弁護士監修記事
遺産分割協議書に金額は書かない?預金の記載方法を弁護士が解説

遺産分割協議書は専門家に依頼することで、間違えてしまうリスクや作成にかかる手間から解放されることができますが(専門家に依頼した場合の作成費用については「遺産分割協議書の作成費用の相場は?司法書士は弁護士より安い?」参照)、自分で作成することも可能です。
自分で作成しようとすると、「遺産分割協議書に預貯金の金額を書くべきか?」等の細かな疑問が生じることでしょう。
この記事では、「遺産分割協議書に預貯金の金額を書くべきか」という点に加え、遺産分割協議書の預貯金の記載方法全般についても、弁護士がわかりやすく説明します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
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遺産分割協議書に金額は書かなくてよい。
預金の金額は遺産分割協議書に記載してもしなくてもどちらでも構いません。
金額を記載するメリットは、誰がどのくらいの遺産を取得したのかが遺産分割協議書上でわかりやすいということです。
この点について、主な遺産が現金と預貯金だけというような場合は預金の金額を記載する意味があるかもしれませんが、不動産や有価証券など、多岐に渡る場合は、すべての遺産について価額を記載するのかという話にもなりますし、預貯金だけ金額を記載することにあまり意味はないでしょう。
反対にデメリットとしては、相続開始後に生じた利息や配当を誰が取得するのかについても遺産分割協議書に記載すべき等、遺産分割協議書を作成するうえで、気を付けなければならいことが増えますし、遺産分割協議書に書かれている金額と払戻し申請時の金額と差異があると払戻しを受けられずに遺産分割協議書の修正の手間が生じることもあります。
遺産の価額を取りまとめておきたい場合は、遺産分割協議書に書き記すのではなく、財産目録を作成するとよいでしょう。
財産目録とは財産の一覧表のことです。
財産目録について詳しくは「財産目録の書式をダウンロードしてカンタンに財産目録を作成する方法」をご参照ください。
このような理由から、預貯金や現金以外にも遺産がある場合は、特に、金額を書かないのがお勧めです。
金額を書かない場合は、以下のように記載します(一例にすぎず、このとおりでなくても構いません)。
1.甲は、以下の遺産を取得する。 (1)預貯金 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇 口座名義人 〇〇〇〇 |
金額を記載する場合は、銀行で残高証明書を取得して、正確な金額を記載しましょう。
書き方としては、以下のようなかたちになります(一例にすぎず、このとおりでなくても構いません)。
1.甲は、以下の遺産を取得する。 (1)預貯金 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇 口座名義人 〇〇〇〇 残高○○○○円及び相続開始後に生じた利息その他の果実 |
一つの預金を複数人で分割する場合の遺産分割協議書の書き方
次に、一つの預金を複数人で分割する場合、遺産分割協議書には、分割の内容と、分割の方法の両方を記載しておいた方がよいでしょう。
分割の内容とは、取得者が、それぞれいくらの割合で取得するのかということです。
例えば、「以下の遺産については、甲が10分の7、乙が10分の3の割合でそれぞれ取得する」というようなことです。
1円未満の端数が生じた場合はどうするのかという質問を受けることがあるので一応言及しておきますが、端数の取り扱いについては当事者(その預金の取得者)で自由に決めて構いません。
揉めるようなおそれもなさそうであれば、端数の取り扱い方法について、わざわざ遺産分割協議書に記載することもないでしょう。
また、割合でなく金額で記載しても構いません。
金額で記載する場合は、相続開始後に生じた利息等を取得する人についても取り決めて、遺産分割協議書に記載しておくとよいでしょう。
次に、分割の方法について説明します。
預金を複数人で分割する場合、銀行が、それぞれの取得者の口座に、それぞれの取得分を入金してくれる場合もありますが、銀行によっては、このようなフローに対応していないことがあります。
その場合は、代表相続人(相続人代表者ともいいます)を定めて、銀行は預金の全額を代表相続人に引き渡し、代表相続人から他の取得者に分配するフローをとることになります。
銀行から各取得者に直接入金するフローを希望する場合は、事前に、銀行に対応しているかどうか確認しましょう。
それでは、代表相続人を設定して、一つの預金を複数人で分割する場合の遺産分割協議書の記載例を紹介します。
1.以下の遺産については、甲が2分の1、乙が2分の1の割合で、それぞれ取得する。なお、甲は相続人を代表して以下の遺産の解約及び払戻しの手続きを行い、以下の遺産についての乙の取得分を、別途乙の指定する口座に振り込んで引き渡す。その振り込みに必要な手数料は乙の負担とする。 (1)預貯金 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇 口座名義人 〇〇〇〇 |
預金を一人が相続して代償分割する場合の遺産分割協議書の書き方
代償分割とは、現物分割によると、法定相続分どおりにうまく分割できない場合等に、法定相続分よりも多く相続する人から、少なく相続する人に対して、法定相続分との差額分を代償する分割方式のことです(詳しくは「代償分割により相続税を節税して贈与税も課税されないようにする方法」参照)。
代償分割は、通常は、不動産のような現物分割が困難な財産が遺産の多くを占める場合に行われますが、預貯金等の金融資産が多くを占める場合でも行われることがあります。
例えば、金融資産が多数の金融機関に分散して存在する場合、前述の代表相続人を指定する方法で行うと、代表相続人が金融機関ごとに他の取得者に対して分配しなければならず、代表相続人に大きな負担がかかってしまいます。
このような場合に代償分割の方式を採ることで、代表相続人の負担を軽減することができる場合があります。
なお、代償分割の方式を採ることによって、税制上不利に取り扱われることはありません。
代償分割を行う場合は、遺産分割協議書にもその旨を記載した方がよいです。
その理由は次の2つです。
- 万一代償金が支払われない場合には、遺産分割協議書を証拠して代償金の支払いを求めることができる
- 代償金の支払いが税務署に贈与とみなされ、贈与税が課されることを避ける
記載例には、以下のようなかたちがあります。
1.甲は以下の預貯金を取得する。 (1) 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇 口座名義人 〇〇〇〇 (2) ××銀行××支店 普通預金 口座番号×××××××× 口座名義人 〇〇〇〇 (3) △△信用金庫△△支店 普通預金 口座番号△△△△△△△△ 口座名義人 〇〇〇〇 2.甲は前項の預貯金を取得する代償金として、乙に対し、金○○万円を令和○年○月○日までに支払う。 |
遺産分割協議書のひな形ダウンロード
遺産分割協議書の雛形は以下のリンクからダウンロードしてご利用ください。
遺産分割協議書のひな形のダウンロード |
また、遺産分割協議書については、「遺産分割協議書のひな形をダウンロードして自分で簡単に作成する方法」も併せてご参照ください。
まとめ
以上、遺産分割協議書に預貯金の金額を書くべきかという点に加えて、預貯金についての記載方法について説明しました。
遺産分割協議書は、書き方を間違えると、後で相続人間でトラブルになったり、相続手続きができずに修正して再度実印を全員に押印してもらう手間が生じることがあります。
少しでも不安がある場合は、弁護士や司法書士等の専門家に相談するとよいでしょう。
面倒な戸籍謄本等の収集や、相続手続きと併せて依頼すると、割安な料金で対応してくれることもあります。