弁護士監修記事

相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法

遺産にそれほど魅力を感じていないとしたら、その遺産のために、遺産争いに巻き込まれたくはないものです。

しかし、相続放棄の手続きをするのも面倒だという人もいるでしょう。

そのような場合に、相続分の譲渡という手段があることをご存知でしょうか?

この記事では、相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法について説明します。

是非、参考にしてください。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

記事を読んでも問題が解決しない場合は、弁護士・税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
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相続分の譲渡とは?

相続分の譲渡とは、包括的な相続財産全体に対する持分又は法律的な地位の譲渡のことです。

例えば、法定相続人が妻、長男、長女の3人の場合、それぞれの法定相続分は、妻が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1ずつとなりますが(法定相続分については「法定相続分とは?相続人の組み合わせパターン別法定相続分の計算方法」参照)、自分の相続分を他の相続人や第三者に譲渡することができるのです。

妻が自分の相続分を長男に譲渡した場合、長男の相続分は、「1/2 + 1/4 = 3/4」で、4分の3になります(この場合、長女の相続分は影響を受けません。)。

第三者にも譲渡できる

相続分の譲渡は、他の相続人に対してだけでなく、第三者に対しても行うことができます。

前述の例の妻は、例えば、自分の兄弟や慈善団体等の第三者に対して、相続分を譲渡することもできるのです。

第三者に相続分が譲渡された場合は、他の相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます

このことを相続分の取戻しと言い、相続分を取り戻す権利を相続分の取戻権と言います。

相続分を譲り受けた第三者は、他の相続人から相続分の取戻しの申し出を受けたときは、これを拒むことはできません。

ただし、相続分の取戻権は、譲渡を知ってから1か月以内に行使しなければなりません

1か月経過後は、行使することができなくなります。

なお、1か月以上過ぎた後でも、お互いが合意した金額で買い戻すことは可能です。

なお、第三者が無償で譲り受けた場合であっても、取戻しには、相続分の価額及び費用を償還が必要です。

償還は、譲渡額ではなく、相続分の価額及び費用であることに注意してください。

ちなみに、相続分の価額は時価で評価し、また、費用には相続分の取得に要した調査費用等が含まれます。

複数人に譲渡することもできる

複数の人に相続分を譲渡することもできます。

例えば、前述の例の妻は、長男と長女に対して、自分の相続分の半分ずつを譲渡することもできますし、配分は自由です。

相続分の一部のみでも譲渡できる

相続分の一部のみを譲渡して、残りはそのまま自分の相続分として持っておくことも可能です。

有償でも無償でもよい

譲渡は有償でも無償でも構いません。

有償で譲渡した場合、受け取った対価は相続税の課税対象となります。

他の相続人の同意は不要

相続分の譲渡に当たり、他の相続人の同意は不要です。

譲渡人と譲受人の合意のみによって譲渡は成立します。

債務も譲渡される

被相続人(亡くなった人)が借金等の負債を抱えて亡くなった場合、被相続人の負債(相続債務)は、相続人が法定相続分に応じて弁済する義務を負います。

そして、相続分を譲渡すると、相続債務も含めて譲渡されます

つまり、譲渡人ではなく、譲受人が、相続債務を負うことになります

しかし、これはあくまで譲渡当事者の関係においてのことで、譲渡人は相続分の譲渡をもって債権者に抗弁することはできません。

つまり、譲渡人が、債権者から弁済を求められたときに、「相続分を譲渡したので譲受人に請求してください」といって弁済を拒むことはできないのです。

もっとも、言う分にはただなので、債権者に譲受人に請求するように頼んでみてもよいでしょう。

それで、債権者が譲受人に請求して譲受人が弁済したなら、譲渡人は弁済する必要はありません。

また、譲渡人が弁済した場合は、譲受人に求償すること(代わりに弁済した分の支払いを求めること)ができます。

指定相続分も譲渡できる

誰が相続人になるかと、各相続人がそれぞれどれだけの相続分を持つかについては、民法に定められており、民法の定めによる相続分のことを法定相続分と言います。

しかし、相続分は必ずしも民法の定め通りになるわけではありません。

遺言による相続分の指定(指定相続分)がある場合は、民法の規定よりも遺言による指定の方が優先されます

例えば、妻、長男、長女の3人が法定相続人のケースでも、全財産を長男に相続させる旨の遺言があれば、長男一人が遺産のすべての相続分を取得することになります。

このような指定相続分も、法定相続分と同様に、他の相続人や第三者に譲渡することができます。

遺言によって遺産分割方法が指定された財産は相続分の譲渡の対象とはならない

遺言では、相続分だけでなく、遺産の分割の方法を定めることもできます。

例えば、遺言で「下記の不動産を長男○○○○に相続させる」等と定めることによって、遺産分割協議によらずして、特定の財産を特定の相続人に相続させることができるのです。

