弁護士監修記事

財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識

財産を相続したくない場合に、財産を放棄する方法があります。

しかし、財産放棄と一口に言っても様々な方法があります。

この記事では、様々な財産放棄の方法とその違いを理解して、財産放棄で損しないための全知識について、詳しく、わかりやすく説明します。

是非、参考にしてください。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

財産放棄とは?

財産放棄とは、文字通り、財産を放棄することです。

しかし、財産放棄という言葉の定義は曖昧です。

というのは、財産放棄は、法的な制度の名称ではないからです。

法的な制度であれば、手続きや効果が法令で定められていますから、はっきりとした説明が可能です。

財産放棄と似た言葉に相続放棄があります。

相続放棄は法的な制度です。

相続放棄の手続きや効果は、法律で定められていますから、それがどういう制度なのかはっきりと説明することができます。

一方、一般的な言葉は、世の中で使われている意味がその言葉の意味になります。

ですので、人々が財産放棄という言葉を使うときに想定している内容が、財産放棄の意味になります

この点、財産放棄という言葉は、次の4つのいずれの意味でも使用されているように思われます。

  1. 相続放棄の意味
  2. 相続分の放棄(譲渡の一種)の意味
  3. 遺贈の放棄の意味
  4. 共有持分の放棄の意味

この記事では、財産放棄は、これらすべてを包含する意味として、以下、説明していきます。

相続放棄とは?

まず、相続放棄について説明します。

相続放棄は誰ができる?

相続放棄とは、法定相続人や包括受遺者が遺産の相続を放棄することです。

専門用語が多いですが、一つ一つ丁寧に説明していくので、安心してください。

法定相続人とは、法律で定められた相続人のことです。

例えば、被相続人(相続される人。亡くなって財産を残す人。)に配偶者(妻や夫)と子がいる場合は、配偶者と子が法定相続人になります。

法定相続人ついて詳しくは「法定相続人とは?法定相続人の範囲と優先順位、相続割合を図で説明」をご参照ください。

包括受遺者とは、包括遺贈を受けた人のことです。

包括遺贈とは、取得する財産の割合を指定して行う遺贈のことです。

遺贈とは、遺言によって、遺言者の財産を譲ることです。

つまり、包括遺贈とは、「財産のすべてを○○に遺贈する」とか、「財産の半分を○○に相続させる」というような遺言があった場合の遺贈のことです。

なお、遺贈について詳しくは、「遺贈とは?相続や贈与との違いは?最適な継承方法を選ぶための全知識」をご参照ください。

遺言について詳しくは、「遺言書の正しい書き方とは?思いどおりに財産を承継させるポイントを解説!」をご参照ください。

相続放棄はどのような場合に活用すべき?

相続放棄は、主に、遺産がプラスの財産よりも負債等のマイナスの財産の方が多い場合に行われます。

マイナスの財産の方が多い遺産を相続すると、相続人が損してしまうからです。

プラスとマイナスとどちらの財産が多いか微妙な場合や、相続人が把握していないマイナスの財産が後になって見つかることが懸念される場合は、限定承認という手法が用いられます

限定承認では、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぎます。

マイナスの財産の方が多かった場合でも、自腹を切ってまで被相続人の債務を弁済する必要はありません。

それなら、相続放棄などしなくて、皆、念のため限定承認すればよいではないかと考えるかもしれません。

しかし、限定承認には制約があり、相続人全員で手続きしなければならないのです。

これに対して、相続放棄は一人でも手続きすることができます。

ですので、相続人間で足並みが揃わない場合は、限定承認を行うことができず、相続放棄のみが選択対象となります。

限定承認について詳しくは、「限定承認のメリット・デメリットと利用すべき場合や手続きの流れ」をご参照ください。

放棄された遺産は誰が取得する?

相続放棄した人が相続するはずだった遺産は、誰が相続することになるのでしょうか?

相続放棄を行うと、相続放棄した人は、元から相続人でなかったものとして扱われます。

例えば、法定相続人が、被相続人の配偶者A、子B、子Cの3人であったとします。

このうち、Cが相続放棄を行ったとします。

そうすると、Cは元から相続人でなかったものとして扱われるので、相続人はAとBということになります。

相続分の計算においては、Cは元からいなかったものとして計算され、AとBの法定相続分はそれぞれ2分の1ずつになります

法定相続分について詳しくは、「法定相続分とは?相続人の組み合わせパターン別法定相続分の計算方法」をご参照ください。

また、BとCの二人が相続放棄をした場合について説明します。

この場合は、第一相続順位の子が相続放棄によっていなくなりますから、第二相続順位の直系尊属に相続権が移行します。

被相続人の親Dが存命であった場合は、AとDが相続人になります。

相続放棄の手続き

相続放棄の手続きは、相続開始を知ってから3か月以内に、被相続人の最終住所地を所轄する家庭裁判所に、次の書類を提出して行います。

相続放棄について詳しくは、「相続放棄によって借金を相続しないようにする方法と相続放棄の注意点」をご参照ください。

相続分の放棄とは?

