相続放棄ができない場合とは?ケースごとに理由を添えて説明!
亡くなった人に借金がある場合等は、相続放棄をすることで借金を相続してしまうことを免れることができます。
その際、「相続放棄ができない場合はあるのか?」ということが気になることでしょう。
相続放棄ができずに多額の借金を背負うことは絶対に避けたいものです。
そこで、この記事では、相続放棄ができない場合をケースごとに理由を添えてわかりやすく説明します。
相続放棄ができない場合を把握して、確実に相続放棄ができるようにしっかりと準備しましょう。
[ご注意]
記事は、公開日(2020年9月23日)時点における法令等に基づいています。
公開日以降の法令の改正等により、記事の内容が現状にそぐわなくなっている場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをおすすめします。
相続問題でお悩みの方は
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相続放棄ができない場合
相続放棄ができない場合には、次のケースがあります。
- 既に相続を承認している場合(承認しているとみなされる場合を含む)
- 申述者の真意によらない申立てが行われた場合
- 書類に不備があり、補完されない場合
以下、それぞれのケースについて説明します。
既に相続を承認している場合
相続を承認すると、これを撤回して放棄することは原則としてできません。
相続の承認には、単純承認と限定承認があります。
単純承認とは、相続人が、被相続人(亡くなった人)の権利や義務を無限に承継する選択をすることをいいます。
簡単にいうと、プラスの財産だけでなく、借金等のマイナスの財産もひっくるめて相続する選択をするということです。
限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈(遺言による遺産の全部又は一部の処分)を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることをいいます(詳しくは「限定承認のメリット・デメリットと利用すべき場合や手続きの流れ」参照)。
限定承認は、放棄と同様に、家庭裁判所において申述を行い、これが受理されることによって認められます。
単純承認は、家庭裁判所における申述は不要で、意思表示によってその効果が生じますし、意思表示すらしなくても次に掲げる場合には、単純承認をしたものとみなされます。
- 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(ただし、保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない)
- 相続人が民法915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき
- 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、ひそかにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき(ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない)
以下、それぞれのケースについて説明します。
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされますが、前述のとおり、保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りではありません(単純承認をしたものとはみなされません)。
処分には、譲渡、贈与、抵当権設定などの法律上の処分のほか、損壊や廃棄といった事実上の処分が含まれます。
そして、保存行為とは、財産の現状を維持する行為のことをいいます。
なお、民法602条に定める期間(単純承認をしたものとはみなされない賃貸借期間の上限)は、賃貸借の目的物の種類ごとに異なり、具体的には下表の通りです。
賃貸借の目的物 | 単純承認をしたものとはみなされない賃貸借期間の上限 |
---|---|
樹木の栽植又は伐採を目的とする山林 | 10年 |
上記以外の土地 | 5年 |
建物 | 3年 |
動産 | 6か月 |
以下、処分行為に該当する(=相続放棄ができなくなる)可能性が高い行為、保存行為に該当する場合など相続放棄に支障をきたさない可能性が高い行為、それから、事情によって判断が分かれる行為について、それぞれ説明します。
処分行為に該当する(=相続放棄ができなくなる)可能性が高い行為
次のような行為は、処分行為に該当する(=相続放棄ができなくなる)可能性が高いです。
- 故意の損壊、廃棄
- 改修(保存行為に当たらない場合)
- 売却、譲渡
- 名義変更
- 預貯金口座を解約して相続人の財産と分別しない行為
- 債務者から弁済を受けた金銭等を相続財産として保管することなく収受領得する行為
- 賃貸中の財産の賃料の振込先を自己名義の口座に変更する行為
- 抵当権の設定
- 株式の議決権の行使
- 遺産分割協議
※相当の理由に基づき相続債務がないと誤信していたために相続放棄をせずに遺産分割協議に参加したような場合は、単純承認をしたものとはみなされない可能性があります。 - 形見分けを超える範囲と量の遺品の持ち帰り
- 期日未到来の債務の弁済
保存行為に該当する場合など相続放棄に支障をきたさない可能性が高い行為
次のような行為については、保存行為に該当するなど、相続放棄に支障をきたさない可能性が高いです。
- 相続開始を知らずにした財産の処分
- 生命保険金や死亡退職金の受け取り
- 被相続人の医療費の支払い
- 被相続人の葬儀費用の支払い、墓石や仏壇等の購入
- クレジットカードや携帯電話の解約
- 預貯金口座を解約して相続財産として管理する行為
- 形見分けを超えない範囲と量の遺品の持ち帰り
- 少額の所持金の受領
事情によって判断が分かれる行為
次のような行為については、処分行為に該当するかどうか、個々の事情による部分が大きく、一概に言えません。
