【自分で相続登記】流れや費用、免税措置などについて徹底解説
不動産を相続したときに気になるのが、登記のことです。登記をしなくても問題ないという話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
しかし、本当に問題ないのでしょうか?また、相続登記は自分で行うことはできるのでしょうか?
この記事では、令和3年に相続登記の義務化されたことにより、相続登記を自分でスムーズに行うための知識や、司法書士報酬の相場について説明します。
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[ご注意]
記事は、公開日(2018年9月7日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
目次
相続登記とは?
相続登記とは、相続によって不動産の所有権が被相続人(亡くなった人)から相続人に移転したときに、その移転の事実を登記簿に記載する手続きのことです。
「相続による不動産の名義変更」という言われ方をすることもあります。
相続登記の期限
記事執筆日(2018年7月)の法律では、相続登記には期限は設定されていなかったので、相続の10年以上後に登記しても構いませんでしたし、100年後にまだしていなくても強制されることはなかったのです。しかし、2021年4月に法案が成立、土地や建物の相続を知った日から3年以内に登記するよう義務化されました。
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相続登記の義務化
2018年6月に、政府は、相続登記を義務化する方針を決め、2021年、義務化の法案は成立しました。
▼相続登記の義務化について詳しく知りたい方へおすすめの記事▼
相続登記をしないとどうなる?
相続登記をしないでいると、次の4つのリスクがあります。
- 他の相続人の持分を差し押さえられたり、売却されたりするおそれがある
- 不動産の売却・担保設定ができない
- 権利関係が複雑化するおそれがある
- 次の世代に2倍の費用がかかるおそれがある
以下、それぞれについて説明します。
他の相続人の持分を差し押さえられたり、売却されたりするおそれがある
相続不動産の登記をしていなければ、他の相続人の債権者等から不動産を差し押さえられるおそれがあります。
相続不動産は、遺産分割が済むまでは、すべての相続人が相続分に応じて共有している状態です。遺産分割協議で誰がどの財産を取得するかを決めて遺産分割を行うと、協議で決まった相続人がその不動産を取得することになります。
しかし、相続不動産を取得した相続人は、相続登記を行わなければ、その不動産についての権利を第三者に対して主張することはできません。
相続登記を行っていない状態は、第三者から見れば、まだ遺産分割が済んでいない共有状態になるのです。
ですので、他の相続人の債権者は、その相続人が債務を弁済しない場合は、相続不動産についてのその相続人の持分を差し押さえることができることがあるのです。
また、他の相続人に債務がある場合だけでなく、他の相続人が勝手に共有登記をして共有持分を売却することもできてしまいます。
そうすると、どちらにせよ、見ず知らずの人と不動産を共有している状態になってしまいます。この状態を解消して不動産を単独で所有するには、共有持分を買い取ることになるでしょう。
共有持分の買い取りに要した費用は、債務者であった相続人に求償することができますが、差し押さえを受けるくらいなので、求償に応じる程の資力がなく、回収することは難しいでしょう。
このように、相続登記をしていないと、余計な出費がかかるおそれがあります。
不動産の売却・担保設定ができない
相続登記をしていないと、相続不動産を売却したり、相続不動産に担保権を設定したりすることができません。
それでは、売却したり、担保権を設定したりする時に、相続登記をすればよいではないかと思われるかもしれませんが、それは、お勧めできません。
その理由は2つあります。ひとつは、前述の通り、その間に相続不動産を差し押さえられるおそれがあるためで、もうひとつは、登記をしようと思った時には、権利関係が複雑化して、登記をすることが大変になっていることがあるからです。
権利関係が複雑化するおそれがある
登記をしようと思った時には、権利関係が複雑化して、登記をすることが大変になっていることがあるとはどうことでしょうか?
