遺留分を侵害する遺言書があっても遺留分侵害額請求権が優先!対策は?
「私の財産はすべて息子に相続させたい」など、自分の意思を遺言書に残す方は多くいます。
しかし、自分の意思が全部通るとは限りません。被相続人(亡くなった人)の配偶者や子、父母などには遺留分といって最低限の取り分が決められています。
遺留分を侵害する遺言書があった場合、遺留分の返還を請求されることがあります(遺留分侵害額請求権)。
しかし、遺留分侵害額請求権を行使するかはその人次第ではあります。遺留分を侵害する遺言もそれ自体は有効なので、遺留分対策をしておきましょう。
この記事では、遺留分侵害額請求権や遺留分対策について解説します。もし、作成が難しいようであれば行政書士などの専門家に依頼しても良いでしょう。
[ご注意]
記事は、公開日(2019年1月9日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
目次
遺留分とは?
遺留分とは、一定の相続人が、相続に際して法律上取得することが保障されている、遺産の一定の割合のことをいいます。
相続人となる人や各相続人の相続分については民法に定められていますが、これは遺言によって変更することができますし、生前贈与や死因贈与(贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与)によって相続財産が減ってしまったり無くなってしまったりすることもあります。
そのような場合でも、一定の相続人は、遺産の一定の割合を遺留分として取得することが保障されているのです。
そして、遺留分を侵害された人が、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害の限度で贈与や遺贈された財産の返還を請求することを遺留分侵害額請求と言います。
遺留分権利者とは?
遺留分は、すべての相続人に認められているわけではありません。
認められているのは、被相続人の配偶者、子(および、その代襲相続人)、直系尊属(父母、祖父母、曽祖父母等のこと)です。
兄弟姉妹(および、その代襲相続人)は、遺留分侵害額請求を行うことができません。
なお、代襲相続人とは、本来相続人になるはずであった人が被相続人よりも先に亡くなっていたり、相続欠格や相続人の廃除によって相続権を失った場合に、その人の代わりに相続人となる子のことです。
遺留分の割合
遺留分の割合は、誰が相続人であるかによって異なります。
直系尊属のみが相続人の場合は、法定相続分の3分の1で、それ以外の場合は2分の1です。
法定相続分に対する割合を示されても分かりにくいでしょうから、相続財産に対する割合を示すと下表のようになります。
相続人の組み合わせ | それぞれの遺留分 |
---|---|
配偶者と子 |
|
子のみ | 子:1/2(複数いる場合は均等割り) |
配偶者と直系尊属 |
|
直系尊属のみ | 直系尊属:1/3(複数いる場合は均等割り) |
配偶者と兄弟姉妹 |
|
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹:なし |
配偶者のみ | 配偶者:1/2 |
例えば、法定相続人が配偶者と子2人であった場合の遺留分は、配偶者が1/4、子がそれぞれ1/8ずつになります。
この場合に、例えば相続財産(および、贈与財産)が8,000万円であれば、少なくとも、配偶者は2,000万円、子はそれぞれ1,000万円の遺留分を取得することが保障されています。
なお、他の相続人の相続放棄によって、法定相続分が増えた場合は、それに伴い遺留分も増えます。
例えば、上の例で、配偶者が相続放棄をした場合の子2人の各遺留分は、8,000万円×1/2×1/2=2,000万円になります。
なお、他の相続人が相続分や遺留分を放棄しても、遺留分が増えることはありません。
相続分の放棄についてはこちらの記事を参考にしてください。
遺留分を侵害する遺言書があっても遺留分侵害額請求権が優先
遺留分を侵害する遺言書があった場合は、遺言書の書かれていることと、遺留侵害額請求権とどちらが優先ですかと質問を受けることがあります。
この点について、遺留分侵害額請求権が優先されます。
遺留分制度はそもそも、遺言で自分以外の人に財産が渡ること等よって、取得できる財産がなくなってしまう等した人を救済するための制度なので、制度趣旨からして当然に遺言の内容よりも優先されるのです、
遺留分を侵害する遺言書でも無効にはならない
遺留分が遺言よりも優先されるとはいえ、遺留分を侵害する遺言が無効になるわけではありません。
遺留分を侵害された人は、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害の限度で贈与や遺贈された財産の返還を請求することできます(これを「遺留分侵害額請求」と言います)。
つまり、遺言自体は有効であって、遺留分侵害額請求があるまでは遺言の内容に沿って遺産が承継されますし、遺留分侵害額請求があれば、遺留分侵害の限度で返還されるだけであって、残りの遺産は遺言で指定された人が取得します。
