身寄りがない人の入院・老後・死亡後の手続きに関する全知識
一緒に暮らす家族や身寄りがいない…という人にとっては、入院や介護、年金などの老後についてどうすれば良いのか、心配になりますよね。
入院や介護施設に入所する際は、身元保証人もしくは身元引受人が求められることがあります。急に体調を崩したときに入院できない、では困りますから、あらかじめ身元保証会社などを検討しておくことをおすすめします。
もうひとつ、大事なことは死後の手続きです。身寄りのない人が亡くなったときの遺品整理や事務手続きなど、誰かに頼んでおかないといけません。その場合、死後事務委任契約などの方法が取られます。
この記事では、身寄りのない人の老後について、詳しく解説していきます。
特に、入院や老後の生活、死亡後の手続きについて知りたい方などは是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、公開日(2020年2月26日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
身寄りがないと困ること
身寄りがないと、次のような場合に困ることがあります。
- 入院
- 老後
- 死亡後の手続き
以下では、それぞれのケースにおいて、どのようなことで困るのか、そして、どのように対処すればよいのかについて説明します。
是非、参考にしてください。
身寄りがない人の入院
ほとんどの医療機関では、入院時に、身元保証人・身元引受人が求められます。
身元保証人
身元保証人・身元引受人に求められる役割は、その医療機関によって異なりますが、通常、身元保証人は次のような役割を求められることが多いです。
- 債務の保証
- 緊急時の連絡先
- 医療行為の同意
- 退院時の身柄の引受け
- 遺体および遺品の引取り
身元引受人
また身元引受人は、通常、上記の身元保証人の役割のうち、債務保証以外のものについて求められることが多いです。
身寄りがない場合、入院時の身元保証人等を誰にお願いするかという問題が生じます。
この点、現在では、身元保証人等になってくれる人を見つけることができなかったとしても、入院を拒否されることはほとんどありません。
医療機関の監督官庁である厚生労働省によって、身元保証人等がいないことを理由とした入院拒否は法律に抵触するという見解が示されたため、かつては入院拒否をしていた医療機関も対応を改めるようになったのです。
しかし、身元保証人等がいなくても入院拒否されることはなくなったとはいえ、身元保証人等の役割が必要なくなったわけではありません。
身元保証人等には、入院費用の支払いを保証したり、病状が急変した場等の緊急連絡先としての役割や、入院中に亡くなった場合に遺体や遺品を引き取ったりするといった役割があります。
支払保証
入院費用の支払保証については、身元保証人等がいない代わりに、医療機関から、クレジットカード決済や保証会社の利用、入院保証金や預託金の差入れを求められることがあるでしょう。
また、経済的に困窮している場合は、生活保護の申請を勧められることもあるでしょう。
緊急連絡先
病状が急変したとき等の緊急連絡先としての役割は、身元保証人等でなければ担えないわけではないので、身元保証人等がいない場合は急変時に連絡してほしい人を別途指定するとよいでしょう。
遺体・遺品の引き取り
入院中に亡くなってしまった場合、身元保証人等がいる場合は、その人が葬祭の手配をしたり、遺品を引き取ったりしますが、葬祭を行う人がいない場合、自治体が埋葬や遺品の処分を行うことになります。
したがって、身元保証人等がいないからといって、医療機関に遺体や遺品が放置されるようなことはありません。
埋葬や遺品の処分以外に委任したい死後事務がある場合は、信頼を置ける受任者(親族、友人・知人、弁護士、司法書士、行政書士など)に死後事務委任契約を申し込んでおくことを検討してもよいでしょう。
死後事務委任契約とは、生前のうちに受任者との間で、亡くなった後の諸手続き、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等(死後事務)について委任しておく契約のことをいいます(後述)。
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まずは弁護士にご相談ください
身寄りがない人の老後
身寄りがない人は次のような場合に備えて、早めに対策を講じておくとよいでしょう。
- 生活支援が必要になった場合
- 判断能力が十分でなくなった場合
- 介護が必要になった場合
以下、それぞれについて説明します。
生活支援が必要になった場合
高齢になると身体機能の衰えによって、日常生活において、ちょっとした支援が必要になることが多々あります。
身寄りがある人の場合は身内を頼ることもできますが、身寄りがない人の場合はどうすればよいのでしょうか?
