相続財産とは何?相続の対象となる財産と相続税の対象となる財産
相続財産といっても、具体的に何を指すのかわかりますか?
しかも相続の対象となる財産と、相続税の対象となる財産は違います。例えば、一身専属的な(他の人に移転しない性質をもつ)権利義務は相続財産に含まれません。
このへんを間違えると、相続税を多く払いすぎてしまったり、足りなかったりすることも…。相続税申告を間違えるとペナルティが発生する可能性もあります。
今回は、相続財産とは何か、相続財産の評価方法などについて説明します。これから遺産相続を行う人は是非、参考にしてください。
相続問題でお悩みの方はまずは弁護士にご相談ください
[ご注意]
記事は、公開日(2018年11月5日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
目次
相続財産とは?
相続財産とは、相続開始時に被相続人(亡くなった人)の財産に属した一切の権利義務(権利と義務)のうち、相続や遺贈(被相続人の遺言によってその財産を移転すること)により相続人や受遺者(遺贈により財産を取得する人)が承継する財産をいいます。
簡単に言うと、相続の対象となる財産のことです。
なお、相続財産は「遺産」という言い方をする場合もあります。
相続財産と遺産は同じ意味だと考えて差し支えありません。
この点、「相続財産」は相続人の側から見た呼称、「遺産」は債権者等の相続過程の外部の人の側から見た呼称として使い分けている専門家もいます。
しかし、民法では相続財産と遺産を同じ意味で使われていると考えられ、両者に法的な違いはないといえます。
この記事では、基本的には相続財産という呼称を使い、場合によっては遺産という言い方もしていますが(「遺産分割」と言う場合等)、同じ意味で使用します。
相続問題でお悩みの方はまずは弁護士にご相談ください
相続財産に含まれるもの
前述の通り、相続財産には、権利と義務があります。
簡単に言うと、権利とは「もらえるもの」(「積極財産」「プラスの財産」という言い方もします)で、義務とは「しなければならないこと」(「消極財産」「マイナスの財産」という言い方もします)のことです。
相続財産に含まれる権利
相続財産には、次の4つの種類の権利が含まれます。
- 不動産や動産の所有権や占有権などの物権
- 預金や貸付金、他人に何かをしてもらう権利などの債権、契約上の地位
- 著作権や特許権、商標権などの無体財産権
- 営業権のような法律上の根拠を有しない権利
具体的には、例えば主に次のようなものが含まれます。
- 土地
- 家屋
- 借地権
- 株式
- 預貯金
- 現金
- 貴金属
- 宝石
- 書画
- 骨とう
- 自動車
- 電話加入権
- 立木
- 金銭債権
なお、未登記の建物や、被相続人名義以外の家族名義・他人名義の預貯金等であっても、実質的に被相続人に帰属する財産は、相続財産に含まれます。
相続財産に含まれる義務
相続財産に含まれる義務は、被相続人の債務を弁済する義務です。
例えば、次のような義務が含まれます。
- 借入金の返済義務
- 未払い金の支払い義務
- 賃貸人として賃借人に目的物を使用させる義務
- 他人の債務の保証債務
一身専属的な権利義務は相続財産に含まれない
被相続人の一身に専属した(ほかの人に移転しない性質をもつ)権利義務は、相続財産に含まれません(つまり、相続人や受遺者に承継されません。)。
被相続人の一身に専属した権利義務には、例えば、次のようなものがあります。
- 使用貸借契約における借主の地位
- 代理における本人・代理人の地位
- 雇用契約における使用者・被用者の地位
- 委任契約における委任者・受任者の地位
- 組合契約における組合員の地位
- 代替性のない債務(例:作曲家が作曲の仕事をする債務)
- 親権者の地位
- 扶養請求権者の地位
- 生活保護給付の受給権者の地位
- 年金受給者の地位
- 公営住宅の使用権
これらに当たるものでも、相続できる可能性があるものもあるので(例えば、使用貸借契約における借主の地位を相続できる場合もあります)、相続したい一身専属権がある場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
相続問題でお悩みの方はまずは弁護士にご相談ください
相続財産の調査方法
相続財産の内容を把握するためには、相続財産の調査が必要です。
相続財産の調査によって、思わぬ財産が見つかることや、実は莫大な借金があったことが発覚することがあります。
相続財産は一度に確認する方法はなく、地道な調査が必要です。
以下では、相続財産の調査方法について、積極財産と消極財産に分けて説明します。
積極財産の調査方法
財産の種類によって次のような方法で調査を行います。
不動産
