弁護士監修記事
遺産を相続する人と残す人の両方が知っておくべき相続の全知識

あまり考えたくないことかもしれませんが、すべての人は、いつかは必ず亡くなります。
人が亡くなると、通常、亡くなった人の遺産を、身近な人が相続することになります。
この記事では、相続の専門家である弁護士が、相続に関する次のような疑問について、できるだけわかりやすく説明します。
- 相続とは、そもそも何?どういうこと?
- いつ、相続が始まる?
- どんな遺産を相続できる?相続の対象となる遺産は?
- 誰が相続できる?
- 相続したくない場合は、どうすればよい?
- 相続人が複数いる場合に、どうやって遺産を分割する?
- 相続した遺産の名義変更の手続きの方法は?
- 相続税がかかる場合はとは?
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
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目次
相続とは、わかりやすく簡単にいうと何か?
相続とは、わかりやすく簡単にいうと、人が亡くなったときに、その人がもっていた財産を、身内の人がもらい受ける制度のことです。
亡くなって相続される人のことを「被相続人」といい、相続する人のことを「相続人」といいます。
いつ、相続が始まる?
相続は、被相続人が亡くなったら始まります。
なお、被相続人が亡くなったことを相続人が知らなくても相続は開始されます。
どんな遺産を相続できる?相続の対象となる遺産は?
相続が開始されると(=被相続人が亡くなると)、相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利と義務を承継します。
ここで注意しなければならない点としては、権利だけでなく、義務をも承継するということです。
現金や預貯金、不動産などのプラスの財産(権利)を承継するだけでなく、借金などのマイナスの財産(義務)も承継することになるのです。
なお、被相続人の一身に専属した権利義務については、相続人には承継されません。
一身に専属した権利義務とは、他人が取得したり、他人に移転できないものをいいます。例えば、相続による譲渡禁止特約のあるゴルフ会員権、身元保証人の義務、国家資格、年金受給権などがあります。
相続の対象となる遺産について詳しくは「相続財産とは何?相続の対象となる財産と相続税の対象となる財産」をご参照ください。
誰が相続できる?
遺産をもらい受けることができる人は、遺言がある場合と、遺言がない場合とで異なります。
遺言がある場合
遺言がある場合は遺言によって指定された人が優先されますが、遺言がない場合は民法の定めに従って相続人が決まります。
なお、遺言がある場合でも、すべての財産について処分先が指定されていない場合は、指定されていない財産については、遺言がない場合と同様に、民法の定めに従って相続人が決まります。
遺言がない場合
それでは、相続人を決める民法の規定について説明します。
民法の定めによって相続人となる人のことを「法定相続人」といいます。
配偶者は必ず相続人になれる
法定相続人は、配偶者と血族相続人に分けられますが、配偶者は相続順位の枠外の存在であり、被相続人が亡くなった時に配偶者が存在していれば必ず相続人となることができます。
なお、内縁の妻や内縁の夫は、配偶者でないので相続人にはなれません。
また、離婚した元妻や元夫も、相続人にはなれません。
血族相続人には優先順位がある
そして、血族には、生物学上の血縁関係がある自然血族のほかに、養親子のように法律上の血族である法定血族もあります。
なお、配偶者の血族や、血族の配偶者のように、婚姻関係によって成り立つ親族は、血族ではありません。
血族相続人には下表の通り優先順位があり、先順位の血族相続人が存在しない場合(または相続放棄をした場合)でなければ、後順位の血族相続人には相続権が回ってきません。
相続順位 | 被相続人との関係 | 代襲相続 |
---|---|---|
第一順位 | 子 | あり(再代襲もあり) |
第ニ順位 | 直系尊属(最も親等の近い者) | - |
第三順位 | 兄弟姉妹 | あり(再代襲はなし) |
これを図にすると、次のようになります。
第一順位:子
被相続人の子は、第一順位の相続人です。
養子、非嫡出子(婚姻関係にない男女の間の子)、離婚後に疎遠になった子も、被相続人の子ですから、すべて相続人となります。
また、被相続人の実子で、外に養子に出た子も相続人になります。
