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葬儀費用を相続財産から支払って良い?相続放棄はできる?

葬儀費用を相続財産から支払う
葬儀費用は相続財産から支払っても構わないのでしょうか?それとも、喪主が支払うべきなのでしょうか? また、相続税の計算上、葬儀費用を相続財産の価額から控除できるのでしょうか? この記事では、以上のような疑問について、わかりやすく丁寧に説明します。

[ご注意]
記事は、公開日(2020年4月22日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。

葬儀費用を相続財産から支払ってもよい?

葬儀費用は誰が負担すべきなのでしょうか? この点については、明確な決まりがあるわけでありませんが、主に、次の4つの考え方があります。
  1. 葬儀の実質的主宰者(喪主)が支払うべき
  2. 相続財産から支払われるべき
  3. 各相続人がそれぞれの相続分に応じて負担すべき
  4. 香典や補助金で支払った不足分を相続財産から支払い、さらにその不足分を各相続人がそれぞれの相続分に応じて負担すべき

判例

この点、名古屋高等裁判所平成24329日判決では、以下の通り判示されており、上記の1に近い考え方を取っています。
亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。
つまり、この裁判例によると、葬儀費用を負担すべき人は、下の表のようになるものと思われます。
  • 追悼儀式に要する費用:同儀式の主宰者
  • 埋葬等の行為に要する費用:祭祀承継者
また、これ以外に考えられるケースでは、葬儀費用の負担者は以下のようになることが多いようです。
ケース 葬儀費用の負担者
亡くなった人が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしていた場合 相続財産から支払う
相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がある場合 合意内容に従う
裁判例では、葬儀費用を追悼儀式に要する費用と埋葬等の行為に要する費用に分けて考えていますが、追悼儀式の主宰者とは、一般的な言葉に置き換えれば「喪主」ですし、祭祀承継者が喪主を務めることが多いでしょうから、通常は、いずれも喪主が負担すべきと解することができます そうすると他の相続人に比べて喪主だけ損をするように感じられるかもしれませんが、香典や葬儀費用の補助金は葬儀費用を負担した人が受け取ることができると考えられるため、香典や補助金の範囲内で葬儀を行えば喪主も持ち出しは生じません。 ちなみに、葬儀費用以上に香典を頂いた場合、葬儀費用を差し引いた香典の残りは誰がもらえるのでしょうか? この点、葬儀費用を負担した人が負担した割合に応じてもらえると考えるのが自然かと思われますので、そのように考えると、喪主に葬儀費用を負担させることが他の相続人との関係において不公平であるとは必ずしもいえないでしょう。 なお、この裁判例に考え方に立ったとしても、前述のとおり、相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についても合意がある場合は、その合意内容に従うことになりますから、例えば、相続人や関係者の間で「葬儀費用は香典や補助金から支払って、足りない分は相続財産から支払う。葬儀費用を支払っても香典等が残った場合は、相続分に応じて相続人が受け取る。」という合意をした場合は、葬儀費用を相続財産から支払うことができます。 葬儀後に相続人間でトラブルにならないように、葬儀費用の負担者や、香典が余った場合の取り扱いについて、相続人間で事前に話し合っておくことが重要です。

葬儀費用を相続財産から支払うと相続放棄できなくなる?

相続人はプラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も相続することになるため、プラスの財産の額よりも借金などのマイナスの財産の額の方が大きい場合に相続すると損してしまいます。 この点、相続放棄をするとプラスの財産もマイナスの財産も相続しないので、このような場合は、相続放棄をすることがお勧めです。 しかし民法には、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすとする規定があります。

