遺産相続の弁護士費用の相場。誰が払う?払えない場合の対処法
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記事は、公開日(2021年4月13日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
相続問題の弁護士費用は誰が払う?
弁護士費用は、弁護士に依頼した人が払います。 弁護士は、裁判所のような中立な機関ではなく、基本的には、依頼者の利益になるように業務を遂行します(法令遵守は当然ながら)。 当事者間に利害の対立がある場合、弁護士は、依頼者の利益になるように主張を組み立て、相手方と交渉するのです。 相続人全員で一人の弁護士に依頼して妥当な遺産分割方法を決めてもらうというような利用方法は、本来、予定されている弁護士の利用方法ではありませんが、このような依頼にも応じてくれる弁護士はいるでしょう。 しかし、当事者の利害が対立する中、弁護士が提案する遺産分割方法に、相続人全員が納得できないことも多いでしょう。 弁護士の提案を受け入れるかどうかは、結局は、各相続人に委ねられるのです。 なお、このような依頼をした場合に誰が弁護士費用を負担するかは、当事者である相続人で話し合って決めることになります(相続分に応じて負担するのが無難かと思われます)。 もっとも、このような利用方法であれば、家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判の手続きを利用する方が一般的といえます。 調停や審判を利用する場合も、事前に弁護士に相談した方が、有利に進められるでしょう。相続問題の弁護士費用の相場
相続問題の弁護士費用は、○○円と決まっているわけではありません。 事務所によっても違いますし、遺産等の状況によっても異なります。 しかし、ある程度の相場というものは存在するので、以下で説明していきます。遺産相続問題の一般的な弁護士費用の仕組み
弁護士費用には、主に、着手金と報酬金(成功報酬)があります。着手金
着手金は、弁護士に事件を依頼した段階で支払うものです。 遺産分割協議がどのような結果になっても返還されません。 「○○円」というように固定報酬が設定されている場合と、「取得を希望する遺産額の○%」というように設定されている場合があります。 また、「取得を希望する遺産額の○%。ただし、争いがない部分については、3分の1の額とする。」というように設定されているケースもあります。 協議から調停、調停から審判に移行したり、即時抗告(審判に対する不服申立)をした場合やされた場合は、着手金の積み増しが必要になることがあります。報酬金(成功報酬)
報酬金は、事件が成功に終わった場合、事件終了の段階で支払うものです。 ここでいうところの「成功」には一部成功も含まれます。 つまり、望み通りの遺産を取得できたわけではないものの、何らかの遺産を取得できた場合は、通常、報酬金の支払いが生じます。 相手方の主張からの積み増しが得られなかった場合に、報酬金の対象となるかは、事務所によって異なります。 報酬金は、「取得できた遺産額の○%」というように設定されている場合や、「取得できた遺産額の○%。ただし、争いがない部分については、3分の1の額とする。」というように設定されている場合があります。 また、調停から審判に移行した場合は、報酬金の割合が上がるように設定されていることがあります。アンケート結果にもとづく弁護士費用の目安
日本弁護士連合会(日弁連)が2008年度に実施したアンケート結果にもとづく弁護士費用の目安を紹介します。 これは、次の設例における弁護士費用について、弁護士にアンケートを取ってまとめたものです。設例
被相続人は、自宅不動産、山林、株券、預金など総額1億円の遺産を残した。遺言書はなく相続人は妻と子どもの2人の合計3人である。遺産の範囲に争いはないが、遺産分割協議がまとまらなかったので、妻の依頼を受けて遺産分割の調停申立をした。その結果、妻は5000万円相当の法定相続分にしたがった遺産を取得し、妻の納得する分割となった。着手金
報酬金
この設例では、着手金30万~50万円、報酬金100万円前後が多い
この設例では、着手金は30万円前後から50万円前後で4分の3近くを占めいています。報酬金は、100万円前後を中心として60万円前後から220万円前後で多くを占めています。日弁連の旧報酬等基準規程
現在は、前述のとおり、各弁護士が弁護士費用を自由に設定することができますが、2004年3月までは、日弁連の報酬等基準規程(旧規程)に定められていました。 現在でも、この旧規程を参考に報酬を決める事務所が多いため、旧規程について説明します。 旧規程の弁護士費用は、下の表にもとづいて計算されます。経済的利益の額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下 | 8% ※ただし最低10万円 | 16% |
300万円超3000万円以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3000万円超3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円超 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
初回相談無料の弁護士が増えている
初回の相談については、無料で受けている弁護士が増えています。 まずは、無料相談を受けてみて、依頼する弁護士を選ぶとよいでしょう。相続関連のその他の弁護士費用
このページをご覧になっている方の中は、相続問題(遺産分割)ではなく、他の相続関連の弁護士費用についてお知りになりたい方もいらっしゃるかもしれません。 そこで、次の点の弁護士費用についても説明します。- 遺言書作成
- 遺言執行
- 相続放棄
- 遺留分侵害額請求
遺言書作成
遺言書にはよく使われる特定の型があり、そのような定型の遺言書であれば、概ね1回の打ち合わせのみで作成することができ、弁護士にとっても比較的手間がかからないため、報酬も比較的低廉で10万~20万円です。 非定型の遺言書は、弁護士にとっても、遺言者と複数回の打ち合わせが必要であったり、調べたりする手間がかかるので、報酬は比較的高額になります。 詳しくは「遺言書作成を弁護士に依頼するメリットと流れ、費用の相場」をご参照ください。遺言執行
遺言執行者の報酬は、遺言書に記載がある場合はその金額に、遺言書に記載がない場合は家庭裁判所に決めてもらうことができます。 あまりに低廉な金額を遺言書に勝手に記載しても辞任されてしまうでしょうから、遺言執行候補者と事前に報酬をすり合わせたうえで、報酬額を決めましょう。 遺言執行に慣れている専門家の場合は、それぞれ独自の料金テーブルを持っています。 一般的には、遺産額の1~3%ぐらいが相場になっていて、遺産額が少ない場合は最低20万円~30万円ぐらいが相場になっているようです。 なお、遺言執行の弁護士費用は、遺言書作成時ではなく、遺言執行完了時に、遺言執行者が遺産から取得します。相続放棄
相続放棄の弁護士費用の相場は、5万~13万円くらいです。 この金額がベースで、特殊事情がある場合は、一定額が加算されることがあります。 詳しくは「相続放棄手続きの弁護士費用の相場と安い弁護士、誰が払うの?」をご参照ください。遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求の弁護士費用も、遺産分割と同様、日弁連の旧規程の表(下に再掲)が相場と考えて差し支えないでしょう。経済的利益の額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下 | 8% ※ただし最低10万円 | 16% |
300万円超3000万円以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3000万円超3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円超 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
相続問題の弁護士費用が払えない場合はどうする?
