株式を相続する前に知っておくべき株式相続の流れをわかりやすく説明
遺産といっても、現金だけではありません。土地、車、株式などなど…。
今回はそのなかでも、株式の相続の流れについて詳しく紹介していきます。正直、どのように手続きすれば良いか、わからない人も多いハズ。
まずは、すべての遺産の合計額を調べて、相続税の金額を算出しないといけません。相続税申告は期限が決まっているので(故人の死を知った翌日から10か月以内)、早めに取り掛かりましょう。
そして、株式の名義変更や、売却した場合は確定申告が必要になることも。
株式を相続する方などは是非、参考にしてください。
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[ご注意]
記事は、公開日(2018年10月12日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
目次
株式を相続する際の流れ
株式を相続する際の流れはおよそ次のようになります。
- 遺言書の有無と内容を確認する
- 相続人の調査を行う
- 株式を含めた相続財産の調査を行う
- 相続を承認するか放棄するかを決める
- 準確定申告を行う
- 相続人が複数いる場合は遺産分割を行う
- 株式の名義書換(名義変更)を行う
- 相続税がかかる場合は相続税の申告と納付を行う
- 株式を売却して現金化する(しなくてもよい)
- 株式を譲渡して譲渡益が生じた場合は確定申告を行う
以下、それぞれについて説明します。
遺言書の有無と内容を確認する
遺言書が存在する場合は、基本的には、遺言書で指定されたとおりに相続する(または遺贈を受ける)ことになるので、まずは、遺言書の有無とその内容を確認します。
相続人の調査を行う
遺言書が無い場合は、法定相続人が遺産を相続することになります。
そもそも自分が相続人でなければ、その後の流れはまったく関係がなくなるので、まず、相続人を確定させるために、誰が相続人なのかについての調査を行います。
大抵の場合は、調査をしなくても親族関係を把握しているでしょうが、中には、相続人調査によって認知した子がいたことが発覚することもあります。
相続人調査は、被相続人(亡くなって財産を残す人)の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本および改製原戸籍を収集して行います。
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株式を含めた相続財産の調査を行う
株式を相続するためには、まず、相続財産中の株式を把握しなければなりません。
もっとも、通常は、株式だけを相続するわけではないでしょうから、すべての相続財産についての調査を行う中で、株式についても調査します。
相続株式の調査は、上場株式と非上場株式とで異なるため、以下、それぞれについて説明します。
上場株式の調査方法
上場株式とは、証券取引所に上場された(証券取引所で取引される)株式のことです。相続財産の中に上場株式があるかどうかは、次のような書類を手掛かりに調査することができます。
- 取引口座を開設した際の控え
- 目論見書
- 取引報告書
- 取引残高報告書(評価報告書)
- 特定口座年間取引報告書
このような書類を被相続人がしまっていそうな場所を探します。
また、インターネットで取引している場合もあるので、メールやインターネットブラウザの閲覧履歴等から株式の取引を行っていた証券会社等が分かることもあります。
取引をしていた証券会社が分かれば、取引残高報告書(評価報告書)を確認することで、保有する株式の種類や数が分かります。
わからない場合
前述の書類が見つからない場合で、被相続人が保有していた株券の発行会社が分かっている場合は、株券発行会社に株主名簿管理人となっている信託銀行を確認しましょう。
株主名簿管理人となっている信託銀行が分かれば、そこに問い合わせて、被相続人の特別口座があるかどうかを調べることができます。
また、電子化される前の紙の株券が見つかった場合も、株券発行会社に株主名簿管理人となっている信託銀行を確認しましょう。
電子化される前の株券も信託銀行の特別口座で管理されています。
どこの会社の株を持っていたかすらも分からない場合は、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に登録済加入者情報の開示を請求しましょう。
被相続人が上場株式を保有していた場合は、証券保管振替機構に加入者として登録されているはずです。登録済加入者情報を確認すれば、被相続人が口座を開設していた証券会社や信託銀行が分かります。
登録済加入者情報の開示請求について詳しくは、証券保管振替機構の登録済加入者情報のページをご参照ください。
非上場株式の調査方法
非上場株式とは、上場していない株式のことです。こちらを所持しているかどうかも調べます。
会社の要職に就いていた場合はその会社の株式を保有している可能性がある
上場している場合は証券取引所で誰でも株式を取得することができますが、非上場の場合は、基本的には、株券発行会社から新株の割り当てを受けるか、株主から直接譲り受けるくらいしか取得する方法がありません。
要するに、非上場株式は、発行会社やその株主とコネクションがないと取得できないのです。
被相続人が会社の要職に就いていた場合は、その会社の株式を保有している可能性が高いと考えられるため、会社に問い合わせるとよいでしょう。
売渡請求
反対に、会社が被相続人の死亡を知って、相続人に対して株式の売渡(うりわたし)を請求することで、被相続人が非上場株式を保有していたことを相続人が知ることがあります。
非上場株式には譲渡制限が課されていることがありますが、会社は譲渡制限株式を相続した人に対してその売渡しを請求することができるのです。
