換価分割の税金とメリット・デメリット、代償分割との比較
家族が亡くなった後、いきなり電話がかかってきて「親の借金が残っている」と言われれば誰だって驚くでしょう。遺産分割の方法のひとつに「換価分割」という方法があります。これは、分割対象である遺産を売却して金銭にかえてから共同相続人間で分割するというものです。遺産に不動産や株式などが含まれるときに使われます。
遺産分割の方法には他にも「現物分割」「代償分割」があり、それぞれメリット・デメリットが…。ちなみに換価分割のデメリットとしては遺産分割協議書や相続登記の際に換価分割である旨を記載しないと相続税・贈与税と譲渡所得税が二重に課されることも。これから遺産分割をされる方は、違いを理解し、最善の方法を取りましょう。今回は換価分割について、その方法や税金について説明します。
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記事は、公開日(2018年10月25日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
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換価分割とは何か
換価分割とは
換価分割とは遺産分割において、分割対象である遺産を売却して金銭にかえてから共同相続人間で分割するという方法です。
なお、遺産分割については以下の記事をご覧ください。
換価分割以外の方法
遺産分割には換価分割以外にも現物分割と代償分割という方法があります。
現物分割
現物分割は、例えば1筆の土地を2筆に分けるように、遺産を物理的に分割する方法です。一見、単純明快なようですが、実は簡単ではありません。
例えば土地の値段は、北側か南側か、接道しているか否か等によって価値に差があるので、単純に面積だけを基準として分割すると不公平になるからです。実際には、分割の仕方について、なかなか合意に至らないケースが多く見られます。
代償分割
代償分割は、共同相続人の中に法定相続分以上の遺産を相続する者と法定相続分に足りない者が生じる場合に、遺産をとりすぎている者が、代償金を支払うことで共同相続人間の公平を図るという分割方法です。
この方法によれば、共同相続人間に不公平が生じている場合でも、金銭で調整を図ることができるので、弾力的な遺産分割が可能となります。ただし、代償金を幾らとするのが公平かという問題では争いが生じがちです。
また代償金に充てる原資がないと、この方法は取れません。
換価分割のメリット
換価分割は争いが生じにくい
換価分割は、現物分割のように分け方によって不公平が生じることはありません。また、代償分割のように代償金の金額をめぐって争いが生じることもありません。
不要な遺産を処分
遺産である不動産が共同相続人らの居住地から離れた地方に存在する場合など、共同相続人の誰もが取得することを希望しないというケースがあります。
そのような場合は、換金してから分割した方が簡明です。
遺産分割の調整
現物分割は、多くの場合、相続人間の公平を保つ分け方を見つけることは困難です。代償分割は、誰かが代償金を支払う財力を有していなくては成り立ちません。
換価分割であれば、換金した現金の配分額で、いくらでも弾力的に相続分を調整することができます。
納税資金の調達
相続人らが納税資金を持っていない場合であっても、換価分割であれば容易に資金調達が可能となります。
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換価分割の方法
実際の換価分割の方法は、換価と分割のどちらを先に行うか?換価のための売却を誰の名義で行うかによって、4つのケースに分けることができます。
換価と分割のどちらを先に行うか
換価先行型
まず遺産を売却して換価した後に、その代金の分割割合を決めるケースがあります。ここでは「換価先行型」と呼ぶことにします。
次のような場合です。
例1
遺産の土地が複数あるが、代償金を支払う資力のある相続人がいない場合、まず遺産の土地の一部を換価して、遺産を「土地+現金」としたうえで、その遺産分割協議を行います。
現金部分の配分によって相続人間の公平を調整することができます。
例2
当事者間での遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所での遺産分割調停もまとまらなかった場合は、最終的に家庭裁判所の審判で遺産分割の方法が決せられます。
このときに裁判官が現物分割も代償分割も無理であると判断すれば、換価分割を命じることができます。
遺産を競売または任意売却して現金にしてから、裁判所の決めたとおりに配分せよと命令する形になりますので、換価が分割に先行します。
分割先行型
先に代金の分割割合を決めておいてから遺産を換価するケースがあります。
ここでは「分割先行型」と呼ぶことにします。
例えば、遺産が1筆の土地しかない場合や全部の遺産を処分してしまう場合のように、現金の配分だけで決着がつくときは、この方法をとることになります。