弁護士費用は、前述のとおり、着手金と成功報酬に分かれていることが多いです。 成功報酬は、後払いなので、相続して遺産をもらい受けてから、もらい受けた遺産を原資に支払うことができます。 着手金は前払いなので、手持ちがないと支払うことができません。 着手金が払えない場合の対処法として、次の3つが考えられます。- いくつかの事務所で見積もりを取り、費用を比較する
- 弁護士に分割払い又は後払いでお願いできないか相談する
- 法テラスを利用する
- 審査が通るまでに約2週間かかる
- 弁護士を自由に選べない
- 経験の浅い弁護士が多い
相続問題を弁護士に依頼するメリット
相続問題を弁護士に依頼するメリットとして、次のような点が挙げられます。- 有利な条件で決着できる可能性が高くなる
- 遺産の全容を正確に把握できる
- 感情的な対立を避けられる
- 協議を欠席できる
- 精神的な負担が緩和される
- 遺産分割協議書の作成や相続手続きも併せて依頼できる
有利な条件で決着できる可能性が高くなる
遺産分割調停の代理を弁護士に依頼することで、協議を有利に進めることができ、自分が希望する内容で協議を成立させられる可能性が高まります。 弁護士は法律と交渉事のプロフェッショナルです。 弁護士が代理人になることで、相手方が無茶な主張をしている場合は、冷静に法的根拠を基にこれを退けることができ、依頼者の希望する内容で協議を成立させられるように、例えば、次のような観点から交渉に当たります。- 相手方が法定相続分以上の財産を取得しようとしていないか。
- 各財産の評価は適切か。依頼者の有利になるように(依頼者が取得予定の財産がなるべく低くなり、相手方の取得予定の財産がなるべく高くなるように)評価する余地はないか。
- 現物分割以外の分割方法(換価分割・代償分割)によって依頼者の希望を実現することはできないか。
- 依頼者の寄与分を主張することはできないか。相手方が寄与分を主張している場合、これを退けることはできないか。
- 相手方に特別受益があることを主張することはできないか。相手方が依頼者に特別受益があることを主張している場合、これを退けることはできないか。
遺産の全容を正確に把握できる
弁護士は、相続人本人では情報を収集することが難しい場合であっても、弁護士会を通じて、金融機関や行政機関等に対して、亡くなった人の財産についての情報開示を求めることができる場合があります。 これを「弁護士会照会」又は「23条照会」といいますが、この照会等による遺産の調査によって、一部の相続人が隠していた遺産や誰も気づいていなかった遺産の存在が明らかになり、遺産の全容を把握することができる場合があります。 なお、弁護士会照会によって情報開示を受けられる財産には次のようなものがあります。- 預貯金
- 有価証券
- 自動車
感情的な対立を避けられる
遺産分割を巡って相続人間で揉める背景に感情的な対立があるケースがあります。 弁護士に依頼すると、余計に相手方を刺激するのではないかと心配される方もいますが、経験豊富な弁護士であれば、相手方の感情に配慮しつつ、冷静に法的根拠に基づき主張を展開することができるため、感情的な対立を和らげ、協議の成立に導くことが可能です。 もっとも、そのためには、遺産分割及び人生経験等の豊富な弁護士に依頼した方がよいですし、依頼前の面談時に弁護士の人となりについても見定める必要があるでしょう。協議を欠席できる
協議には弁護士が出席するので、ご自身は協議に出席する必要はありません。ただし、場合によってはご本人の出席が求められる場合もあります。精神的な負担が緩和される
相続問題が激化すると、精神的な負担が大きくなり、そのせいで体調をくずたり、仕事や私生活に支障が生じることがあります。 弁護士に相談・依頼することで、不安が解消されたり、弁護士が緩衝材等になることにより、精神的な負担が緩和されることは大きなメリットといえるでしょう。遺産分割協議書の作成や相続手続きも併せて依頼できる
遺産分割協議が成立したら、その内容を文書にします。この文書を遺産分割協議書といいます。弁護士に遺産分割協議の代理を依頼した場合は、通常、遺産分割協議書の作成も併せて依頼することができます。 また、遺産分割協議が成立した後、実際に遺産を取得するためには、名義変更等の手続きが必要になりますが、この手続きについても弁護士に依頼することができます。この記事を書いた人
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