弁護士監修記事
相続放棄のデメリットとメリット。相続放棄で損しないための全知識

相続放棄にはメリットばかりではなくデメリットもあります。
安直に相続放棄をして後悔しないように、相続放棄のデメリットを理解して、適切な選択をできるようにしましょう。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
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目次
相続放棄のメリット
相続放棄には次のようなメリットがあります。
- 相続すると損するような遺産を相続しなくて済む
- 遺産分割協議に参加しなくてよくなる
以下、それぞれについて説明します。
相続すると損するような遺産を相続しなくて済む
相続すると損するような遺産には、次のようなものがあります。
- 借金等の債務
- 使い道や価値がなく維持管理に費用がかかる財産
以下、それぞれについて説明します。
借金等の債務
プラスの財産の額よりも、借金等の債務の額の方が大きい場合に相続すると損してしまいます。
プラスの財産だけ相続して負債は相続しないということはできないのです。
相続人間の遺産分割協議において、プラスの財産をたくさん相続する人が相続債務も引き受けるというように取り決めをすることはできますが、相続人間の取り決めは、債権者を拘束することはできず、債権者は、法定相続分に応じた相続債務の弁済を各相続人に求めることができます(法定相続分については「法定相続分とは?相続人の組み合わせパターン別法定相続分の計算方法」参照)。
債権者の求めに応じて、遺産分割協議で取り決めた以上の債務を弁済した場合は、本来負担すべきであった相続人に求償(償還を求めること)することができます。
なお、債権者が相続人間の債務の分配を承諾していた場合は、債権者は、それぞれの相続人の債務の負担分を超えて弁済を求めることはできなくなります。
話が少し逸れましたが、要するに、債務の方がプラスの財産よりも大きい場合は、相続放棄をするメリットがあるということです。
なお、プラスの財産の範囲内で相続債務を負担する限定承認という方法もありますが、限定承認にはデメリットがあるため、基本的には、プラスとマイナスのどちらが大きいかを見極めたうえで、単純承認(通常通りプラスもマイナスもまとめて相続すること)か、相続放棄を選択するのがよいでしょう。
限定承認について詳しくは「限定承認のメリット・デメリットと利用すべき場合や手続きの流れ」を、単純承認について詳しくは「単純承認したことになって知らないうちに借金を相続しないための知識」を、それぞれご参照ください。
使い道や価値がなく維持管理に費用がかかる財産
使い道や価値がなく維持管理に費用がかかる財産の代表例は、田舎にある不動産です。
不動産を所有していると、不動産の管理責任が負うため、修繕、清掃、草刈り等、維持管理を負担しなければならなくなり、また、固定資産税も納めなければなりません。
このような維持管理費は、不動産を所有している間、永遠に負担し続けなければならず、長い目で見ると、かなりの額を負担することになるケースも多いです。
また、使い道や価値のない不動産の買い手も見つけることは容易ではありませんし、無料でも引き取ってくれる人が見つからないケースも多いです。
相続放棄が、このような不動産を手放す最後のチャンスかもしれないのです。
遺産の価値よりも、この先の維持管理費の方が高くなりそうな場合は、相続放棄をするメリットがあると言えるでしょう。
遺産分割協議に参加しなくてよくなる
相続放棄をすると遺産分割協議から解放されます。
遺産分割協議が紛糾し、家庭裁判所での調停や審判に発展することもあります。
そのような場合に、遺産分割協議から解放されることは、時間と労力の節約という意味でも、精神衛生上もメリットがあると言えるでしょう。
遺産分割協議について詳しくは「遺産分割協議を揉めずに有利に進めるために知っておくべきポイント」をご参照ください。
なお、相続放棄ではなく、相続分を譲渡した場合も、遺産分割協議から解放されます。
相続分の譲渡は、相続放棄のような家庭裁判所での手続きが不要で手軽ではありますが、相続債権者(亡くなった人の債権者)との関係では相続債務を免れることはできません。
弁済した金額を相続分譲受人に求償することはできますが、相続分譲受人に資力がない場合は取りっぱぐれるおそれがあるため、相続債務がある場合は、相続分の譲渡ではなく相続放棄をすべきでしょう。