単純承認とは

単純承認とは、相続人が、亡くなった人の権利や義務を無制限に承継する選択をすること(プラスの財産だけでなくマイナスの財産もひっくるめて相続すること)をいい、単純承認をすると相続放棄をすることができなくなります。 そうすると、葬儀費用を相続財産から支払うことが相続財産の処分に当たるとすれば、葬儀費用を相続財産から支払うと、単純承認をしたとみなされ、相続放棄ができなくなります。 この点、「遺族として当然に営まなければならない葬式費用」については、相続財産から支出しても単純承認をしたものとはみなされないとした裁判例があります。 しかしながら、「遺族として当然に営まれなければならない葬式」の程度と範囲が明らかではないため、相続放棄をする可能性がある場合は、念のため、葬儀費用を相続財産から支払わない方がよいでしょう。 相続放棄をする可能性があるものの葬儀費用を相続財産から支払いたい場合は、事前に、弁護士に相談することをお勧めします。

亡くなった人の預貯金から葬儀費用を支払う方法

口座の名義人が亡くなったことを金融機関が把握すると、口座は凍結され、相続手続きを経なければ、自由に預貯金を引き出すことができなくなります。 相続手続きは、相続人全員が押印した遺産分割協議書が必要であり(遺言がない場合等)、手続きに日数も要するため、葬儀費用の支払い期限までに相続手続きを済ませることは現実的ではないでしょう。 それでは、亡くなった人の預貯金を引き出す方法はないのでしょうか? この点、次の3つのいずれかの方法で仮払いを受けることができます。
  1. 相続人全員の同意書を金融機関の窓口に提出して申請する
  2. 他の相続人の同意なく金融機関の窓口で申請する
  3. 家庭裁判所に申し立てる
23については、法改正によって201971日から施行された新しい制度です。施行日以前に相続が開始されていても、施行日以降であれば、利用することができます。

相続人全員の同意書を金融機関の窓口に提出して申請する

1は、法改正以前からある制度ですが、相続人全員の同意書が必要であり、相続人が多い場合は同意書を集めるのが大変でしょう。同意書があれば、葬儀費用分に留まらず、預貯金の全額をおろすこともできます。 後述の2の方法では仮払い額が足りず、かつ、相続人全員の同意書を集めることが可能なケースで利用するとよいでしょう。

他の相続人の同意なく金融機関の窓口で申請する

2は、同意書は不要ですが、払戻し可能額に一定の上限額が設けられています。上限額は、基本的には次の式で計算します。
相続開始時の預貯金債権の額(預貯金残高)×1/3×仮払いを求める相続人の法定相続分
ただし、一つの金融機関から受けられる仮払いの上限額は、法務省令によって150万円と定められています。

事例

例えば、A銀行に600万円、B銀行に1,200万円の預金があって、仮払いを求める相続人の法定相続分が2分の1の場合にそれぞれの銀行から受けられる仮払いの上限は、A銀行については100万円(600万円×1/3×1/2)、B銀行については150万円(「1,200万円×1/3×1/2200万円」となりますが、法務省令に定められた上限額を超えているため)となります。 仮払いを受けた分は、遺産分割の際に相続分から差し引かれます。上限額の範囲で事足りるのであれば、この方法が最もお勧めです。

家庭裁判所に申し立てる

3は、同意書は不要で、かつ、仮払い金額に上限がありません。しかし、仮払いが必要な理由が求められ、理由が不当である場合には認められません。 また、仮払いの申立てに先行して、家庭裁判所に遺産分割調停(または審判)を申し立てる必要があります。 したがって、3は、遺産分割調停が長引きそうで仮払いが必要な場合に利用すべきであり、葬儀費用目的には不向きです。

葬儀費用は相続税の計算の元となる相続財産の価額から控除できる

葬儀費用のうち一定の要件を満たすものについては、相続税の計算時に控除することができ、相続税の税額を減らすことができます。

まとめ

以上、相続財産から葬儀費用を支払う前に知っておくべきことについて説明しました。 葬儀費用を巡って相続人間で揉めている場合や、相続放棄をする可能性があるものの相続財産から葬儀費用を支払いたい場合は、弁護士に相談することをお勧めします。 相続税の葬儀費用控除については税理士に相談することをお勧めします。

この記事を書いた人

株式会社鎌倉新書 いい相続

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