弁護士監修記事

単純承認したことになって知らないうちに借金を相続しないための知識

身近な人が亡くなって遺産を相続することになったときには、うっかり単純承認してしまわないように気を付けましょう。

プラスの財産よりも、借金等のマイナスの財産の金額が大きかった場合には、単純承認する前なら相続放棄することができますが、一旦、単純承認してしまうと、原則として相続放棄することはできなくなってしまいます。

単純承認するつもりでなくても、ちょっとしたことで単純承認したものとみなされてしまうこともあります。

そのようなことにならないように、この記事で単純承認についての正しい知識を身に付けておきましょう。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

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単純承認とは?

単純承認とは、相続人(包括受遺者(後述)を含む。以下同じ。)が、被相続人(亡くなった人)の権利や義務を無限に承継する選択をすることをいいます。

簡単にいうと、プラスの財産だけでなく、借金等のマイナスの財産もひっくるめて相続するということです。

この点、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が額が大きかった場合は、相続人が自前の財産で相続人の債務を弁済しなければならなくなり、相続人にとって酷な結果となるので、相続人は単純承認せずに、相続放棄や限定承認することもできることになっています。

相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切承継しない選択をすることをいいます。

簡単にいうと、プラスの財産もマイナスの財産もどちらも相続しないということです。

相続放棄について詳しくは「財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識」をご参照ください。

限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈(遺言による遺産の全部又は一部の処分)を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることをいいます。

例えば、相続人が相続によって1000万円を得たところ、600万円の被相続人の債務があり、さらに、相続人以外の人に500万円を遺贈する旨の遺言があった場合、単純承認の場合は「1000万円-600万円-500万円 = マイナス100万円」となり、相続人の100万円の持出しが生じてしまいますが、限定承認の場合は持出しは生じません。

つまり、簡単にいうと、限定承認とは、プラスの財産からマイナスの財産と特定遺贈(対象となる財産を特定した遺贈)される財産を差引いて余りが出た分だけ相続し、マイナスになったとしても相続人はマイナス分を負担しなくてよいという制度です。

これだけ聞くと、限定承認は相続人にとって最も都合のよい制度で、もはや単純承認や相続放棄を選択すべき余地はないように思われるかもしれませんが、限定承認には、次のようなデメリットがあり、実際はあまり利用されていません。

  • 相続人全員が共同で手続きしなければならない(一人でも単純承認や相続放棄をすると限定承認できない)
  • 債務の清算が必要(相続放棄の場合は不要)
  • 単純承認と比べて譲渡所得税が余計にかかる可能性がある

限定承認ついて詳しくは「限定承認のメリット・デメリットと利用すべき場合や手続きの流れ」をご参照ください。

単純承認・相続放棄・限定承認の対象者

単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択しなければならないのは、相続人と包括受遺者です。

相続人は相続する権利を有する人のことですが、包括受遺者とは何でしょうか?

遺言によって、相続人でない人が遺産をもらい受けることがありますが、このような人のことを受遺者といいます。

受遺者は、包括受遺者と特定受遺者に分けられます。

包括受遺者は取得する財産が遺言によって特定されていない受遺者で、特定受遺者は取得する財産が遺言によって特定されている受遺者のことです。

例えば、取得できる財産が「遺産の2分の1」というようなかたちで指定されていたら包括受遺者、「どこどこの土地」というようなかたちで指定されていたら特定受遺者となります。

特定受遺者は、その特定された財産を取得することができますが、それ以外の財産を取得するものではなく、また、遺言にない債務を承継することもありません。

ゆえに、特定受遺者は相続放棄や限定承認の対象外です。

特定遺贈を放棄する場合は、包括遺贈の場合のような家庭裁判所での手続きは不要で、相続人等の遺贈義務者に放棄の意思表示をすれば足ります。

放棄の期限は原則としてありませんが、利害関係人が十分な期間を定めて催告したときは、その期間内に放棄の意思表示しなければ承認したことになります。

一方、被相続人の権利義務を包括的に承継することから、包括受遺者は、相続財産に対して相続人とともに遺産共有の状態となり、債務も承継し、遺産分割に参加することになるため、債務も含めて遺産をもらい受けたくない場合は、相続放棄の手続きが必要です。

単純承認をしたものとみなされる場合

相続放棄や限定承認は家庭裁判所での手続きが必要ですが、単純承認をする場合に特別な手続きは必要ありません。

単純承認をする旨の意思表示をするだけで単純承認をすることができますし、意思表示すらしなくても次に掲げる場合には、単純承認をしたものとみなされます。

  • 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
  • 相続人が民法915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
  • 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、ひそかにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