相続分の放棄とは?

相続分の放棄とは、自分の相続分を放棄することです。

なお、相続分の放棄は、相続分の譲渡の一種でもあります。

相続分の放棄と相続分の譲渡の主な違いは、相続分の譲渡が相続人だけでなく相続人以外の第三者に対しても行えるのに対し、相続分の放棄は単に相続人に対してプラスの財産に関する権利を与える効果をもたらすにとどまる点にあります。

また、相続分の譲渡が特定の者(他の相続人を含む)を指名してその人だけに相続分を与えることが可能であるのに対し、相続分の放棄は、特定の者に分け与えることはできないと解されている点、さらに、相続分の譲渡がプラスの財産に加えてマイナス財産をも合わせて譲渡するのに対し、相続分の放棄は、プラスの財産のみを他の相続人に与える点等で違いがあり、使い分けがされております。

両者の違いをまとめる下表のようになります。

  相続分の放棄 相続分の譲渡
対象 相続人と包括受遺者 誰でも
配分方法 法定相続分か遺言によって定められた割合 譲渡者の任意
マイナスの財産 マイナスの財産は放棄者に残ったまま マイナスの財産も含めて譲渡される(※)

※債権者との関係では、承諾なくして債務を免れることができません。

相続分をすべて放棄あるいは譲渡すると、遺産分割協議にかかわらなくて済みますし、有償で相続分を譲渡することもできるので、遺産分割協議を待たずにいち早く金銭を得たい場合には都合がよいでしょう。

ところで、相続分とは、遺産総額における、ある相続人の相続割合のことです。

なお、遺産分割後は、相続分ではなく、各相続人が相続した財産が明確になるので、相続分の放棄の問題にはなりません。

各相続人の相続分の計算方法は法律で定められています。

これを法定相続分といいます。

遺言によって相続分の指定がある場合は、法定相続分は無視して、遺言の指定に従います。

遺言によって指定された相続分を指定相続分といいます。

相続分を指定して行われる遺贈は、前述の通り、包括遺贈ですから、家庭裁判所への申述の方法によらなければ遺贈の放棄はできません

相続放棄との違い

法定相続分にせよ、指定相続分にせよ、遺産が必要なければ、前述の相続放棄の申述を行えばよいのですが、次のような場合は、相続放棄よりも相続分の放棄または相続分の譲渡が選択されることがあります

  • 相続分を特定の人に譲渡したい場合
  • 譲渡の対価を受け取りたい場合
  • 相続人を増やしたくない場合
  • 一部の相続分のみを放棄したい場合
  • 熟慮期間を過ぎて相続放棄できない場合
  • 被相続人に負債がなく相続放棄手続きが面倒な場合

以下、それぞれについて説明します。

相続分を特定の人に譲渡したい

前述の通り、相続放棄では、放棄した人は元から相続人でないものとして扱われ、相続分が計算されます。

ですので、放棄した相続分を特定の誰かに譲渡するということはできません

この点、相続分の譲渡では、譲受人(ゆずりうけにん)を指定して、相続分を譲渡することもできます

なお、譲渡人(ゆずりわたしにん)に寄与分や特別受益がある場合は、その分も譲受人に引き継がれると解されております。

また、その後、譲渡人が亡くなって譲受人が譲渡人の相続人になった場合(二次相続)、譲受人が受けた相続分の譲渡は、二次相続時に特別受益として扱われます。

特別受益について詳しくは、「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」をご参照ください。

また、相続分の譲渡は無償でも有償でも構いません。

それから、譲受人は、相続人であっても、相続人でない第三者でも構いません。

相続人が譲渡された場合には税金はかかりませんが、第三者が譲渡された場合は税金がかかります。

無償の場合は贈与税が、有償の場合は譲渡された相続分の価額と譲渡価額との差額に対して所得税と住民税が課税されます。

なお、無断で第三者に譲渡された場合は、他の相続人は、譲渡された相続分をその第三者から買い戻すことができます

買い戻し価格は、相続分の価額プラス、その第三者が相続分の取得に要した費用(調査費用等)です。

譲渡価額ではありません。

なお、この買い戻しを行う場合は、相続分の譲渡から1か月以内という制限があります

1か月以内に、この第三者に買い戻す旨を通知して、対価を支払えば、買い戻すことができます。

この第三者の承諾は不要で、拒むことはできません。

なお、1か月以上過ぎた後でも、お互いが合意した金額で買い戻すことは可能です。

ところで、相続分の譲渡ではなく、相続分を放棄した場合に、放棄した相続分は誰のものになるのでしょうか?