このように、遺言によって遺産分割方法が指定された財産は、相続分の譲渡の対象とはなりません。

相続分の譲渡とは、前述の通り、包括的な相続財産全体に対する持分又は法律的な地位の譲渡のことであり、特定の財産は相続分の譲渡の対象ではないのです。

なお、遺言によって遺産分割方法が指定された財産を取得したくない場合は、次のような方法が考えられます

  • 相続放棄する(後述
  • 遺産分割の対象に含める(相続人全員の同意が必要)
  • 相続後に譲渡する

包括受遺者の受遺分も譲渡できる

法定相続人でない人にでも遺言によって財産を贈ることができます。

例えば、妻、長男、長女の3人が法定相続人のケースでも、全財産を弟に遺贈(遺言によって財産を贈ること)する旨の遺言があれば、弟一人が遺産のすべてを取得する権利を得ます。

このケースの弟のように、遺贈によって包括的な相続財産全体に対する持分を取得する人のことを包括受遺者(ほうかつじゅいしゃ)と言います

括受遺者は、相続人が相続分を譲渡できるのと同様に、受遺分を譲渡することができます

特定遺贈された財産は相続分の譲渡の対象とならない

特定の財産を遺贈することを特定遺贈と言います

特定遺贈された財産は、相続分ではないので、当然、相続分の譲渡の対象とはなりません。

特定遺贈されることとなった財産を取得したくない場合は、次のような方法が考えられます。

  • 遺贈を放棄する
  • 取得後に譲渡する

遺産分割後は相続分の譲渡はできない

相続分の譲渡は、遺産分割の前でなければ基本的にはできません

もし、遺産分割後に、相続分の譲渡が認められると、遺産分割協議をやり直さなければならないからです。

したがって、遺産分割後の相続分の譲渡は、相続人等全員の同意がない限り認められません。

なお、遺産分割後は、基本的には相続放棄も認められません

ただし、相続放棄を遺産分割前にしなかった理由が、相続債務が存在しないか少額にすぎないものと誤信したためであり、かつ、そのように信じるにつき相当な理由があるときは、遺産分割協議が無効となり、相続放棄が認められる余地があります(判断が難しいケースなので、詳しくは弁護士に相談することをお勧めします。)。

いずれにせよ、遺産分割前に、相続放棄や相続分の譲渡をしっかりと検討しておくべきでしょう。

寄与分や特別受益も一緒に引き継がれる

相続分の譲渡人に寄与分や特別受益があった場合は、寄与分や特別受益についても譲受人に引き継がれると解されています。

寄与分とは、被相続人の生前に、相続人が、被相続人の財産の増加や維持に寄与した程度のことです。寄与分がある相続人は、その分多くの財産を相続することができます(寄与分について詳しくは「寄与分の正当な評価を受けて寄与分を当然に得るための最重要知識9選」参照)。

また、特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。特別受益があった場合は、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分は算定されます(特別受益について詳しくは「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」参照)。

遺留分減殺請求権も一緒に譲渡される

相続分の譲渡人が遺留分権利者である場合は、その遺留分減殺請求権も相続分と一緒に譲渡されると解されています。

遺留分とは、一定の相続人のために、相続に際して、法律上取得することを保障されている相続財産の一定の割合のことで、被相続人の贈与や遺贈によっても奪われることのないものです。

そして、遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害された人が、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害の限度で贈与や遺贈された財産の返還を請求することです。

例えば、被相続人が亡くなって妻と子が相続人だったとします。

その場合に、全財産を妻に相続させる旨の遺言が残されていたり全財産が妻に生前贈与されている場合は、子は一切の財産を相続できないことになりかねません。

しかし、まったく相続できなかったり、あまりに少ない割合しか相続できないとかわいそうなので、被相続人と近しい間柄の一定の相続人には、相続財産の一定の割合を取得することが保障されているのです。