ただし、養子縁組には、実親との親子関係を断つ特別養子縁組というものがあり、外に特別養子縁組に出た子は実親の遺産の相続人となることはできません。
なお、胎児については、胎児の状態で既に相続する権利をもっているのですが、出生しなければ、権利を行使することはできません。つまり、流産や死産の場合は相続人となることはできません。
また、被相続人の子が相続開始以前(被相続人の死亡前)に死亡したり、欠格事由(遺言書の偽造等の不正。詳しくは「相続欠格とは?相続欠格事由とは?判例に基づいてわかりやすく説明」参照)や廃除(被相続人への虐待等の著しい非行。詳しくは「相続廃除の意味とは?排除は誤字!推定相続人の廃除で遺留分をなくす」参照)によって相続権を失ったりした場合、相続人の子が相続人となります。これを代襲相続といいます。
例えば、祖父が亡くなる以前に父が死亡した場合に、父に代わって孫が祖父の相続人になるというようなケースが考えられます。
孫も先に死亡している場合、曽孫が相続人になります。これを再代襲相続といいます。
子、孫といった直系卑属(子、孫、曽孫のように、直通する系統の親族で後の世代の人)については、理論的には代襲相続が無限に続くことになります。
ただし、相続人の子が被相続人の直系卑属でない場合は、相続人にはなりません。
相続人の子は当然、被相続人の孫にあたるから直系卑属に決まっているではないかと思われるかもしれませんが、この規定は相続人が養子の場合に意味を持ちます。
養子Aの子Bが生まれたのが、Aが養親Cと養子縁組をした時よりも後であれば、BはCの孫となり、代襲相続が可能です。
しかし、Bが生まれたのが、養子縁組をした時よりも前であれば、BはCの孫とはならず、養子の連れ子という関係に過ぎません。
そのような場合は、Bは代襲相続人となることはできません。
第二順位:直系尊属
第一順位の血族相続人(子及びその代襲者)がいない場合、直系尊属(父母や祖父母のように直通する系統の親族で前の世代の人)がいれば、直系尊属が相続人になります。
親等の異なる直系尊属がいる場合は、親等が小さい人だけが相続人となります。
親等とは、親戚関係の法的な遠近を表す単位のことです(詳しくは「親等とは?誰でもわかる親等の簡単な数え方と一目瞭然の親等一覧図」参照)。
父母は一親等で、祖父母は二親等なので、父母と祖父母が健在の場合は、父母だけが相続人になります。
第三順位:兄弟姉妹
第一順位の血族相続人(子及びその代襲者)も、第二順位の血族相続人(直系尊属)もいない場合、被相続人の兄弟姉妹がいれば、兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹が死亡・欠格・廃除によって相続権を失った場合には、兄弟姉妹の子が代襲して相続人になりますが、兄弟姉妹の子も相続権を失った場合には、その子(兄弟姉妹の孫)は相続人にはなりません。
兄弟姉妹の再代襲相続は認められないということです。
相続したくない場合は、どうすればよい?
相続の対象となる財産は、プラスの財産だけではありません。
被相続人に借金等のマイナスの財産があれば、マイナスの財産も一緒に相続することになります(プラスの財産だけ相続するということはできません)。
プラスの財産よりもマイナスの財産の方が大きい場合に相続すると損してしまいますが、そのような場合には相続放棄をすることによって、プラスの財産もマイナスの財産も相続しなくなります。
同一順位の相続人の全員が相続放棄した場合は、次の順位の相続人に権利が移ります。
例えば、法定相続人が配偶者と子の場合に、子が相続放棄した場合は、直系尊属に相続権が移ります。
直系尊属がいない場合や、直系尊属の全員が相続放棄した場合は、兄弟姉妹に相続権が移ります。
相続放棄をした子に子(被相続人の孫)がいても、代襲相続は生じません。
この点は、前述の欠格や廃除の場合とは異なる扱いとなりますので、ご注意ください。
なお、配偶者は前述のとおり相続順位の枠外なので、配偶者が相続放棄をしても、ほかの誰かに相続権が移るということはありません。
ちなみに、相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要です。
裁判所で手続きをせずに「相続分の放棄」が行われることもありますが、「相続分の放棄」の場合は、次の順位の相続人に権利が移ることはありません。
「相続放棄」と「相続分の放棄」の違いについて詳しくは「財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識」をご参照ください。
相続人が複数いる場合に、どうやって遺産を分割する?