家にある権利証や固定資産税課税通知書(納付書)、市町村役場で発行してもらう名寄帳などから、被相続人がどこにどのような不動産を所有しているか調査します。
預貯金、有価証券、金融商品
通帳やキャッシュカード、銀行や証券会社からの郵便物などから、預貯金や有価証券を預けている金融機関を調査します。
また、近年ではネット上の銀行に口座等を保有している場合もあり、通帳やキャッシュカードが発行されていない場合もあるので、被相続人のメール等を確認することも大切です。
また、銀行や証券会社で金融商品を保有している場合は、運用報告書等が届いている場合もあるので、確認してみるとよいでしょう。
動産
動産も相続の対象となります。
動産にはほとんど価値のないものも多いことから忘れがちですが、車や宝石、貴金属、美術品等、一定の価値を有するものもあるので、きちんと調査する必要があります。
消極財産の調査方法
信用情報の照会によって、金融機関からの借入額を調べることができます。
信用情報機関には以下の3つがあります。
借入れがある場合は、借入先の金融機関が加盟する信用情報機関の信用情報に登録されます。
複数に加盟している場合は複数の信用情報機関に登録されますが、一つしか加盟していないこともあるので、3つすべての開示請求を行った方がよいでしょう。
上のリストのリンク先は、それぞれ、相続人による開示請求方法の説明ページです。
開示請求を行う際の参考にしてください。
また、他人の債務の保証債務については関連記事をご覧ください。
相続財産の評価方法
相続財産の評価は、主に次の3つの目的で行われることがあります。
- 相続財産がプラスかマイナスか把握して相続を承認するか放棄するかを判断するため
- 相続人それぞれの相続分に応じた遺産分割を実現するため
- 相続税を計算するため
3については相続税評価額で評価します。
不動産の相続税評価額は実勢価格の約8割です。
1と2については、評価方法に決まりはありませんが、実勢価格(売却した場合の価額)で評価するとよいでしょう。
1については、全体としてプラスかマイナスかが判断できればよいので、一つ一つの財産の価額を厳格に評価する必要ないでしょう。
2についても、相続人全員が納得できればよいので、どこまで厳密に評価するかは、状況次第です。
場合によっては、専門家に鑑定を依頼して評価することもあります。
相続財産がマイナスなら相続放棄
積極財産の価額よりも借金等の消極財産の価額の方が大きい場合に相続すると損してしまいます。
例えば、積極財産が2000万円で、消極財産が3000万円の場合は、差額の1000万円については、相続人の財産から弁済しなければなりません。
そのような場合は、相続放棄をすることで、積極財産も消極財産も取得しなくなります。
また、積極財産と消極財産とどちらが大きいか分からない場合は、限定承認という手続きをとることで、積極財産から消極財産を差し引いた残りの財産だけ取得することができます。
相続財産と相続税の課税対象となる財産は違う
相続財産は基本的には相続税の課税対象となりますが、相続税が非課税となる相続財産もあります。
また、反対に、相続財産でなくても相続税の課税対象となる財産もあります。
相続財産以外の相続税の課税対象となる財産
相続財産以外の相続税の課税対象となる財産については、関連記事を参考にしてください。
相続税が非課税となる財産
相続財産やみなし相続財産であっても、すべてが相続税の課税対象となるわけではありません。
相続税が非課税となる財産には、次のものがあります。
- 皇室経済法第7条の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物
- 墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
- 一定の公益事業を行う者が取得した公益事業用財産
- 条例による心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権
- 相続人が取得した生命保険金等のうち一定の金額
- 相続人が取得した退職手当金等のうち一定の金額
- 相続税の申告書の提出期限までに国、地方公共団体、特定の公益法人又は認定特定非営利活動法人に贈与(寄附)した財産
このうち、一般の人が特に関係しそうなものは次の3点でしょう。
- 墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
- 相続人が取得した生命保険金等のうち一定の金額
- 相続人が取得した退職手当金等のうち一定の金額
まず、「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」について説明します。
墓所とはお墓を建てる場所(区画)のことです。
霊びょうは、漢字では「霊廟」と書き、霊を祀る建物のことです。