その保障を実現するための手段が遺留分減殺請求です。

遺留分減殺請求について詳しくは「遺留分減殺請求で相続財産を取り戻す方法と遺留分減殺請求の排斥方法」をご参照ください。

そして、相続分を譲渡した場合は、遺留分減殺請求をする権利(遺留分減殺請求権)も相続分と一緒に譲渡されると解されているのです。

なお、譲受人自身も遺留分権利者であった場合は、譲受人は、自分が元から持っていた遺留分と、譲り受けた遺留分とを合わせた遺留分を持ちます。

例えば、自分が元から持っていた遺留分が8分の1で、譲り受けた遺留分も8分の1であれば、譲受人は4分の1の遺留分を持つことになります。

相続分の譲渡は特別受益に当たることがある

相続分の譲渡は特別受益に当たることがあります。

例えば、ある人が亡くなって、妻、長男、長女の3人が相続人となり、妻が長男に相続分を無償で譲渡したとします。

その後、妻が亡くなった時に、一次相続における妻の長男に対する相続分の無償譲渡は、二次相続において妻から長男への特別受益であると解されます。

また、有償譲渡の場合であっても、譲渡の対価が、当該相続分の財産的価値に比べて低廉である場合は、差額分が特別受益と解される余地があるものと思われます

相続分の譲渡にかかる税金

相続分の譲渡にかかる税金は、譲受人が、法定相続人である場合と、法定相続人でない場合(さらに譲受人が個人の場合と法人の場合)、譲渡が無償の場合と有償の場合とで異なります。

以下、それぞれについて説明します。

譲受人が法定相続人である場合

譲受人が法定相続人である場合に、相続分の譲渡にかかる税金について、有償譲渡の場合と無償譲渡の場合とに分けて説明します。

法定相続人に対する有償譲渡

まず、有償譲渡の場合について、譲渡人にかかる税金と、譲受人にかかる税金とに分けて説明します。

譲渡人にかかる税金

法定相続人に対する有償譲渡の場合に譲渡人にかかる税金は、相続税です。

譲渡の対価が相続税の課税対象となります。

譲受人にかかる税金

法定相続人に対する有償譲渡の場合に譲受人にかかる税金も、相続税です。

自分の相続分と譲り受けた相続分の合計から譲渡対価を控除した額が、相続税の課税対象となります。

法定相続人に対する無償譲渡

次に、無償譲渡の場合について、譲渡人にかかる税金と、譲受人にかかる税金とに分けて説明します。

譲渡人にかかる税金

法定相続人に対する無償譲渡の場合には税金はかかりませんが、相続税の申告はしなければなりません

相続税の申告を税理士に依頼する場合は、そのために費用が必要になるので、譲受人が税理士報酬を負担することを無償譲渡の条件にする等して税理士費用については注意をした方がよいでしょう。

譲受人にかかる税金

法定相続人に対する無償譲渡の場合に譲受人にかかる税金も、相続税です。

自分の相続分と譲り受けた相続分の合計額が、相続税の課税対象となります。

譲受人が法定相続人ではない第三者の場合

譲受人が法定相続人ではない場合に、相続分の譲渡にかかる税金について、有償譲渡の場合と無償譲渡の場合とに分けて説明します。

法定相続人ではない第三者に対する有償譲渡

まず、有償譲渡の場合について、譲渡人にかかる税金と、譲受人にかかる税金とに分けて説明します。

譲渡人にかかる税金

法定相続人ではない第三者に対する有償譲渡の場合に譲渡人にかかる税金は、譲渡所得税です。

譲渡の対価が譲渡所得税の課税対象となります。

譲受人にかかる税金

法定相続人でない第三者に対する有償譲渡の場合に譲受人にかかる可能性のある税金は、贈与税です。

支払った譲渡の対価が譲り受けた相続分の価値との釣り合いがとれている場合には贈与税はかかりませんが、著しく低い価額で譲り受けた場合は、その差額に相当する金額が贈与税の課税対象となります。

