相続放棄の手続きは?流れや必要書類、注意点まで詳しく解説!
自分が相続するすべての財産を手放す手続きを相続放棄と言います。親が多額の借金を残していたり、遺産分割協議が煩わしい人が検討する場合が多いようです。
しかし実際に相続放棄をするとなると、必要書類の準備や申請など意外と大変です。しかし、相続放棄は相続開始から3か月以内と期限が決まっています。したがって早め早めに準備しておくことが大切です。
この記事では、相続放棄のメリット・デメリットや、手続きの流れなど、詳しく解説していきます。
もし「相続放棄の手続きの手間を省きたい」という場合は、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
[ご注意]
記事は、公開日(2019年4月9日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
相続問題でお悩みの方は
まずは弁護士にご相談ください
相続放棄とは
まずは、相続放棄とは何か、改めて確認しておきましょう。
相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の財産に対する相続権の一切を放棄することを言います。
したがって、現金や不動産などのプラスの財産(積極財産)と負債や未払金などのマイナスの財産(消極財産)の両方とも相続しないということです。
相続放棄をすると、次順位の人に相続権が移ります。
プラスの財産(積極財産)
- 預貯金・現金・貸金庫の中にある財産
- 家屋・設備・構築物(マンション、店舗、工場など)
- 土地(宅地、農地、山林など)・土地の上に存在する権利(借家権、借地権など)
- 国債・社債・株式・手形・小切手などの有価証券
- 貸付金、立替金などの債権
- 家庭用財産(自動車、骨董品、絵画、貴金属など)
- 事業用財産(機械、農具など)
マイナスの財産(消極財産)
- 借入金(住宅ローン、クレジットカードの残債務など)
- 未払金
- 保証債務、連帯債務
- 公租公課(所得税、固定資産税など)
債務のようなマイナス財産が大きい場合、相続してしまうと相続人が損をしてしまいます。そのため、相続放棄の手続きを行うのです。
相続放棄のメリット・デメリット
多額の借金が発覚したときなど気が動転してしまいますが、すぐに相続放棄を決めるのはよくありません。メリット・デメリットを踏まえて検討してください。
メリット
- 親の借金を肩代わりしなくて済む
- 親が多額の債務を残して亡くなった場合、そのようなマイナスの財産を相続しなくて済みます。また、使い道や価値のない財産、例えば田舎の不動産なども相続しなくて済むのは大きいメリットと言えるでしょう。
- 相続トラブルに巻き込まれない
- 相続放棄をした場合、その人を除いた相続人で遺産分割協議を行います。そのため遺産分割協議に参加したくない、揉め事に関わりたくないという人にも利点と言えるでしょう。
デメリット
- すべての財産を手放すことになる
- マイナス財産を相続しなくて済む反面、実家など欲しい財産があってももらうことはできません。
- 手続きが面倒
- また、相続放棄の手続きが面倒だと言う人も。必要書類の記入や費用もかかります。こちらは弁護士などの専門家に依頼することも可能なので、検討してみても良いでしょう。
- やり直しができない
- 一度相続放棄をしてしまうと撤回ができません。実は財産がさらに見つかった、あるのを隠されていた、という場合でも原則として取り消すことはできません。
もし相続放棄を撤回したいという場合でも認められる事例は少なく、難しいと言えるでしょう。
相続放棄ができる人
相続放棄の対象者は、相続人と包括受遺者です。
包括受遺者とは
遺言書によって相続人でない人が財産を譲り受けた場合、財産をもらった人を受遺者といいます。
受遺者はさらに包括受遺者と特定受遺者に分けられます。包括受遺者は取得する財産が遺言によって特定されていない受遺者です。一方、特定受遺者は取得する財産が遺言書によって決められています。
包括受遺者は、相続財産に対し相続人と共有状態にあるため、債務も継承することになります。そのため、債務を含め遺産を継承したくない場合は、相続放棄の手続きが必要です。
相続放棄の流れ
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、必要書類を提出すると相続放棄の手続きが開始されます(相続放棄の申述)。書類提出の前後含めた、相続放棄の流れは以下のとおりです。
- 相続放棄をするか決める
- 必要書類の準備
- 相続放棄の申述(手続き)をする
- 相続放棄照会書に記入して返信する
- 相続放棄受理通知書を受領する
相続放棄をするか決める
相続放棄をするかを判断するために、故人の遺産の総額について正確に把握する必要があります。これを相続財産調査をいいます。
なお、死亡保険金については、相続放棄をしても受け取ることが可能です。
相続財産調査でマイナスの財産が多いとわかれば、相続放棄を検討しましょう。また、マイナス財産が後から見つかる可能性がある場合は、限定承認を検討しても良いかもしれません。
限定承認とは
限定承認とはプラスの財産の限度でマイナス財産の弁済を行えば良い、という手続きです。プラスの財産の限度で精算すれば良く、債務が大きくてもそれ以上支払う必要はありません。
例えば1,000万の財産と1,500万の負債があった場合、1,000万円の限度で弁済を行えば良いという仕組みです。
このように聞くと便利な制度に思えますが、手続きはすべての相続人が共同で行わなければならず、税金面で損をする可能性があるなどのデメリットも。
相続放棄にするか、限定承認にするかの判断は慎重に行ったほうが良いでしょう。
必要書類の準備
