親族が成年後見人になれないケースや報酬についてわかりやすく説明!
認知症等で成年後見制度の利用を検討している場合、本人が信頼している親族が後見人になってあげたいものです。
しかし、親族が後見人になれないケースもあります。
この記事では、親族が後見になれないケースや、親族が後見人に選ばれるために知っておくべきこと、それから親族後見人の報酬等についてご説明します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、公開日(2019年9月11日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
なお、「そもそも成年後見人とは?」について知りたい人は「成年後見人とは?成年後見制度のデメリット、家族信託という選択肢も」をご参照ください。
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目次
欠格事由のある人は、成年後見人になれない
以下の欠格事由のうち、いずれか一つにでも該当する人は、成年後見人になれません。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
- 破産者で復権していない人
- 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
- 行方の知れない者
以上のうち、分かりにくそうなものについて説明します。
「家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人」には、家庭裁判所で親権の喪失や財産の管理権の喪失の宣告を受けた親権者、家庭裁判所の職権で解任された保佐人や補助人がこれに該当します。
「破産者で復権していない人」についてですが、復権とは、破産宣告を受けて破産者に課された権利の制限を消滅させ、破産者の本来の法的地位を回復させることをいいます。破産者は、例えば、免責許可の決定が確定した時等に復権します。
続いて、「被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族」について説明します。
被後見人とは、後見を受ける人のことです。
直系血族とは、父母、祖父母、子、孫などのことです(直系血族について詳しくは「血族とは。血族の範囲と親族や姻族との違いについてわかりやすく説明」参照)。
つまり、被後見人に対して訴訟(裁判)をしたことのある人や、その人の妻、夫、父母、祖父母、子、孫などに当たる人は、後見人になれません。
なお、これらの欠格事由は、成年後見人だけでなく、保佐人、補助人、後見監督人、保佐監督人及び補助監督人についても同様です。
保佐人について詳しくは、「保佐人、被保佐人とは?被保佐人と成年被後見人や被補助人との違い」をご参照ください。
補助人について詳しくは「補助人とは?被補助人とは?保佐人・被保佐人との違いをわかりやすく説明」をご参照ください。
親族が成年後見人になれないケース
欠格事由がないからといって、必ず、後見人になれるわけでありません。
成年後見を開始するためには、後見開始申立てを本人(被後見人となる人)の住所地の家庭裁判所にしなければなりませんが、その申立書には申立人が推薦する後見人候補者の記入欄があります。
後見人候補者は親族でも親族以外の人でも構いません。
家庭裁判所では、申立書に記載された候補者が適任であるかどうかを審理します。
その結果、候補者が選任されない場合があります。
本人が必要とする支援の内容などによっては、候補者以外の人(弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職や法律または福祉に関する法人など)を後見人に選任することがあります。
また、候補者である親族を後見人に選任したうえで、専門職の後見監督人を選任する場合もあります。
次のいずれかに該当する場合は、候補者以外の方を後見人等に選任したり、監督人を選任したりする可能性があります。
- 親族間に意見の対立がある場合
- 流動資産の額や種類が多い場合
- 不動産の売買が予定されているなど、申立ての動機となった課題が重要な法律行為を含んでいる場合
- 遺産分割協議など後見人等と本人との間で利益相反する行為について、監督人に本人の代理をしてもらう必要がある場合
- 後見人等候補者と本人との間に高額な貸借や立替金があり、その清算の可否等について第三者による調査、確認を要すると判断された場合
- 従前、後見人等候補者と本人との関係が疎遠であった場合
- 年間の収入額及び支出額が過大であったり、年によって収支に大きな変動が見込まれたりなど、第三者による収支の管理を要すると判断された場合