著しく低い価額の対価であるかどうかは、個々の具体的事案に基づき判定することになります。詳しくは税理士に相談するとよいでしょう。

法定相続人ではない第三者に対する無償譲渡

次に、無償譲渡の場合について、譲渡人にかかる税金と、譲受人にかかる税金とに分けて説明します。

譲渡人にかかる税金

譲渡人にかかる税金は、譲受人が個人か法人かによって異なります。

個人に無償譲渡した場合は、譲渡人には課税されません

法人に無償譲渡した場合は、みなし譲渡所得税がかかります。

譲受人にかかる税金

法定相続人に対する無償譲渡の場合に譲受人にかかる税金も、相続税です。

自分の相続分と譲り受けた相続分の合計額が、相続税の課税対象となります。

相続分の譲渡のメリットとデメリット

相続分を譲渡すると遺産分割協議から解放される

相続分を譲渡する最大のメリットは、遺産分割協議に参加しなくてよくなることです。

遺産分割協議がもつれると、調停や審判、訴訟に発展することもあります。

そのような面倒事から解放されることが、相続分の譲渡の最大のメリットと言えます。

この点、相続放棄や相続分の放棄をした場合も、遺産分割協議に参加する必要はなくなりますが、相続分の譲渡と、相続放棄や相続分の放棄との違いについて以下、説明します

相続放棄との違い

相続放棄と比べた相続分の譲渡のメリット

相続分の譲渡には相続放棄と比べて次のようなメリットがあります。

  • 相続分を特定の人に譲渡できる
  • 後順位の相続人が相続権を取得しない
  • 一部の相続分のみを譲渡できる
  • 熟慮期間を過ぎていても譲渡できる
  • 相続放棄のような裁判所での手続きが不要

以下、それぞれについて説明します。

相続分を特定の人に譲渡できる

相続放棄では、放棄した人は元から相続人でないものとして扱われます

例えば、法定相続人が、妻、長男、長女の3人であったとします。

このうち、長女が相続放棄を行ったとします。

そうすると、長女は元から相続人でなかったものとして扱われるので、相続人は妻と長男ということになります。

相続分の計算においては、長女は元から相続人でなかったものとして計算され、妻と長男の法定相続分はそれぞれ2分の1ずつになります。

このように、相続放棄では、相続分を特定の誰かに譲渡することはできません。

この点、相続分の譲渡では、前述の通り、譲受人を指定して、相続分を譲渡することができます

後順位の相続人が相続権を取得しない

相続放棄の場合は、同一相続順位の相続人が全員放棄すると、次順位の相続人が相続人になります

例えば、被相続人の配偶者Aと子Bが相続人の場合に、Bが自分の相続分をAに譲ろうと思って相続放棄をすると、第一順位の子が相続人からいなくなるため、次順位の直系尊属が相続人となり、思い通りにAに財産を譲ることができなくなってしまうおそれがあります。

このような場合は、相続放棄ではなく、相続分の放棄または相続分の譲渡を用いた方がよいでしょう。

一部の相続分のみを譲渡できる

相続分の一部のみを放棄または譲渡するということもできます

例えば、相続分が2分の1であった場合に、相続分のうちの2分の1を放棄して、4分の1だけを相続するということが可能です。

相続放棄の場合は、一部のみ放棄することはできないため、一部のみを放棄したい場合は、相続分の放棄によることになります

熟慮期間を過ぎていても譲渡できる

相続分の放棄または相続分の譲渡は、遺産分割前であれば、いつでも行うことができます(遺産分割後は共有持分の放棄の話になります。)。

相続放棄は原則として相続開始を知った時からから3か月以内でなければできません(理由によっては、申立てにより延ばすことはできる場合があります。)。

この熟慮期間を過ぎた後に相続分を放棄したい場合は、相続分の放棄または相続分の譲渡によることになります。

相続放棄のような裁判所での手続きが不要

相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要ですが、相続分の譲渡は決まった手続きがなく、口頭でも成立すると解されます

