弁護士監修記事
農地を相続する前に絶対に知っておくべき5つのこと

親が農家の場合等は、相続財産に農地が含まれることになるでしょう。
この記事では、農地の相続に関する次のような点について、わかりやすく説明します。
- 農地を相続する場合の手続き
- 農地の相続税評価額の計算方法
- 農地を相続した場合の相続税の納税猶予制度
- 農地を宅地・駐車場・資材置き場などに転用する方法
- 相続した農地を売却する方法、その際にかかる税金
- 農地を相続したくない場合の選択肢
- 農地を相続放棄すべきかどうかの判断基準
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
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目次
農地の相続手続き(登記と農業委員会への届出)
農地を相続した場合は、農業委員会への届出が必要です。
届出の期限は、権利の取得を知った日から概ね10か月以内です。
届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料が科されることがあります。
農業委員会は、ほとんどの市町村に一つずつ設置されていますが、中には、複数設置されている市町村や、設置されていない市町村もあります。
相続した農地を管轄する農業委員会の所在地が不明な場合や、農業委員会が設置されていない場合は、役所に問い合わせるとよいでしょう。
届出には、次の書類が必要です。
- 農地の相続等の届出書
- 相続したことを確認できる書面(登記事項証明書等)
「農地の相続等の届出書」(農地法第3条の3の規定による届出書)の用紙は、農業委員会の窓口で入手できるほか、多くの市町村ではウェブサイトからダウンロードできるようになっています。
また、相続したことを確認できる書面としては、登記事項証明書(または登記簿謄本)が該当します。
したがって、登記事項証明書の交付を受ける前に、相続で農地を取得した旨の登記を済ませておかなければなりません。
つまり、農地の相続手続きは、まず、相続登記して、次に、農業委員会への届出をするという流れになります。
なお、売買、贈与(死因贈与を含む)、相続人以外に対する特定遺贈(遺言によって、自らの特定の財産を他人に与えること)等によって取得した農地の場合は、登記をする前に農地法3条に定められた許可を受けなければ権利の移動はできませんが、相続による農地の取得は許可を得る必要はありません。
相続登記については「相続登記を自分でスムーズに行うため全知識と司法書士報酬の相場」をご参照ください。
相続税の計算方法
相続税は、財産ごとに計算されるわけではありません。
例えば、遺産に土地と現金があったとして、土地に対する相続税と現金に対する相続税と別々に計算するのではありません。
すべての遺産に対する相続税の総額を計算し、これを相続分に応じて各相続人に按分します。
相続税の計算は、次の手順で行います。
- 遺産総額(課税価格)を算出する
- 相続税の基礎控除額を差し引いて課税対象額を算出する
- 法定相続分に基づき各法定相続人の相続税額を算出し、それらを合計する
- 相続税総額を実際の相続分に基づき按分する
- 各相続人の事情に応じて税額を増減する
例えば、遺産が6000万円の農地と4000万円の現金で、法定相続人が被相続人(亡くなって財産を残す人)の子であるAとBの2人で、Aが農地をBが現金を相続したとします。
遺産総額は6000万円+4000万円=1億円です。
基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できます。
今回の基礎控除額は、法定相続人は2人なので、3000万円+600万円×2人=4200万円です。
課税対象額は、1億円-4200万円=5800万円です。
法定相続分は2分の1ずつなので、AとB、それぞれの課税対象額は5800万円×1/2=2900万円です(法定相続分については「法定相続分とは?相続人の組み合わせパターン別法定相続分の計算方法」参照)。
これを以下の相続税の速算表に当てはめます。
法定相続分に応ずる取得金額 (各法定相続人の課税対象額) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | - |
1000万円超3000万円以下 | 15% | 50万円 |
3000万円超5000万円以下 | 20% | 200万円 |
5000万円超1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
A、B共に、「法定相続分に応ずる取得金額(各法定相続人の課税対象額)」の列が「1000万円超3000万円以下」の行を確認すればよいので、税率は15%、控除額が50万円となり、相続税総額は、(2900万円×15%-50万円)+(2900万円×15%-50万円)=770万円となります。
これを実際の相続分に基づき按分します。
そうすると、Aの相続税額は770万円×6000万円/1億円=462万円、Bの相続税額は、770万円×4000万円/1億円=308万円となります。
そして、各相続人に、税額控除や2割加算の適用等、税額を増減する事情がある場合は、その事情に応じて計算します。
相続税の計算方法について詳しくは「相続税の計算方法を流れに沿ってステップごとにわかりやすく説明!」をご参照ください。
農地の評価方法
先ほどの例では、農地の価格を6000万円としましたが、そもそも農地の価額はどのように評価すべきでしょうか。
相続税の計算の際は、「相続税評価額」を用いて財産を評価します。
農地の相続税評価額の算定方法は複雑であり、一般の方が自分で正確に算定することは難しいので、相続税申告の際は、税理士に相談することを強くお勧めします。