相続分の譲渡について詳しくは「相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法」をご参照ください。
相続放棄のデメリット
相続放棄のデメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- すべての遺産の相続を放棄することになる
- 家庭裁判所での手続きが必要
- (同順位の相続人全員が相続放棄した場合)次順位の相続人が相続権を取得する
以下、それぞれについて説明します。
すべての遺産の相続を放棄することになる
前述のとおり、相続放棄をする場合は、遺産のすべてについて、相続を放棄することになります。
欲しい遺産があっても取得することはできなくなってしまいます。
家庭裁判所での手続きが必要
相続放棄には、家庭裁判所での手続きが必要で、費用と手間がかかります。
費用について、自分で手続する場合は数千円程度しかかかりませんが、専門家に依頼する場合は数万円程度の報酬が必要です(その代わり、手続きの手間がかかりません)。
相続放棄手続きについて詳しくは「相続放棄手続きを自分で簡単に済ませて費用を節約するための全知識」をご参照ください。
次順位の相続人が相続権を取得する
同順位の相続人全員が相続放棄をした場合は、次順位の相続人が相続権を取得することになります(相続順位については「相続順位のルールを図や表を用いて弁護士が詳しく分かりやすく解説!」参照)。
次順位の相続人が相続権を取得すると、次のような問題が生じることがあります。
- 相続債権者が次順位の相続人に相続債務の弁済を求めてきて、次順位の相続人の迷惑がかかる
- 配偶者相続人と次順位の相続人との折り合いが悪い場合、配偶者相続人に迷惑がかかる
以下、それぞれについて説明します。
相続債権者が次順位の相続人に相続債務の弁済を求めてきて、次順位の相続人の迷惑がかかる
相続債権者は、同順位の相続人全員が相続放棄をしたことを知ると、次順位の相続人に相続債務の弁済を求めるでしょう。
次順位の相続人が、先順位の相続人が全員相続放棄をしたことを知らなければ、突然、借金取りから連絡があるようなかたちになるので、大変驚くでしょう。
しかし、次順位の相続人に迷惑がかかるからといって、先順位の相続人が相続放棄を諦めることはありません。
次順位の相続人に相続放棄をする旨を事前に連絡しておくと、次順位の相続人の心理的な負担は軽減されるでしょう。
また、次順位の相続人も相続放棄をするかどうか意向を確認し、相続放棄するようであれば、同じ専門家に手続きを依頼することで、次順位の相続人に手続きの手間を掛けずに済みます。
また、同じ専門家に手続きを依頼することで、一人当たりの手続き代行報酬を低くする抑えることができるので、先順位の相続人と次順位の相続人の両方にとってメリットがあります。
相続放棄について相談することができる専門家は、以下のリンクから確認することができます。
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配偶者相続人と次順位の相続人との折り合いが悪い場合、配偶者相続人に迷惑がかかる
被相続人(亡くなった人)に妻と子がいる場合は、妻と子が相続人となりますが、子の全員が相続放棄をした場合等は、次順位の直系尊属(父母や祖父母等)に相続権が移ります。
直系尊属が既に亡くなっている場合等は、さらに次順位の兄弟姉妹に相続権が移ります。
そうすると、子が妻(子の母)に遺産を譲ろうと相続放棄をしたとしても、兄弟姉妹に相続権がいき、妻と兄弟姉妹との間で遺産分割協議をすることになります。
妻と兄弟姉妹の折り合いが悪い場合は、妻にとって兄弟姉妹と遺産分割協議をすることが精神的な負担になってしまいます。
相続債務を免れる趣旨ではなく、他の共同相続人に遺産を譲る趣旨の場合は、このような事態を避けるため、相続放棄ではなく、前述の相続分の譲渡によるべきです。
相続分の譲渡であれば、相続分を誰に譲渡するか、自由に決めることができます。
相続放棄の注意点
その他、相続放棄の注意点として、次のような点が挙げられます。
- 期限がある
- 相続を承認したとみなされて相続放棄できなくなることがある
- 原則として撤回できない
以下、それぞれについて説明します。
期限がある