要支援認定や要介護認定を受けている場合は、ホームヘルプサービスやデイサービスを介護保険の適用を受けて利用することができますが、要支援認定基準を満たしていなくても、日常生活におけるちょっとした支援が必要になるケースは多々あります。
判断能力が不十分になった場合は、日常生活自立支援事業等の公的サービスが受けられますが、判断能力には問題がなく身体的な問題で支援が必要な人は利用できません。
このようなケースでは、地域包括支援センターに相談するとよいでしょう。
必要としている支援の内容によっては地域包括支援センターで支援することができない場合もありますが、民間サービスの利用について相談することもできます。
成年後見制度を利用する
認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度として、成年後見制度があります。
成年後見制度は大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。
法定後見制度
法定後見制度は判断能力が十分でなくなってから利用する制度ですが、判断能力に問題が生じると、そのことに自分では気づかないこともありますし、身寄りがないと、身内が成年後見の申立てをしてくれることもありません。
任意後見制度
この点、任意後見制度は判断能力に問題がないうちから準備しておくことができます。
身寄りがない人は、元気なうちから任意後見制度について調べておくとよいでしょう。
日常生活自立支援事業
また、判断能力が十分でない人に対する公的サービスとして、日常生活自立支援事業があります。
成年後見制度は、日常的な金銭に留まらないすべての財産管理や福祉施設の入退所など生活全般の支援(身上監護)に関する契約等の法律行為を援助することができるのに対して、日常生活自立支援事業は、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭等の管理に限定したサービスです。
介護が必要になった場合
身寄りがない人の場合、介護が必要な状態になったことに周囲が気付かず、結果として介護サービスを受けられないことがあります。
そのようなことにならないように、事前に専門家と任意後見契約を締結しておいたり、見守りサービスを契約しておく等の対策が重要です。
また、身寄りがない人の場合、介護施設に入居する際に求められる身元保証人になってくれる人がいない、という入院と同様の問題が発生します。
入院の場合は、前述の厚生労働省の通知があるので、身元保証人がいなくても入院を拒否されることはほとんどなくなりましたが、介護施設の場合は、身元保証人がいないと入居できない施設も存在します。
しかしながら、すべての施設がそういうわけではありません。
身元保証人が不要の施設もあるので、身寄りがない人の場合は、そのような施設の中から入居施設を選ぶとよいでしょう。
判断能力が衰えてくると入居施設の選定がうまくできないことがあるため、元気な内から介護施設について調べて、任意後見契約の受任者等と話し合っておくとよいでしょう。
なお、身元保証人がいなくても入居できる施設では、身元保証サービスの利用または預託金の差し入れ、および、任意後見契約を締結していること等が条件となっていることが多いです。
身寄りがない人の死亡後の手続き
死後事務委任契約
身寄りがなく、自分の死後に火葬や役所の手続きをしてくれる人がいない場合、どうすればよいのでしょうか?
このような悩みを解決する手段の一つに、「死後事務委任契約」があります。
死後事務委任契約とは、生前のうちに受任者との間で、亡くなった後の諸手続き、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等(死後事務)について委任しておく契約のことをいいます。
死後事務委任契約によって委任する死後事務の内容は、委任者と受任者との間の契約で決めます。
例えば、次のようなものから必要なものを委任することが考えられます。
- 関係者への死亡の連絡
- 死亡届の提出
- 火葬許可証の申請・受領
- 葬儀・火葬に関する手続き
- 埋葬・散骨等に関する手続き
- 供養に関する手続き
- 社会保険・国民健康保険・国民年金保険等の資格喪失手続き
- 病院・施設等の退院・退所手続き・精算
- 住居の管理・明渡し
- 勤務先の退職手続き
- 車両の廃車手続き・移転登録(名銀行)
- 運転免許証の返納
- 遺品整理の手配
- 携帯電話はパソコン等に記録されている情報の抹消
- 各種サービスの解約・精算手続き
- 住民税や固定資産税等の納税手続き
- 遺産や生命保険等に関する手続き
- ペットの引渡し
もっとも、埋葬を行う人がいない場合は、死後事務委任契約によらずとも、自治体が埋葬することになっています。したがって、身寄りがないからといって、死後事務委任契約を結んでおかなければならないわけではありません。
相続手続きには理解の難しい仕組みや制度がたくさんあります。正しく、そして不利益が出ないようにするために、ぜひ専門家に相談してみることをご検討ください。
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この記事を書いた人
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