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ここでは、評価方法の概略だけ説明します。
農地の評価方法は、下の表のとおり、区分ごとに異なります。
純農地 | 倍率方式 |
---|---|
中間農地 | 倍率方式 |
市街地周辺農地 | その農地が市街地農地であるとした場合の価額の80%に相当する金額 |
市街地農地 | 宅地比準方式または倍率方式 |
純農地とは、次に掲げる農地のうち、そのいずれかに該当するものをいいます。ただし、後述の市街地農地に該当する農地を除きます。
- 農用地区域内にある農地
- 市街化調整区域内にある農地のうち、第1種農地又は甲種農地に該当するもの
- 上記1及び2に該当する農地以外の農地のうち、第1種農地に該当するもの
※ただし、近傍農地の売買実例価額、精通者意見価格等に照らし、第2種農地又は第3種農地に準ずる農地と認められるものを除きます。
中間農地とは、次に掲げる農地のうち、そのいずれかに該当するものをいいます。ただし、後述の市街地農地に該当する農地を除きます。
- 第2種農地に該当するもの
- 上記1に該当する農地以外の農地のうち、近傍農地の売買実例価額、精通者意見価格等に照らし、第2種農地に準ずる農地と認められるもの
市街地周辺農地とは、次に掲げる農地のうち、そのいずれかに該当するものをいいます。ただし、後述の市街地農地に該当する農地を除きます。
- 第3種農地に該当するもの
- 上記1に該当する農地以外の農地のうち、近傍農地の売買実例価額、精通者意見価格等に照らし、第3種農地に準ずる農地と認められるもの
市街地農地とは、次に掲げる農地のうち、そのいずれかに該当するものをいいます。
- 農地法第4条≪農地の転用の制限≫又は第5条≪農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限≫に規定する許可(以下「転用許可」という。)を受けた農地
- 市街化区域内にある農地
- 農地法等の一部を改正する法律附則第2条第5項の規定によりなお従前の例によるものとされる改正前の農地法第7条第1項第4号の規定により、転用許可を要しない農地として、都道府県知事の指定を受けたもの
純農地、中間農地、市街地農地の評価方法である倍率方式とは、その農地の固定資産税評価額に、国税局長が定める一定の倍率(評価倍率)を乗じて(掛け算して)評価する方法をいいます。
固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書の課税明細書の「価格」または「評価額」の欄に記載されています。
評価倍率は、次の手順で確認します。
- 国税庁ウェブサイトの「財産評価基準書」のページにアクセス
- 評価倍率を調べたい年のボタンをクリック
※相続税の場合は相続開始の年、贈与税の場合は贈与を受けた年
- 都道府県名をクリック
- 「評価倍率表」欄の下の「一般の土地等用」、「大規模工場用地用」または「ゴルフ場用地等用」のうち、該当するものをクリック(通常は「一般の土地等用」)
- 区市町村名をクリック
評価倍率表を開いたら、「町(丁目)又は大字名」欄と「適用地域名」欄を参照し、土地がある地域を探します。
土地がある地域が見つかったら、「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」欄の中の該当する地目の欄を参照します。
市街地農地で選択することのできる宅地比準方式とは、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額から、その農地を宅地に転用する場合に通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方法をいいます。
これを算式で示すと次のとおりです。
上記算式の「その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額」は、路線価方式により評価する地域においては、その路線価により、また倍率地域にあっては、評価しようとする農地に最も近接し、かつ、道路からの位置や形状等が最も類似する宅地の評価額(宅地としての固定資産税評価額×宅地としての評価倍率)を基にして計算することになります。
なお、その農地が宅地である場合、「地積規模の大きな宅地の評価」の定めが適用対象となるときには、これを適用して計算します。
また、「1平方メートル当たりの造成費の金額」は、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに、国税局長が定めています。宅地造成費の金額は、国税庁ウェブサイトの「財産評価基準書」のページで閲覧することができます。
「市街地周辺農地」及び「市街地農地」の価額は、「市街地農地等の評価明細書」を使用して評価することができます。
農地にかかる相続税の納税猶予
農業を営んでいた被相続人又は特定貸付けを行っていた被相続人から一定の相続人が一定の農地等を相続や遺贈によって取得し、農業を営む場合又は特定貸付けを行う場合には、一定の要件の下にその取得した農地等の価額のうち農業投資価格(農業投資価格は、国税庁ウェブサイトの「財産評価基準書」のページで、取得した農地等の所在する都道府県ごとに確認することができます。)による価額を超える部分に対応する相続税額は、その取得した農地等について相続人が農業の継続又は特定貸付けを行っている場合に限り、その納税が猶予されます(猶予される相続税額を「農地等納税猶予税額」といいます。)。
相続時精算課税に係る贈与によって取得した農地等については、この特例の適用を受けることはできません。
この農地等納税猶予税額は、一定の要件に満たすことで免除されます。