換価時の登記名義をどうするか
遺産を売却する際に、不動産の登記名義をどのようにするかによって、2つのケースに分かれます。
共有登記型
法定相続分による共有名義での相続登記を行い、その登記名義のまま換価するケースがあります。
ここでは「共有登記型」と呼ぶことにします。
単独登記型
共同相続人のうちの1人の名義とする単独の相続登記をしてから換価するケースがあります。
ここでは、「単独登記型」と呼ぶことにします。
例えば、共同相続人がAとBの2名で、遺産である不動産を換価するにあたって、Aの知人Cが買ってくれることになったが、CはAとの長年の信頼関係故に購入に応じるので、売主はA単独としてほしいと希望するケースが考えられます。
あるいは、共同相続人が多数存在する場合には、買主は、売主の負担する責任が多数人に分散することを嫌って、複数人のうちの誰かを売主とするよう希望する場合があります。
そのような場合に、単独登記型が選択されることになります。
換価分割と相続税
換価分割において、遺産が予想より高い値段で売れた場合、相続税が高くなってしまうのではないかと心配される方がおられますが、その心配は無用です。
相続税は、相続開始時点(通常は亡くなった時)における相続財産の評価額に基づいて計算されます。
相続開始時点よりも後に、価値が上昇したり、高く売れたりしても相続税に影響はありません。
このように、相続税の仕組みや計算方法には難しい点がたくさんあります。正しく、そして不利益が出ないようにするために、ぜひ専門の税理士などに相談してみることをご検討ください。
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換価分割と贈与税
単独登記型は贈与税が問題となります。贈与税については関連記事を参考にしてください。
換価分割が単独登記型で行われる場合、形式上は単独登記をした名義人が遺産の売主となり代金を受け取ることになります。
その代金を、後に他の共同相続人に配分することになるので、これは贈与に該当して、贈与税がかかるのではないかという疑問が生じます。
共有登記型ではこの問題は生じません。
この点、国税庁の見解は、単独の相続登記が換価のための単なる便宜であって、その代金が実際に遺産分割協議や遺産分割調停の内容に従って実際に分配されたなら贈与税の問題は生じないとしています。
そこで贈与税を課税されないためには、遺産分割協議書に、換価分割を行うことと換価した売却代金の分配割合を明記しておくべきです。
被相続人(亡くなった人)がA、相続人がB及びC、遺産として土地1筆があったとします。
その場合は、遺産分割協議書には以下のように記載します。
被相続人Aの遺産相続につき、相続人Bと相続人Cは、遺産分割協議を行い、本日、次のとおり合意した。 1.後記の表示記載の土地(以下「本件土地」)を売却する。 2.本件土地の売却代金から売却に伴う経費を控除した金額を各2分の1ずつ分割取得する。 3.売却の便宜のため、Bが本件土地につき単独相続の登記を行うことをCは承諾する。 |
「3.」の記載は、換価分割の便宜のための単独相続登記である趣旨を明確にするために記載することが望ましいでしょう。
なお遺産分割調停において分割の割合が決まった場合に、調停調書に割合の記載はあるものの、換価分割を行う旨の記載が明記されていないケースも考えられます。
その場合は、万全を期すために、調停調書とは別に上記の内容の遺産分割協議書(書類名は「合意書」、「確認書」、「協議書」など、何でも構いません)を作成しておくことがベストでしょう。
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換価分割と譲渡所得税
換価分割は譲渡所得税の対象となる
換価分割は、譲渡所得税がかかります。
相続による遺産の取得は、相続発生時点(被相続人の死亡時点)において生じています。相続発生後に遺産分割が行われた場合でも、相続発生時にさかのぼって相続の効力が生じたものとされます(民法第909条)。
このため換価分割は、相続開始時に取得済みの財産を第三者に譲渡したものと扱われ、譲渡所得税の対象となるのです。
そこで、換価分割の場合に具体的にどのように申告をすればよいのかを以下に説明します。
分割先行型の場合
あらかじめ代金の分割割合を確定しておいてから換価する分割先行型の場合を説明します。
この場合は、実際に代金が配分されるのは換価後ですが、あらかじめ配分割合が決まっているため、その割合で取得した遺産を各人が売却したものと扱われます。
法定相続分で代金を配分するとき
各相続人が法定相続分に応じた遺産を換価したものとして、法定相続分に応じた申告をすることになります。
法定相続分以外の割合で配分するとき
あらかじめ換価代金の配分割合を定めていたときは、その割合で遺産を分割することを定めたことと同じであり、各人が、その割合で取得した遺産を換価(譲渡)したものとして、その割合に応じた申告をすることになります。
換価先行型の場合