「墓所、霊びょう」には、墓地、墓石及びおたまやのようなもののほか、これらのものの尊厳の維持に要する土地その他の物件をも含みます。
祭具とは、祭祀に用いられる道具のことです。
「これらに準ずるもの」とは、庭内神し、神たな、神体、神具、仏壇、位はい、仏像、仏具、古墳等で日常礼拝の用に供しているものをいいます。
例えば、純金製の高価な仏像を金庫に保管している場合は、日常礼拝の用に供しているとは認められずに相続税の課税価格に算入すべきと判断される可能性があります。
ただし、商品、骨とう品又は投資の対象として所有するものは含まれません。
例えば、墓石屋さんのご主人が亡くなって、商品である墓石を息子が相続した場合は、「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」には含まれず、その墓石の価額は相続税の課税価格に算入されます。
なお、「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」は相続税の課税価格に算入しませんが、「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」の購入資金は相続税の課税価格に算入します。
つまり、被相続人の死亡後に、相続人が「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」を相続したお金で購入した場合は、その資金は相続税の課税価格に算入し、被相続人が生前に購入した「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」を相続した場合は、その価額は相続税の課税価格に算入されません。
要するに、「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」を購入するなら、被相続人が生前に購入した方が相続税対策になるということです。
相続問題でお悩みの方はまずは弁護士にご相談ください
香典は相続財産?
通夜や葬儀、法要の際に参列者からもらう香典は、相続財産ではありません。
相続財産ではないので遺産分割の対象とはならず、必ずしも相続人が取得するものではありません。
香典は、喪主が取得するという説と、法定相続分に応じて相続人が取得するという説があります(後者の場合は結果的に香典を相続財産とした場合と同じになります)。
いずれにせよ、香典は葬儀費用に充当され、喪主や相続人が取得できるのは余剰分が出た場合のみです。
また、香典の金額が、香典の受贈者(香典を取得した人)の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められる場合は、所得税も課税されません(不相当な分は所得税が課税されます)。
葬儀費用は相続財産から支払ってもいい?
葬儀費用が香典の総額よりも高かった場合、足りない葬儀費用は、通常、相続財産から支払います。
関係者の話し合いによって、相続財産から支払わず、喪主等の特定の人が負担しても構いません。
また、喪主が、他の相続人に相談なく、不相当に高額な費用をかけて葬儀をした場合等、相続財産からではなく、喪主が葬儀費用を負担すべき場合もあります。
なお、葬儀費用は、相続税の課税価額から控除することができます。
控除できる葬儀費用には、次のようなものがあります。
- 葬式や葬送に際し、又はこれらの前において、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用(仮葬式と本葬式を行ったときにはその両方にかかった費用)
- 遺体や遺骨の回送にかかった費用
- 葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用(例えば、お通夜などにかかった費用)
- 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
- 死体の捜索又は死体や遺骨の運搬にかかった費用
一方、次のような費用は控除することはできません。
- 香典返しのためにかかった費用
- 墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用
- 初七日や法事などのためにかかった費用
この記事を書いた人
相続専門のポータルサイト「いい相続」は、相続でお悩みの方に、全国の税理士・行政書士など相続に強い、経験豊富な専門家をお引き合わせするサービスです。
「遺産相続弁護士ガイド」では、遺産分割や相続手続に関する役立つ情報を「いい相続」編集スタッフがお届けしています。また「いい相続」では、相続に関連する有資格者の皆様に、監修のご協力をいただいています。
▶ いい相続とは
▶ 監修者紹介 | いい相続