詳しくは、国税庁ウェブサイトの「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」のページをご参照ください。
農業しないサラリーマン等が農地を相続したくない場合の選択肢
親が農家で農地を相続したが自分も兄弟もサラリーマンで農業をするつもりはなく農地を相続したくないという場合には、次のような選択肢が考えられます。
- 農地以外の用途に転用
- 農地として売却・賃貸
- 相続放棄
- 最低限の管理をしつつ放置
以下、それぞれの選択肢について説明します。
農地以外の用途に転用
一定の要件を満たす場合は、農地を農地以外の用途に転用することができます。
宅地等に転用することができれば、買い手も見つけやすいですし、農地の場合よりも高額で譲渡できる可能性が高まるでしょう。
自分で所有したまま転用する場合には農地法4条の許可が、売却と転用を同時にする場合には農地法5条の許可が必要となります。
許可基準の詳細については、農業委員会に確認するとよいでしょう。
なお、財産を譲渡した際に譲渡所得が生じた場合は、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。
譲渡所得の金額は、次のように計算します。
「収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除額 = 課税譲渡所得金額」
詳しくは「相続した不動産を売却した時にかかる税金について知っておくべきこと」をご参照ください。
農地として売却・賃貸
転用要件を満たさない場合に農地として売却することできれば、その後の農地の管理を免れることができますし、売却代金を手にすることもできます。
農地として売却する場合であっても、農業委員会の許可(農地法3条の許可)が必要です。
買主が、農家であるか、これから農家になろうとしている等の条件をクリアしていなければ許可は受けられません。
また、売却ではなく、農地として貸し出すという方法もあります。
買い手や借り手を探す場合、宅地であれば不動産屋に相談するでしょうけども、農地の場合は農業委員会に相談するとよいでしょう。
相続放棄
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切承継しない選択をすることをいいます。
したがって、相続したくない農地だけ相続放棄をするということはできず、すべて相続するか、まったく相続しないかを選択しなければならないのです。
通常、相続放棄は、プラスの財産の価額よりも借金等のマイナスの財産の価額の方が大きい場合に利用されます。
そのような場合に相続すると、相続人が損してしまうからです。
同様に、農地以外に特に財産がなく、しかも、その農地が使い道も価値もないという場合に相続すると、農地の維持管理費や固定資産税を延々と負担し続けなければならなくなり、相続人が損をしてしまいます。
このような場合もまた、相続放棄をした方が得であるといえるでしょう。
つまり、土地も使い道や価値がない場合は、「土地の維持管理にかかる手間や費用、固定資産税」を負債と同様に考えて、遺産のプラスの財産と天秤にかけて、プラスが大きければ相続し、マイナスが大きければ相続放棄をするという判断をするのがよいでしょう。
また、厳密にいうと、相続放棄をするにも費用がかかりますので、その分も加味して損得を計算する必要があります。
相続放棄にかかる費用については「相続放棄費用|弁護士/司法書士の代行費用の相場と自分で手続する費用」をご参照ください。
また、全員で相続放棄をする場合は、相続財産管理人を選任するまでは土地の管理義務から解放されないので、相続財産管理人の選任費用も加味する必要があります。
相続財産管理人の選任にかかる費用は、申立費用と、相続財産管理人への報酬があります。
申立費用は、数千円程度のもので、内訳は以下のとおりです。
- 収入印紙800円
- 切手代(裁判所からの連絡用。裁判所によって異なりますが1000円前後のことが多いようです。)
- 官報公告料4230円
相続財産管理人への報酬は、親族が相続財産管理人になる場合は不要ですが、相続財産管理人になった親族は、土地の帰属が決まるまでは、土地の管理を継続しなければなりません(相続財産管理人選任後の流れについては後述します)。
相続財産管理人に弁護士や司法書士が選任される場合は、管理の手間や難易度に応じて月額1万円から5万円程度の報酬が、裁判所によって決められます。
報酬は相続財産から支払われますが、十分な財産がない場合は、申立人が予納金を納めなければなりません。
予納金の金額は、家庭裁判所や事案によって異なりますが、数十万円~150万円ぐらいです。
なお、相続を単純承認(相続人が被相続人(亡くなった人)の権利や義務を無限に承継する選択をすること)をすると、相続放棄をすることができなくなりますので、相続放棄を検討中に単純承認しないように気を付けましょう(「単純承認したことになって知らないうちに借金を相続しないための知識」参照)。
相続放棄を検討する場合は、単純承認対策も含めて、一度、専門家に相談しておくことを強くお勧めします。
最低限の管理をしつつ放置
転用の要件を満たさず、農地としての買手も借手も見つからず、相続放棄も選択しないとなると、最低限の管理をしつつ、農地を放置するしかありません。
この選択肢をなるべくとらなくてもよいように、農業委員会に相談しましょう。
まとめ
以上、農地の相続について説明しました。
農地の相続については、農地の所在地を管轄する農業委員会に相談するとよいでしょう。
農業委員会の所在地や連絡先は、市町村の役所でご確認ください。
農地の評価や農地の相続税の納税猶予については税理士にご相談ください。
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相続放棄については、弁護士や司法書士にご相談ください。