりも債務の金額の方が大きい場合
被相続人(亡くなった人)が借金等の負債を抱えて亡くなった場合、被相続人の負債(相続債務)は、相続人が法定相続分に応じて弁済する義務を負います。
そして、相続分を譲渡すると、相続債務も含めて譲渡されます。
つまり、譲渡人ではなく、譲受人が、相続債務を負うことになります(これはあくまで譲渡当事者の関係においてのことで、譲渡人は相続分の譲渡をもって債権者に抗弁することはできません)。
プラスの遺産よりも債務の金額の方が大きい場合に相続分を譲り受けると損してしまいます。
譲渡人の相続分以上に特別受益がある場合
譲渡人が生前贈与を受けていたとかで、その相続分以上に特別受益がある場合も、相続分を譲り受けると損してしまいます。
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。
特別受益を受けた相続人がいる場合は、遺産分割における当該相続人の取得分を、特別受益を受けた価額に応じて減らす必要があるので、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分が算定されます。
(算式)
【具体的相続分】=(【遺産総額】+【相続人全員の特別受益の総和】)×【当該相続人の法定相続分又は指定相続分】-【当該相続人の特別受益】
このようにして具体的相続分を算定することを特別受益の持戻しといいます。
相続分の譲渡によって譲渡される相続分は、特別受益の持戻し後の具体的相続分です。
譲渡人が相続分以上に生前贈与を受けている場合は、持戻し後の具体的相続分がマイナスになることがあります。
そのような相続人から相続分の譲渡を受けると、損してしまうことになります(譲渡人と譲受人以外に相続人がいる場合)。
特別受益について詳しくは「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」をご参照ください。
まとめ
以上、相続分譲渡証明書について説明しました。
相続分の譲渡については「相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法」も併せてご参照ください。
この記事を書いた人
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