換価時点では、代金の配分割合が決まっておらず、換価後に協議などで決定する換価先行型の場合を説明します。
原則
この点、国税庁の見解は、原則として各人がその法定相続分による申告をすることが必要としています。その理由は、次のとおりです。
- 譲渡所得税は、譲渡する資産の引渡日を「収入すべき時期」(収益があったとされる時期のこと)(所得税基本通達36-12)としていること。
- 資産引渡日の時点では、代金の分割割合が未定であるから、法定相続分による共有状態のまま譲渡したことになること。
- 売却後に行われる遺産分割の対象は売却代金であって、すでに売ってしまった遺産ではないこと。
例外
所得税の確定申告の期限(翌年の3月15日)までに、実際に代金が分割されて、共同相続人の全員がそのとおりの取得割合に基づいて確定申告をした場合は、法定相続分による申告でなくとも認められます。
それ以外の場合は、たとえ法定相続分での申告後に、それと異なる割合で代金を現実に分割していても、更正の請求は認められません。
更正の請求とは、申告等をした税額等が実際より多かったときに正しい額に訂正することを求めることです。この国税庁の取り扱いによれば、換価先行型では、売却後の協議で法定相続分よりも少ない割合の配分となった相続人は、実際には取得していない譲渡益について課税されてしまう危険があります。
従って、このような場合には、翌年の確定申告期限までに、自分だけでなく、他の共同相続人にも現実に配分された割合に基づく申告を確実にさせることが必要です。
換価分割における譲渡所得税の計算方法
換価分割における譲渡所得税の計算について、基本的な事項を説明します。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税の金額(所得税額)を求める算式は次のとおりです。
課税譲渡所得金額については、次の項目で説明します。
税率は、譲渡した年の1月1日現在の不動産の所有期間が5年を超える長期譲渡所得か、5年を超えない短期譲渡所得かによって異なります。
- 長期譲渡所得の場合は、所得税15%、住民税5%です。
- 短期譲渡所得の場合は、所得税30%、住民税9%です。
なお、ここにいう不動産の所有期間とは、その不動産の所有権を取得した日の翌日から起算します。
相続の場合は、被相続人が所有権を取得した日の翌日が起算日です(租税特別措置法施行令20条2項3号)。
課税譲渡所得金額の計算方法
- 譲渡価額
- 売却代金
- 取得費
- 購入代金等から減価償却費相当額を差し引いた金額。相続税の申告期限から3年以内に売却した場合であれば、納付済み相続税のうち、売却した資産に対応する金額を取得費に加算できます。
- 譲渡費用
- 仲介手数料、測量費、立退料、建物解体費等
- 特別控除額
- 「居住用財産の譲渡の特例」(3,000万円の控除)等
譲渡価額とは売却代金のことです。
換価分割の場合、相続税を支払うとともに譲渡所得税も支払わなくてはならず、二重の課税となってしまうデメリットがあります。
納付済みの相続税を取得費として加算することが認められるのは、この不利益を調整する目的とされています。
従って換価分割をする場合は、相続税申告期限から3年以内という時間制限を守らないと、二重課税で損失を被ることになってしまいます。
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換価分割のデメリット
上に説明した内容のうち換価分割のデメリット部分は、ご注意いただくべき事項として、ここにまとめておきます。
単独登記型の換価分割は、遺産分割協議書で、換価分割であること、単独の相続登記は換価の便宜に過ぎないことなどを明記しておかないと贈与税を課税される危険があります。
換価分割は譲渡所得税がかかり、換価先行型の場合、法定相続分の割合で譲渡したものと扱われることが原則です。
ただし、翌年の申告期限までに、法定相続分と異なる割合で代金を配分した事実を、共同相続人全員が申告すれば、その申告は認められます。
したがって、この全員による申告がきちんと行われないと現実に取得した代金と異なる課税がされてしまう危険があります。
相続税の納付期限から3年以内の換価であれば、支払い済みの相続税のうち、換価した財産に相当する金額は、譲渡所得税の計算において取得費に加算されます。
3年という期限を過ぎてしまうと、この特典を受けられないので、相続税と譲渡所得税を二重に支払う不利益を受けます。
まとめ
相続財産の換価分割について説明をしました。
換価分割は、遺産分割協議がうまくいかない場合の最終的な手段として機能することが多いですが、特に贈与税と譲渡所得税との関係で注意しなくてはならない事項があることがお分かりいただけたと思います。
換価分割について悩みの方は専門家である税理士に相談されることをおすすめいたします。
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この記事を書いた人
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