相続財産法人とは?登記、差押、法人税・固定資産税等の納税義務は?
「相続財産法人」とは、あまり知られていない言葉のひとつです。
これは、亡くなった人に相続人がいることが明らかでない場合に法人化した相続財産のことです。とはいっても、そのままにはできないので相続財産管理人を選任して財産の管理や処分を行うことになります。
ところで、その財産にも所得税や固定資産税などの税金がかかります。しかし、相続財産法人の課税関係は複雑なので、一般の人が相続財産管理人に選ばれた場合は、税理士に相談することをおすすめします。
今回は、相続財産法人について紹介します。是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、公開日(2019年2月15日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
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相続財産法人とは?
相続財産法人とは、亡くなった人(被相続人)に相続人がいることが明らかではない場合に法人化した相続財産のことです。
相続財産法人が作られるために手続きは不要です。
相続が開始され、相続人がいることが明らかでない場合は、自動的に相続財産が法人化して相続財産法人となります。
相続人不存在となるケースについては、関連記事を参考にしてください。
相続財産法人化後の流れ
相続財産が法人化しても、管理する人がいなければ、財産を保存したり管理したり処分したりすることはできません。
それでは、相続債権者(被相続人の債権者)が相続財産から弁済を受けることはできませんし、特別縁故者が相続財産を取得することもできませんし(特別縁故者とは、相続人ではないものの、被相続人と特別な縁故がある人のことで、相続人や包括受遺者がいない場合は、特別縁故者が相続財産を取得することができます)
被相続人と財産を共有している人も、その共有財産の被相続人の持分を取得することもできません(被相続人との財産の共有者は、相続人や受遺者、特別縁故者がおらず、相続債権者や特定受遺者への清算を行ってもなお、その共有財産の持分が残っている場合は、その持分を取得することができます)。
そこで、相続財産法人の財産を管理する相続財産管理人の選任が必要になります。
相続財産法人化後に流れは次のようになります。
- 利害関係人等が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てます。
- 家庭裁判所が必要があると判断したときは相続財産管理人が選任されます。
- 家庭裁判所が相続財産管理人が選任されたことを知らせるために公告を行います。
- 2か月後、相続財産管理人が相続債権者と受遺者に対して請求を申し出るべき旨を2か月以上の期間を定めて官報に公告します。
- さらに上記の公告期間経過後、家庭裁判所は、財産管理人の申立てによって、相続人を探すために、6か月以上の期間を定めて公告を行います。
- 期間満了までに相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定します。
※通常は、申立て前に既に相続人調査を行い、相続人がいないことを確認したうえで、申立てを行っているでしょうから、この期間に相続人が現れることは、ほとんどありません。 - 特別縁故者がいる場合は、特別縁故者は、相続人を探すための公告期間満了後3か月以内に、財産分与の申立てを行います。
- 必要に応じて、相続財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て、相続財産を換価します。
- 相続財産管理人は、債権者や受遺者への支払いをしたり、特別縁故者に相続財産を分与するための手続きを行います。
- 財産が残った場合は、残余財産を国庫に返納します。
相続財産法人にかかる費用
相続財産法人自体にかかる費用はありませんが、相続財産管理人には費用がかかります。
相続財産管理人にかかる費用には、申立て費用と、相続財産管理人の報酬があります。
相続財産管理人の選任申立ての費用
申し立てにかかる費用には、次のものがあります。
- 収入印紙800円
- 切手代(裁判所からの連絡用。裁判所によって異なりますが1,000円前後のことが多いようです。)
- 官報公告料4230円
相続財産管理人の報酬
相続財産管理人の報酬は、相続財産の中から支払われます。
しかし、相続財産の価額が少ない場合は、家庭裁判所は申立人に予納金に納付を命じ、相続財産管理人への報酬は、その予納金から支払われます。
予納金の金額は、管理の手間や難易度等に応じて、数十万円から150万円くらいの金額を裁判所が決めます。
予納金が支払えない場合は、50万円を限度に、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助を受けられる可能性があります。
扶助を受けたい場合は、法テラスに詳細を確認しましょう。
相続財産管理人の報酬は、被相続人の親族が選任された場合は報酬がなく、弁護士や司法書士等が選任された場合は、管理の手間や難易度に応じて月額1万円から5万円ぐらいの報酬が、裁判所によって決められることが多いようです。
相続財産法人に対して差押できる?