相続放棄の申述のには、以下の書類が必要になります。
- 相続放棄申述書(800円分の収入印紙を貼付)
- 相続放棄をする人の戸籍謄本
- 被相続人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 郵便切手(数百円程度)
配偶者や子どもが相続放棄をする場合、上記の書類で十分ですが、それ以外の相続人が相続放棄をする場合は、相続人だと証明できる戸籍謄本などが必要になります。
なお、相続放棄をする人が複数いてまとめて申述する場合、重複する書類は1部で構いません。
相続放棄申述書の書き方については、関連記事に詳しく書かれています。
相続放棄の申述(手続き)をする
必要書類が揃ったら家庭裁判所に提出します。このとき、故人の最後の住所地の家庭裁判所でないといけません。
書類の提出は郵送でも可能ですが、到着したか確認できるよう書留郵便などで発送すると良いでしょう。なお、提出した書類は原則として返還されません。あらかじめコピーをとっておくと安心です。
相続放棄照会書に記入して返信する
家庭裁判所に相続放棄の申述をすると、申述人のもとに、裁判所から照会書が届きます。
照会書には、相続放棄についてのいくつかの質問が書かれています。同封された回答書に答えを記載して、家庭裁判所に返送します。
相続放棄照会書の質問には、次のようなものがあります。
- 相続放棄をするのはあなたの真意に基づくものか
- 相続の開始を知った日はいつか
- 相続財産にはどのようなものがあるか
- 相続財産の存在を知ったのはいつか
- 既に相続した財産はあるか
- 相続放棄をする理由は何か
- 被相続人の生活状況について
- 被相続人とあなたとの関係について
- (被相続人が亡くなってから3か月以降経過している場合に)3か月以内に相続放棄の手続きができなかった理由
相続放棄受理通知書を受領する
照会書を返送し、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、相続放棄申述受理通知書が家庭裁判所から送付されます。これで、相続放棄が認められたことになります。
家庭裁判所に相続放棄申述書等の必要書類を提出してから、相続放棄申述受理通知書が届くまでは、提出した書類に問題がない場合で、通常1~2か月くらいです。
なお、相続放棄申述受理通知書は一度しか送付されず、再発行もされません。なくさないようにしましょう。
もし紛失した場合や、相続放棄したことを金融機関などに証明したい場合は、別途、相続放棄申述受理証明書の発行を家庭裁判所に申請します。
相続放棄の期限
相続放棄の申述の期限は、相続の開始を知った(被相続人が亡くなった)日の翌日から3か月以内です。この期間を熟慮期間といいます。あまり期間がないので、速やかに行いましょう。
手続きが間に合わない場合
「相続財産調査が遅れている」「書類が揃わない」など、期限に間に合わなそうな場合は、家庭裁判所に相続放棄のための申述期間伸長の申請を行うことができます。
この申請に必要な書類は以下の通りです。
- 申立書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 伸長を求める相続人の戸籍謄本
- 申立人が配偶者・子ども以外であれば、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)
期限を過ぎてしまった場合
3か月の申請期間を過ぎてしまうと、相続放棄を行うことは難しいでしょう。
ただし、ケースによっては認められる可能性もゼロではないため、弁護士などの専門家に相談してみても良いでしょう。
相続放棄の注意点
相続放棄をしたくても、単純承認をしてしまうと相続放棄ができなくなります。
単純承認とは
単純承認とは、相続人もしくは包括受遺者が、被相続人の権利や義務を無限に承継する選択をすることをいいます。
つまり、通常通りに相続することです。単純承認に特別な手続きは必要ないため、そのつもりがなくても単純承認とみなされる可能性があります。
単純承認とみなされる可能性のある行為
- 相続人が相続財産の全部又は一部を処分した
- 相続人が熟慮期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかった
- 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、ひそかにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった
相続放棄の手続きを専門家に依頼した場合
相続放棄に関する相談先や手続きの依頼先としては、弁護士と司法書士があります。
弁護士に相談すべきケースは、相続放棄をすべきかどうかという点から相談したい場合や、相続放棄の申述が不受理となるおそれがある場合です。
相続債務に法外な金利が設定されていて過払い金が生じていたとか、交渉などで借金額を減額できる場合、結果として相続放棄をする必要がない場合もあります。弁護士には、このような点も含めて相談することができます。
また、相続放棄の申述が不受理となるおそれがある場合は、相続放棄申述書や照会書に記載する内容によって、受理されるか不受理となるかが左右されるため、弁護士に依頼した方がよいでしょう。
弁護士に依頼をした場合の費用は5~20万円程度です。
まとめ
相続放棄の手続きについて、詳しく説明しました。相続放棄をするかの判断や申述の準備は、一般の人にはなかなか難しいものです。不明点がある場合や手間を省きたい場合は、弁護士などの専門家に相談してみても良いでしょう。
この記事を書いた人
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