売渡請求を受けた相続人はこれを拒むことはできません。
売買価格は、原則として相続人と会社の間の協議によって定められますが、協議がまとまらない場合は、裁判所に売買価格決定の申立てを行い、裁判所が売買価格を決定します。
相続税対策は生前に行う
被相続人が会社のオーナー社長等の大株主であった場合は、多額の相続税がかかる可能性があります。
このような場合は、生前に税理士に相談して、相続税対策を講じておくことをお勧めします。
従業員持株会の持分や新株予約権
被相続人が従業員持株会に加入して持分をもっていた場合や、新株予約権(ストックオプション)をもっていた場合、原則としては、持株会の持分や新株予約権も相続することができます。
しかし、持株会の規定で死亡した場合は持分を買い取るとされていることが多く、その場合は、株式の持分そのものではなく、持株会による持分の買取代金を相続することになります。
また、新株予約権の場合は、新株予約権割当契約において、死亡した場合は権利を喪失する(相続できない)旨が既定されている場合がほとんどでしょう。
相続を承認するか放棄するかを決める
相続財産の調査によって、相続財産の全容が明らかになると、実は、プラスの財産よりも借金等のマイナスの財産の方が多かったということが明らかになることもあります。
マイナスの財産の方が多い場合に相続してしまうと、相続人は自腹を切って被相続人の負債を弁済しなければならなくなってしまいますが、相続放棄をすることによって、プラスの財産もマイナスの財産もどちらも相続しないということが可能になります。
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準確定申告を行う
亡くなった人は自分で確定申告することができないので、亡くなった年の確定申告は代わりに相続人が行います。これを準確定申告といいます。
被相続人が株を持っている場合、亡くなった年に配当金があった可能性がありますし、取引をして譲渡益が生じている可能性もあります。
株以外も含めて被相続人が亡くなった年に所得がある場合は、準確定申告をしなければなりません。準確定申告は、相続開始(通常は被相続人の死亡)を知った日の翌日から4か月以内に行わなければなりません。
相続人が複数いる場合は遺産分割を行う
相続人が複数いる場合は、遺産分割を行います。
株式は、遺産分割協議が済むまでは、相続人全員で共有(正確には「準共有」)している状態になります。共有状態では名義書換(名義変更)をすることができません。
名義書換を行うためには、遺産分割協議を行い、誰がどの株式をどれだけ相続するかを決めなければなりません。協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。
なお、遺産分割は、相続税の申告・納付の期限までには済ませておいた方がよいでしょう。相続税の申告・納付の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
相続税の申告・納付の期限までに遺産分割が済まなかった場合は、法定相続分に応じて相続したとみなして、相続分の申告・納付を行わなければなりません。
その後、法定相続分と異なる割合で遺産分割が行われた場合は、相続税の修正申告や更正請求をすることになるでしょう。
これらの手続きには手間がかかるので、できるだけ、相続税の期限までには、遺産分割を決着させるとよいでしょう。
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株式の名義書換(名義変更)を行う
株式の名義書換は、上場株式の場合は証券会社や信託銀行に、非上場株式の場合は株式発行会社に届出て行います。
名義書換には、大体3週間くらいかかることが多いようです。必要な書類は状況によって異なるため、次の4つの状況ごとに分けて説明します。
- 遺言書がある場合
- 相続人が一人しかいない場合
- 遺産分割協議による分割の場合
- 調停または審判による分割の場合
遺言書がある場合
遺言書がある場合は次の書類が必要です。
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本もしくは除籍謄本または死亡証明書
- 株式を取得する人の印鑑登録証明書(遺言執行者が就任している場合は遺言執行者の印鑑登録証明書)
- 遺言書の写し
- 検認証書の写し(公正証書遺言の場合は不要)
- 証券会社等の所定の書類(株式名義書換請求書や株主票など)
相続人が一人しかいない場合
相続人が一人しかいない場合は次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの連続したすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の印鑑登録証明書
- 証券会社等の所定の書類(株式名義書換請求書や株主票など)
遺産分割協議による分割の場合
遺産分割協議による分割の場合は次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの連続したすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書の写し
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 証券会社等の所定の書類(株式名義書換請求書や株主票など)
調停または審判による分割の場合
調停または審判による場合は次の書類が必要です。
- 調停調書謄本または審判書謄本、およびその確定証明書の写し
- 株式を取得する人の印鑑登録証明書
- 証券会社等の所定の書類(株式名義書換請求書や株主票など)
相続した株式に名義書換期限(手続き期間)はある?