債務者が亡くなった場合に、相続人がいれば、債権者は相続人に対して弁済を求めることができますし、相続人の財産を差押えることもできます。
相続人がいない場合やいるかどうか不明な場合は、相続財産は法人化しますが、相続財産法人に対して弁済を求めたり、財産を差押えることはできません。
このような場合には、前述の通り、債権者は、相続財産管理人の選任を申し立てることができます。
ただし、相続財産管理人を相手方として差押をすることもできません。
相続財産管理人は、前述の流れに沿って、債権者らへ配当するので、差押をする必要はないのです。
相続財産法人への登記名義人表示変更登記
相続財産管理人は、通常、弁護士(または司法書士)が選任されますが、弁護士や司法書士以外の人が選任されることもあります。
申立人は申立て時に候補者を提示することができ、候補者がそのまま選任されることもあるのです。
しかし、相続財産法人に不動産が含まれる場合は、弁護士か司法書士でなければ、管理することは難しいでしょう。
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相続財産法人の不動産は、登記名義人表示変更登記によって相続財産法人名義に変更しなければなりません。
一般の人が相続財産管理人になった場合は、登記については司法書士に相談した方がよいでしょう。
なお、登記申請書と委任状は、以下のように記載します。
あくまで代表的な例なので、ケースによって記載内容は変わります。
登記申請書 登記の目的 所有権登記名義人氏名変更 原因 平成○年○月○日 相続人不存在 変更後の事項 登記名義人 亡○○○○相続財産 申請人 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 添付書類 登記原因証明情報 代理権限証書 平成○年○月○日申請 ○○法務局○○出張所 代理人 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 登録免許税 金1,000円 不動産の表示 所 在 東京都△△区〇〇 所 在 東京都△△区〇〇 |
委任状 代理人 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 私は、上記の者に、次の事項に関する権限を委任する。 1 下記の登記に関し、登記申請書を作成すること及び当該登記の申請に必要な書面と共に登記申請書を管轄登記所に提出すること。 2 登記が完了した後に通知される登記識別情報通知書及び登記完了証を受領すること。 3 登記の申請に不備がある場合に、当該登記の申請を取下げ、又は補正すること。 4 本登記申請の複代理人の選任すること。 5 上記1から3までのほか、下記の登記の申請に関し必要な一切の権限 平成○○年○月〇日 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 ○○ ○○ 印 ※認印可 記 登記の目的 所有権登記名義人氏名変更 原因 平成○年○月○日 相続人不存在 変更後の事項 登記名義人 亡○○○○相続財産 申請人 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 亡○○○○相続財産管理人 ○○ ○○ 不動産の表示 所 在 東京都△△区〇〇 所 在 東京都△△区〇〇 |
相続財産法人の納税義務
相続財産法人の納税義務について、以下の税の種類ごとに説明します。
- 被相続人の所得税
- 固定資産税
- 消費税
- 法人税
以下、それぞれについて説明しますが、相続財産法人の課税関係は複雑なので、もし一般の人が相続財産管理人になった場合は、税理士に相談することを強くお勧めします。
被相続人の所得税
一年間の所得(儲け)に対する所得税と復興特別所得税の税額を申告して納付する手続きのことを確定申告といいますが、亡くなった人は自分で確定申告ができません(なお、亡くなった人の確定申告のことを準確定申告といいます。)。
準確定申告は基本的には相続人がすることになっていますが、相続人がいない場合は、相続財産法人がします。
相続財産法人の管理人が確定した日の翌日から4か月を経過した日の前日までに、相続財産法人が、準確定申告書を、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出しなければなりません。
固定資産税
相続財産に不動産がある場合、その不動産にかかる固定資産税は、相続財産法人が申告・納付しなければなりません。
相続財産管理人が選任されていない場合は、納税通知が相続財産法人宛に公示送達されることもあるようです。
消費税
相続財産法人に消費税はかかりません。
相続財産法人が被相続人の事業を継続しても、相続により承継するわけではないので、相続財産法人として新たに事業を開始したものといえます。
そうすると、原則として最初の2年間は免税事業者になり、この期間は消費税の納税義務はないということになります。
法人税
法人税について大変複雑なので、税理士に相談することをお勧めします。
相続財産法人の財産は最終的には国庫に帰属するので、法人税の申告は不要とする説と、普通法人と同様に法人税の申告が必要であるとする説があります。
法人税の申告をする場合は、相続開始日を開始事業年度とします。
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この記事を書いた人
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