遺産の分割方法は、相続人で協議して決めます。
全員が合意すれば、どのような割合で分割しても構いませんが、基本的には、法定相続分に応じて分割することになるでしょう。
法定相続分とは?
法定相続分とは、法律で定められた相続財産の受け取り分(割合)のことです。
法定相続分は、配偶者がいる場合と配偶者がいない場合とによって、計算方法が大きく異なります。
配偶者がいない場合は単純です。
相続人の数で均等割りするだけです。
例えば、相続人が子2人の場合の相続分は2分の1ずつで、子3人の場合は3分の1ずつです。
配偶者がいる場合は、少し複雑です。
配偶者の相続分は、相続人の組み合わせによって異なります。
子と配偶者の場合の配偶者の相続分は2分の1、直系尊属と配偶者の場合は3分の2、兄弟姉妹と配偶者の場合は4分の3です。
血縁相続人 | 血縁相続人の相続分 | 配偶者の相続分 |
---|---|---|
子 | 1/2 | 1/2 |
直系尊属 | 1/3 | 2/3 |
兄弟姉妹 | 1/4 | 3/4 |
そして、残りの相続分を他の相続人で均等割りします。
例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者が2分の1となり、子2人が残りの2分の1の相続分を均等割りするので、(1/2)×(1/2)=1/4で、4分の1ずつとなります。
法定相続分の具体例
それでは、法定相続分の計算について、代表的なパターンを例に具体的に紹介しましょう。
配偶者と子がいる場合
原則
配偶者は2分の1、子3人は子の相続分2分の1を等分するので各6分の1が相続分になります。
配偶者が相続放棄したとき
配偶者が相続放棄をした場合、配偶者は被相続人の相続に関しては最初から相続人ではなかったものとみなされる結果、子3人が相続人になり、3人で等分します。
子が相続放棄したとき
子の一部が相続放棄をした場合、その子は最初からいなかったものとみなされ、子の相続分2分の1を残りの2人の子で等分することになります。
子が先に死亡しているとき
子の一人が被相続人より先に死亡していた場合、子の相続分1/6を代襲者が代襲相続します。代襲者が数人あるときは、等分します。
上の例では孫2人が等分することになるので、各1/12が相続分になります。
ただし、先に述べたとおり、養子の場合には注意が必要です。
上の図では、平成20年に養子縁組をした後、養子に子どもが生まれています。
養子縁組によって被相続人と養子との間に養親子関係ができた後に生まれた子どもですから、被相続人の直系卑属になります。
したがって、被相続人より先に養子が死亡している場合には、養子の子は代襲相続することができます。
これに対して、養子縁組前に養子の子どもが生まれている場合、養子縁組をしても養子の子は養親の直系卑属にはなりません。
したがって、上の図のような場合、被相続人より先に養子が死亡している場合であっても、養子の子は代襲相続ができないので、実子2人で子の相続分2分の1を等分することになります。
配偶者はいないが子がいる場合
原則
被相続人が配偶者と離婚していたり、配偶者が先に死亡しているような場合、子だけが相続人になります。
実子と養子がいるとき
子が養子である場合も同じです。
実子と養子に出した実子がいるとき
子を養子に出しても、親子関係がなくなるわけではありません。
したがって、養子に出した子も、実親の相続人になります。
ただし、特別養子縁組の場合、法律上、実親との親子関係がなくなるので、実親の相続人にはなりません。
離婚した前の配偶者との間にも子がいるとき
離婚した配偶者との間に子がいた場合、たとえ離婚後一切のかかわりがなかったとしても、親子関係は切れないので相続人になります。
愛人との間に子がいるとき
民法改正によって、平成25年9月5日以降の相続については、認知された非嫡出子(婚姻関係のない男女の間に生まれた子)と嫡出子と間の法定相続分の区別がなくなりました。
したがって、嫡出・非嫡出にかかわらず、子が等分することになります。
配偶者はいるが子がいない場合
配偶者と直系尊属がいるとき
直系尊属がいるので、兄弟姉妹は相続人にはなりません。