なお、これらに該当し単純承認をしたとみなされることを「法定単純承認」とか「単純承認擬制」とか「黙示の単純承認」ということがあります。

以下、それぞれの場合について説明します。

相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき

相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされますが、前述のとおり、保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りではありません(単純承認をしたものとはみなされません)。

処分には、譲渡、贈与、抵当権設定などの法律上の処分のほか、損壊や廃棄といった事実上の処分が含まれます。

そして、保存行為とは、財産の現状を維持する行為のことをいいます。

処分行為と保存行為の具体例については、後ほど詳しく説明します。

そして、民法602条に定める期間(単純承認をしたものとはみなされない賃貸借期間の上限)は、賃貸借の目的物の種類ごとに異なり、具体的には下表の通りです。

賃貸借の目的物 単純承認をしたものとはみなされない賃貸借期間の上限
樹木の栽植又は伐採を目的とする山林 10年
上記以外の土地 5年
建物 3年
動産 6か月

相続人が期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき

相続放棄や限定承認の手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄申述書と戸籍謄本等の必要書類を提出して行わなければなりません(なお、相続の開始があったこと知った翌日を1日目とカウントします)。

相続は死亡によって開始するので、基本的には、被相続人が死亡したことを知った時から3か月以内ということになります。

ちなみに、被相続人が死亡したことは知っていたが、法定相続人のルールを知らなかったがために自分が相続人になることは知らなかったという言い訳は基本的には通用しません。

なお、先順位の相続人全員が相続放棄をしたために自分が相続人になったという場合は、先順位の相続人全員が相続放棄をしたことを知った時から3か月以内ということになります(相続順位について詳しくは「相続順位のルールを図や表を用いて弁護士が詳しく分かりやすく解説!」を参照)。

この3か月の期限は、家庭裁判所に申立てることで、伸長(延長)することができます。

遺産の調査が3か月以内に調査が完了しない場合もあるため、期限を伸長する制度があるのです。

家庭裁判所で申立てが認められると、原則としてさらに3か月期限が伸長されます。

伸長の手続きは繰り返し利用することができます。

なお、期限が過ぎてしまっても相続放棄が全く認められないわけではなく、相続債務が存在しないと信じており、そう信じていたことに相当の理由がある場合には、例外的に相続放棄が認められる場合があります。

ただ、どのような場合に相当の理由があるとして相続放棄が認められるかについて決まった基準はなく、ケースに応じて裁判所が判断します。

これまで裁判所が、期限経過後の相続放棄を認めた事例には、以下のようなものがあります。

  • プラスの財産があることは知っていたが他の相続人が相続することから自分が相続する財産は全くなく、またマイナスの財産(債務)は全く存在しないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったところ、実際にはマイナスの財産が存在した場合
  • 被相続人の借金について調査を尽くしたが、債権者からの誤った回答により債務は全くないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったが、実際には債務が存在した場合
  • 被相続人と相続人が別居しており、別居後、被相続人が亡くなるまで全く没交渉であって、相続人は、被相続人の財産や借金について全く知らされておらず、被相続人の死亡後も、その財産の存在を知るのが困難であった状況下において、財産が全くないと信じており、相続放棄の手続きをしなかったが、実際には借金が存在した場合

相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私かにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき

相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部又は一部について、次のいずれかの行為をしたときは、単純承認をしたものとみなされ、既にした相続放棄が限定承認が無かったことにされてしまいます。

  1. 隠匿したとき
  2. 私かに(ひそかに)消費したとき
  3. 悪意で相続財産の目録中に記載しなかったとき

ここでいう「隠匿」とは、相続人が被相続人の債権者等にとって相続財産の全部又は一部について、その所在を不明にする行為をいうと解されています。

例えば、相続人が、客観的にみて形見分けを超える範囲と量の遺品を持ち帰ったような場合は、隠匿に該当するでしょう。

「私かに(ひそかに)」とは、「自分のために」とか「勝手に」というような意味合いです。

必要な遺品整理をしたり、葬儀費用を支払ったりすることは、「私かに消費する」ことには当たらないでしょう。

そして、「悪意」とは、「故意に」というような意味合いです。

つまり、目録中に記載しているもの以外に相続財産があることを知っているのに記載しなかった場合が該当します。

なお、これら13に該当するというためには、その行為の結果、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識している必要がありますが、必ずしも、被相続人の特定の債権者の債権回収を困難にするような意図、目的までも有している必要はないと解されています。