相続放棄や限定承認の手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄申述書と戸籍謄本等の必要書類を提出して行わなければなりません(なお、相続の開始があったこと知った翌日を1日目とカウントします)。
相続は死亡によって開始するので、基本的には、被相続人が死亡したことを知った時から3か月以内ということになります。
ちなみに、被相続人が死亡したことは知っていたが、法定相続人のルールを知らなかったがために自分が相続人になることは知らなかったという言い訳は基本的には通用しません。
なお、先順位の相続人全員が相続放棄をしたために自分が相続人になったという場合は、先順位の相続人全員が相続放棄をしたことを知った時から3か月以内ということになります。
この3か月の期限は、家庭裁判所に申立てることで、伸長(延長)することができます。
遺産の調査が3か月以内に調査が完了しない場合もあるため、期限を伸長する制度があるのです。
家庭裁判所で申立てが認められると、原則としてさらに3か月期限が伸長されます。
伸長の手続きは繰り返し利用することができます。
なお、期限が過ぎてしまっても相続放棄が全く認められないわけではなく、相続債務が存在しないと信じており、そう信じていたことに相当の理由がある場合には、例外的に相続放棄が認められる場合があります。
ただ、どのような場合に相当の理由があるとして相続放棄が認められるかについて決まった基準はなく、ケースに応じて裁判所が判断します。
これまで裁判所が、期限経過後の相続放棄を認めた事例には、以下のようなものがあります。
- プラスの財産があることは知っていたが他の相続人が相続することから自分が相続する財産は全くなく、またマイナスの財産(債務)は全く存在しないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったところ、実際にはマイナスの財産が存在した場合
- 被相続人の借金について調査を尽くしたが、債権者からの誤った回答により債務は全くないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったが、実際には債務が存在した場合
- 被相続人と相続人が別居しており、別居後、被相続人が亡くなるまで全く没交渉であって、相続人は、被相続人の財産や借金について全く知らされておらず、被相続人の死亡後も、その財産の存在を知るのが困難であった状況下において、財産が全くないと信じており、相続放棄の手続きをしなかったが、実際には借金が存在した場合
相続を承認したとみなされて相続放棄できなくなることがある
相続を単純承認(前述)した後は、原則として、相続放棄をすることはできません。
相続放棄や限定承認は家庭裁判所での手続きが必要ですが、単純承認をする場合に特別な手続きは必要ありません。
単純承認をする旨の意思表示をするだけで単純承認をすることができますし、意思表示すらしなくても、相続財産の処分をした場合は、原則として単純承認をしたものとみなされます。
また、相続放棄をした後でも、相続放棄の隠匿等をした場合は、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄がなかったことにされてしまいます。
単純承認について詳しくは「単純承認したことになって知らないうちに借金を相続しないための知識」をご参照ください。
原則として撤回できない
相続放棄が受理されると、強迫されて相続放棄をしたような例外的な場合でない限り、これを撤回することはできません。
財産よりも借金の方が多いと思っていたところ、思わぬ財産が発見されたために、相続しておけばよかった、と思っても、相続放棄が受理された後で撤回することはできないので注意が必要です。
そのため、相続放棄をすべきかどうか迷っているときは専門家に相談されることをおすすめします。
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まとめ
以上、相続放棄のデメリットについて説明しました。
説明したように相続放棄はデメリットもあり、また、受理されると原則として撤回できないので、事前に専門家に相談した上で検討するとよいでしょう。
相続放棄について相談することができる専門家は、以下のリンクから確認することができます。
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