- 後見人等候補者と本人との生活費等が十分に分離されていない場合
- 申立時に提出された財産目録や収支状況報告書の記載が十分でないなどから、後見人等としての適格性を見極める必要があると判断された場合
- 後見人等候補者が後見事務に自信がなかったり、相談できる者を希望したりした場合
- 後見人等候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用 (担保提供を含む。)し、または利用する予定がある場合
- 後見人等候補者が、本人の財産の運用 (投資等)を目的として申し立てている場合
- 後見人等候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見等の事務を行えない、または行うことが難しいと判断された場合
- 本人について、訴訟・調停・債務整理等の法的手続を予定している場合
- 本人の財産状況が不明確であり、専門職による調査を要すると判断された場合
被後見人に多額の財産や一定の継続的収入がある場合や、親族間に利害の衝突や対立があるような場合には、第三者の後見人が選ばれます。この場合に選ばれるのは、弁護士や司法書士等の専門家です。
なお、被後見人の財産管理面ではなく、身の回りのお世話や介護等の面で親族がこれを後見人として引き受けるのが難しい状況の場合、社会福祉士等の専門家が選ばれることもあります。
また、財産管理を行う後見人と身上監護を行う後見人が複数選ばれる場合もありますし、社会福祉法人等の法人が選ばれる場合もあります。
なお、後見人等の選任に関する判断については、不服の申立てはできません。
また、候補者以外の人が後見人に選任されたり監督人が選任されたりすることに不満がある場合に申立ての取下げを申し出たとしても、本人の利益に配慮して、許可されない可能性が高いと考えられます。
親族後見人は全体の約23%
2018年に選任された成年後見人のうち、親族と親族以外のそれぞれの割合は、親族が23.2%、親族以外が76.8%です。
このように、現状は親族以外が成年後見人となることが多いのですが、その背景として、なるべく専門職資格者を成年後見人に選ぶべきとする裁判所の方針が影響してきたものと思われます。
しかし、今後は、この傾向が変わる可能性があります。
成年後見制度の取扱について、2019年3月18日に厚生労働省で開催された専門家会議で、最高裁判所が、「成年後見人は親族が望ましい」とする考えを表明したのです。
この見解は、2019年1月に全国の家庭裁判所に通知されました。
したがって、2019年以降、この傾向に変化がみられる可能性があるのです。
親族親族後見人の中では子が過半数
親族が後見人となったケースにおける内訳は、被後見人の子が52.0%で最も高く、次いで、兄弟姉妹が15.3%、配偶者が8.5%、親が7.6%、その他親族が16.6%となっています。
親族が後見人に選ばれるために
親族が後見人に選ばれるためには、次の2点に気を付けるとよいでしょう。
- 親族の同意書を集める
- 家庭裁判所での面接に備える
以下、それぞれについて説明します。
推定相続人の同意書を集める
前述のとおり、親族間に意見の対立がある場合は、候補者以外の専門職後見人が選任される可能性が高まるため、誰が後見人になるかについて親族間で意見を一致させ、同意書を家庭裁判所に提出するとよいでしょう。
親族全員の同意書は不要です。
同意書が必要なのは、推定相続人のみです。
推定相続人とは、その時点において相続が開始された場合に、相続人になると推定される人のことです。
配偶者と子がいる場合は、配偶者と子が推定相続人です(詳しくは「推定相続人とは|「法定相続人」や「相続人」との違いについても解説」参照)。
なお、推定相続人にでも、未成年者については、同意書は不要です。
また、音信不通の人や、認知症等で同意書の内容を理解することが難しい人についても無理に集める必要はありません。
同意書の書き方については、こちらの資料をご参照ください。
家庭裁判所での面接に備える
申立て後、申立人と後見人候補者は、家庭裁判所で面接があります。
面接では、申立人に対しては、本人の状態や申立てに至る事情など、候補者に対しては、欠格事由の有無や後見人等としての適格性に関する事情、後見等の事務に関する方針が尋ねられます。
家庭裁判所に、後見人としてふさわしいと思ってもらえるように、しっかりと説明できるようにしておきましょう。
親族後見人の報酬
後見人が報酬を受け取るためには、家庭裁判所に報酬付与の申立てをします。
報酬は、親族であっても専門職であっても同様に受け取ることができます。
しかし、親族の場合は、報酬付与の申立てをしないというケースもあります。