- 期日が到来した債務の弁済
- 期日が到来した債務の弁済のための相続財産の処分
これらの行為は、基本的には、保存行為とされる可能性が高く、そうすると、相続放棄に支障をきたさない可能性が高いですが、相続財産の多くを一部の相続債務の弁済のために処分した結果、他の相続債権者への弁済が著しく困難になったような場合は、処分行為として単純承認とみなされる可能性があります。
相続人が期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき
相続放棄や限定承認の手続きは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄申述書と戸籍謄本等の必要書類を提出して行わなければなりません(なお、相続の開始があったこと知った日の翌日を1日目とカウントします)。
相続は死亡によって開始するので、基本的には、被相続人の死亡を知った時から3か月以内ということになります。
ちなみに、被相続人の死亡は知っていたが、法定相続人のルールを知らなかったがために自分が相続人になることは知らなかったという言い訳は通用しません。
なお、先順位の相続人全員が亡くなっていたり相続放棄をしたために自分が相続人になったという場合は、先順位の相続人全員が亡くなっていたり相続放棄をしたことを知った時から3か月以内ということになります(相続順位について詳しくは「相続順位のルールを図や表を用いて弁護士が詳しく分かりやすく解説!」を参照)。
この3か月の期限は、家庭裁判所に申立てることで、伸長(延長)することができます。
遺産の調査が3か月以内に調査が完了しない場合もあるため、期限を伸長する制度があるのです。
家庭裁判所で申立てが認められると、原則としてさらに3か月期限が伸長されます。
伸長の手続きは繰り返し利用することができます。
なお、期限が過ぎてしまっても相続放棄が全く認められないわけではなく、相続債務が存在しないと信じており、そう信じていたことに相当の理由がある場合には、例外的に相続放棄が認められる場合があります。
ただ、どのような場合に相当の理由があるとして相続放棄が認められるかについて決まった基準はなく、ケースに応じて裁判所が判断します。
これまで裁判所が、期限経過後の相続放棄を認めた事例には、以下のようなものがあります。
- プラスの財産があることは知っていたが他の相続人が相続することから自分が相続する財産は全くなく、またマイナスの財産(債務)は全く存在しないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったところ、実際にはマイナスの財産が存在した場合
- 被相続人の借金について調査を尽くしたが、債権者からの誤った回答により債務は全くないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったが、実際には債務が存在した場合
- 被相続人と相続人が別居しており、別居後、被相続人が亡くなるまで全く没交渉であって、相続人は、被相続人の財産や借金について全く知らされておらず、被相続人の死亡後も、その財産の存在を知るのが困難であった状況下において、財産が全くないと信じており、相続放棄の手続きをしなかったが、実際には借金が存在した場合
相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私かにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部又は一部について、次のいずれかの行為をしたときは、単純承認をしたものとみなされ、既にした相続放棄や限定承認が無かったことにされてしまいます。
- 隠匿したとき
- 私かに(ひそかに)消費したとき
- 悪意で相続財産の目録中に記載しなかったとき
ここでいう「隠匿」とは、相続人が被相続人の債権者等にとって相続財産の全部又は一部について、その所在を不明にする行為をいうと解されています。
例えば、相続人が、客観的にみて形見分けを超える範囲と量の遺品を持ち帰ったような場合は、隠匿に該当するでしょう。
「私かに(ひそかに)」とは、「自分のために」とか「勝手に」というような意味合いです。
必要な遺品整理をしたり、葬儀費用を支払ったりすることは、「私かに消費する」ことには当たらないでしょう。
そして、「悪意」とは、「故意に」というような意味合いです。
つまり、目録中に記載しているもの以外に相続財産があることを知っているのに記載しなかった場合が該当します。
なお、これら1~3に該当するというためには、その行為の結果、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識している必要があると考えられていますが、必ずしも、被相続人の特定の債権者の債権回収を困難にするような意図、目的までも有している必要はないと解されています。
また、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この規定は適用されません。
つまり、血族相続人の全員が相続放棄をすると、次順位の血族相続人に相続権が移りますが、その次順位の相続人が相続の承認(単純承認または限定承認)をした後は、先順位の相続人が相続財産の隠匿等をしても、先順位の相続人について単純承認が擬制されることはありません。
申述者の真意によらない申立てが行われた場合
申述者の真意によらないで、相続放棄申述受理申立が行われたと認められる場合は、その申述は受理されません(つまり、相続放棄ができません)。
真意によらない場合とは、例えば、本人が知らないうちに申立てが行われた場合や、詐欺、脅迫、錯誤(勘違い)によって申立てを行った場合が考えられます。
また、制限行為能力者による申述も、受理されないことがあります。
制限行為能力者とは、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び民法第17条第1項の審判を受けた被補助人のことで、行為能力(私法上の法律行為を単独で完全におこなうことができる能力)に制限を受ける人のことをいいます。