配偶者と直系尊属が相続人になりますから、法定相続分は配偶者3分の2、父母が各6分の1になります。
配偶者と兄弟姉妹がいるとき
直系尊属がいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。
相続分は配偶者4分の3、兄弟姉妹が4分の1を等分にします。
配偶者と兄弟姉妹と甥・姪がいるとき
兄弟姉妹の子は代襲相続することができます。
したがって、被相続人の相続開始以前に兄弟姉妹が亡くなっている場合、兄弟姉妹の子(甥・姪)が、兄弟姉妹の相続分を取得することになります。
代襲者が複数いる場合には、等分します(たとえば、亡くなった兄弟姉妹に子が3人いる場合、1/12を3等分して各自1/36になります。)
これに対し、兄弟姉妹の子も相続開始以前に死亡していた場合、再代襲相続は認められません。
したがって、上の図のように、残る兄弟姉妹と、兄弟姉妹の子が相続人になり、兄弟姉妹の相続分4分の1を等分して8分の1ずつ相続することになります。
遺産分割の流れ
遺産分割の一般的な流れは次のとおりです。
- 遺産の範囲の確定
- 遺産の評価
- 遺産総額の確定
- 遺産の分割方法の確定
- 遺産分割協議書等の作成と押印
以下、それぞれについて説明します。
遺産の評価
現金や預貯金のような財産の価額が明確なものだけでなく、不動産、非上場株式、美術品・骨董品のように、いくらの価値があるのか、評価が必要な財産もあります。
納税のための財産評価の方法は法令で定められていますが、遺産分割のための財産評価の方法には決まりはありません。
当事者同士が納得をすれば、どのように評価をしても構いません。
通常は市場価格(その財産を売った時にいくらで売ることのできる価格)で評価します。
市場で売却して価額弁償を行う場合は、売却価格を評価額とすればよいのですが、売却しない場合は、どのように市場価格を見積もるかという問題になります。
この点、不動産の場合は、次の式で、およその市場価格を算定することができます。
固定資産税評価額 ÷ 7 × 10 |
固定資産税評価額は、課税明細書の課税標準額の欄に記載されています。
また、土地については、相続税の申告が必要な場合は、相続税評価額を算定することになりますが、その場合は、固定資産税評価額ではなく相続税評価額から算定した方が、市場価格により近い金額になることが多いでしょう。
土地の相続税評価額の算定には様々な評価減の制度があり、その適用や計算方法は複雑なので、相続税申告のために相続税評価額を算定する際は、税理士に依頼した方が相続税評価額を低く算定することができ、相続税額も低くなるケースが多いので、通常は、税理士に依頼します。
相続税評価額の算定方法について知りたい場合は「相続税評価額の基本的な計算方法と評価額を低く計算して節税する方法」をご参照ください。
相続税評価額を元におよその市場価格を算定する場合は、次の式で算定できます。
相続税評価額 ÷ 8 ×10 |
このような簡易的な方法等による算定額で合意に至らない場合は、不動産鑑定士による鑑定結果によって評価することが多いです。
ただし、鑑定料が数十万円かかります。
また、双方が別々に鑑定を依頼すると、鑑定料も倍かかりますし、鑑定結果に開きが生じた場合に、せっかく鑑定したのに、争いが収束しないこともありえます。
合意形成のためには、鑑定を依頼する専門家を双方の合意の下で選び、鑑定結果に従うことを合意のうえで、鑑定を依頼するとよいでしょう。
株式についても、遺産分割の当事者同士で合意ができれば、どのように評価しても構いませんが、通常は、相続税評価額の算定方法を用いて評価されます。
株式の相続税評価額の算定方法については「株の相続税評価額の調べ方や相続税の計算方法と相続税対策について」をご参照ください。
株式の評価額について合意に達しない場合は、会計士や税理士に鑑定を依頼します。
遺産総額の確定
遺産分割協議時に寄与分や特別受益についての主張がなされることがあります。
寄与分とは、被相続人の生前に、相続人が、被相続人の財産の増加や維持に寄与した程度のことです。