報酬は、月額2万~9万円程度です。
目安となる額は、管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)に応じて、下の表のとおりです。
管理財産額 | 報酬月額 |
---|---|
1000万円以下 | 2万円 |
1000万円超5000万円以下 | 3万~4万円 |
5000万円超 | 5万~6万円 |
成年後見人等の後見等事務において、身上監護等に特別困難な事情があった場合には、上記基本報酬額の50パーセントの範囲内で相当額の報酬を付加するものとします。
また、例えば、成年後見人等が報酬付与申立事情説明書に記載されているような特別の行為をした場合には、相当額の報酬を付加することがあります。
成年後見人等が複数の場合には、報酬額を、分掌事務の内容に応じて、適宜の割合で按分します。
なお、現状は、前述のとおり管理財産額に応じた報酬体系になっていますが、今後は業務量や難易度に応じた報酬体系への変更が検討されています。
また、報酬付与の申立てによって審判されるのは、申立日よりも前の期間の報酬額です。
認められた報酬額は、本人の財産から受け取ることができます。
こまめに申立てをして報酬を受け取っても構いませんし、本人の死亡等によって後見等が終了してから一度にまとめて受け取っても構いません(しかし、相続人に管理財産を引き継ぐ前に申し立てて報酬を受け取らなければなりません)。
1年に1度は報酬を受け取った方が、税務上有利になるケースが多いでしょう。
複数年分報酬であっても、報酬を受け取った年の所得としてまとめて課税対象となるためです。
親族が受け取った後見人報酬は雑所得として、確定申告が必要です(年間20万円超の場合)。
親族が成年後見人になったうえで、後見制度支援信託を勧められることもある
家庭裁判所は、親族後見人やその候補者に対して後見制度支援信託を紹介した上で、その利用の検討を促すことがあります。
後見制度支援信託とは?
後見制度支援信託とは、後見制度による支援を受ける人の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことです。
後見制度支援信託の検討を求められるケース
家庭裁判所は、どのような基準に基づいて、後見制度支援信託の利用に適しているかどうかを判断するのでしょうか?
この点、被後見人がもっている預貯金や上場株式等の流動資産の総額が主な判断基準にされています。
基準額は家庭裁判所によって異なりますが、東京家庭裁判所では、被後見人に500万円以上の流動資産がある場合に、後見制度支援信託の検討対象としています(2014年4月までは1000万円以上が対象でしたが、2014年5月から対象範囲が拡大されました)。
東京以外の裁判所ウェブサイトで基準が確認できたところを紹介します。さいたま、大津、京都、松江、松山および福岡の各家庭裁判所では1200万円以上、新潟家庭裁判所では1000万円以上の流動資産があることが基準とされています。なお、東京以外でも基準額が下がって対象範囲が拡大される可能性はありますし、必ずしも紹介した基準額未満であれば対象とならないというわけではありません。
後見制度支援信託のメリット
後見制度支援信託の意義は、被後見人の財産を適切に管理し利用することにあり、被後見人にとっては、自分の財産が後見人によって不正に使用されるリスクを低減させることができるというメリットがあります。
一方、後見人にとっても、主な管理対象が日常的に必要な金銭に絞られるため、後見人としての業務負担を軽減できるというメリットがあります。
後見制度支援信託のデメリット
後見制度支援信託を利用すると、後見人が手元で管理している金銭だけでは足りない場合等に、信託財産から払戻しを受けるための手続きが必要になり、後見人にとって、手続上の負担が増えるというデメリットがあります。
具体的には、後見人が手元で管理している金銭だけでは足りない場合に、家庭裁判所に、必要な金額とその理由を記載した報告書を裏付け資料とともに提出し、家庭裁判所が報告書の内容に問題がないと判断すれば、指示書が発行され、それを信託銀行等に提出して払戻しを受けるという手続きが必要になるのです。
また、もう一つ、後見制度支援信託のデメリットとして、原則として、弁護士や司法書士等の専門職後見人やその者に対する報酬が必要になるというものがあります。専門職後見人に対する報酬額は、家庭裁判所が、専門職後見人の行った仕事の内容やご本人の資産状況等のいろいろな事情を考慮して決めますが、概ね10万~30万円になります。報酬は被後見人の財産から支払われます。
さらに、信託銀行等に対しても、報酬や手数料がかかる場合があります。
後見制度支援信託の利用を拒否することはできる?
