生前贈与によって遺留分を侵害された場合に侵害額を請求する方法
[ご注意]
記事は、公開日(2019年11月11日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
遺留分とは?
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。 被相続人が財産を遺留分権利者以外に生前贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、生前贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。 遺留分侵害額を請求する権利のことを、遺留分侵害額請求権といいます。遺留分権利者
遺留分権利者は、被相続人と次の関係にある相続人です。- 配偶者
- 子及びその代襲者、再代襲者 ※代襲相続については「代襲相続とは?範囲は?孫や甥・姪でも相続できる代襲相続の全知識」参照
- 直系尊属(父母、祖父母など)
遺留分侵害額の計算方法
遺留分の割合は、誰が相続人であるかによって異なります。 直系尊属のみが相続人の場合は、法定相続分の3分の1で、それ以外の場合は2分の1です(法定相続分について詳しくは「法定相続分とは?相続人の組み合わせパターン別法定相続分の計算方法」を参照)。 法定相続分に対する割合を示されても分かりにくいでしょうから、遺産総額に対する遺留分を下の表にまとめました。相続人の組み合わせ | 遺産総額に対する遺留分 |
---|---|
配偶者と子 |
|
子のみ | 子:1/2(複数いる場合は均等割り) |
配偶者と直系尊属 |
|
直系尊属のみ | 直系尊属:1/3(複数いる場合は均等割り) |
配偶者と兄弟姉妹 |
|
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹:なし |
配偶者のみ | 配偶者:1/2 |
遺留分算定の基礎となる財産の価額に加えることができる贈与
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定すると定められていますが、遺留分の算定の基礎となる財産の価額に加えられるのは、次のいずれかに該当する贈与のみです。- 相続開始前1年以内になされた贈与
- 贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与
- 贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした不相当な対価による有償行為
- 相続人への特別受益に当たる贈与 ※2019年7月1日以降に開始した相続については相続開始前10年以内のものに限られます。
相続開始前1年以内になされた贈与
相続は、通常は、被相続人の死亡によって開始されます。 したがって、相続開始前1年以内というのは、通常は、被相続人の死亡前1年以内を指します。 なお、受贈者が相続人であるかどうかは問われません。 つまり、相続人でない人が贈与を受けた場合も該当します。贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与
1年以上前になされた贈与であっても、贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与は、遺留分減殺請求の対象とすることができます。 「遺留分権利者に損害を与えることを知って」とは、簡単に言うと、「遺留分を侵害することを知って」いることです。 遺留分権利者に損害を与えようという意思があったかどうかは問われません。 遺留分権利者に損害を与えることを知っていたかどうかは、具体的には、次のような点から総合的に判断されます。- 贈与時における贈与者の全財産に占める贈与財産の割合
- 贈与時の贈与者の年齢や健康状態
- 贈与後に贈与者の財産が増える可能性
贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした不相当な対価による有償行為
不相当な対価による有償行為とは、贈与ではなく、譲渡の対価は支払っているものの、その対価が、譲渡された物の価値と釣り合っていない場合のことをいいます。 例えば、被相続人が所有する実勢価格1億円の土地を1000万円で売ってもらったような場合です。 この場合は、差額の9000万円の贈与を受けたものとみなして、遺留分減殺請求の対象とすることができる可能性があります。相続人への特別受益に当たる贈与
相続人への特別受益に当たる贈与も遺留分減殺請求の対象となる可能性が高いです。 特別受益とは、相続人の中に、被相続人から遺贈や多額の生前贈与を受けた人がいる場合、その受けた利益のことをいいます。 すべての贈与が特別受益になるわけではなく、次のいずれかに当たる場合にのみ特別受益になります。- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本のための贈与
請求先の優先順位
遺留分を侵害する遺贈や生前贈与が複数人に対して行われた場合には、その中の誰にでも請求できるわけではありません。 まず、受遺者(遺贈を受けた人)に請求をします。 複数人に対して遺贈があった場合は、遺贈を受けた財産の価額に応じて、同じ割合で請求します。 例えば、ある人が亡くなって、その人の法定相続人が妻と長男と二男の3人であったとします。 相続財産の額は1億円で、6000万円を妻に、4000万円を長男に相続させるという遺言があったとします。 二男の法定相続分は、1億円×1/2×1/2=2500万円で、この場合の遺留分は法定相続分の2分の1なので、2500万円×1/2=1250万円となります。 二男は、被相続人の妻(二男の母)と長男(二男の兄)に対して遺留分侵害額請求を行うことができますが、その割合は、妻(母)に対しては、6000万円÷1億円=3/5、長男(兄)に対しては、4000万円÷1億円=2/5となります。 遺留分は、先ほど計算した通り、1250万円なので、遺留分減殺請求の金額は、妻(母)に対しては、1250万円×3/5=750万円、長男(兄)に対しては、1250万円×2/5=500万円となります。 ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。 例えば、遺言で、長男への請求を優先する旨の記載があれば、二男は、長男(兄)に対して1250万円全額を請求することになります。 受遺者に請求してもなお不足がある場合は、受贈者(贈与を受けた人)に対して請求します。 複数の贈与があった場合は、まず、後の贈与の受贈者に請求して、不足がある場合は順次、前の贈与の受贈者に対して請求します。 例えば、遺留分侵害額が1000万円であったとします。 そして、Aさん、Bさん、Cさんが、それぞれ、次の金額の遺贈又は生前贈与を受けていたとします。- Aさん:遺贈100万円
- Bさん:生前贈与(2018年)1000万円
- Cさん:生前贈与(2017年)6900万円
遺留分侵害額請求権は時効によって消滅する
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する生前贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。 相続開始の時から10年を経過したときも、同様です。遺留分侵害額の請求方法
遺留分侵害額請求は、方式に決まりはなく、口頭でも構いませんし、メールやファクシミリでも構いません。 相手方との関係が悪くなければ、まずは口頭で打診するのも悪くないでしょう。 しかし、前述の通り、遺留分侵害額請求には時効があるため、時効の進行を確実に止めるには、配達証明付き内容証明郵便を送っておいた方がよいでしょう。 遺留分侵害額請求書の文例を下記します。
遺留分侵害額請求書 被相続人○○○○(平成〇年〇月〇日死亡)の相続につき、通知人は相続財産の〇分の1の遺留分を有するところ、平成〇年〇月〇日付遺言書による被通知人の受遺分が、通知人の遺留分を侵害しており、通知人は、被通知人に対し、本書面をもって、遺留分侵害額金○○○○円を請求します。 本書面到達後○日以内に、下記の通知人名義の銀行口座に振り込んでお支払いください。 記 ○○銀行○○支店 普通預金口座 口座番号:○○○○○○○ 口座名義人:○○○○ 以上 令和〇年〇月〇日(作成日日付) 通知人 ○○○○(自分の氏名) ○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号(自分の住所) 被通知人 ○○○○(相手方氏名)殿 ○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号(相手方住所) |
まとめ
以上、生前贈与によって遺留分を侵害された場合に侵害額を請求する方法について説明しました。 遺留分侵害額の請求を検討している人も、請求された人も、一度、弁護士に相談することをお勧めします。この記事を書いた人
相続専門のポータルサイト「いい相続」は、相続でお悩みの方に、全国の税理士・行政書士など相続に強い、経験豊富な専門家をお引き合わせするサービスです。
「遺産相続弁護士ガイド」では、遺産分割や相続手続に関する役立つ情報を「いい相続」編集スタッフがお届けしています。また「いい相続」では、相続に関連する有資格者の皆様に、監修のご協力をいただいています。
▶ いい相続とは
▶ 監修者紹介 | いい相続