なお、遺留分は権利なので、遺留分侵害額請求しなければならないわけではありません。
請求するかしないかは、遺留分権利者の自由です。
遺留分を侵害する遺言もそれ自体は有効なので、遺留分侵害額請求しない場合は、そのまま遺言の内容に沿って遺産が承継されます。
相続問題でお悩みの方はまずは弁護士にご相談ください
遺言書による遺留分対策
付言事項
遺言には、法定遺言事項(遺言書に記載することで法的効力が認められる事項)以外のことを書くことができます。これを付言事項と言います。
つまり遺留分侵害額請求がされないように、遺言書の付言事項を記載するという対策ができるのです
付言事項は法的な効力はありませんが、遺言者が遺言をした真意を知る材料になりますし、付言事項の内容や遺言者と相続人の人間関係次第では、法的効力がなくても相続人が守ることを期待できる場合もあるので、書く意義は十分にあります。
付言事項で、遺言の内容の趣旨を説明することで、遺留分侵害額請求を思い留まってもらえる可能性があります。
多くの割合の財産を特定の人に遺贈や贈与する事情、例えば、障害があって収入を得ることが難しいからとか、献身的に介護してくれたからとか、家業を継ぐからとか、それぞれ事情があると思いますが、その事情を遺留分権利者に伝わるように遺言にしたためることで、遺留分侵害額請求を踏みとどまってもらえる可能性があります。
勿論、遺言だけではなく、遺留分権利者に生前から話をしておくことで、事情を汲んでもらえる可能性が高まるでしょう。
優先的に返還する財産を遺言で指定する
遺留分侵害額請求を思い留まってもらうことができなかったとしても、優先的に返還する財産を遺言で指定することができます。
遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数人に対して行われた場合には、その中の誰にでも請求できるわけではありません。まず、遺贈に対して返還します。
複数人に対して遺贈があった場合は、価額の割合に応じて返還します。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。
また、優先的に遺留分侵害の対象となる人が取得した遺産の中で、どの財産から返還するかということも遺言で指定することができます。
遺留分を放棄させることができる
遺留分の放棄とは、遺留分侵害額請求をする権利を放棄することを言います。遺留分放棄の効果として、遺留分を放棄した人は遺留分侵害額請求をする権利を失います。
遺留分の放棄は、家庭裁判所に遺留分放棄の許可を申立て、これが認容されると、行うことができます。
申立てができる時期は、相続開始前(被相続人の生前)に限られます。
相続開始後(被相続人の死後)に遺留分を放棄したい場合の手続きはなく、遺留分侵害額請求権を時効成立前までに行使しないことによって権利は消滅しますし、また、遺留分を侵害する内容の遺産分割であっても相続人全員が同意していれば有効です。
家庭裁判所は次のような要素を考慮して、遺留分の放棄を許可するかどうかを判断します。
- 放棄が本人の自由意思によるものであるかどうか
- 放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか
- 放棄の代償があるかどうか
遺留分の放棄は、本人の自由意思に基づいて申立てられなければ許可されません。
無理やり申立てさせたところで、裁判所にそれを見抜かれて、却下されてしまう可能性が高いと思われます。
遺留分を放棄させるには、本人に放棄を心底納得してもらうべきでしょう。本人に放棄を納得してもらうためには、放棄することの合理性や必要性を説いたうえで、放棄の見返りとして十分な財産を贈与することが必要でしょう。
廃除された人や欠格事由がある人は遺留分も無くなる
相続人の廃除を受けた場合や、相続人の欠格事由に該当する場合は、その人は相続人ではなくなり、遺留分もなくなるので、遺留分を放棄してほしいが本人が応じない場合は、廃除や欠格に該当する事由がないかどうかを検討するとよいでしょう。
ただし、遺留分を放棄した人が被相続人よりも先に亡くなって代襲相続が生じた場合には、代襲相続人も遺留分を主張することはできませんが、相続人の廃除を受けた人や相続人の欠格事由に該当する人に子がいる場合は代襲相続が生じ(亡くなっていなくても代襲相続が生じます)、代襲相続人は遺留分を主張することができるという点にご注意ください。
遺留分侵害額請求権の消滅時効
消滅時効とは、一定期間行使されない権利を消滅させる制度のことです。
また、消滅時効によって権利が消滅することを時効消滅と言います。遺留分侵害額請求権は、次のいずれかに該当するときは、時効によって消滅します(民法1042条)。
- 遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないとき
- 相続開始の時から十年を経過したとき
この記事を書いた人
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