相続した株式をいつまでに名義書換しなければならないという期限は設けられていません。しかし、早めに名義書換をしておかなければ次のようなデメリットがあります。
- 現金化したい時にできない
- 配当を受けられない
名義書換をしなければ、株式を売却して現金化することができません。
名義書換の手続きには3週間ほどかかるので、売りたくなってから名義書換の手続きを始めると、売り時を逃す可能性があります。
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相続税がかかる場合は相続税の申告と納付を行う
相続税がかかる場合
基礎控除を超える価額の相続財産がある場合には、相続税がかかります。
相続税の基礎控除額は、次の式で計算します。
例えば、法定相続人が2人の場合の基礎控除額は4200万円です。
相続株式の評価方法
相続株式の評価方法(価額の計算方法)は、上場株式か非上場株式かによって異なります。
上場株式の評価方法
上場株式の評価は、原則として終値(おわりね)によって行います。終値とは、大引け(おおびけ。その日の最後の取引)でついた株価のことです。次の4つのうち、最も低い株価で評価します。
- 相続開始日(通常は被相続人の死亡日)の終値
※相続開始日が取引所の営業日ではなかった場合は、前後で最も近い日の終値
前後が同じ近さの場合は、その平均 - 相続開始日の当月のすべての営業日の終値の平均
- 相続開始日の前月のすべての営業日の終値の平均
- 相続開始日の前々月のすべての営業日の終値の平均
これらの終値(および終値の平均)は、被相続人が取引を行っていた証券会社の発行する残高証明書等で確認することができます。
非上場株式の評価方法
非上場株式の評価方法は、経営権を支配する場合と支配しない場合によって異なります。
経営権を支配する場合は、さらに会社の規模によって異なります。
大会社
大会社の場合は、類似業種比準方式といって、事業内容が類似する複数の上場会社の株価の平均値等の各種数値を基準に計算されます。
小会社
小会社の場合は、純資産価額方式といって、相続開始日に会社を清算したと仮定して株主一人当たりの分配額で計算されます。
中会社
具体的には、会社の総資産や負債を、原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債等の金額を差し引いた残りの金額により評価します。
中会社の場合は、併用方式といって、類似業種比準方式で計算した株価と純資産価額方式で計算した株価を一定割合で折衷して計算します。
経営権を支配しない場合は、配当還元方式といって、次の式で計算されます。
実際のケースに当てはめてどの方式を適用すべかといった判断や、各方式による具体的な計算方式については、税理士に相談した方がよいでしょう。
相続税の計算
相続する株式を含めたすべての相続財産の評価額を計算したら、相続税を計算します。
相続税の申告
相続税の申告については、以下の記事をご覧ください。
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相続株式を売却して現金化する
株式を売却して現金化する方法について、上場株式と非上場株式とに分けて説明します。
相続した上場株式を売却して現金化する
相続した上場株式を売却して現金化する場合、次の2つの方法があります。
- 各相続人に名義書換し、各々が好きな時に売却する。
- 代表相続人に名義書換し、代表相続人が売却した後、現金を相続分に応じて按分する。
相続した非上場株式を売却して現金化する
非上場の場合は、証券取引所で売却することができません。また、譲渡制限が課されている場合もあります。
譲渡制限株式でない場合は、自分で買ってくれる人を見つけて売却することができます。
譲渡制限株式の場合は、勝手に譲渡することはできません。
買い取ってくれる人が見つかった場合は、株券発行会社に対して、譲渡の承認を請求することができます。
株券発行会社は、譲渡を承認するか、会社が買い取るか、別の譲渡先を指定するかを選択することになります。つまり、譲渡制限の有無にかかわらず、非上場株式の場合は、買ってくれる人を自分で見つけることによって、現金化の途が拓けます。
買ってくれる人が見つからないまま株券発行会社に買取りを求めた場合、株券発行会社はこれに応じる義務はありません。
もっとも、応じてくれる可能性もあるので、自分で買ってくれる人を見つけることが難しい場合は、聞いてみる価値はあるでしょう。
また、前述の通り、むしろ株券発行会社の方から「買い取りますよ」と売渡請求(前述)をしてくる可能性もあります。
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株式を譲渡して譲渡益が生じた場合は確定申告を行う
株式を売却して現金化すると譲渡所得が生じることがあります。譲渡所得には所得税等の税金がかかります。
上場株式を源泉徴収ありの特定口座で売却した場合は確定申告の必要はありませんが、上場株式を一般口座や源泉徴収なしの特定口座で売却した場合や、非上場株式を相対取引で売却した場合等に譲渡所得が生じたときは確定申告を行う必要があります。
譲渡所得は次の式で計算することができます。
株式を取得した金額というのは、被相続人が取得した金額のことです。
譲渡所得には、20.315%の税金がかかります(内訳:所得税15%、住民税5%、特別復興所得税0.315%)。なお、株式を相続した際に相続税を納付している場合は、相続税と所得税等の二重課税になってしまうように思われます。
この点、二重課税にならないように特例が設けられています。相続によって取得した株式を相続開始の翌日から3年10か月以内に売却した場合には、譲渡所得の計算時に、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算することができます(その分、譲渡所得が低くなります)。
この特例について詳しくは、国税庁ウェブサイトの「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」のページをご参照ください。
まとめ
以上、株式を相続する前に知っておくべき株式相続の流れを説明しました。
株式の相続について不明な点は、専門家に相談するようにしましょう。
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この記事を書いた人
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