生前贈与で贈与税がかからない方法や、非課税になる財産は?
節税対策として、生前贈与を考える人は多いです。
しかし、生前贈与した財産には贈与税がかかる場合があります。せっかく財産をもらえたのに、税金が多くかかってしまうのはもったいない!
ですが落ち込む必要はありません。贈与税をなるべく抑えるための対策があるからです。たとえば贈与税には年間110万の基礎控除があるので、110万円以内までに金額を抑えて贈与すれば、贈与税はかかりません。
まず、贈与税がかかる場合、かからないときについて詳しく知っておく必要があります。そのうえで贈与税対策を行いましょう。
この記事では、贈与税がかからない場合や、贈与税の課税方式などもあわせて紹介します。
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[ご注意]
記事は、公開日(2018年9月18日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
贈与税とは?
まずは、贈与税について確認しておきましょう。
贈与税とは、個人(生きている人)から財産をもらったときに発生する税金を言います。
財産をもらったときだけでなく、「債務を免除された」などの実質的に財産を贈与されたの場合にも、贈与税は発生します。
贈与税は財産をもらった人(受遺者)が払わなければいけません。
相続税と贈与税の違い
自分の財産を子や孫に贈与したい…と考える人は、相続税と贈与税の違いを把握しておく必要があります。
相続税は自分が亡くなって遺産を相続するときに課せられる税金です。相続税と贈与税は継承する財産の金額によって、税率が異なります。
さらに、相続税には基礎控除があり「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出された金額までは相続税がかかりません。
そのため相続か贈与か、どちらがより税金が少なくなるかは慎重に検討してください。
相続税と贈与税の税率については、関連記事も合わせてご覧ください。
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贈与税がかからない財産
贈与される財産の中には、その性質や目的のため贈与税をかけるのが不適当とされるものがあります。このような財産を非課税財産と言います。例として、以下のものが挙げられます。
- 法人からの贈与により取得した財産
- 法人から贈与された財産は所得税がかかるので、贈与税はかかりません。
- 扶養義務者からの生活費・教育費
- 夫婦、親子、兄弟姉妹といった扶養義務者からその都度受け取った、日常生活に必要な生活費や教育費、学費、教材費などには贈与税はかかりません。
ただし、その資金を貯金したり、株式などに充てている場合には贈与税がかかります。
- 香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物、見舞いの品など
- 香典など社会通念上認められるものは非課税財産とされています。
- 奨学金(一定の要件を満たす特別公益信託(法人、団体)から給付されるもの)
- 貸与型の奨学金は借金と同じなので、所得税も贈与税も発生しません。給付型の奨学金については、要件を満たしている法人、団体からであれば贈与税はかかりません。
- 特別障害者扶養信託契約に基づく信託受益権
- 特定障害者が、信託契約に基づいて生活費や医療費を支給される場合、6,000万円まで贈与税がかかりません。(後述)
- 心身障害者扶養共済制度に基づく給付金
- 市区町村が条例によって実施する、心身障害者扶養共済制度に基づいて支給される給付金(脱退一時金を除く)は、相続税や贈与税がかかりません。
- 公益事業用の財産
- 宗教、慈善、学校などの公益事業を行う人が贈与された財産には、贈与税がかかりません。
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贈与税がかからない方法
原則として、贈与税は贈与されたすべての財産に課されますが、贈与税がかからない金額の範囲や、贈与税がかからない方法、贈与税を減らす方法があります。
- 暦年課税制度の基礎控除を利用する(年間110万)
- 「相続時精算課税制度」を利用する(2,500万円まで)
- 「配偶者控除の特例」を利用する(2,000万円まで)
- 「住宅取得等の非課税の特例」を利用する(1,500万円まで)
- 「結婚、子育て資金の非課税制度」を利用する(1,000万円まで)
- 「教育資金の非課税制度」を利用する(1,500万円まで)
- 「特定障害者等に対する贈与税の非課税制度」を利用する(6,000万円まで)
暦年課税制度の基礎控除を利用する(年間110万まで)
贈与するときに「暦年課税制度」を利用する場合は、年間110万円の基礎控除があります。その金額以下の贈与であれば贈与税はかかりません。
一方、110万円を超えた場合は、基礎控除110万円を差し引いた金額に税率をかけて、贈与税額を算出します。
110万以下であれば贈与税申告の必要はありません。贈与税が発生する場合は、贈与した年の翌年の1月1日から3月15日の間に申告・納付を行います。
「相続時精算課税制度」を利用する(2,500万円まで)
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の親や祖父母から、20歳以上の子または孫に贈与する場合に選択できる課税方式です。
受け取った財産の合計額から特別控除額2,500万円を差し引くことができるため、2,500万円までは贈与税がかかりません。
お得な制度に聞こえますが、注意が必要です。というのも贈与税はかかりませんが、相続時にはこの制度により取得した贈与財産と、その他の相続財産とを合わせた遺産総額に相続税が課税されます。
なお、2,500円を超える分には一律20%の贈与税が課されます。
相続時精算課税制度を選択する場合には、必要書類を揃えて税務署に申告しなければなりません。
また、相続時精算課税制度を選択すると、上記の暦年課税制度の110万円の基礎控除を利用することはできず、さらに取り消すこともできません。したがって、暦年課税制度を利用するか、相続時精算課税制度にするか、十分に検討する必要があります。