これには2つの考え方があります。

ひとつは、他の相続人がそれぞれの相続分の割合に応じて取得するという考え方と、相続放棄の場合と同じになるように分配するという考え方です。

相続分の放棄は法定の制度ではないため、はっきり決まっていないのです。

相続分の放棄を行う場合は、この点に留意して、他の相続人が混乱しないように、相続分の譲渡割合を指定するとよいでしょう。

譲渡の対価を受け取りたい

前述の通り、相続分は有償で譲渡することができます。

この点も、相続放棄との違いです。

被相続人に負債がなく相続放棄手続きが面倒

相続放棄では、被相続人の負債を相続しなくて済むというメリットがありました。

しかし、相続分の放棄または相続分の譲渡では、そのようなメリットは半減します。

債権者との関係では、弁済を求められた場合に、相続分の放棄または相続分の譲渡をしていることを理由に弁済を免れることはできません

弁済した金額を他の相続人に請求することはできますが、他の相続人に資力がない場合は、とりっぱぐれるおそれがあります。

このようなリスクがあるため、被相続人に負債がある場合は、相続分の放棄ではなく、相続放棄を利用した方がよいでしょう。

反対に、被相続人に負債がない場合は、相続分の放棄で問題ありません。

また、相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要ですが、相続分の放棄及び相続分の譲渡は決まった手続きがなく、口頭でも成立すると解されます。

もっとも、口頭だけでは、他の相続人が放棄を撤回されるのではないかと不安になるでしょうから、書面にしておいた方がよいでしょう。

書面の作成については、弁護士や行政書士などの専門家に相談するとよいでしょう。

一部の相続分のみを放棄したい

相続分の一部のみを放棄または譲渡するということもできます。

例えば、相続分が2分の1であった場合に、相続分のうちの2分の1を放棄して、4分の1だけを相続するということが可能です。

相続放棄の場合は、一部のみ放棄することはできないため、一部のみを放棄したい場合は、相続分の放棄によることになります

熟慮期間を過ぎて相続放棄できない

相続分の放棄または相続分の譲渡は遺産分割前であれば、いつでも行うことができます(遺産分割後は共有持分の放棄の話になります。)。

相続放棄は原則として相続開始を知った時からから3か月以内でなければできません(申立てにより延ばすことはできます。)。

この熟慮期間を過ぎた後に相続分を放棄したい場合は、相続分の放棄または相続分の譲渡によることになります。

相続人を増やしたくない

相続放棄の場合は、同一相続順位の相続人が全員放棄すると、次順位の相続人が相続人になります

例えば、被相続人の配偶者Aと子Bが相続人の場合に、Bが自分の相続分をAに譲ろうと思って相続放棄をすると、第一順位の子が相続人からいなくなるため、次順位の直系尊属が相続人となり、思い通りにAに財産を譲ることができなくなってしまうおそれがあります。

このような場合は、相続放棄ではなく、相続分の放棄または相続分の譲渡を用いた方がよいでしょう

遺贈の放棄

遺贈には、包括遺贈のほかに、特定遺贈があります。

特定遺贈とは、「○○県○○市○○一丁目1番1号の土地を○○に遺贈する」というように、遺贈する財産を特定して行われる遺贈のことです。

特定遺贈で財産を譲り受けた特定受遺者は、相続人ではないので、相続放棄の制度を利用することはできません。

特定受遺者は、遺贈財産が特定されているので、相続のように債務を負うおそれがなく、相続放棄の問題にならないのです。

遺贈財産を取得しない場合は、遺贈の放棄をすることができます。

遺贈財産が、その財産的価値よりも維持管理費の方がかかるような場合(例えば、山林の土地など)に、遺贈の放棄が行われます。

また、特定遺贈の一部放棄ということも可能です。

例えば、土地と現金の遺贈を受けたが、土地については放棄して、現金についてのみ遺贈を受けるというような場合です。

共有持分の放棄

最後に、共有持分の放棄について説明します。

金銭は簡単に分割することができますが、不動産や自動車などは分割することが難しいでしょう。

分割することが難しい財産は、分割せずに、それぞれの相続分をそれぞれの持分として共有することがあります

共有者の一人になっていると、持分割合に応じて、維持管理費などを負担しなければなりませんから、持分があってもあまり得がない場合は、持分を放棄してしまった方がよいこともあります。

持分の放棄を行うと、他の共有者がその持分割合に応じて放棄された持分を取得します

持分の放棄には、他の共有者の承諾は不要です。

放棄する人の意思のみで行うことができます

しかし、登記については他の共有者の協力があった方がスムーズです。

持分放棄を原因とする所有権移転登記を行うのですが、それには他の共有者の本人確認資料や住民票、認印などが必要です。

しかし、他の共有者が固定資産税や維持管理の負担が増えること懸念して登記に協力してくれない場合があります。

そのような場合は、登記引取請求訴訟で勝訴すれば、単独で登記を行うことができます。

なお、持分放棄によって取得した持分には贈与税が課されます。

贈与税について詳しくは、「贈与税がかからない方法や贈与税の計算方法等の贈与税に関する全知識」をご参照ください。

まとめ

以上、財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識について説明しました。

相続放棄、相続分の放棄、遺贈の放棄、共有持分の放棄、それぞれの違いを理解して、財産放棄を行うかどうか、また、どの方法で行うかを判断してください

わからなことは、気軽に弁護士等の専門家に相談しましょう。

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