寄与分がある相続人は、他の相続人に比べて、その分多くの財産を相続することができます。
寄与分については詳しくは、「寄与分の正当な評価を受けて寄与分を当然に得るための最重要知識9選」をご参照ください。
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与などによって特別に受けた利益のことです。
特別受益を受けた相続人がいる場合は、遺産分割における当該相続人の取得分を、特別受益を受けた価額に応じて減らす必要があるので、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分が算定されます。
特別受益について詳しくは、「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」をご参照ください。
なお、寄与分や特別受益の存在や金額について争いがある場合は、寄与分や特別受益を主張する方が立証しなければなりません。
遺産の分割方法の確定
遺産の分割方法には、次の3つがあります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
なお、共有のままで構わない遺産については、分割の対象から外しても構いません。
以下、それぞれについて説明します。
現物分割
現物分割とは、遺産を現物のまま分割する方法のことです。
例えば、相続人がAとBの2人で、相続分は2分の1ずつであったとします。
遺産は、現金1000万円と、土地1筆(時価1000万円)、自動車1台(時価100万円)であるとします。
このような場合に、土地を半分に分筆(1筆の土地を分けること。土地は1筆、2筆と数えます。)し、次のように遺産分割した場合、このような分割のことを現物分割といいます。
- Aが相続する財産
- 現金450万円
- 分筆後の土地(時価500万円)
- 自動車(時価100万円)
- Bが相続する財産
- 現金550万円
- 分筆後の土地(時価500万円)
また、分筆しなくても、次のような分け方も現物分割に含まれます。
- Aが相続する財産
- 現金50万円
- 土地(時価1000万円)
- Bが相続する財産
- 現金950万円
- 自動車(時価100万円)
換価分割
換価分割とは、遺産を売って、お金に換えて、そのお金を分ける分割方法のことです。
例えば、先ほどの例でいうと、土地と自動車とをそれぞれ1000万円と100万円で売ると、元からあった現金1000万円と併せて、現金2100万円になります。
これをAとBとで1050万円ずつ相続します。
これが換価分割です。
土地だけを換価分割して、自動車は現物分割するということも可能です。
換価分割について詳しくは「換価分割にかかる税金と換価分割の長所・短所、代償分割との比較」をご参照ください。
代償分割
代償分割とは、現物分割によると、法定相続分どおりにうまく分割できない場合等に、法定相続分よりも多く相続する人から、少なく相続する人に対して、法定相続分との差額分の代償する分割方式のことです。
例えば先ほどの例で、次のように現物分割を行ったとします。
- Aが相続する財産(合計1100万円)
- 土地(時価1000万円)
- 自動車(時価100万円)
- Bが相続する財産
- 現金1000万円
法定相続分どおりであれば、1050万円ずつであるため、このままでは、Aが法定相続分よりも50万円多く相続し、Bが法定相続分よりも50万円少なく相続することになります。
そこで、Aの自己資産からBに対して50万円を代償することで、バランスをとるのが代償分割です。
代償分割について詳しくは「代償分割により相続税を節税して贈与税も課税されないようにする方法」をご参照ください。
遺産分割協議書等の作成と押印
当事者全員が同意できる内容が決まったら、遺産分割協議書を作成し、全員が押印します。
遺産分割協議書は、名義変更等の相続手続で必要になる大切な書類です。
遺産分割協議書について、詳しくは、「遺産分割協議書のひな型をダウンロードして自分で簡単に作成する方法」をご参照ください。
遺産分割協議が調わない場合