また、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この規定は適用されません。

つまり、血族相続人の全員が相続放棄をすると、次順位の血族相続人に相続権が移りますが、その次順位の相続人が相続の承認(単純承認または限定承認)をした後は、先順位の相続人が相続財産の隠匿等をしても、先順位の相続人について単純承認が擬制されることはありません。

単純承認をしたものとみなされるケースの具体例

単純承認をしたものとみなされるケースの具体例を紹介します。

ただし、裁判になった場合は、裁判官が個々の事案における事情を勘案して、単純承認に当たるかどうかを判断するため、事情によっては、必ずしも、以下で紹介するとおりの結論にならないこともありえます。

ついては、少しでも法定単純承認に該当する可能性がある行為をする必要がある際には、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

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単純承認をしたものとみなされる可能性が高い行為の例

単純承認をしたものとみなされる可能性が高い行為の例を紹介します。

  • 故意の損壊、廃棄
  • 改修(保存行為に当たらない場合)
  • 売却、譲渡
  • 名義変更
  • 預貯金口座を解約して相続人の財産と分別しない行為
  • 債務者から弁済を受けた金銭等を相続財産として保管することなく収受領得する行為
  • 賃貸中の財産の賃料の振込先を自己名義の口座に変更する行為
  • 抵当権の設定
  • 株式の議決権の行使
  • 遺産分割協議
    ※相当の理由に基づき相続債務がないと誤信していたために相続放棄をせずに遺産分割協議に参加したような場合は、単純承認をしたものとはみなされない可能性があります。
  • 形見分けを超える範囲と量の遺品の持ち帰り
  • 期日未到来の債務の弁済

単純承認をしたものとみなされる可能性が低い行為の例

単純承認をしたものとみなされる可能性が低い行為の例を紹介します。

  • 相続開始を知らずにした財産の処分
  • 生命保険金や死亡退職金の受け取り
  • 被相続人の医療費の支払い
  • 被相続人の葬儀費用の支払い、墓石や仏壇等の購入
  • 債務者への支払督促
  • クレジットカードや携帯電話の解約
  • 預貯金口座を解約して相続財産として管理する行為
  • 形見分けを超えない範囲と量の遺品の持ち帰り
  • 少額の所持金の受領

判断が極めて難しい行為の例

次のような行為については、単純承認をしたものとみなされるかどうか、個々の事情による部分が大きく、一概に言えません。

  • 期日が到来した債務の弁済
  • 期日が到来した債務の弁済のための相続財産の処分

これらの行為は、基本的には、保存行為とされる可能性が高く、そうすると、単純承認をしたものとはみなされませんが、相続財産の多くを一部の相続債務の弁済のために処分した結果、他の相続債権者への弁済が著しく困難になったような場合は、単純承認をしたものとみなされる可能性が高いでしょう。

これらの行為を行う前には、弁護士に相談することをお勧めします。

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単純承認後に相続放棄をすることできる?

単純承認後に相続放棄をすることは、基本的にはできません。

ただし、単純承認が、相続債務の不存在を誤信したことによるものであった場合等は、相続放棄が認められる余地がありますので、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

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なお、単純承認後であっても、相続分の放棄をすることはできます。

しかし、相続分の放棄では、相続債務を免れることはできません。

この点、相続分の譲渡という方法もあり、相続分の譲渡の場合は相続債務も併せて譲渡されますが、債権者との関係では承諾なくして債務を免れることはできません。

相続分の放棄と相続分の譲渡について詳しくは「相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法」をご参照ください。

相続放棄が却下された場合

家庭裁判所に単純承認をしたものとみなされてしまうと相続放棄の申述が却下されてしまいます。

そのような場合は家庭裁判所が相続放棄の申述を却下したことに対して、不服を申し立てることが可能です。

ただ、一度裁判所が却下したものについて、その判断を変えさせるのは非常に困難です。

そのため、相続放棄の申述をする段階で、却下される可能性が少しでもある場合には、却下されないように、裁判所に対して、状況を説明する文書や証拠を提出することが大切です。

まとめ

以上、単純承認について説明しました。

法定単純承認に当たるかどうかを巡って相続人と相続債権者等との間で裁判になるケースもあります。

裁判では、裁判官が個々の事案における事情を勘案して判断を下します。

記事では、法定単純承認が成立する可能性が高いケースと低いケースを紹介しましたが、事情に応じて反対の結論になることもありえます。

うっかり法定単純承認となってしまって、借金を背負ってしまうことにならないように、少しでも法定単純承認に該当する可能性がある行為をする必要がある際には、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

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