例えば、被相続人の妻Aと被相続人の姪Bが共同相続人のケースで、遺産分割協議で不動産をAが取得することになったとします。
Aが相続登記を行わずにいたところ、Bが亡くなり、Bの夫CがBの財産を相続したとします。
その後、Cも亡くなり、Cの甥姪D、E、F、G、H、I、J、Kの7人がCの財産を相続したとします。
その後、Aは相続不動産を売却するために、相続登記を行おうとしても、そのためには、被相続人の姪の夫の甥姪という見ず知らずのD~Kの7人の同意が必要になります。
その7人が気の良い人たちであれば、同意してくれるかもしれませんが、お金に困っていたりすると、同意に応じる代償としてのハンコ代を求めたり、共有持分の買い取りを請求することも考えられます。
次の世代に2倍の費用がかかるおそれがある
相続登記をしないことのメリットとして、登記費用を節約できることを挙げる人がいます。
しかし、その人が登記費用を節約できても、その人の相続人が、その人の分まで登記費用を負担しなければならないことになってしまいます。
どういうことかというと、例えば、不動産の所有者が亡くなって(一次相続)、相続人がその不動産について相続登記をしないまま亡くなったとします(二次相続)。
二次相続の相続人が相続登記をする場合には、一次相続の相続登記と二次相続の相続登記の2回分の相続登記をしなければならず、倍の費用がかかってしまうのです。
ですので、登記費用の節約のために相続登記をしないということは、次の世代に自分の分の登記費用を押し付けているという言い方もできます。
なお、平成30年4月1日から、平成33年3月※までの時限措置として、一代前の相続登記にかかる登録免許税を免税にする特例がスタートしていますので、当該措置の適用が受けられれば、必ずしも2倍の費用がかかるというデメリットが当てはまらない場合もありますので、その点、ご注意ください。※令和3年度の税制改正により,免税措置の適用期限が令和4年(2022年)3月31日までに延長されました。
相続登記の申請は誰が行う?
司法書士に登記手続きを依頼する場合は、司法書士が申請を行います。
自分で申請する場合で、登記しようとする不動産を一人の相続人が相続する場合は、その人が申請を行います。
複数の相続人が相続不動産を共有して相続する場合は、その中の一人が申請をしても構いませんし、全員で申請しても構いません。
一人が申請する場合は、他の相続人の委任状が必要です。なお、全員でといっても、法務局に全員で行く必要はありません。
申請書の申請人欄に記名押印するだけで構いません。
全員で申請する場合は、全員が押印しなければならない手間が生じますが、委任状を書く手間の方が大きいとも思われます。
また、全員で申請すると、全員に登記識別情報が通知されるというメリットがあります。
登記識別情報の通知を受けていない場合は、譲渡や担保権設定の際の手続きが煩雑になり、費用も余計にかさむことなるため、共有の場合は、全員で申請することをお勧めします。
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相続登記申請を自分で行う場合の流れ
相続登記申請を自分で行う場合は、次のような流れで行います。
- 登記事項証明書の取得
- 必要書類の準備
- 登記申請書の作成
- 申請
以下、それぞれについて説明します。
登記事項証明書の取得
登記事項証明書は、相続登記に必要な書類ではありませんが、取得することをお勧めします。
登記事項証明書とは、登記記録に記録された事項を証明した書面のことです。登記事項証明書を取得する目的は、不動産の権利関係を確認するためと、地番を正確に確認するためです。
登記事項証明書を確認することによって、被相続人がその不動産の所有権を持っているのかどうかや、担保権が設定されていないかどうかを確認することができます。
そもそも被相続人がその不動産の所有権を持っていなければ、登記はもとより相続がすることはできません。
また、登記申請書や遺産分割協議書では、普段住所として使っている住居表示ではなく、地番を記入しなければなりません。
地番の確認は、登記事項証明書で行うのが確実です。本来であれば、相続開始後、速やかに登記事項証明書を取得して確認すべきですが、取得していない場合は、遅くとも登記前までには確認すべきでしょう。
登記申請書の作成
登記申請書は法務局ホームページからダウンロードすることができます。
記入用紙だけでなく、記入例も確認することができます。
記入用紙と記入例は、状況によって異なります。
状況別のリンクを下記しますので、ご利用ください(各記入用紙と記入例は、法務局のホームページに掲載されています)。
必要書類の準備
登記申請には、登記申請書のほか、以下の書類の添付が必要です。必要な書類は、遺言がある場合と、遺言がない場合とで異なります。
遺言がない場合に必要な書類
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 登記する不動産を取得する相続人の住民票