もっとも、口頭だけでは、譲受人が譲渡を撤回されるのではないかと不安になるでしょうから、相続分譲渡証書というかたちで書面にしておいた方がよいでしょう。

相続分譲渡証書は相続財産の登記の際にも必要となることがあります。

相続分譲渡証書の作成方法については後述します。

相続放棄と比べた相続分の譲渡のデメリット

相続放棄では、被相続人の負債を相続しなくて済みます。

しかし、相続分の譲渡では、債権者との関係では、弁済を求められた場合に、相続分の放棄または相続分の譲渡をしていることを理由に弁済を免れることはできません

弁済した金額を他の相続人に請求することはできますが、他の相続人に資力がない場合は、とりっぱぐれるおそれがあります。

このようなリスクがあるため、被相続人に負債がある可能性がある場合は、相続分の放棄ではなく、相続放棄を利用した方がよいでしょう。

反対に、被相続人に負債がないことが確実な場合は、相続分の放棄で問題ありません。

相続分の放棄との違い

相続分の放棄とは、自分の相続分を放棄することです。

放棄された相続分は、他の法定相続人や包括受遺者が、法定相続分や指定相続分に応じて取得します。

相続分の譲渡では、法定相続人や包括受遺者以外の人に譲渡することも可能ですし、配分方法も自由に決めることができるため、相続分の譲渡の方が自由度が高いと言えます。

また、相続分の放棄では、相続債務が放棄者に残ったままになります。

相続分の譲渡では、債権者との関係では承諾なくして債務を免れることができないとはいえ、相続債務も含めて譲渡されるという違いがあります

両者の違いをまとめる下表のようになります。

相続分の放棄 相続分の譲渡
相続分の取得者 相続人と包括受遺者 譲渡人の任意(譲受人の合意は必要)
配分方法 法定相続分か遺言によって定められた割合 譲渡人の任意(譲受人の合意は必要)
マイナスの財産 マイナスの財産は放棄者に残ったまま マイナスの財産も含めて譲渡される(※)

※債権者との関係では、承諾なくして債務を免れることができません。

このように、相続分の譲渡と相続分の放棄を比べた場合、元の相続分権利者にとって相続分の譲渡の方が有利であり、相続分の放棄を検討すべき余地はあまりないと言えるでしょう

相続分の譲渡の方法

相続分の譲渡は決まった手続きがなく、口頭でも成立すると解されます。

もっとも、口頭だけでは、譲受人が譲渡を撤回されるのではないかと不安になるでしょうから、書面にしておいた方がよいでしょう。

相続分譲渡証書は相続財産の登記の際にも必要となることがあります

譲受人と相続分譲渡証書(相続分譲渡証明書とも言います)を作成し、他の相続人(及び包括受遺者)に相続分譲渡通知書によって通知します。

それぞれの書式については、公的なものは存在しません。以下のものを参考にしても構いません

相続分譲渡証書

 

○○○〇(以下「甲」という)は、○○○〇(以下「乙」という)に対し、本日、被相続人亡○○○〇(本籍:○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号)の相続について、甲の相続分全部を金○○○○円で譲渡し、乙はこれを譲り受けた。

 

平成〇年〇月〇日

 

甲 ○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号

○○○○ ㊞

 

乙 ○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号

○○○○ ㊞

 

平成〇年〇月〇日

○○○○様

○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号

○○○○

 

相続分譲渡通知書

 

私○○○○は、○○○〇に対し、平成〇年〇月〇日に、被相続人亡○○○〇(本籍:○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号)の相続について、自己の相続分全部を譲渡いたしましたので、ここにお知らせ申し上げます。

 

以上

それぞれのWord(ワード)形式の書式(雛形)は、以下のリンクからダウンロードすることができます。

なお、遺産分割協議がまとまらず家庭裁判所での調停や審判になった場合には、譲渡人は、家庭裁判所から次のような書類の提出を求められることが多いです(各裁判所で必要書類が異なる場合がありますのでご確認ください)。

  • 相続分譲渡証書(実印での押印が必要)
  • 相続分譲渡届出書(脱退申出書など別の名称の場合あり)(実印での押印が必要)
  • 印鑑証明書

相続分譲渡証書と相続分譲渡届出書は、裁判所によって書式の指定がある場合もあるので、遺産分割が調停または審判に付された場合は、家庭裁判所に確認するとよいでしょう

参考までに、京都家庭裁判所での手続きに必要な書類の書式と、その説明書をご案内します。

相続分の譲渡と登記

遺産に不動産が含まれている場合は、登記をしておくことをお勧めします

法定相続分や指定相続分での共同相続登記をしていてもしていなくても、相続分の譲渡後の相続分で共同相続登記をすることができます。

また、共同相続登記を経ずに、遺産分割協議成立後に相続登記をすることもできます。

ただし、想定相続人や包括受遺者でない人が相続分を譲渡され、遺産分割協議よって不動産を取得した場合は、被相続人から直接登記を移転することはできません。

この場合は、一旦、相続分の譲渡後の相続分で共同相続登記を経る必要があります。

なお、相続登記について詳しくは「相続登記を自分でスムーズに行うため全知識と司法書士報酬の相場」をご参照ください。

まとめ

以上、相続分の譲渡について説明しました。

前述の通り、相続債務は、相続分を譲渡しても、債権者との関係では債務を免れることはできません

相続分の譲渡を検討している場合は、プラスの財産を取得していないにもかかわらず債務だけ負うことのないように、一度、弁護士に相談しておくとよいでしょう。

無料で相談に応じている弁護士も多くいます。

また、相続分の譲渡に関する課税関係については税理士に、登記については司法書士に相談しましょう。

記事を読んでも問題が解決しない場合は、弁護士・税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
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北陸・甲信越
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