(1億円-2,500万円=7,500万円)✕20%=1,500万円
控除額2,500万円を引いた7,500万円に贈与税がかかることになり、税率20%をかけると、贈与税額は1,500万円となります。
「配偶者控除の特例」を利用する(2,000万円まで)
「配偶者控除の特例」とは、「居住用不動産」または「居住用不動産を取得するための金銭」の贈与が婚姻期間20年を超えてから行われた場合等に、暦年課税制度の基礎控除110万円のほかに、最大2000万円まで贈与税を控除できるという特例です。
この特例の名称は、正式には「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」ですが、「おしどり贈与」「夫婦間贈与の特例」と呼ばれることもあります。
3,000万円-110万円-2,000万円=890万円 が課税価格となります。
890万円にかかる贈与税は、
890万円×40%-125万円=231万円 となります。
配偶者控除の特例の要件
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
なお、配偶者控除の特例は、同じ配偶者からの贈与では一度しか利用しかできません。
「住宅取得等の非課税の特例」を利用する(最大1,500万円まで)
「住宅取得等資金の非課税の特例」とは、2015年から2021年までの間に、親や祖父母等から受けた贈与を資金として住宅を取得する等した場合に、法律で定められた非課税限度額まで贈与額が非課税になる特例です。
最大1,500万円まで非課税になりますが、その金額については家屋の種類(省エネ住宅かどうか)、消費税率、契約締結日などで変わります。
住宅取得資金の贈与税の非課税の特例は、配偶者控除の特例と同じように暦年課税の基礎控除を併用することが可能です。
しかし、期限が決まっていること、条件によってはあまり非課税にならないかもしれません。
そのほか、「小規模宅地等の特例」(自宅を相続したときに、相続税評価額を330㎡まで最大8割引きになる制度)が受けられなくなるデメリットも。
詳しい要件や申告方法、注意したい点などは関連記事をご覧ください。
「結婚、子育て資金の非課税制度」を利用する(1,000万円まで)
親から子、孫に結婚、子育て、出産のための費用を一括贈与する場合、ひとりに対して1,000万円までの贈与が非課税になります。
なお1,000万円のうち、結婚費用にあてられる費用は300万円までです。
この特例の適用を受けるには、金融機関で専用口座を開設する必要があります。また、申告書も必要です。
令和3(2021)年税制改正により適用期限が2年延長され、令和5(2023)年3月31日まで適用を受けることができます。
なお、贈与した親が亡くなったときに贈与された金額に残高が残っていた場合、相続税の対象となります。また、受遺者が孫だった場合、相続税の2割加算(相続税が2割増される)の適用対象となるので注意が必要です。
結婚、子育て資金とは
結婚、子育て資金の具体例は下記のとおりです。
- 挙式費用
- 衣装代などの婚礼費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの)
- 家賃、敷金等、転居費用
- 不妊治療・妊婦健診に要する費用
- 分娩費用・産後ケアに要する費用
- 子の医療費、幼稚園・保育園の保育料
そもそも生活費・教育費には贈与税がかからない
上記の通り子や孫に結婚・子育て費用の援助をする場合、そもそも生活費・教育費として必要だと認められるものはその都度充てるのであれば、贈与税はかかりません。
「教育資金の非課税制度」を利用する(1,500万円まで)
教育資金の非課税制度とは、親や祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合に、一定の要件を満たすと1,500万円まで非課税になる制度です。
こちらも金融機関で専用口座を開設し、教育資金管理契約を結ばなければいけません。贈与されたお金は教育資金にしか使うことはできません。それを証明するために、領収書など用途を証明できるものを金融機関に提出しなければなりません。
他の目的で使用した場合は贈与税がかかります。また、受遺者が30歳になった時点で使いきれなかった分にも贈与税が発生します。
また贈与した親・祖父母が亡くなったときに残高が残っていた場合、その残高に相続税がかかります。
そもそも生活費・教育費には贈与税がかからない
上記の通り生活費や教育費にあたる金銭の、その都度の贈与であれば贈与税はかかりません。
しかし、一括で贈与したい場合などであれば、この制度を利用しても良いかもしれません。
「特定障害者等に対する贈与税の非課税制度」を利用する(最大6,000万円まで)
「特定障害者等に対する贈与税の非課税制度」とは生活費や治療費として使うために、親や祖父母が障害者に資金を贈与する場合に贈与税が非課税になる制度です。
特別障害者については6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者の方については3,000万円が限度額になります。
信託会社に財産を預け、信託会社を通じて税務署に「障害者非課税信託申告書」を提出します。
信託会社が財産の管理・運用をするため、贈与した人が亡くなっても確実に贈与できるのがメリットと言えます。
一方、デメリットとしては信託会社への手数料がかかること、信託(贈与)できる財産が限られる(金銭、有価証券、不動産など、収益を生じる財産や換金性の高い財産)ことなどが挙げられます。
特別障害者
特別障害者とは、障害者のうち特に重度の障害をもつ人のことを言います。
- 身体障害者一級または二級の人
- 精神障害者一級の人
- 重度の知的障害者と判定された人
- いつも病床にいて、複雑な介護を受ける必要がある人
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この記事を書いた人
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