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遺産放棄とは?相続放棄との違い、手続き方法、必要書類、期限

遺産分割協議に関わりたくない。 遺産を他の相続人に譲りたい。 被相続人(亡くなった人)の財産が債務超過だったために相続したくない。 このように、必ずしも遺産を相続したいケースばかりではありません。 このような場合の採るべき方法について、わかりやすく説明します。 是非、参考にしてください。

[ご注意]
記事は、公開日(2021年1月19日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。

遺産放棄とは?遺産放棄と相続放棄の違いは?

この記事は「遺産放棄」という語で検索した方をイメージして執筆しています。

遺産放棄とは?

「遺産放棄」という語は法律用語ではないので、これに明確な定義はありませんが、一般に、遺産放棄とは、「相続放棄」と「相続分の放棄」のいずれの意味でも使われているようです。

「相続放棄」と「相続分の放棄」の違い

「相続放棄」と「相続分の放棄」は、どちらも相続権を放棄する手段ですが、下の表のような違いがあります。
  相続放棄 相続分の放棄
手続き 必要 不要
債務 承継しない 承継する
相続権の移転 ありうる ない
全員できるか できる できない
期限 3か月 なし
一つ一つ説明していきます。

手続き

まず、手続きについてですが、相続放棄が家庭裁判所で手続きをしなければならないのに対して、相続分の放棄は手続きが不要です。 相続分を放棄する意思を他の相続人に対して表示すれば(口頭でも構いません)、相続分を放棄したことになります。

債務

次に、被相続人の債務(相続債務)についてですが、相続放棄の場合は承継せず、相続分の放棄の場合は承継するという違いがあります。 相続放棄が受理されると、相続放棄が受理されたことを証明する書類が取得できるので、被相続人の債権者(相続債権者)から取り立てがあった場合は、その書類を提示又は提出すれば、それ以降取り立てはなくなるでしょう。 一方、相続分の放棄の場合は、法定相続分に応じた債務を承継することになり、取り立てがあった場合に弁済を拒むことはできません。 たとえ、他の相続人との間で「相続分を放棄する代わりに債務も負わない」と約束して、そのことを遺産分割協議書に記載していたとしても同じです。 なお、この場合、弁済した額を他の相続人に求償することはできます。

相続権の移転

そして、相続権の移転について、同順位の相続人全員が相続放棄をした場合は、次順位の相続人に相続権が移りますが、相続分の放棄の場合は、そのようなことはありません。相続順位については以下の記事をご覧ください。 例えば、Aさんが亡くなり、Aさんの妻Bさんと、Aさんの子Cさんが相続人となったとします。Cさんは母であるBに父の遺産の全部を譲ろうと、相続放棄をしました。しかし、Cが相続放棄をすると、Aの父Dと母Eに相続権が移転します。DEは相続放棄をしなかったので、B3分の2DEがそれぞれ6分の1ずつ相続することとなり、Cの思惑通りにはなりませんでした。 このようなことが想定されるケースでは、相続放棄ではなく、相続分の放棄の方がよいでしょう。Cさんが相続分を放棄してもDEに相続権が移ることはありません。

全員できるか

相続放棄は相続人全員でしても構いませんが、「相続分の放棄」は全員ですることはできず、誰か遺産を取得する人が必要です。 なお、誰も遺産を取得したくない場合は、全員で相続放棄をする方法のほか、遺産を社会に役立ててもらえるように寄付する方法もありますが、金銭以外の財産を換価したり債務を清算したりする手間がかかります。

期限

相続放棄には期限がありますが、相続分の放棄にはありません。 相続放棄の期限は、基本的には、被相続人の死亡を知った時から3か月以内です。 遺産放棄の手続き方法   相続分の放棄に手続きはありません。ここでは相続放棄の手続きについて説明します。 相続放棄の手続きの流れは、概ね次のようになっています。
  1. 相続放棄をすべきかどうか決める
  2. 必要書類を用意する
  3. 相続放棄の申述(手続き)をする
  4. 照会書に記入して、返信する
  5. 相続放棄受理通知書を受領する
以下、それぞれのステップについて、説明します。

相続放棄をすべきか決める

この記事を読んでいる人は、既に相続放棄をすることを決めている人が多いかもしれませんが、まだ決めかねている人もいるでしょうから、相続放棄をすべき場合について説明します。 相続放棄は、主に、遺産がプラスの財産の総額よりも負債等のマイナスの財産の総額が大きい場合に行われます。 したがって、相続放棄をすべきかどうかを判断するためには、プラスの財産と債務のどちらが大きいかを調査しなければなりません。 なお、死亡保険金については、相続放棄をしても受け取ることができるため、相続放棄をすべきかどうかの判断には影響しません。 また、保証債務も相続の対象となるので、被相続人が保証人になっていなかったかについても調査する必要があります。 ▼保証債務の相続について詳しく知りたい方へおすすめの記事▼ 連帯保証人の死亡後に相続人、主債務者、債権者がとるべき対応」参照)。   ▼相続財産の調査について詳しく知りたい方へおすすめの記事▼ 相続財産調査の方法や費用について、わかりやすく徹底的に解説」をご参照ください。  

必要書類を用意する

相続放棄には、次の書類等が必要です。
  • 相続放棄申述書(800円分の収入印紙を貼付)
  • 相続放棄をする人の戸籍謄本
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
  • 郵便切手(数百円程度。申立てをする家庭裁判所で確認)
配偶者や子が相続放棄をする場合は、通常、以上の書類だけで十分です。 それ以外の相続人が相続放棄をする場合は、さらに、相続人であることを証明できる戸籍謄本等が必要になります。 なお、相続放棄をする人が複数いて、まとめて申述する場合は、重複する書類は1部で構いません。 必要書類について詳しくは以下の記事をご覧ください。 なお、相続放棄申述書には、相続の開始を知った日や相続財産の概略について記入する欄があります。 相続開始から3か月以上が過ぎている場合や、単純承認の成立が疑われる場合は、相続放棄申述書の書き方次第では、却下される可能性があるため、弁護士に事前に相談することをお勧めします。 相続放棄申述書について詳しくは以下の記事をご覧ください。  