親族後見人が後見制度支援信託の利用を希望しない場合は、利用に向けた手続きが無理やり進められることはありません。
しかし、被後見人の財産を適切に管理するために、裁判官の判断により、後見監督人(後見人の事務の監督人)が選任されることがあります。
後見制度支援信託の利用を拒否する場合、多くは後見監督人が選任されることになるので、実質的には、後見制度支援信託と後見監督人の選択をすることになります。
後見制度支援信託と後見監督人はどちらを選ぶべき
それでは、後見制度支援信託と後見監督人は、どちらが得でしょうか?
費用と、後見事務に関する負担の2つの面から検討します。
費用面における検討
まず、費用について、後見制度支援信託を選択した場合は、前述のとおり、専門職後見人への報酬(10万~30万円)が必要です。
専門職後見人は信託銀行等との契約が済むと辞任するため、報酬が必要になるのは1回のみです。
これに対して、後見監督人が選任された場合は、原則として被後見人が亡くなるまで毎月、後見監督人への報酬が必要です。
後見監督人の報酬額は、被後見人の財産の額等に応じて裁判所が決めますが、概ね月額1万~3万円になります。
そうすると、ざっくりと計算して、後見監督人が任に当たる期間が10か月を超える場合は、後見制度支援信託の方が、費用が安くなる可能性が高いと言えます。
また、後見制度支援預金の場合は、専門職後見人の選任が不要な場合もあり、その場合は当然ながら専門職後見人への報酬も不要です。
後見制度支援預金とは、後見制度支援信託と同趣旨の制度ですが、被後見人の財産について、信託銀行等に信託するのではなく、信用金庫や信用組合に預金して管理するという違いがあります。
後見制度支援預金は、対応する信用金庫や信用組合が存在しない地域では利用できません。
後見制度支援預金を利用できるかどうかは、被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所に確認するとよいでしょう。
後見制度信託支援預金の場合は、信託の場合と異なり、信用金庫や信用組合に対する報酬も生じません。
後見事務に関する負担面における検討
次に、後見事務に関する負担についてですが、後見制度支援信託を利用した場合は、次のような場合には、家庭裁判所に報告書を提出し、指示書の発行を受けた上で、信託銀行等での手続きが必要になります。
- 被後見人に多額の出費を要する事情が生じ、親族後見人が手元で管理している金銭だけでは足りない場合
- 被後見人の施設入所先変更等により日常的な収支状況に変動があり、定期交付金額を変更したい場合
- 被後見人に臨時的収入があったり、黒字分が貯まったりして、親族後見人の手元で管理する金銭が多額になった場合
- 例えば、被後見人を自宅で介護することになり、信託財産の全てをリフォーム代金に充てる必要がある等の理由により、信託を解約したい場合
一方、後見監督人が選任された場合は、上記のような手続きは不要ですが、後見監督人に対する定期報告が必要になります。
どちらが負担が大きいかは一概には言えませんが、後見制度支援信託の場合は、手続きが不要となるケースがある一方で、後見監督人が選任された場合の定期報告は事情にかかわらず必要となります。
まとめ
以上、親族が後見人になれないケースや、親族が後見人に選ばれるために知っておくべきこと、それから親族後見人の報酬等について説明しました。
不明な点は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
この記事を書いた人
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