遺産分割協議が調わない場合、家庭裁判所における遺産分割調停や遺産分割審判によって、遺産分割方法を決めることが考えられます。
遺産分割調停とは、家庭裁判所の調停委員会(裁判官1名と調停委員2名で構成)が、各当事者から事情や希望する分割方法を聴いたり、提出された資料を確認したり、遺産を鑑定したりしたうえで、当事者である相続人に対して解決のための助言や説得をしたり、時には法律の枠組みにかなった解決案を提示したりすることによって、相続人間の合意を目指して話合いを進める手続きです。
調停は、白黒をはっきりさせるものではありません。
このため、相続人間で合意に至らない場合は、調停が不成立になることもあります。
調停が不成立になると、自動的に審判手続が開始されます。
審判手続では、当事者の主張や資料を踏まえ、裁判所の判断で結論が下されます。
なお、遺産分割調停を経ずに始めから遺産分割審判を申立てることも可能です。
しかし、裁判所が調停で合意に至る余地があると判断すれば、結局、調停に付されることになります。
また、遺産分割協議や遺産分割調停では、相続人が合意すれば、法定相続分とは異なる相続分に基づいて遺産分割をすることができますが、遺産分割審判では、必ず、法定相続分に基づいた遺産分割がなされます。
なお、調停・審判は、傍聴人はおらず、非公開で行われます。
遺産分割調停について詳しくは「遺産分割調停前に知っておくべき調停を有利に進める方法と調停の流れ」を、遺産分割審判について詳しくは「遺産分割審判の流れと審判を有利に進めるために極めて重要なポイント」を、それぞれご参照ください。
相続した遺産の名義変更の手続きの方法は?
主な遺産の種類には、次のようなものがあります。
それぞれの名義変更の手続きの方法については、上のリンク先の記事をご参照ください。
相続税がかかる場合とは?
相続税は全員にかかるわけではありません。
具体的には、財産が、「3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」以上ないと、相続税はかかりません。
これを、相続税の「基礎控除」といいます。
例えば、法定相続人が妻、長男および二男の三人だった場合の基礎控除額は、「3000万円 + 600万円 × 3人 = 4800万円」ということなります。
そして、例えば、このケースにおいて遺産の価額が1億円だったとしたら、4800万円より多いので、相続税がかかることになります。
ただし、1億円に丸ごと相続税がかかるわけではなく、遺産の価額から基礎控除額を差し引いた残りの額、つまり、「1億円 - 4800万円 = 5200万円」に対して、相続税がかかります。
そして、相続税には「配偶者の税額軽減」(「相続税の配偶者控除」とも呼ばれます。)という制度があり、配偶者の遺産取得額から、配偶者の法定相続分か1億6000万円のいずれか大きい方の金額を差し引いて、残った金額にのみ相続税がかかる決まりになっています。
差し引く金額の方が大きい場合は、課税されません。
つまり、法定相続分の範囲内で遺産分割や遺贈を受ける分においては、配偶者は相続税が課されることはないのです。
法定相続分を超えて遺産を取得した場合にのみ、相続税が課される可能性が生じますが、それでも1億6000万円までは課税されないので、ほとんどの家庭では配偶者はまったく課税されないということになります。
相続税の計算方法については「相続税早見表で税額が一目瞭然!「配偶者と子」「子のみ」等の4種類」をご参照ください。
早見表よりもさらに詳しく計算方法を知りたい場合は「相続税の計算方法を流れに沿ってステップごとにわかりやすく説明!」をご参照ください。
また、相続税対策については「相続税対策で無駄なく節税するために知っておくべきすべてのこと」を、相続税申告については「相続税申告書を自分で作成するために知っておくべき書き方と添付書類」を、それぞれご参照ください。
まとめ
以上、「遺産を相続する人と残す人の両方が知っておくべき相続の全知識」について説明しました。
遺産分割に関する相談は弁護士に、相続放棄または相続手続きに関する相談は弁護士または司法書士に、相続税に関する相談は税理士にしましょう。