相続放棄の申述(手続き)をする

被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、用意した必要書類を提出することによって、相続放棄の手続きが開始されます(このことを「相続放棄の申述」といいます)。 申述先は、相続人が住んでいるところを管轄する家庭裁判所ではないことに注意が必要です。 全国の家庭裁判所の管轄区域は、裁判所ウェブサイトの「裁判所の管轄区域」のページから調べることができます。 なお、必要書類の提出にあたっては、郵送でも構いません。 郵送で提出する場合は、到着が確認できるよう、普通郵便ではなく、書留郵便等で発送した方がよいでしょう。 なお、家庭裁判所に提出した書類は原則として返還されないので、必要な場合はあらかじめコピーをとっておくことをおすすめします(裁判所によっては、稀に、原本と一緒にコピーを提出することで、手続終了後に原本を返還してもらえることもあるようですが、基本的には原本は返還してもらえない場合が多いと思っておいた方がよいでしょう)。

照会書に記入して、返信する

家庭裁判所に相続放棄の申述をすると、申述人のもとに、裁判所から照会書が届きます。 照会書の書式は家庭裁判所によって異なりますが、概ね以下のような事項について質問がなされるので、回答書にその質問に対する回答を記載して家庭裁判所に返送する必要があります。 質問の中には、既に申述書に記載している内容について再度尋ねられる場合もあります。 相続放棄照会書における質問には次のようなものがあります。
  • 相続放棄をするのはあなたの真意に基づくものか
  • 相続の開始を知った日はいつか
  • 相続財産にはどのようなものがあるか
  • 相続財産の存在を知ったのはいつか
  • 既に相続した財産はあるか
  • 相続放棄をする理由は何か
  • 被相続人の生活状況について
  • 被相続人とあなたとの関係について
  • (被相続人が亡くなってから3か月以降経過している場合に)3か月以内に相続放棄の手続きができなかった理由
照会書における質問に回答することはそれほど難しいことではありませんが、既に一部の相続財産を相続していたり、相続の開始を知った日から3か月以上経過してから相続放棄をしようとしたりした場合などは、その理由や背景についてきちんと説明しないと、相続放棄が認められない可能性があるので、注意が必要です。

相続放棄受理通知書を受領する

照会書を返送し、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、相続放棄申述受理通知書が家庭裁判所から送付されます。 これは、相続人が相続放棄の申述を行い、これを裁判所が受理したということを通知する書類です。 家庭裁判所に相続放棄申述書等の必要書類を提出してから、相続放棄申述受理通知書が届くまでは、提出した書類に問題がない場合で、通常12か月くらいです。 この通知書が届けば、相続放棄の手続きは完了です。 なお、相続放棄申述受理通知書は1度しか送付されず、再発行もされないので、相続放棄申述受理通知書を紛失した場合や、相続放棄をしたことを金融機関等に証明する必要がある場合には、別途、相続放棄申述受理証明書という書類の発行を家庭裁判所に申請する必要があります。 相続放棄申述受理証明書について詳しくは以下の記事をご覧ください。 また、相続放棄の申述が受理されなかった場合は、相続放棄不受理通知書が届きます。 相続放棄の申述は、一度しかできません。 申述書や照会書の書き方が悪く不受理になったとしても、再度申述はできないのです。 相続開始から3か月以上が過ぎている場合や、単純承認の成立が疑われる場合は、手続き前に、弁護士等の専門家に相談した方がよいでしょう。 不受理に納得がいかない場合は、不受理通知書を受け取った翌日から2週間以内に、高等裁判所に即時抗告をすることができます。 しかし、家庭裁判所の審判結果を覆すだけの材料が用意できなければ、即時抗告は棄却されます。

相続放棄手続きを代行してくれる専門家と費用

相続放棄に関する相談先や手続きの依頼先としては、弁護士と司法書士があります。 行政書士は、戸籍謄本等の必要書類の収集の代行をすることはできますが、相続放棄申述所の作成や、裁判所での手続きを代行することはできません。 弁護士に相談すべきケースは、相続放棄をすべきかどうかという点から相談したい場合や、相続放棄の申述が不受理となるおそれがある場合です。 相続債務に法外な金利が設定されていて過払い金が生じていたとか、交渉などで借金額を減額できる場合、結果として相続放棄をする必要がない場合もあります。 弁護士には、このような点も含めて相談することができます。 また、相続放棄の申述が不受理となるおそれがある場合は、相続放棄申述書や照会書に記載する内容によって、受理されるか不受理となるかが左右されるため、弁護士に依頼した方がよいでしょう。 一方、相続放棄の必要書類の用意や手続きの代行を依頼したいに留まる場合は、一般的に、弁護士よりも司法書士の方が安価に請けてくれるため、司法書士に相談することがお勧めです(安価に請けてくれる弁護士もいて、一概には言えませんが)。 司法書士に依頼をした場合の費用の相場は35万円程度、弁護士に依頼をした場合の費用は520万円程度ではないでしょうか。

まとめ

以上、遺産放棄について説明しました。 相続放棄の手続きは自分でもできますが、手間なく確実に終わらせるには、専門家に依頼することをお勧めします。

この記事を書いた人

株式会社鎌倉新書 いい相続

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