- 最新年度の固定資産税評価証明書または固定資産税納税通知書
- 遺産分割協議書(遺産分割をした場合)
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割をした場合)
遺言がある場合に必要な書類
- 被相続人の死亡した記載のある戸籍謄本または除籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 登記する不動産を取得する相続人の現在の戸籍謄本
- 登記する不動産を取得する相続人の住民票
- 最新年度の固定資産税評価証明書または固定資産税納税通知書
- 遺言書(自筆証書遺言等の場合は検認済みのもの)
提出書類の原本還付を受ける方法
相続手続きでは登記以外にも原本が必要になることが多いので、原本還付を受けるようにしましょう。
原本還付は、原本と一緒にコピーを提出することで受けられます。コピーした書類の空いたスペースに「この写しの内容は原本と相違ありません」と書き、署名(または記名)押印をします。
この押印は申請書の押印と同じ印鑑でなければなりません。
すべてのコピーにこれを書くのは大変なので、1枚だけに書いて、後は、それぞれの書類の間に契印(割り印)をすれば問題ありません。
また、戸籍謄本の原本還付は、コピーでなく、相続関係説明図の提出でも受けられます。
なお、登記申請をオンラインで行う場合は、提出書類の原本の還付を受けたいかどうかにかかわらず、相続関係説明図の提出が必須です。
申請
相続登記の申請は、その相続不動産を管轄する法務局で行います。
全国の法務局とその管轄エリアは、法務局ウェブサイトの「管轄のご案内」ページで確認することできます。
なお、郵送で申請することもできますし、オンラインで申請することも可能です。
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相続登記にかかる費用
相続登記をしないでいることのリスクについて説明しましたが、反対に相続登記をすることのデメリットは費用がかかることぐらいです。
相続登記には、次の3つの費用がかかります。
- 書類取得費
- 登録免許税
- 司法書士報酬(依頼した場合)
以下、それぞれについて説明します。
書類取得費
登記手続きのための実費は、前述の必要書類を取得するための費用です。
交付手数料のほか、法務局や役所への交通費や郵送代がかかります。書類の数にもよりますが、すべて含めても1万円未満で集められることが多いでしょう。
登録免許税
登録免許税は、登記不動産の固定資産税評価額(1,000円未満は切り捨て)の0.4%(100円未満は切り捨て)です。
例えば、登記不動産の固定資産税評価額が10,010,999円の場合、1,000円未満の999円を切り捨て、10,010,000円が課税価格になります。
10,010,000円の0.4%は40,040円になりますが、100円未満の40円を切り捨てて、登録免許税額は40,000円となります。
登録免許税は、額面分の収入印紙を購入し、登記申請書の余白に添付して納付します。収入印紙は、法務局や郵便局で購入できます。
司法書士報酬(依頼した場合)
登記の専門家は司法書士です。相続登記は自分で行うのは大変ですから、通常は、司法書士に依頼することになるでしょう。
司法書士に依頼した場合の報酬は、司法書士によって異なります。相場としては、3万円から7万円程度であると思われます。
また、相続登記だけを依頼しても構いませんが、相続人調査、財産調査、戸籍謄本等の必要書類の収集、遺産分割協議書や相続関係説明図の作成などを併せて依頼することもできます。
どこまで依頼するかによっても料金は異なりますが、上記のような周辺事務も併せて依頼する場合は、7万円から15万円程度が相場と解されます。
農地を相続登記する場合の注意点
農地を売買や贈与によって取得し登記する場合は、農業委員会等の許可を受け、その許可証を添付しなければなりませんが、相続の場合は、この許可は不要です(相続人以外が遺贈により農地を取得する場合は必要です。)。
許可は不要ですが、農業委員会への届出は必要です。
届出は、相続を知った日の翌日から10か月以内に、届出書と登記事項証明書のコピーを農業委員会に提出して行います。
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相続登記に関する相談先
相続登記を自分で行う場合は、法務局で相談することができます。
全国の法務局とその管轄エリアは、法務局ウェブサイトの「管轄のご案内」ページで確認することできます。
また、司法書士に依頼することを検討している場合は、相続登記に強い司法書士をウェブ等で探してもよいですし、わからなければ、司法書士会に相談するとよいでしょう。
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この記事を書いた人
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