特別受益に時効はある?何年前までの贈与が持ち戻しの対象?
特別受益の持ち戻しの対象となる贈与に期間の制限(時効)はあるでしょうか。
いったい何年前までの贈与がその対象になるのでしょうか。
このことが気になって、遺贈や、生前贈与でもらった遺産を使えずに困っている方もいるかもしれません。
この記事では、まず先に特別受益についての説明をした上で、特別受益の時効について説明していきます。
[ご注意]
記事は、公開日(2020年6月30日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
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目次
特別受益の持ち戻しとは?
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。
特別受益を受けた相続人がいる場合は、遺産分割における当該相続人の取得分を、特別受益を受けた価額に応じて減らす必要があるので、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分が算定されます。
算式で表すと以下のようになります。
このようにして具体的相続分を算定することを特別受益の持ち戻しといいます。
遺産相続手続きは理解の難しい仕組みや制度がたくさんあります。正しく、そして不利益が出ないようにするために、ぜひ専門家に相談してみることをご検討ください。
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特別受益の範囲は?
特別受益の範囲について、民法903条1項には次のように定められています。
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
特別受益の範囲については、「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」と定められています。
遺贈については、条件が付けられていませんから、遺贈によって取得した財産はすべて特別受益に含まれます。死因贈与も遺贈と同様にすべて特別受益に当たると考えて差し支えありません。
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生前贈与については、すべての贈与が特別受益となるわけではなく、次の3つの目的で行われた贈与が特別受益に当たるとされています。
- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
以下、それぞれについて説明します。
婚姻のための贈与
婚姻のための贈与は額面通りすべて特別受益に当たるのかというと、そういうわけではありません。婚姻のための贈与であっても特別受益に当たらないとされているものもあります。
そもそも、特別受益の制度趣旨は、遺産の前渡しによる不公平を是正することにあります。
婚姻のための贈与であっても、遺産の前渡しとは言えないようなものであれば、特別受益には当たらないとされます。
また、生計の資本としての贈与と並列関係になっていることからも、生計の資本としての贈与と比べても遜色がないくらいのまとまった金額であることが、特別受益に当たるとする一つの考慮要素となっていると考えられます。
とはいっても、金額の多寡や贈与の名目だけで、一概に特別受益に当たるかどうかを判断することはできません。
挙式費用は伝統的に特別受益に当たらないとされてきましたが、これは、従前結婚式が、親が主催し、親が客を招待するものであったことが関係しています。
主催者である親が挙式費用を負担するのは当然であり、特別受益には当たらないと考えられてきました。しかし、時代は変わり、今では、本人が主催する結婚式の方が多いでしょう。また、挙式にかかる費用も人それぞれになってきました。
そうすると、兄の時はあまり挙式費用がかからず親からの援助も少額であったのに、弟の時は本人が豪華な結婚式を行ったため親も多額の援助をしたというケースもあり得ます。
そのような場合にまで、挙式費用は特別受益には当たらないと言い切ってよいかは疑問の余地があるように思われます。
養子縁組のための贈与
養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組がありますが、普通養子縁組の場合は、実親と養親の両方の相続人となることができ、特別養子縁組の場合は、実親の相続人となることはできず、養親に対してのみ相続人となることができます。
普通養子縁組に出す際に、実親が持参金として贈与することがありますが、この贈与は特別受益に当たります。
また、養子と特別受益に関する論点として、養子縁組前の養親からの贈与が特別受益に当たるかという点があります。
この点について、養子縁組前であっても、相続人間の公平の観点から、特別受益に当たるとされる余地はあり得ます。
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生計の資本としての贈与
生計の資本というぐらいですから、お小遣いや交遊費程度の金額の贈与は含まれないでしょう。
扶養の範囲内の生活費の援助も特別受益には当たりません。扶養の範囲を超える援助は特別受益に当たります。
学費についても一般的な私立大学の学費ぐらいまでは、通常、特別受益に当たらず、私立の医学部や長期留学費用となると、特別受益に当たる可能性があります。
しかし、これもケースによりけりで、例えば、他の兄弟が自分のお金で定時制高校に通ったのに、一人だけ私立大学に行かせてもらったとしたら、医学部でなくてもその学費は特別受益に含まれる余地はありそうです。
このほか、開業資金やマイホームの取得資金の贈与も特別受益に含まれる可能性があるでしょう。また、金銭だけでなく、土地や建物の贈与も特別受益に当たりえます。
贈与でなくても、土地や建物を無償で貸してあげた場合も特別受益に当たる可能性があります。
何年前の贈与でも持ち戻しの対象となる
特別受益の持ち戻し対象となる贈与の期間に制限はありません。つまり、時効がないということで、相続開始の何年前の贈与でも、特別受益に該当すれば、持ち戻しの対象となります。
10年前でも50年前でも違いはありません。
特別受益の持ち戻し免除とは?
被相続人が特別受益の持ち戻しを免除する意思を表示した場合は、持ち戻しは免除されます。
特別受益の持ち戻しの免除とは、特別受益の持ち戻しをさせないことです。つまり、特別受益の持ち戻しが免除されると、特別受益の価額を相続財産の価額に加えることはありません。
持ち戻しの免除があっても遺留分侵害額請求はできる
免除があったとしても贈与や遺贈が遺留分を侵害する場合は、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
被相続人が財産を遺留分権利者以外に贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。これを遺留分侵害額請求と言います。
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遺留分の算定において価額を算入できるのは相続開始前10年以内
相続人に対する贈与のうち、遺留分の算定において価額を算入できるのは、相続開始前10年以内の特別受益に該当する贈与に限ります。(なお、被相続人と受贈者の両者が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合には、10年以上前の贈与であっても遺留分侵害額請求の対象となります。)
2019年7月1日に改正民法が施行され、このようになりました。改正前に開始された相続には適用されません(10年の期間制限なく持ち戻しできます)。
この記事を書いた人
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