成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力(自己の行為の結果を判断することのできる能力)を欠く常況にあって、後見開始の審判を受けた人のことをいいます(詳しくは「成年後見人とは?成年後見制度のデメリット、家族信託という選択肢も」参照)。
被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であるとして、保佐開始の審判を受けた人のことをいいます(詳しくは「保佐人、被保佐人とは?被保佐人と成年被後見人や被補助人との違い」参照)。
被補助人とは、精神上の障害によって事理を認識する能力が不十分で、補助開始の審判を受けた人のことをいいます(詳しくは「補助人とは?被補助人とは?保佐人・被保佐人との違いをわかりやすく説明」参照)。
未成年者および成年被後見人は、相続放棄の申述を行うことはできず、その法定代理人が代理して申述しなければなりません。
ただし、未成年者と法定代理人(通常は親)が共同相続人であって未成年者のみが申述するとき(法定代理人が先に申述している場合を除く。)又は複数の未成年者の法定代理人が一部の未成年者を代理して申述するときには、当該未成年者について特別代理人の選任が必要です。
特別代理人とは、本来の代理人が代理権を行使することが不適切な場合や代理人が不明な場合等に、本来の代理人に代わって代理行為を行う特別な代理人のことをいいます(詳しくは「特別代理人とは?未成年の我が子と共同相続の場合の遺産分割協議書案」参照)。
また、成年被後見人と成年後見人(家庭裁判所によって選任された成年被後見人の法定代理人)が共同相続人であって成年被後見人のみが申述するとき(法定代理人が先に申述している場合を除く。)には、成年後見監督人(この場合、当該相続の共同相続人でない人でなければならない。)または特別代理人の選任が必要です。
被保佐人が相続放棄の申述を行うためには、保佐人の同意が必要で、同意がない場合は、受理されません。
被補助人について、相続放棄の申述にあたり補助人の同意が必要かどうかは、家庭裁判所が相続放棄を補助人の同意が必要な行為として審判で定めているかどうかによります。
書類に不備があり補完されない場合
申立時に提出した書類に不備がある場合、通常、家庭裁判所から不備を補完するように連絡があります。
この指示を無視して書類の不備を補完しない場合は、相続放棄の申述は受理されません(つまり、相続放棄できません)。
不受理決定に不服がある場合は即時抗告ができる
不受理決定に不服がある場合、通知を受け取った翌日から2週間以内に、高等裁判所に即時抗告を申し立てることができます。
しかし、不受理決定を覆すだけの材料が用意できなければ、即時抗告は棄却されます。
即時抗告については、弁護士に相談するとよいでしょう。
もっとも、相続放棄の不受理決定については即時抗告で決定が覆る可能性は高くないので、受理されない可能性のある場合は、申述書や照会書を提出する前に相続放棄に精通した弁護士に相談するのが一般的です。
受理後に訴訟で無効となる場合もある
相続放棄の申述が受理されても、被相続人の債権者等から訴訟を起こされて、訴訟の結果によっては相続放棄が無効となることがあります。
相続放棄の無効を主張された場合は、相続放棄に精通した弁護士に相談すると良いでしょう。
相続放棄できないものはある?
「相続放棄できないものはありますか?」という質問を受けることがありますが、相続放棄できないものはありません。
相続財産は、相続を承認すれば取得することになりますし、放棄すれば取得しないことになります。
ただし、土地と祭祀財産については、注意が必要なので、以下、それぞれの注意点について説明します。
土地は相続放棄できない?
相続放棄をすれば、被相続人の所有していた土地を相続によって取得することはありません。
ただし、相続放棄をしても、すぐに土地の管理義務から解放されるわけでありません。
民法940条第1項には「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と定められています。
次順位の相続人が管理を始めることができるまでは、その財産の管理を継続しなければならないのです。
そして、相続人全員が相続放棄をした場合は、前述のとおり、申立てに応じて相続財産管理人が選任され、相続財産管理人が相続財産の管理を始めたら、相続人による相続財産の管理義務がなくなります(相続財産管理人については「相続財産管理人を選任すべきケースほか相続財産管理人に関する全知識」参照)。
祭祀財産は相続放棄できない
祭祀財産(さいしざいさん)は、相続財産ではないので、相続放棄できません。
祭祀財産とは、系譜(けいふ)、祭具(さいぐ)及び墳墓(ふんぼ)といった物のことをいいます。
系譜とは、先祖代々の家系が記されている家系図のようなもののことです。
祭具とは、仏壇・神棚・位牌・霊位・十字架などをいいます。
墳墓とは、墓石・墓碑などの墓標や土葬の場合の埋棺などをいいます。
これらの祭祀財産は、祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)が管理することになっており、祭祀承継者は相続放棄しても、祭祀財産については管理義務があります。
ただし、祭祀承継者は祭祀財産を処分することもできます。
祭祀財産について詳しくは「祭祀承継者とは。知っておくべき祭祀承継者のルールを丁寧に説明」をご参照ください。
相続放棄の手続き
相続放棄の手続きを自分で行う場合は、「相続放棄手続きを自分で簡単に済ませて費用を節約するための全知識」をご参照ください。
専門家に依頼する場合は、「相続放棄は弁護士と司法書士どっちがいい?違いは?費用相場と流れ」をご参照ください。
まとめ
以上、相続放棄ができない場合について説明しました。
相続放棄ができない場合に該当する可能性が少しでもある場合は、なるべく早めに弁護士に相談することをお勧めします。
この記事を書いた人
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